フェイクというには程遠い   作:若葉ノ茶

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海軍からの情報伝達 後編

 

 

 赤ん坊の肩と背中に刺青がある。

 それらの意味を俺は知らない。

 

 肩にはアルファベットとバツ印マーク。そして背中の骸骨マーク。ただしただの骸骨の模様で、特徴的な海賊旗のマークが描かれているわけじゃない。

 しかも赤ん坊の肩と背中にあるのは歪んでいるもので、はっきりと分かるのはアルファベットぐらいだろう。罰マークも肩のアルファベットと合わず、全てにバツ印が付けられているように見えるし。

 

 それらの模様の意味は知らない。

 だが、それに似た模様をしている海賊を前世の記憶で見たような気がする。

 

 

 

「ある島でとある研究所が全焼した」

 

 

 

 ミホークが話す内容は、俺達が脱出した生まれ故郷の話。

 故郷というぐらいそこへ戻りたい島というわけじゃないが。

 

 

 

「海軍が追っている科学者が凶悪な事件を引き起こし、逃亡した後に作り上げた研究所だったそうだ。……その研究所でクローンを生み出す技術を研究していたというのは知っているな?」

 

 

「ああ」

 

 

「そこで焼け残った資料の中に赤ん坊の詳細が書かれていた。死体から細胞を採取し、記憶を植え付けた成功体。死体を甦らせ、生物兵器として使用するという情報がな。それを海軍は危険だと判断した」

 

 

 

「……ん? おい、そりゃあどういうことだ? このガキが危険人物じゃなくて、赤ん坊の方がやべえのか?」

 

 

 

 俺達の話を横から聞いていたペローナが首を傾けながら質問する。

 俺としてもそれは気になっていた。

 有力で強力な海賊を使ったクローン体というからには、この赤ん坊はどんな奴だったのだろうかと。

 

 なんとなく知っているような気がしたけれど、思い出すことができない。

 

 

 

「……記憶を植え付けてあるというのなら、いつかは分かる」

 

 

「え、話してくれないの?」

 

 

「否、ある程度の情報さえ見れば赤ん坊の見た目だけで判断できる。お前がその赤ん坊を大事に護り通すというのならな」

 

 

 見た目だけで判断できるほどの有名な海賊という言葉に衝撃はなかった。

 ただ、守る。護り通すというミホークの言葉に少し息が詰まる。

 

 赤ん坊を連れてきたのは俺の責任だ。

 あの研究所でつい流れで連れてきてしまった。

 しょうがなく育てているだけのこと。だから、仕方なく守っているだけなんだと思う。そう思いたい。

 

 他に育ててくれる人がいるのならば、俺はこの赤ん坊を………。

 

 

 

「……護る、か」

 

 

「あぶー」

 

 

 

 なんとなく、護るという言葉を安易に使ってはいけないような気がした。

 

 

 

「話を戻そう」

 

 

「……ああ」

 

 

「海軍からはクローン体のオリジナルとなった海賊の情報は記載されていなかった。ただ赤ん坊の見た目の情報。そしてお前自身についての話だけだ。お前に関しては科学者の成功体を逃がした凶悪犯ということになっているな」

 

 

「えっと、じゃあ海軍に捕まったら俺達は……」

 

 

「捕まって利用されるだけだろう」

 

 

 

 利用されるというのはつまり、実験されるということか?

 いやでもまあ俺はクローンなわけだし、このリードもそうだし……。

 

 

 

「お前は生け捕りだが、赤ん坊は見つけ次第殺せという指示が飛んでいる」

 

 

「はいぃ!?」

 

 

「何だそりゃ!? 海軍が危険視してるのがこの赤ん坊? 私でも殺せそうなこの赤ん坊を見つけ次第殺せって海軍本部が言ってるのか!?」

 

 

「ああそうだとも。そういう運命を赤子は辿っている。見殺しにするか否かはお前次第だ、弱き者よ」

 

 

 

 ペローナが混乱するのも無理はない。

 ってか、なんか話を聞いてて余計に意味が分かんなくなってきたぞ……!

 

 つまり俺は捕獲して実験体として利用するということ。赤ん坊のリードは成功体であるが故に殺すということか?

