さよなら、ガフガリオン。   作:詠むひと

16 / 20
明日やろうの積み重ねがこの様です。


憂鬱な朝

 多分コレは夢だ。

 

 そう、悪夢だ。

 

 

 殺した敵兵の身ぐるみを剥ぎ、持ち物を漁る男達。

 

 血眼になって革袋に残る乾ききったパンの欠片を争う様に口にする。腐りかけた林檎も腹に入ればそれでいい。

 

 下着まで剥ぎ、何処かに隠し持っていないか探した。

 

 男も女も、まだ少年と言っていい見習いも。全て殺した。殺して剥ぎ取って使える物、食えそうな物、全てを奪った。

 連れていたチョコボは解体し、血も肉も革も骨も捨てる所は何も無い。

 

 敵からは命も持ち物も食い物も純潔も全て奪って殺した。

 

 俺達には何も無い。無いなら奪えばいい。

 

 だが、この辺りの村々にはもうどこにも蓄えは無い。民も限界だ、奪えば民は死ぬ、奪わ無くても遠くないうちに死ぬ。

 

 なら、敵から奪えば丁度いい。あっちの方が豊かだ、きっと良いものを食ってるに違いない。

そう思っていた。だが、前線に送られる奴なんて俺達と同じだってのはすぐに分かった。

 

 

 木の芽も、草花も蛙や蛇も。モンスターも。腹に入れば同じ。

 

 肉になっちまえば全部同じ。

 

 

 食い物だ。

 

 

 せめてもの抵抗だ。人間だけは食いたく無い。そうなっちまったら、俺達は化け物の仲間入りだ。

 

 

 村から焼き出されてからはずっと飢えを感じていた。騎士団に入ってまともな物を食っても、どこか物足りなさを感じていた。

 

 家族と居る時だけが安らぎだった。それが無きゃ、後はただ続く戦いと飢え。

 

 国の為なんて綺麗事じゃぁ、腹は膨らまン。喰わなきゃ死ぬ。戦わなきゃ死ぬ。戦っても死ぬ。殺さなきゃ死ぬ。

 

 何の為に戦ってるのか、死にたく無いから戦うのか。誰もが分からなくなってきて、すがり付く物が必要だった。

 

 誇りや大義じゃ腹は膨れンが、それが無きゃ立ち上がる事も出来ない。

 

 

「クソッタレ、こンな夢なんてさっさと覚めろっ。もう沢山だ。もう戦争は終わったンだっ!見たくねえ、見たくねえンだよっ!」

 

 覚めない夢に苛つくも、一向に覚めず。目の前には敵も味方も血塗れ泥まみれで殺し合い、身ぐるみ剥いで奪われた死体の山がある。兵も民も関係無く、死は平等に訪れる。

 

 

「ああああああ、クッソがぁ。止めろ止めろ止めろぉぉぉ。」

 

 燃え盛る村。転がる死体。アレは近所の爺かと。仲のいい幼なじみの少女、三軒向こうの村一番の美人、事切れた父。

 

 モンスターを連れた敵兵に襲われ、全てが殺され焼かれていく。無力な自分。立ち向かって殺された村人、逃げようとして射掛けられた女。元騎士の村長はまだ向こうで戦っている。

 

「止めろよ、見たくねえ。覚めろよ、夢だろぉ、覚めろよ…。やめてくれ…。いやだ、やだぁ。」

 

 いつしか、夢の中の己は子供の姿になり。泣きわめいている。

 

 どれぐらい経ったのか、火は消え半分以上が焼かれ大半の村人が殺された村が残った。遺された者で村を畑を耕し、生きねばならない。

 

 

 日々の糧を得つつ、村長から剣を習い騎士を目指す少年達の姿があった。

 

 生きる為に、仇を取る為に。騎士を目指した。騎士になり大義を掲げ、絶望し。そして大義にすがり、修羅となった。

 

 後には何が残ったのか。何を遺せたのか…。

 

 

 

■■■■

 

 

「悪夢、だ。最悪の。」

 

 気が付いたら朝だった。カーテンの閉まった窓からは朝の光が入ってきている。恐らくはまだ早朝。

 

「忘れた事なンて、一度も無え。だが…見たくない。見たくねぇンだよ…。」

 

 顔をしかめ、大きな溜息を吐いたガフガリオン。

 爽やかな朝には似合わぬ最低な目覚め。

 

 腹の虫が鳴いたようだ。

 

「腹減ったな。まだ朝飯には早いか。まあいいか。」

 

