絶望の世界に希望の花を   作:Mk-Ⅳ
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第五話

「ハァッ!」

 

群がる触手を若葉は刀を一閃の元斬り落とす。しかし、新たなる触手が襲い掛かってきて後退せざるを得なくなる。

 

「若葉ちゃん!」

 

非戦闘員や人革連の者達を纏め、退避の準備をしていたひなたが若葉に呼びかける。

 

「どうしたひなた!」

「もうすぐ助けが来ます!それまで耐えて下さい!」

「分かった!」

 

まるで未来を予知したような内容だが、若葉は疑うことなく聞き入れた。

大社の巫女は、神樹は自らの意思を『信託』と言う形で受け取り、それを代弁するのが使命である。その内容には未来予知するような内容も多く。今も何らかの信託を受けたのだと若葉は察したのだ。

 

「だぁぁぁあああ!キリがないぞこれ!?」

 

若葉と同じように触手の対処に追われている球子が、苛立ちを隠さず叫ぶ。

他の勇者達も途切れなく襲い掛かる触手に阻まれ、デス・フォートレスに近づけずにいた。

勇者の攻撃にもバラニウムと同じく、ガストレアの再生を阻害する効果があるのだが。ステージⅣともなると、その再生力はケタ違いであり。破損させた触手が瞬く間に再生し、絶え間なく襲い掛かってくるのだ。

 

『―――――!!』

 

てこずらされていることに苛立つかのように、デス・フォートレスが複数ある口から鼓膜をつんざくような咆哮を上げると。6本ある腕の内の1本を砂浜を抉るようにして振り上げ、掻き上げられた大量の砂塵が津波のようにして若葉らに襲い掛かる。

若葉達は散開して退避すると、デス・フォートレスは杏目がけて別の腕を振り下ろしてくる。跳躍して回避したばかりで避けられない杏は、思わず目を瞑り咄嗟に腕を交差させてダメージを抑えようとするも。デス・フォートレスの巨体による一撃の前では焼け石に水でしかない。

 

「ハァッ!!」

 

振り下ろされた腕目がけて友奈が跳躍し、跳び蹴りを打ち込み軌道をそらすと。腕は杏から逸れた場所に叩きつけられ、その衝撃で友奈と杏は吹き飛ばされて、砂浜に叩きつけられる。

 

「あんず!」

「高嶋さん!」

 

球子が杏に、千景が友奈にの元に慌てて駆け寄る。

 

「私は大丈夫だよ、ぐんちゃん」

「私もです。でも、このままだと…」

 

地面が砂浜であったこともあり、2人ともそれ程のダメージは負わなかったが。猛威を振るうデス・フォートレスを見て、杏の表情が険しくなる。

若葉や球樹らファフナー部隊が攻撃を続けているも、多量の触手に阻まれ本体には届いておらず、消耗しているだけであった。そして――

 

『クソッ!弾切れか!』

 

遂にファフナー部隊の主兵装の弾薬が底を尽いてしまった。これで残った戦力は勇者だけとなってしまう。

 

「よーし!こうなったらタマが『切り札で』!」

「無理よ」

 

球子がいきこんで提案するも、千景がバッサリと否定した。

 

切り札――

神樹には地上のあらゆるものが概念的記録として蓄積されており。その記憶にアクセスすることで抽出し、自らの体に顕現させることで強化することができる機能。

 

「なんでだよ千景!?」

「あなた忘れたの?丸亀城での戦いの後、大葉さんの指示で切り札は封印されたことを」

 

切り札は強力であるが、反面使用者への負担が大きく。また、どのような影響を与えるか解明しきれていないため。勇者の安全を優先した四国エリア代表の大葉は大社と検討した結果、システムの解析と改良が終わるまで、一時的に封印処理を施すことを決めたのである。

 

「…あ」

「タマっち先輩…」

 

どうやらそのことを記憶から忘却していた球子。そんな彼女に、千景と杏は呆れを滲ませた目を向けて溜息をつき、友奈は困ったような顔をしていた。

 

