フェイクというには程遠い   作:若葉ノ茶

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リードがいる時点でそれは詰み

 

 

 

 パンクハザードへ向けて航海の最中。

 海兵たちが慌てているのは保護対象かつ海軍本部中将たるガープが何度も何度も「寄越せ!」と要求する子供を危険な場所へ連れて行くことでどんな処罰が下されるのかということ。

 

 しかし、それは麦わらを知らない一般的な────と言っても、普通の海兵よりは海賊みたいな雰囲気がある問題児たちだが、彼らにとってみれば、リードが船に潜り込んだことで危惧するのはガープ中将のみ。

 

 スモーカーとたしぎは違う。

 麦わらのルフィを知っている彼らは、リードの中身がルフィと同じであると分かっているためか、彼がここへ来ることの重大な問題を理解していた。

 

 麦わらのルフィとリードを会わせてはいけない。どんなに目の前でスモーカーを睨みつけていても、リードの我儘なんて聞いてやる義理はない。

 

 中身がエースではないことだけが海軍本部にとってまだマシであっても、ルフィとして完全に思い出してしまったなら。もしも、自分たちを敵だと判断したなら。

 このトラブルメーカーはどんな台風を背負ってこちらへ襲い掛かってくるのか。

 

 危険度で言えばガープ中将と同じ……いや、それ以上かもしれない。

 だからスモーカーたちはリードを部屋へ閉じ込めようとする。

 

 これから戦闘が起きるかもしれないというのに、リードをこのまま放置するわけにはいかないと。

 それをリードは全身を使って抵抗していた。扉の中へ放り投げようとする手にしがみつき、振り回されようとも絶対に離さない程度には。

 

 

「抵抗すんじゃねえ! いいか、お前はここから外へ出るな!」

 

「いやだ!」

 

「嫌じゃねえんだよクソガキ! スモやんのいうことちゃんと聞け!」

 

「やだー! だってろなん、どっかでまいごになってるから! おれがさがしゅの!」

 

「舌っ足らずのクソガキが何言ってんだ!! それにロナンは──」

 

「まいごになってりゅだけだもん!」

 

 

 むぅぅ、と頬を膨らませて。

 エースに似た顔で、ルフィのような仕草をする奇妙な幼子。

 

 推定二歳児とは思えない言語能力。腕を絶対に振りほどかない馬鹿力かと思える身体能力。

 これは危うい。明らかに何かを思い出している。

 

 

「うわっ! にゃにすんだけむりん!」

 

 

 スモーカーはこのまま放置するわけにはいかないと、能力を使い白煙になってリードを部屋へ振りほどき、そのまま室内へ閉じ込めた。

 

 放り投げられたことで顔を強打し、転げまわったリードは痛みに悶絶しているのか。それとも泣いているのか。

 部屋の中から扉を叩く音。かすかに聞こえる涙声。

 

 

「ここからだしぇー! そとにだしぇ!! けむりん!!!」

 

「やかましい、そこで大人しくしてろ!」

 

「す、スモーカーさん。いくら何でもリード君が可哀そうでは……」

 

「現実を見ろたしぎ。奴がただの幼子だと思うか?」

 

「それは……」

 

 

 スモーカーはたしぎ達へ向けて冷たく言い放つ。

 

 

 

 

「二歳児のガキだと思うな。同情なんてするんじゃねえ。例えリードがイカれた科学者の被害者だとしても──その性根は海賊のままなんだよ」

 

 

 

 最近のリードは不機嫌そのもので子供っぽい部分があったけれど、ロナンと一緒に居た頃は本当に無邪気に笑っていた。

 よく腹を空かせては「めし!」といったり、「ぼうけんするんだ!」とどこかへ行こうとしたり。

 

 わずかな時間しか接触していなかったとしても、麦わらのルフィを思わせるその雰囲気、言動に時々背筋が凍るような瞬間があった。

 

 この子供が完全に思い出してしまったら、きっと大変なことになるだろう。

 

 幼子を保護するというのは、リードと敵対しないための行動。

 性根は海賊たる麦わらのルフィそのものだが、まだリードは手遅れではない。

 

 思い出させない行動こそ、リードのためになるのだとスモーカーは遠回しに言うのだ。

 

 

「だしぇー! おれはろなんをみつけるんだー!」

 

「いい加減にしろ! ロナンは死んだ!!」

 

 

「っ────しんでにゃい!!! おれはみてねえもん!!!」

 

 

 

 リードの声が響く。

 グスグスと泣いていて、でも絶対に外へ出ることを諦めないと扉をずっと叩いてる。

 

 

 

「ろなんはしんでにゃいもん!!! おれは、みてにゃいもん!!!」

 

 

 

 その慟哭に、たしぎは息を呑んだ。

 スモーカーですら何も言えずに、ただ深く溜息を吐くほどのもの。

 

 これはきっと同情ではない。

 ただ二人は思い至ったのだ。

 

 きっとリードが絶対に死んでないというのは、諦めきれないのは。

 あの頂上決戦でエースが死んでしまったのを目の前で見たルフィの記憶があるせいか。

 

 誰かのトラウマを引き継いだクローンは、そのトラウマをも心に刻む。

 

 

「ろなんはどじってまいごになってる! だかりゃ、おれがさがすんだ!」

 

 

 舌っ足らずで心から叫ぶ。

 涙を流してもなお、顔を背けない。泣き虫でいてもロナンだけは絶対に見つけるんだと。

 

 まるで、エースを失ったことと同じ経験はしたくないと言うように。それとは全く違うというかのように。

 ロナンは絶対に死んでないと諦めきれていない。死体があるまでは絶対に探すと意気込む、現実を見れてない子供だった。

 