 ベッドから起き上がり白のローブに着替え、テーブルに置いてあるベルを鳴らした。一分程度でノックの音がし、入室許可を出しドアが開いた。

 

 昨晩の女性と違い、三十代半ばの恰幅のいい婦人が立っていた。挨拶もそこそこに朝食を頼むと婦人は退室した。

 

 

「さぁて、何が出て来るンだかな。」

 気持ちを切り換えて、まだ見ぬ朝食に思いを馳せるガフガリオン。

 

「流石に朝から重いのは来ないだろうが、こんなに豊かな国なんだ。昨日のツマミも質が良かったし、こいつぁ楽しみだぜ。」

 

 ただ飯だしな。と笑うガフガリオン。

 

 ノックの音がし、台車を押して婦人が入室してきた。

 

 

 まだ盛り付けている途中だが、思わず生唾を飲み込んだ。

 

 焼きたてのパンの香ばしくも甘い匂いが漂い、厚切りベーコンを表面に焦げ目を付けつつも流れ出た脂と肉汁が食欲を誘う。スクランブルエッグからは芳醇なバターの香りが漂い付け合わせの野菜は、まあいいか。

 紅茶の銘柄なンて知らんが高そうだなと。

 

「(おいおい、朝から豪勢だな。白パンなんてそうそう食えンぞ。こいつぁすげえな。)」

 

 バスケットには清潔な布が敷かれ、焼きたてのパンがいくつも入っておりテーブルに並べられたパンは横に切られ真っ白な断面が見えていた。

 白パンを食べられるのは貴族や金持ち位であり、焼きたての白パンを食べるなど庶民には出来ない贅沢であった。

 

「(ベーコンもバターも蜂蜜も。こんな物食えるなンてな。)」

 

 手際良く並べられていき、ナイフやフォークが用意されていく。

 

「こっちの作法なんて詳しくは知らンが。」

 

 目の前に準備された朝食を見て、貴族の食卓ってのはこんな感じだろうかと思いつつ緊張しつつ口を開く。

 

「ガフガリオン様は遠方の外国の方と伺っております。公式の場でも有りませんし硬くならず気楽にお召しいただければ良いですよ。」

 

 給仕の婦人はにこやかに言った。

 

 では、といい少々緊張ぎみに食事を始めたガフガリオン。

 

 パンをちぎり、口に運ぶ。今まで俺達が食っていたのはなんだったんだろうな…。お貴族様はこんな物を食ってたンかね。もっとも国境近くじゃ領主も芋と豆ばっかり食ってるって聞いてたがな。

 

 旨い、ただ一口食べただけで違う。旨いけど、なんだろうなこう。俺達は食えない物も無理やり食って戦って来て飢え死にしてる中で、貴族達はこんな物食ってたンだろうかと思うと複雑だ。

 

 色々と考えつつも、口と手は止まらない。輪切りになったバゲットを取り蜂蜜をたっぷり塗り食べる、スクランブルエッグを食べては「旨い旨い」と呟きつつベーコンをフォークで取り食べる。噛み締めると肉の旨味と適度な塩気で更に食が進む。パンもベーコンも多めに用意されていたが、瞬く間に胃へ消えていく。

 

「はぁー、食った食った。旨かったぞ。」

 

 食べ終わる頃にはもう余計な事は考えていなかった。ただただ、旨い。それだけだった。

 

「ふふ、ずいぶん健啖家でいらっしゃいますね。いい食べっぷりで見ていて嬉しいです。」

 

 朝からこんなに食うつもりじゃ無かったンだがな。

 

「なぁに、こンなに旨い物を出されりゃ食わなきゃ損ってもンだ。」

 

 紅茶のお代わりを貰い一息ついた。

 

 ああ、満たされる。

 

 今は旨い物を食ってる時が一番幸せだ。

 

 死んだ事は、残念と言うか無念と言うかだが。そのおかげでこんな旨い物が食えたンだ。あっちじゃ死ぬまでにこんな豪勢な朝食なんて食えないだろうしな。

 

 なるようになる。もうどうにもならン。

 

 朝食が終わり、片付けが進む中ノックの音が聞こえ入って貰うと。昨日の案内の女性が来ていた。今日は昼から続きだがその前はどうするンだろうな。

 

「おはようございます、ガフガリオン様。改めまして、本日の案内を務めさせていただくミシェルと申します。よろしくお願いします。」

 

 そういえば名前を聞いて無かったか。

 

「今日はこれからどうするンだ。会談の続きは昼からだって聞いてるが。」

 