 それで海軍も……七武海も動いているということなのか?

 

 

 

「……聞きたいことがあるんだけど、良いかな」

 

 

「何だ」

 

 

「リード……赤ん坊の名前は教えてくれないんだろう。じゃあ、俺のオリジナルについて知ってるか? 捕獲と見殺しの違いを俺は知りたい。どうして俺が生み出されたのかを知りたいんだ。だから教えてくれ」

 

 

「…………」

 

 

「頼むよ!」

 

 

 ミホークは無言で俺を見つめる。

 ごくりと唾を呑み込んで、ミホークが喋るのを待つ。

 

 

 何を考えているのだろうか。

 俺を見定めてるのか? それとも海軍からの情報を知らないだけ?

 ペローナでさえ異様な雰囲気に思わず無言で俺達を見守っている。

 

 

「あぶぅー!」

 

 

 数秒か数分が経った。

 リードの笑い声が海の波音と重なって消えていく。

 

 

「資料に載っていた」

 

 

「ん?」

 

 

「記憶を植え付けてあるのは赤子だけじゃないそうだ。そしてお前の名前も一部分だけ記載されていた」

 

 

「……え?」

 

 

「いつかは思い出すだろう。その記憶は『ロナン』としての全てをかき消すほどのものかもしれない。そのきっかけとなる名前を、お前は受け止める覚悟はあるか?」

 

 

「うぐっ……」

 

 

 生まれ変わった俺が消えるかもしれないほどの記憶。

 確かにやけにピンク色が苦手になってたり、あのピンク色の男を思い出したくないと本能が叫んでいるほどの前世にはない衝動はあるにはある。

 前世の記憶が塗り替えられるほどの記憶が俺にはあるかもしれない。

 それでも俺はこの世界で生きている。

 

 

 前世の漫画の世界だと思い込むことはもうできない。

 あの島で殺されかけたんだ。

 

 海軍に追われた焦燥感もまだ残っているし、ピンク色のふわふわしたコートを羽織る男に殺されるんじゃないかと思えたのも事実。

 目の前にピリピリとした空気を放つ鷹の目がいるのもまた現実。

 

 漫画じゃなくて、現実だ。

 

 

 ならば、俺がここで生まれた意味を無駄にしたくないから。

 

 

 

「……何となくで海軍に捕まりたくない。俺はロナン。オリジナルとは違う『ロナン』だ。だから大丈夫」

 

 

「あぶぶ!」

 

 

「ほら、それにこいつだってそうだ。オリジナルじゃなくてリード。俺の弟分のリードだよ」

 

 

「あぅ!」

 

 

 

 このままミホークに近くの島まで乗せてってもらって、その後彼に庇護してもらうことはできないだろう。

 彼もまた俺たちを捕える可能性のある人物。ペローナもどうなのかは分からない。

 

 情報というのは凄く重要なものだ。

 だから調べなければならない。このリードの見た目をしたオリジナルの海賊についても。俺についても。

 

 オリジナルのことを知れば、対策というのは打ち立てることができるはずだから。

 

 

 

 

「頼む、教えてくれ。俺は知りたいんだ!」

 

 

 

 

「………………ふっ、そうか。ならば話そう」

 

 

 

 

 

 俺を見る目は変わらない。

 だがその色は少しだけ変化しているように見えた。

 

 

 それは俺の気のせいかもしれないけれど――――――――。

 

 

 

 

 

 

 

「お前のオリジナルの名前はロシナンテ」

 

 

「……………はい?」

 

 

「ロシナンテという名の死体から作り上げられたクローン体。それがお前だ」

 

 

 あっれー。

 なんか聞いたことあるようなないような名前なんですが……。

 

 

「なんだそりゃ。全然聞いたことねー名前だな!」

 

 

「ですよねー!」

 

 

 

 嫌な予感がしたけど気のせいだよな!

 俺はただこの危険人物のクローンであるリードを連れ出したから捕獲ってだけのことだよな。

 

 ねえそう言ってくれないかな。何で生暖かい目でこっちを見てるのかな、ミホークさん!!!??

 

 

 

 

 

 

 

 

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