 そう、思えてしまったのだ、たしぎは。

 何も知らない他の海兵たちも、リードが何かを抱えているのを理解し、何かを言いたそうにスモーカーを見た。

 

 スモーカーは彼女らの心境を察して、仕方がないと眉を顰めただけだったが。

 

 

「……スモーカーさん」

 

「この件が終わったらすぐ奴をガープ中将の元へ届ける。それだけだ」

 

「…………はい」

 

「スモやん」

 

「うるせえ。てめえらはしっかり仕事してろ」

 

 

 何も理解しきれていない一般海兵であろうとも、リードの叫びには思うことがあったらしい。

 なんせ一年ほどずっと一緒に居たのだ。ロナンと馬鹿をやっているあの子供。ロナンが死んだという報告に意気消沈し、部屋に閉じこもった哀れなリードのことを。

 

 しかしそれら全ての声をスモーカーは跳ねのける。

 ガープ中将の元へやればなんとかなる。そう信じるしかない。ここに居てもリードをきちんと保護し、見てやることはできない。真っ当に育てるなら中将の方が一番いい。

 

 唯一の問題はこの現状。

 これから先やらなくてはならないのは麦わらの一味を逮捕すること。

 そしてこのパンクハザードで何が起きているのかを確かめなくてはならないなと、スモーカーは考える。

 

 パンクハザードに近づいた瞬間感じたのは冷気だった。

 かつてパンクハザードは元大将たる青キジと、現元帥たる赤犬の衝突によりできた二つの気候がぶつかる島。

 スモーカーたちが進んでいる先は、青キジの能力のせいか冬の気候となった場所。

 

 氷山の道しか行く方法はなく、出入り口は閉ざされ前へ進むこと以外はない。

 奥へ進む道でさえ、大砲を撃って発見したのだ。

 

 明らかに何かを隠している。

 

 

「人為的に動かしてるのか、それとも……」

 

 

 氷が不自然に動く。

 誰も来させないように。

 

 毒ガスすら何かの役割を担っているようにもスモーカーは感じた。

 

 幸いリードを部屋に閉じ込める前にガスマスクだけは付けさせておいたが。

 部屋の中で勝手に外したとしても、多少は問題ないはずだ。苦しいと思ったならすぐマスクを付けるだろう。

 

 相変わらず扉を叩く音は止まらないが、出入り口は塞ぎ幼子の力では出られないようにしている。

 リードは叫んでいた。ここから出せとスモーカーを呼んでいた。

 

 しかしそれらを無視してスモーカーは前を見据える。中身が麦わらだとしても、あの体では何もできないだろうと。

 

 だからまあ、大丈夫だろうかと────楽観的に思っていたのだと知ったのは、全てが終わった後。

 

 

 トラブルとはいつも突然やってくる。

 船を降りてきた先にあった門で出てきたのはトラファルガー・ロー。

 何故ここにいるのか尋問していれば、その後ろから薄着でやってきた麦わらの一味と様々なサイズの子供達が出てきたのだ。

 

 

 

「七武海が余計な真似を……っ!!」

 

 

 

 ここから情報を持ち出させないためなのか、トラファルガー・ローの能力で逃げ道が塞がれた。

 

 軍艦が宙に浮き、逆さまのまま真っ二つに割れてしまった光景。

 その中から飛び出してきた、一人の幼子。

 

 

「でられたー!!!!」

 

「クソっ!」

 

 

 割れた軍艦の船首。その上によじ登ったリードは両腕を空へ上げて、喜びを胸に大きく叫ぶ。その姿はまさしく麦わらのルフィそのものだった。

 

 

 

「あいつ……あのガキがいるってことは……」

 

 

 

 ローが奴を見た。このままでは最悪なことになるかもしれないと、スモーカーは察する。

 

 舌打ちをして、まずリードを捕獲しなくてはと即座に動いた。

 今は麦わらの一味がいない。あの奇妙なサイズの子供達と共に騒がしく逃げていったからだ。

 

 しかしリードと接触したらどうなるのか分からない。

 それだけが、スモーカーにとっての危機感だった。

 

 

 

「げぇ、けむりん!!」

 

「逃げるんじゃねえクソガキ!」

 

「やだ!」

 

「よそ見してていいのか、海軍」

 

 

「────っ!」

 

 

 いつの間にか、目の前にいたはずのリードが小石に変化していた。

 違う。小石とリードが入れ替わったのだ。

 

 ローの方を見れば、奴の腕にリードの姿があった。

 

 

 

「そいつを離せ、リードはお前が持っていいもんじゃねえんだよ!!」

 

「それはお互い様だろ」

 

「むぅ、おれはものじゃねえぞ! あとはらへった!! なんかめしくいたい!!」

 

「空気読めクソガキ!!!」

 

 

 海兵たちと海賊。そして幼子が一人。

 リードを取り合うかのように、彼らは対立していた。

 

 なんせ、彼らが仲良く手を取り合うことなど出来るわけもなかったのだから。

 

 

 

 

 

 




あとがき
感想いっぱいありがとうございます。もうほんと、私が書くやる気の原材料になります。凄い嬉しいです!
しかし、返信しようかと思いましたが、流石に数年前の感想を返信するわけもいかず。それを無視して昨日から書いてくださった感想の返信をしてしまうのもいかがなものかと悩み、お返事を書くのはやめる方針にしました。ご了承ください。
というわけでちゃんと感想読んでます。本当に嬉しいです、ありがとうございます!!

あとついでに言うとしばらくロナンは出番なしです。リードメイン回ですよろしくお願いします。まあロナン君、裏ではいろいろ動いてますがね。
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