雑用係のロナン(赤子付き)
建物の中を駆け回り、たまに転んではリードが笑い。
ミルクを準備してオムツを取り換えては、また駆け回っては転んで笑い。
外に出て自転車に乗っては別の建物へ行き、そしてまた派手に転ぶ。
書類がたまに散らかっては、拾って集めて散らかってまた転ぶ。
「だははははっ! ロナンお前今日一日でどんだけドジったんだぁ!?」
「……15回ですが何か?」
「はっはっは! ドヤ顔で言うようなことじゃねえよ! お前メッセンジャー向いてねえんじゃねえの!?」
「あぶー」
海軍の医療に関わるおっさんが俺に向かって絆創膏などを渡しながらも爆笑している。なんとも平和な光景だ。
それにつられて抱っこひもで腹抱きしているリードも笑っているが、いつも通りなので問題なし。
だが不意に、医者が笑うのを止めて静かに俺を見つめる。
その急な態度の変化に思わず警戒するが――――――その医者の目は優しいままだった。
「赤ん坊も連れてんだ。お前がどうして雑用の……メッセンジャーなんかやってるかは聞かねえが、怪我は控えるようにしろよ」
医者としての忠告なんだろう。
海軍の人々がまあ良しと定め、司令官が許可をし採用した俺に探りを入れるようなことはしていないが、若干の訝しげな視線はあった。
「兄のお前が怪我をすりゃあ赤ん坊が悲しむぞ」
「……でも、俺が怪我するとこいつ笑うぞ?」
「あーう!」
「はははははっ! そりゃああれだ。赤ん坊も呆れてんだよ!」
微妙に反応に困ることを言いながらも、用が済んだと俺を医療室から追い払われて廊下へと出た。
帽子を目深にかぶってリードを抱きかかえながらも、今日一日の仕事が済んだことに安堵する。
よし、今日も誰にもばれなかった。
怪しまれはしているんだろう。赤ん坊を連れたメッセンジャー。書類を届けに来るのが腹に抱っこひもで抱える赤ん坊を連れた8歳ぐらいの少年なんだから。
でも上が許可を出したから平気だろうと思っている奴らが多い。だから何も言われない。
怪しんでいるが、行動に移すほどのものじゃないと思っているに違いない。それが俺にはありがたかった。
勢いで海軍の雑用に入ったことを後悔するような怒涛のメッセンジャーとしての仕事内容だったが、その分の情報もたくさん得られる。
様々な部門の部屋へ行って、必要な書類を渡す。そこで彼らが話している内容を聞き耳して、たまに手配書一覧が貼りつけられている掲示板のところへ行っては俺達のものが載ってないのかをチェックし、仕事へ戻る。それを繰り返し行ってきた。
ここの支部を管理している指揮官は上を目指すことしか考えてない人だ。どこにでもいるような雑用を詳しく調べるだなんてことはしないし、入ってしまえばもう後は楽だった。
「さてと、ニュースクーの情報はっと……」
食堂にある新聞を読みながらも、頼んでおいた魚定食とミルク用のお湯を待つ。
新聞はいつもと変わらず騒がしいニュースが飛び交っているようだ。
でも俺が見たいと思えるような情報はなし―――――――
「あれ?」
新聞のある一面に、『新しい七武海の就任確定』の文字と共に見える、『死の外科医、トラファルガー・ロー』の文字。
その文字に、心臓が何故か早く鳴り響く。
あのピンク男を見た時と同じ感じだ。手配書であっただろう顔写真を見ているだけで視界が歪んでしまうのが分かった。
無意識に身体が反応している。
……なんか……悲しい?
急に涙が零れ落ちそうな感情に襲われる。どういうことだろう。凄く泣きたいような……。
いや、懐かしいような気が……?
「……気のせいだ」
会いたい。でも会っちゃいけない。
懐かしい。愛おしい。会いたい会いたい会いたい。
……たぶんこれは、オリジナルとしての感情なんだろう。
オリジナルの名前が分かっても、それが誰なのかは分からない。
でも繋がりは見える。
「……ロナンとしては、気のせいだな」
あのピンク男が誰なのかも情報で理解した。
ドンキホーテ・ドフラミンゴという名前と、このトラファルガー・ローという人物。
その繋がりの先にオリジナルがいる。
俺のオリジナルである『ロシナンテ』という男がそこにいるはずだ。
「あっぶぅー!!」
「……はいはい、ミルクな。ちょっと待ってろよ」
会えば何かが分かるかもしれないが。俺の目的は安全な生活とリードが無事に育ってくれることだけだ。
彼らに会っても、平和とは程遠い何かが起きるかもしれない。ならば俺は何もしない。
その方が良いと思いたい。