「じゃ、じゃあ、どうすりゃいいんだよ!?」

「それは…」

 

事態の重大さに気づいた球子が慌てて問いかけるも、千景もどうすればいいのか分からず言い淀む。

 

「ぐぁ!?」

 

そうこうしていると、若葉の苦悶の声が聞こえ。そちらに意識を向けると、若葉が触手に絡めとられてしまっていた、

 

「若葉ちゃん!?」

「あれ、不味いぞ!」

 

友奈達が急いで助けに向かおうとするも、壁のように群がって来る触手に阻まれてしまう。

 

「このッ…!」

 

若葉は自力で振りほどこうとするも、勇者の力を持ってしても触手はビクともしない。

デス・フォートレスは捕らえた若葉を、無数にある口の1つへと引き寄せていく。

 

「ッ――!」

 

口の中には、刃物のように尖った歯がビッシリと生えており。それがまるで、ミキサーのように蠢き始める。あの中に放り込まれたが最後、粉々に砕かれてしまうだろう。

その光景を思い浮かべてしまいゾッとする若葉。渾身の力を込めるも、触手が肉体に食い込んで痛みが走るだけだった。

 

「(死ぬ、のか…私は…?)」

 

友奈達とは戦い始めたばかりの頃は、友奈以外は互いを信じられず、背中を預けることもせず自分勝手に戦っていた。特に若葉自身は、バアルに命を奪われた人々の仇を取ることしか考えていなく、敵を倒すことに固執して危うく取り返しのつかない事態を引き起こしかけた。

そのせいで戦う理由を見失いかけたが、仲間のおかげで過去に囚われず、未来を生きる人々のために戦うべきなのだと気づけた。

そして、丸亀城の戦いを経て。友奈達とやっと本当の意味で、仲間と呼び合えるようになったばかりなのだ。まだ、彼女らのことを知らないことの方が多いのだ。もっと、仲良くなるためにも死ぬ訳にはいかない。なにより――

 

「(優…)」

 

3年前自分の前からいなくなってしまった幼馴染。もう一度彼に会いたい、そして今までどうしていたのか話したいことが山ほどあるのだ。だから死にたくない。

 

「(優…!)」

 

最愛の人を強く想った時、若葉の勇者システムが接近する反応を捉えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

若葉達がデス・フォートレスを引き付けている間に、ひなたら非戦闘員は人革連の者達と共に少しでも離れるため森の中を移動していた。

 

「ひなた様。乃木様達は大丈夫でしょうか?」

 

ふと、1人の自衛隊員が不安な様子で、先頭を歩くひなたに語り掛ける。勇者と言えど、切り札が使えない状態でステージⅣのガストレアを相手に、無事でいられるとは思えなかったのだ。

それは他の者達同様で皆一様に若葉達を案じていた。そして、それは敵対していた人革連の者達もだった。見捨てられて然るべき自分達を、その身を顧みず助けてくれた彼女らに、最早敵意を持つこと等できなかった。

 

「安心して下さい。大丈夫ですよ」

 

ひなたは足を止めて振り返ると、皆を安心させるように微笑みながら話す。

大社の巫女であるとはいえ、自分達よりも遥かに年下の彼女が。このような状況でも落ち着き払っていることは、その場にいる者達に自然と安心感を与えていた。

 

彼ら(・・)が来てくれました」

 

沈みかけた空を見上げながら告げるひなた。しかし、その表情はどこか悲しそうであった。

 

 

 

 

『これは!?』

『何だ!どうした!?』

 

デス・フォートレスに捕らえられた若葉を助けるべく、思案していた球樹は。驚愕の声を上げた僚機に振り向く。

 

『こちらに接近する飛行隊あり!物凄い速さです!』

 

僚機の言葉に自機のセンサーを確認すると。1つの反応がみるみると距離を詰めて接近してきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伊豆諸島上空。その空を切り裂くように1機のファフナーが駆け抜ける。

