フェイクというには程遠い   作:若葉ノ茶

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あの焼き鳥は後ほど野良犬が食べたらしい

 

 

 

 

 

 

 破れてしまったズボンと、もはや着れることのないシャツ。

 とりあえずパンツ一丁で外を歩くのは辛いので海軍の制服を上下揃えて着ることになった。

 ダボダボだが、裾を何重にもめくって、ベルトでズボンのウェストを締めれば完璧だ。首どころか片方の肩までゆるく露出してしまうのは仕方ないと諦めよう。

 パンツ一丁よりマシだ。

 

 

 

「この奥だ。離れるな」

 

 

 

「分かってる……」

 

 

 

 

 海軍基地から遠くの方にある町。

 その商店街を歩く俺達だが、いつもなら前を歩くはずのリードが俺の傍から離れようとしないのでピリッとした緊張感が肌に突き刺さってくるように感じた。

 

 隣を見上げて見れば、珍しく食べ残しが頬についていないヴェルゴがただ前を見て歩いているだけ。サングラスを付けているせいで何を考えて行動しているのか分かりはしないが……。

 

 

 

「……で、俺に何か話でもあるのか?」

 

 

「いや、ただの気紛れだ」

 

 

「……ゴマフアザラシをプレゼントした時のような?」

 

 

「そうだな」

 

 

 

 あの一件の時のような気まぐれなら問題はない……かな?

 いやでもあの一件はある意味心臓に悪い事件だった。

 

 一週間だぞ。ヴェルゴからのプレゼントだったから警戒したけどローに似てる感じがしてそのまま放置するのも何か嫌だったし、ぬいぐるみの感触もふわふわで気持ち良かったから抱き枕にしてたんだ。

 まさか昼間に「フッフッフ」とか聞き慣れた声が聞こえると思ったら俺の抱きしめてるアザラシのぬいぐるみからするとか思わねえから! そのせいで派手に転んで怪我したんだからな!

 あの時マジ兄上許さねえとか思った。あの人何でこんな面倒な悪戯仕掛けたんだか……。

 

 小さくため息をついたら、きょとんとした顔をしながらリードがこちらを見上げてきた。

 

 

 

「だいじょーぶか、ろなん?」

 

 

「おう、大丈夫だぞリード。ほら、心配すんなって」

 

 

 

 

 抱き上げた状態のまま頭をぐりぐりと撫でてやると俺の首筋にすり寄ってくる。

 そうして「しししっ!」と笑ったあと、いつものように先に進みたいと抱き上げていたリードを降ろして自由にさせてやった。

 ぶらぶらと先へ進んでいくリードの姿が見えなくなりそうになったらヴェルゴが連れて戻って来るのでまあ安心だ。

 

 ……ってか、やっぱり気を使ってたんだな。リードのくせに静かすぎると思ったんだ。

 

 でも今は大丈夫だろう。そう、今なら。

 敵だと認識してないなら……たぶん。

 

 

 

「この店だ。行くぞ」

 

 

「……おーう」

 

 

 

 とりあえず先へ進んでそのままレストランがある場所へ突っ走りそうなリードを止めようかな。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 服一式を買い揃え、それ以外にも着替えとか破いた時用とかいろいろと買ってくれた。いや、経費で買ったと言えるか。

 だがデザインは適当に。成長期はまだ続くだろうから――――――というか、オリジナル程度には大きくなりそうな気がするからなるべく大きめのを選んで買ったため、時間はあまりかからなかった。

 

 俺から見ればそう思えたが、どうやらリードはそうじゃないみたいだ。

 

 

 

「はらへったー! ろなん、あっちでうまそうなにおいがするぞ!」

 

 

「こら先行くんじゃねえ! 待てっての、リード!」

 

 

 

 早足で向かった先は焼き鳥を販売する店。ジューシーな油が焼けた良い匂いと同時にリードが涎を豪快にすするような音が聞こえてくる。

 

 

 

「リード」

 

 

「なんだよさんぐらす」

 

 

「買ってやるから静かにしていろ。遠くに行くなよ」

 

