フェイクというには程遠い   作:若葉ノ茶

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兄は空気を読まず、弟は兄の考えが分からず

 

 

 気がついたら俺はヴェルゴに連れられパンクハザードについていた。

 なんで今更俺をローのもとへ連れていくのか。ローは俺をちゃんとロナンだと理解している。俺はただの別人だと分かっていると思っていたのに。

 

 頭が痛い。

 身体中が痛い。

 

 きっとそれ以上に、心が痛い。

 

 

「……ロー!」

 

 

 なんでこうなったんだろう。

 俺がいるせいだろうか。いや、絶対に俺のせいだ。

 

 心臓を取り上げられたローを苦しませるヴェルゴに、何とかしなくてはと抵抗した。そのときの俺はヴェルゴに小脇に抱えられた状態だったから。

 

 だがヴェルゴは俺を床へ放り出し、足蹴りして壁に叩きつけてきたのだ。

 

 手加減はしたのか、腹に激痛が走ったが死ぬほどのものじゃない。

 しかし、ローは壁へと吹き飛ぶ俺をしっかりと見ていた。思わず手を伸ばそうとしていた。

 それはきっと、ドフィが俺にやらかしたこの服装とメイクのせいだろう。まるでローが小さい頃に出会った時の、オリジナルたるロシナンテのような格好。

 そんな俺が、ヴェルゴにぶっ飛ばされてるのを無視できなかったのか。

 

 ヴェルゴ相手によそ見なんてやったら駄目なのに!

 

 案の定、ローはヴェルゴにボコボコにされていた。後からやってきたスモーカーも同じく、俺を気にして攻撃に集中できないでいたのだ。

 俺のせいかと離れようとしたけれど、ヴェルゴがそれを許さず一定の距離から離れようとした俺に攻撃を仕掛けては壁や床にぶつける。放り出す。

 

 ローやスモーカーにとっての、人質。

 

 俺なんて気にしなくてもいいのに。

 

 

「もう止めろ! ローに手出しするな、スモーカーにも攻撃するなよ、ヴェルゴ!!」

 

「命令するな、ロシナンテ」

 

 

 ヴェルゴの言葉に反応したのは、身体中をボロボロにしながらも気丈に振る舞うローだった。

 

 

「っ────こいつはコラさんじゃねえ、ロナンだ!!」

 

「フッフッフッ……本当に別人だと思っているのか、ロー?」

 

「チッ……やっぱり聞いてやがったか」

 

 

 ローとスモーカーは肩で息をしながらも、隙を伺っている。

 それに対しヴェルゴは電伝虫を置いて、周囲に聞かせるようにその場に立っていた。

 

 そこに隙は無いように感じる。

 

 

「シーザーとは全く違う研究者だが、優秀な奴だった。生命に関する情報。その記憶と性質。それさえ引き継ぐことが出来るならあとは体を入れ替えるだけでいい。老いた身体を捨てて、新しい身体へ引き継ぐ。不老不死のようなことも出来るのだとな」

 

「なっ」

 

「ロー。俺の愛しいロシナンテは……そこにいるコラソンは、本当に別人だと思うか?」

 

 

 楽しそうに問いかけてきたその声に、ローは身体を震えさせていた。

 動揺しきっていたのだ。

 

 見た目がそっくりだからか。それとも……。

 

 

「ガハッ!」

 

 

 不意にヴェルゴが銃を取り出し俺を三発撃ちつけた。その後に俺を蹴りつける。

 それは過去、幼いローが見たトラウマの一片。俺にとっても消してしまいたい過去の一つ。

 

 衝動的にだろうか。痛みで転がる俺を能力で入れ替え抱きしめてくるロー。その温かさに何故か涙が込み上げてきた。

 

 

 

「っ──こいつは関係ねえはずだ。ロナンはコラさんじゃねえ。ただのロナンだ!!」

 

「ロシナンテの記憶を持って生まれたこいつが、別人だと言いてえのか?」

 

「なっ……」

 

「そいつに聞いてみろ。コラソンであった頃の事を細かく答えてくれるぞ。お前と旅をしていた時の事もちゃーんとな……フッフッフッ……」

 

 

 

 絶望に染まったような色を、ローが浮かべていた。

 それを否定したいけれど、ドレスローザで監禁されていた時にドフィに言われた言葉が思い出される。

 

 洗脳のように、俺をロシーと呼ぶ。

 ローと一緒に居た頃のオリジナルの記憶が、俺をロナンではなくロシナンテとして刻んでくる。

 

 それらのせいで、ローに希望を与えきれない。

 

 

 

「そこにいるロシーが死んでも、また別の全く新しいロシーを作れば問題ねえ」

 

 

 

 ドフィをこんなにも怖いと感じてしまうのは、何故なんだろう。

 

 

 

「もはや技術は完成へ向かっている。ロシーが死んでもまた生まれ変わらせる。生き返らせる。何度でも何度でも。俺の知っている愛しくて憎たらしいロシナンテは、ロシーはもう二度と死ぬことがない。分かるか、ロー?」

 

 

 

 酷く吐き気のする愛情。

 どす黒い感情をぶつけられて、俺は言葉を失った。

 

 

 ローも俺と同じく唖然としていた。目を見開いて、唇を震わせていた。

 もしかしたら無関係であるはずだが聞く羽目になったスモーカーも同じかもしれない。

 

 

 

「ヴェルゴ。ローに絶望を叩きつけろ。ロシーを殺せ」

 

「ああ」

 

 

「っ────ぐあっ!」

 

 