その背部には、4器のロケットブースターと主翼を取り付けた司馬重工製試作装備『緊急展開ブースター(Emergency Expansion Booster)』『EEB』を装備しており。リミッターを外した影響で、ブースターが悲鳴を上げながらも、最新の航空機に匹敵する速度で若葉達のいる島目掛けて直進していた。

島に接近するにつれその輪郭が鮮明になっていき。浜辺には異形の怪物デス・フォートレスがおり。触手に絡めとられた若葉が口の中へと放り込まれそうになっていた。

ファフナーは軌道を修正し、デス・フォートレスへと迫っていく。

 

『なんだ!?ミサイルか!?』

『!飛行隊より、メッセージを受信!』

『読み上げろ!』

 

球樹が命じている間に。飛翔するファフナーは、デス・フォートレスとの距離を詰めると。EEBを切り離し慣性に乗って進んでいく。

切り離されたEEBはデス・フォートレスに激突し、ロケットブースターの燃料が引火し大爆発を起こし。その衝撃とダメージにデス・フォートレスが苦しむように吼えた。

EEBを切り離したファフナーは。水平な姿勢で砲弾のように直進しながら、背部と脚部の大型ブースターを吹かして、慣性を殺さぬようにしつつ機体を起き上がらせる。

 

『ハッ!『東京エリア部隊、戦闘に参加ス!』』

 

僚機がメッセージの内容を読み上げるのと同時に。意識を失ってもおかしくない程の、猛烈なGを受けながらも。意に介した様子もなくファフナーは、背部パイロンからルガーランスとロングソードを取り出すと。若葉に絡まっている触手へと斬撃を放つ。

すると、触手は容易く両断され若葉の体が自由になると、重力に従って落ちようとする。そんな彼女をファフナー――マーク・アインは、両手の武器を手放すと、すれ違いざまに肩から首と膝裏に腕を回すいわゆる『お姫様だっこ』の態勢で受け止めると、ひゃッ!?という可愛らしい悲鳴が若葉から洩れた。

 

『繰り返す!『東京エリア部隊、戦闘に参加ス!』

 

僚機が戦場にいる者全員に伝わるよう。再度、メッセージの内容を読み上げるのと同時に。アインは浜辺に着地し砂浜を削りながら勢いを殺し、最後は片膝をついて停止した。

 

「……」

 

アインに抱きかかえられた若葉は、何が起きたのか理解が追い付かず。固まったままアインの頭部を見つめていた。初めて見る機体だが、そのバイザー越しに見える目にはどこか懐かしさを感じた。

 

『……』

 

アインは何も言わずゆっくりと若葉を降ろすと立ち上がる。そして、彼女の目に出ながら球樹機へと通信を繋ぐ。

 

『こちら、聖天子直轄遊撃小隊Alvis副隊長蒼希優3尉。これよりそちらを援護します』

「え…?」

 

アインから聞こえてきた声に若葉の目が見開かれる。その声は紛れもない幼馴染の少年のものであった。

 

「ゆ…う…?」

 

若葉は掠れるような声で、アインの背中に話しかけるも、返事は帰ってこない。

 

『――――!!!』

 

EEBの爆発によるダメージを回復させたデス・フォートレスは、地面を揺るがす程の咆哮を上げながら、無数の目でアインを睨むように見ると、腕と触手を振り回して暴れ出す。

そんな折、EEBを通常での運用をしていたため、遅れていたマーク・ツヴァイが到着すると。減速しながらEEBをパージし、砂浜を滑りながら着地するのと同時に、全兵装を展開し発射した。

放たれた弾幕は触手の群れを次々と焼き払い、流石のデス・フォートレスも堪えたのか、再び苦しむように吼えた。

 

『こちら、聖天子直轄遊撃小隊Alvis隊長天童光輝2尉。ガーディアン1そちらの状況を把握したい』

 

そう告げると、ツヴァイはジャイアント・ガトリングのトリガーを引くと。吐き出された弾丸の嵐が再生された触手を引き裂いていき、本体の着弾していくも全て堅固な皮膚に弾かれてしまう。

