フェイクというには程遠い   作:若葉ノ茶

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過去のトラウマは塗り潰してこそ

 

 

 

 

 

 リードの中にいた────以前エースと名乗った彼が眠りについたのだろう。

 トコトコと小さな足を動かして俺に近づき、両腕をこちらに伸ばして抱っこを要求するリードの頭を撫でてやった。

 

 

「ろにゃん! にしし。げんきそうだな、ちんぱいしたんだぞー!」

 

「それを言うなら心配、な。……それにしても重くなったな」

 

「しっしっし! おれもせいちょーしたんだ!」

 

 

 久しぶりに会ったリードを抱き上げると、その重さは以前と比べて大きくなったと実感できるものだった。

 抱き上げると上機嫌になりながら俺の胸元にぎゅっと顔をすり寄せるリード。猫のような動きは赤ん坊の頃と変わらない。

 

 それに少しだけ涙を流し、鼻水が出るとリードがギョッとして「きたねえ!」と顎を軽く殴ってきた。その痛みのせいで余計に涙が出ているだけだろう。絶対そうだ。

 

 傍にいたローは何故か生暖かい目でこちらを見下ろしているのが見えた。

 

 

「フッフッフ、何だ、もう勝った気でいるのか?」

 

 

 聞こえてきた声にビクリと肩を震わせる。

 リードが嫌そうな顔をして俺の服を掴む。もう絶対に離さないというような仕草に俺もリードをギュッと抱きしめた。

 

 そうしていると不意に俺たちごと抱き上げたローがスモーカーの方へと下がらせる。

 

 スモーカーは傷だらけだった。しかし意識はあったが、俺達が降ろされたことでローの方を見て、何とか倒れていた状態から座るように姿勢を変えて、俺達をその背中へ隠す。

 起き上がれないのはきっと、リードが暴れる前にローの心臓を取り返そうとして無理したのが原因だろう。

 

 

「ドフラミンゴこそどうなんだ。俺達から勝った気でいるのか?」

 

 

 ローがドヤ顔でそう言い放った。

 眉をしかめたヴェルゴの方を見て、ローは帽子をかぶり直す。

 

 

「ヴェルゴはもう終わりだ。お前は最も重要な部下を失う。シーザーは麦わら屋が仕留める────つまり、『SAD』もすべて失う」

 

 

 そうして、こちらをチラリと見た。

 

 

「大事な物は全て失う。この最悪を予測できなかったのはお前の過信だ……!! いつものように高笑いしながら次の手でも考えてろ!!」

 

「……ロー」

 

 

 オリジナルの記憶と感情を持っているせいだろうか。

 ローがドフラミンゴを敵に回すこと。そしてこれから先、ぶつかることが悲しくなった。

 

 だいぶ前に会った時だってそうだ。

 ドフラミンゴの所にいた時に、連絡がきて────その時にだって、俺はきっとずっと悲しんでいた。

 

 せっかく生き延びたのだから、そのまま平和な村にでもいて幸せに暮らしてほしかった。

 入れ墨なんかして、痛い思いをたくさんしてまでドフラミンゴに復讐をと誓わなくても良かったのに。

 

 そう思う気持ちはきっとロシナンテのもの。

 

 ぶちギレたヴェルゴ相手に建物ごと切ったローは本気で決別を選んだ。

 ぶつ切りにされたヴェルゴに背を向けて、スモーカーの後ろにいた俺をリードごと抱き上げて、そうして笑う。

 

 

 

「トラウマは乗り越えてこそ────もうお前の計画通りに事は進ませねえ。歯車はもう壊れた。俺はもう間違えない。大事なモノも失わない。引き返しはしない!」

 

「……っ!」

 

 

 

 宣言し終えたというべきか、小さく息を吐いたローがスモーカーの方へ近づく。

 

 

 

「いつまでそこで倒れている気だ、スモーカー」

 

「喧しい」

 

 

「なあろなんー。はらへった。なんかめしくいたい!」

 

「リードは元気そうだな……」

 

「にしし!」

 

 

 リードの声に緊張感が緩んだようで、スモーカーは溜息を吐きながら立ち上がる。

 そうしてローの後ろをついて歩く。

 

 リードの方をチラリと見たが、何も言わずにいるだけ。そんなスモーカーにリードは「へんなけむりゃんだなー」と呟いただけ。

 

 ローに抱き上げられた俺は、自分の腕の中で大きな腹の音を立てつつ「はらへったー!」と叫ぶリードを慰め頭を撫でることぐらいしかできない。

 身体を細かく切られ動くことすら出来なくなったヴェルゴにも、ドフラミンゴが聞いているであろう電伝虫にも────ただ見ていることしかできない。

 

 スモーカーに捕まってG5で様々なことがあった。

 いろんなことを経験した。ドフラミンゴに遊ばれた記憶は苦い思い出だけれども……それでも、ヴェルゴがこちらを気にしていたのはきっとドフラミンゴの命令に従っていただけだとは思うけれど。

 

 

 

「……ずっと前に、アザラシのぬいぐるみをプレゼントしてくれてありがとう。あの声は余計だったし、いろいろあったけど……さようなら、ヴェルゴ」

 

「……クソガキが」

 

 

 ヴェルゴはそれ以上何も言わなかった。電伝虫からもドフラミンゴの声は聞こえない。

 

 きっともう二度と会うことはないだろう。

 俺の声を聞いていたローは「アザラシ……?」と小さく首を傾けたが、すぐに前を向いて思考を切り替えていた。

 

 

「……それで、これからどうするんだ?」

 

 

 俺が問いかけると、ローは素直に答えてくれた。

 

 

「まずは脱出するために必要な物────トロッコを手に入れる」

 

「にく!」

 

「シーザーを捕まえて脱出した後だ!」

 

 

 

 

 




リハビリも兼ねてるのでいつもとは違い展開が遅いですし話も短いです。申し訳ないです。出来ればパンクハザード編までは終わらせて次に進ませたいですが、やる気次第なので……。頑張りますね。
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