 どうにかしようと動くが、その前にヴェルゴが手に持っていたローの心臓を握り抵抗をさせずに俺を引き剥がした。

 

 スモーカーが阻もうとして吹き飛ばす。俺をひったくろうとしたが、先ほどまでの怪我のせいで無理やり奪い取ることは出来なかった。

 それを他人事のように見ている俺がいた。

 

 ドフラミンゴ相手に、捕まってしまったらもうどうしようもないと諦めている俺がいたから。

 

 

 

 目の前に落とされる覇気の込められた拳。

 

 

 

 

「コラさ────っ!!!!」

 

 

 

 

 手を伸ばしてくるローに、大丈夫だとへたくそに笑いかけ────。

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 キレそうだった。

 何故なのかと言えば、リードのこと。

 

 無邪気に頼んでくるリードの声を無視しきれない俺自身に怒りが込み上げるからだ。

 

 

(にいちゃん!)

 

(にいちゃん、おねがいだ!)

 

(おれだけじゃなんもできねえ!)

 

 

 一応ルフィたちに俺の存在が知られないようにと隠す程度の気配りは出来ているようだったが。まあ偶然かもしれないな。ルフィと全く同じリードなら隠しごとは難しい。

 

 ああそうだ。ぴーぴーと泣き喚く癖に、うるせえぐらいに親代わりのロナンを求めているこいつにどう応えてやればいいのか考えてしまう。弟を守るのは兄の役目でもあるから。

 リードにとっては、ロナンはとても大切な存在。ルフィがエースを大事な兄弟だと思っているように。

 

 ロナンが死んでいないと断言するのは、おそらくオリジナルとして刻まれた記憶のせいだろう。

 

 ルフィに似たリードとは違い、俺はエースとしての記憶を持っている。

 でもそれは己の中にあるただの紛い物の記憶だ。本物のエースは死んで、俺はそれを引き継いで生まれただけの贋作なんだから。

 ルフィに似た弟たるリードも同じだが、こいつはちゃんとルフィとしてではなくリードとして生きる道を決めている。だから俺は、表に出るつもりはない。

 

 ……否、出るつもりはなかったのだ。ほんの数分前までは。

 

 

(にいちゃん!)

 

 

 弟がここまでロナンに固執するのだって、ルフィとしての記憶のせい。

 トラウマとなったエースの死。ルフィはそれを克服したようだったけれど、まだ二歳である未熟なリードはそうじゃない。

 ぼんやりとしか覚えていない。無意識ながらの恐怖であろうとも、それはエースの記憶を受け継ぐ俺に罪悪感を与えた。

 ロナンをエース代わりに依存しているかと思えば違う。しかし、エースと似たような感じで失いたくないというだけだろう。

 

 リードだって被害者だ。

 ちゃんと自我を持ってリードとして生きようと思っていても、ルフィの記憶がある限りオリジナルとクローンとの違いに苦しめられる。

 

 ロナンも影では悩んでいたようだった。

 

 エースの記憶を受け継いだ俺は、表に出ない方が良い。生まれてこない方が良い。

 ────オリジナルは後悔なく死んだのだ。俺はただの名前のない亡霊。その記憶と感情を貰っただけのリードの裏の人格。

 

 リードは俺を兄として受け入れてはいるが、成長した後はどう思うのか分からない。嫌悪感を浮かべて、俺という存在を拒否するかもしれない。

 まあその頃には俺は深い眠りについて、いつかこの人格ごと消えているかもしれないが……。

 

 

 そう、思っていた時だ。

 

 ただひたすら突っ走っていた。

 ルフィたちと逸れ、子供たちとも別方向へ走る。シーザーが作成し毒霧となった白煙を避け続けられるのは運がいいのか悪いのか。

 

 きっとこっちにロナンがいる。無意識に見聞色の覇気を使っていたかもしれない。なんせこいつはクローンだ。幼子であっても、その身体は細胞ごと改造されまくっている。

 ……でなければ、かつて赤ん坊の頃に海軍の軍艦にあったベビーベッドから飛び降りることなんて出来やしない。

 

 リードは何も覚えていないようだったが、俺は覚えている。

 

 俺とリードが入れ替わった後のあの跳躍。

 赤ん坊の身体能力にあるまじきもの。確実に怪我をする高さから落ちても無傷で生還なんて出来るわけがなかっただろう。

 

 

(にいちゃん、ろなんだ!)

 

 

 必死に語り掛けてくるその声にふと意識を浮上させた。

 そこにあったのは、重傷の男が二人。

 

 

「あっ」

 

 

 覇気によって黒く染まった拳を向けられた、ロナンがいた。

 その殺意はロナンを殺す。そうはっきり理解した。リードでさえ、理解してしまった。

 

 

 

「あっ────あああああああ!!」

 

 

 

 

 脳裏に浮かぶその衝動に巻き込まれた。

 リードはルフィの記憶を思い出す。その嫌な光景を頭に刻む。

 エースが死んだ時の光景に似た、死にかけたロナン。

 

 

 いたいくるしいこんなのいやだしなないで。

 しんでほしくない。しなないで。いきてくれよ!

 

 

 そんな声が頭のなかで響いた。

 

 リードは気を失った。

 かつてのトラウマに心が揺さぶられ、未熟な精神は耐え切れなかったのだと理解した。

 

 それぐらい酷い記憶を植え付けた科学者と、リードにトラウマを作り上げた根本たるオリジナルのエース。そして何も出来ず見るだけだった俺自身に怒りを向けた。

 

 

 

 

「……クソっ」

 

 

 

 

 

 俺はもう二度と、表に出る気なんてなかったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

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