 

「ほんとうか!? おまえいいやつだなー!」

 

 

 

 目をキラキラと輝かせて涎を再び手で拭いたリードに引き攣った笑みを浮かべた。

 ヴェルゴが良い奴……いやまあ……うん。ドフィに関しては良い奴になるのかな。忠実に命令に従って動いているわけだし……。

 

 

 

 ヴェルゴと共に焼き鳥屋の前に駆けていったリードを見守る。ヴェルゴが通常よりも長めの焼き鳥を4本ほど買って、そのうち2本をリードに渡してこちらへ戻ってきた。

 その前に焼き鳥の店長に余分に金を渡していたが……ああ、リードが食い足りなくなっておかわりする分か。

 

 スタスタと長い脚を動かして近づいてきたヴェルゴが、こちらを見下ろして言う。

 

 

 

 

「お前の分だ」

 

 

 

 ヴェルゴが渡してきたのは、残り2本のうち1本の焼き鳥。

 美味しそうな匂いがするそれを突き出されたことに困惑しつつも、恐る恐る手に取った。

 

 

 

「お、おう……ありがとう」

 

 

「熱いぞ。ドジるなよ」

 

 

「ごっふっ!?」

 

 

「言った傍から何やってるんだお前は」

 

 

 

 呆れたような顔で言うけどさぁ。これでも俺はかなり気を付けてる方なんだぞ。

 

 仕方ないだろ!?

 もう俺のドジは呪いの域なんだからな!!

 

 

 

「……ロナン。いや、ロシナンテ」

 

 

「うん?」

 

 

「ドフィから伝言だ」

 

 

「っ……」

 

 

「せっかく買ったんだ。ドジって焼き鳥を落とすなよ」

 

 

「わ、分かってる……」

 

 

 

 慌てて焼き鳥をギュッと握りしめ。食べるふりをしてヴェルゴを見上げた。

 ってか、気まぐれで一緒に来たわけじゃなかったのか……。

 

 ヴェルゴはただいつも通りの口調で、口を開いて話す。

 

 

 

 

「“世界政府でさえ現状維持を望もうとするほどの改良を施した。それがどういうものか、知りたいと思わないか?”」

 

 

「え?」

 

 

「“帰って来い”……それがドフィからの伝言だ。お前だけが逃げるというのなら手は出さん。前と同じように裏切るのなら殺すがな」

 

 

 

「…………リードは? あいつは普通に……自由に生きていくことは出来るか?」

 

 

 

「自分の事よりも幼子を心配するのか」

 

 

 

「当たり前だろ! そんなの―――――」

 

 

 

「だからお前は自滅したんだ」

 

 

 

 冷ややかな言葉に肩が震える。

 何となく、言っている意味は分かってる。ローを救うために動いたから今までの苦労が全て水の泡になった。でもそれで後悔はなかった。

 でもまたやらかすつもりかとヴェルゴが忠告してるんだろう。

 

 

 

 

「リードは海軍が最も危険視する子供だ。そう簡単に自由になれるとは思えないがな」

 

 

 

「……分かってるよ。それぐらい」

 

 

 

 小さくため息をついて焼き鳥を食らう。

 すっかり冷えたそれは美味く感じなかった。

 

 

 

「……いずれにしろ、お前だけ明日海軍本部へ行くことになったんだ。別れの挨拶ぐらいは済ませておけ」

 

 

「はい?」

 

 

 

 どういう意味だろうかと目をパチパチと瞬きしながらヴェルゴを見上げる。

 あいつはいつも通り澄ました顔をして、焼き鳥をまた注文して食べまくるリードを見ていた。

 

 なんか急なことを言われたような気がするんだが……。

 

 

 

「えっと……なあ、誰が行くって?」

 

 

「お前だ。ロシナンテ」

 

 

「……別れの挨拶って、誰に?」

 

 

「リード……あのガキにだ。あいつはこのG-5に残ることになった」

 

 

 

 

 もはや決定事項だと言うかのような言葉に、思わず食べ途中だった焼き鳥を手から落としてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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