ちなみにガーディアン1とは、球樹のコールサインである。

 

『こちらガーディアン1。我がファフナー部隊は全機主兵装が弾切れだ。勇者の方は全員戦闘に支障はない』

 

通信を受けた球樹の報告を合わせつつ。光輝は過去に起きたデス・フォートレスとの戦闘に関するデータを照合し、現在得られているデータを組み合わせて戦術を構築していく。その間にも襲い掛かかる攻撃を回避しながらである。

ツヴァイは複数の事象を並列的に処理することができ、常に最前線に立ちながらも、戦場全体を俯瞰しながら戦闘と部隊指揮を同時にこなすことができるのである。

 

『マーク・ツヴァイより、ガーディアン1へ。そちらの光学シールドはまだ使えるか?』

『ああ、そちらは問題ない』

『では、こちらの作戦への四国部隊の協力を要請する』

『ガーディアン1了解。好きに使ってくれ』

 

ツヴァイの提案に球樹は難なく了承する。階級が同じとはいえ、自分よりも一回りも年下の相手に仕切られることになるが。自分では打開策が思いつかず、ツヴァイの自身に満ちた態度を信じることにしたのだ。

 

『お前らもそれでいいな!』

 

球樹の言葉に、それぞれの反応で応える若葉以外の勇者達。不安はあるも、ここは球樹の判断を信じることにした。

 

『ガーディアン小隊は、敵の注意を可能な限り引いてもらいたい、その間に、俺と金弓箭様で敵の防御を破り。その後、天ノ逆手様が輸送ユニットが爆発した箇所にダメージを与えて下さい。再生したばかりでそこが一番脆いので。次にマーク・アインが同じ箇所を攻撃し皮膚を破壊し、残った勇者様方がそのポイントに全力で攻撃を』

「それで、あいつをやっつけられるのか!」

『いえ、無理です』

 

期待の籠った目を向ける球子だが、あっさりとその期待を裏切られズッコケそうになる。

 

「な、なんでだよ!?」

『戦力が足りません。デス・フォートレスは、自身の身に危険が及ぶようになると逃げる習性があるので、それを利用します。最も、そちらが切り札を使えるのであれば話は別ですが?』

「それは…」

 

弱気な策に球子が抗議するも。理論整然としたツヴァイの言葉に反論できなかった。

 

「タマっち先輩、ここはあの人の言う通りにしようよ」

「む~あんずがそう言うなら仕方ないか…」

 

杏に諭され渋々とだが納得する球子。杏は勇者の中でも豊富な知識を持ち、戦闘よりもどちらかと言えば参謀として活躍しており。その彼女が他の案がないと判断した以上、球子から言えることはなかった。

 

「よし!頑張ろうぐんちゃん!」

「ええ、高嶋さん」

 

両拳を握り締めて気合を入れる友奈に、静かに答える千景。だが、彼女の手は僅かだが震えていた。

冷静を装っているように見えるが、彼女の死への恐怖は人一倍強く。初陣では杏と共に恐怖に囚われ動けず、友奈に後押しされてようやく戦うことができたのだ。

今回の作戦は、もしも目論見が外れてデス・フォートレスが反撃してきた場合、間近にいる自分達が被害を被ることになる。それこそ最悪死人が出てもおかしくはない。それが自分だったら――

 

「ぐんちゃん!」

 

そんな千景の手を友奈が握る。彼女の手から伝わる温もりが、震える千景の心を支える。

 

「高嶋さん…」

「大丈夫。皆で力を合わせれば絶対上手くいくから!」

 

満面の笑みで話す友奈からは、迷いも疑念も感じられなかった。心の底から仲間達や、会ったばかりのAlvisのことを信じているのだ。

 

「ええ、そうね」

 

そんな彼女だからこそ、自分も信じることができるのだ。友奈がいれば自分はいらない子(・・・・・)ではないのだ――

 

 

 

 

『マーク・アイン、そちらの勇者様はやれるのか?』

 

ツヴァイからの通信に、アインは自分を見て呆けている若葉に向き直る。

 

『若葉』

「え、ああ。何だ優?」

 

声をかけると、ハッとしたように反応する若葉。

 

『作戦は聞いていた?』

「作戦?」

 

ツヴァイの話を聞いていなかったようで、疑問符を浮かべている幼馴染に、無理もないと内心思う優。3年ぶりにこんな再会をすれば当然の反応だろう。

 

『マーク・アインより、マーク・ツヴァイへ。こちらの勇者様は作戦参加は困難、僕がその分を埋めるよ』

『分かった。では、作戦を開始する!』

 

通信を終えると、再度アインは若葉に背を向ける。

 

『そこで待ってて、すぐに終わらせるから』

「あ、優!」

 

若葉の言葉を無視して、アインはブースターを吹かし飛び出すと。手放して砂浜に突き刺さっていたランスとソードを回収する。

 

「優…」

 

事態に追いつけていない若葉は、その背中をただ見ていることしかできなかった。

 

 

 

 

『オラァ!こっちだ化け物!!』

 

珠樹らガーディアン小隊が、副兵装である拳銃『デュランダル』を撃ちながらデス・フォートレスの周囲を駆ける。

放たれる弾丸は全て弾かれも、デス・フォートレスは鬱陶しそうに腕や触手を振るい蹴散らそうとしてくるのを。回避するかイージスで受け流しながら耐える。

 

『いきます!』

「はい!」

 

デス・フォートレスの注意が逸れている間に。ツヴァイと杏が放った弾幕が触手を蹴散らし、デス・フォートレスまでの道を切り開いていく。そして、その道をアイン、友奈、千景、球子が駆け抜けていく。

 

「いっくぞぉぉぉおおお!!」

 

最初に飛び出した友奈が、修復されたばかりの箇所に拳を打ち付けると、皮膚に亀裂が走り広がっていく。

 

『オオオォォオオオオ!!』

 

続いて飛び出した優が、亀裂にランスを突き刺し、レールガンを撃ち込み続ける。一発ごとに亀裂がより広ががっていき。そして、遂に皮膚が砕け散って内部の肉が露出する。

 

「喰らえええぇぇえええ!」

「ハァッ!」

 

最後に球子と千景が取りつき、露出した内部に攻撃を加えていくと、デス・フォートレスは悲鳴のような咆哮を上げると体を大きく揺らして暴れ出す。

 

「うわ!?」

「くっ!」

 

激しく揺さぶられ踏ん張れなくなった2人が振り落とされる。

 

「――ッ!」

 

球子と千景は空中で態勢を立て直し着地するも。その際、千景は右足を挫いてしまった。

 

『――――!!!』

 

デス・フォートレスは怒り狂ったように吼えながら、落とされた2人を踏みつぶそうと、大木はあろうかという太さの足の1本を振り上げていく。

 

『(!もう一押し足りんか!)いかん、逃げろ!』

 

若葉が抜けた分ダメージを与えられず、デス・フォートレスを撤退させるには不十分となってしまったことに、球樹が歯噛みする。

 

「ッ!」

 

2人は急いで退避しようとするも、千景の右足に激痛が走りバランスを崩して転んでしまう。

 

「千景!」

「ぐんちゃん!」

 

球子と友奈が助け出そうとするも、それよりも先に千景が踏みつぶされるだろう。

 

「(私、死ぬの?)」

 

千景の目に映る景色全てが、スロー再生されたようにゆっくりと動き。仲間達の自分を呼ぶ声がどこか遠くに聞こえる。

迫りくる足裏が徐々に視界を埋めていき、彼女の命を磨り潰そうと迫る。

死への恐怖から千景は思わず目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヌォォォォォオオオオオ!!!』

 

だが、誰かの咆哮と共に金属が激しくぶつかる音がすると。いつまで経っても何も起きなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――え?」

 

千景が恐る恐る目を開けると。千景を庇うように立ったツヴァイが、突き出した両手でデス・フォートレスの足を受け止めていた。

だが、機体の各部に凄まじい負荷がかかっており、装甲み亀裂が入っていき、火花があちこちから散っている。

 

『ユゥゥゥゥゥウウウウウウウウウ!!!』

『ウァァァァァアアアアアアアアア!!!』

 

ツヴァイの声に応えるように、アインがデス・フォートレスの傷口部分に取りつくと。両手で逆手に持ったランスを突き刺し、レールガンを最大出力で撃ち込んでいんでいく。

 

『――――!!!』

 

苦悶を上げるように吼えたデス・フォートレスが、アインを振り払う暴れ狂う。だが、アインは巧みにバランスを取りなふがら踏ん張る。

負荷によってランス共々紫電が走り悲鳴を上げるも、アインは構わず撃ち込み続けた。そして、遂にはランスが耐え切れなくなり爆発を起こし、その衝撃で吹き飛ばされると砂浜に叩きつけられるアイン。

 

「優、優ゥ!!」

 

その姿を見た若葉が弾かれるように彼の元へと駆けだす。

 

『オラァァァァァァアアアアアアア!!!』

 

その間に、ダメージを受けたことでデス・フォートレスが怯んだ隙に、機体出力を最大まで高めて一気に足を押し返すツヴァイ。

押し返されたデス・フォートレスは、たたらを踏むように後退すると、ふらつくような足取りで海へと逃げ込み姿を消していく。

 

「つ、疲れた~」

 

デス・フォートレスの姿が完全に見えなくなると、気が抜けた球子がへたりと座り込んだ。他の面々も生き残れたことにそれぞれ喜びを表現する。

 

『…ご無事で?』

「え、ええ…。でも、あなた…」

 

ツヴァイが千景の無事を確かめるも、寧ろツヴァイの方がダメージが大きかった。神経接続によって機体と一体化していることによって、ダメージがそのまま搭乗者にフィードバックされているのである。機体の至る所に亀裂が入り、そこからオイルが流れ出ており、満身創痍という言葉が相応しかった。

そのことを千景は知らないも、彼の状態が普通でないことが感じ取れ言葉が出なかった。

そんな彼女に、ツヴァイはしゃがみ込んで右足に触れる。

 

「ッ――!」

『暫しの辛抱を』

 

痛みに顔を顰める千景に、ツヴァイは語り掛けながら状態を確認していく。

 

『骨に異常はありませんね。これならばすぐに治る。他に異常は?』

「特には、ないわ」

 

間近に見つめられて、頬を赤らめて思わず視線を逸らす千景。同年代はおろか、異性と碌に関わったことのない彼女には、刺激が強いようである。

 

『ご無礼を』

 

そういってツヴァイは、千景をお姫様抱っこの形で抱える。ツヴァイの背部にはレールキャノンがあるので、背負うことができず、安全に運ぶにはこうするしかないのである。

 

「え!?あっちょ、ちょっと!」

『お1人では歩けないようなので。ご容赦を』

 

顔を真っ赤にした千景の抗議するも、正論を返されそれ以上何も言えなかった。

 

「優、優!しっかりしろ!」

 

ツヴァイの向かった先には、気絶して倒れ伏しているアインに寄り添い、今にも泣き出しそうな顔で呼びかけている若葉がいた。

その周りには友奈達が集まっており、皆今まで見たことのない程取り乱した若葉に、驚きの色を見せていた。

 

『――ぅ…あ…』

「優!」

 

うっすらと目を開けたアインに、若葉が安堵しながら顔を覗かせる。

 

『若、葉…。敵…は…?』

『撤退した。作戦終了だ』

 

アインの問いに、ツヴァイが代わりに答えた。

 

『そう…。また…生き残ったんだ…』

『ああ、お前は生きてるよ。まだ、な』

 

ツヴァイがの言葉に、自分が生きていることを実感しているアイン。だが、そこに喜びの感情は見られかった。

 

「優…?」

 

そんなアインに。若葉は彼が目の前にいる筈なのに、どこか遠くいるような錯覚を覚えてしまったのだった。








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