「帝国に関する質疑応答と帝国に於ける著名な人物の紹介等でしょうか。似顔絵と各人の肩書き等最低限を覚えていただかないと不都合が出るでしょうし。」

 

「なるほど、片付けが終わったら始めてくれるか?」

 

「かしこまりました。」

 

 

 

 

 片付けが終わり、ミシェルはテーブルに何枚かの精巧な似顔絵を置いていった。

 

「では始めに、我が国の皇帝からいきます。」

 

 ざっくりだが、十五で即位し血族を悉く粛正し、鮮血帝と呼ばれる少年王。その聡明さで次々と改革を進め、僅か二年で帝都は様変わりした。

今は十七になり今は更に改革に力を入れ、帝国の国力を伸ばしている帝国史上最高の皇帝だ。との事。

 

 力有る指導者に率いられていると言うのが羨ましい。戦場でこそ無いが、自らが先陣に立ち改革を推し進める才覚を持った若き皇帝、か。

 何でイヴァリースは…ああ、やめだ。イヴァリースの事は今はいい。

 似顔絵を見ると、幼さを残しつつも整い過ぎたとも言える程の美形だ。噂に聞くエルムドア侯爵とかがこんな感じらしいが。まあ、いい。若くて顔が良くて頭も回る、力有る指導者ってことか。

 

「次はパラダイン様ですが、不要ですよね?飛ばします。」

 

 あっさりとあの爺を飛ばしたな。実際、会ってるしいいな。

 

「続いて、陛下の護衛を務める四騎士についてです。騎士としては帝国最強ですが、はっきり言ってパラダイン様の方が強いです。」

 

 微妙な紹介だな、魔法省としての立ち位置も有るだろうし触れないでおこう。

 

 バジウッド・ペシュメル通称は雷光。雷神シドに似た通称だがどの程度の腕なのやら。髭面の目付きの鋭い男が描かれている。

 

 ニンブル・アーク・デイル・アノックで通称は激風。なんと言うか、子供向けの物語に出るような優男風な騎士だ。

 

 ナザミ・エネック通称は不動。なんでかコイツだけ似顔絵が無い。聞くと頑なに顔を見せず描けないらしい、意味が分からン。どうでもいい。

 

 レイナース・ロックブルズ通称は重爆。顔の半分を髪で隠した大層な美人だ。騎士と言うよりも貴族の令嬢のようだ、と言うと実際に貴族の出らしい。

 

 アグリアスといい、貴族の令嬢のはずなのに何で剣何て握ってンだかな。名前と顔は覚えたが流石に得物までは教えてくれなかった。

 

 後は宰相やら騎士団長やら続いた。ミシェル曰くこちらは直接やり取りすることもあまり無いから重要では無いらしい。基本的に用が有ればミシェルを通し、その他要人相手はフールーダーが折衝すると通達したそうだ。

 

 楽で良いが、反面自由も無いな。まあ仕方ないか。まだ時間は有るな。質疑応答なぁ…。

 

「まだ時間は有るがどうする?あと俺の事はどこまで聞かされている?」

 

「私はパラダイン様より卿の専属に任命されました。今、パラダイン様が掴んでいる事全てです。」

 

「全てか。異邦人である事も?」

 

「はい、全てです。今日から当面の間は常に卿と行動を共にします。案内や伝令、その他色々。全てです。用が有れば言ってください。」

 

 少し顔を赤らめミシェルは言う。

 

「その、大した用が無くても良いですよ。お暇な時もずっとお側に居ますから。」

 

 何で顔を赤らめ…おいまさか。

 

「まさか、風呂とかもか?」

 

「はい、お背中をお流しします。え、その他もです。」

 

 言いながら顔を赤らめている。

 

「(おい、爺。お前何言いやがった。)」

 

 ここに居ないフールーダーに悪態をつくガフガリオン。

 

「流石に風呂とかは「ダメです、私の仕事ですから、それに…」いいから」

 

 ミシェルが遮ったが最後の方は聞こえなかった。

 

「それに、なンだ?聞こえなかったンだが。」

 

「えーっとその。あの。私、強い人が好きなんです、だからえー。その。」

 

 ガフガリオンは心底疲れて溜息を吐いた。

 

「分かった分かった。背中だけだ、それでいい。無理すンな。仕事の範囲越えてるだろ。」

 

「はい…すみません。でも、私はいやいやとかじゃ無いです。だから前も「いいから」はい…。」

 

 小声で残念です。とか聞こえたが、ガフガリオンは聞こえないふりをした。

 

「まだ時間が余ってるな。じゃあ、ミシェルお前の事を聞かせてくれ。」

 

「(昼飯食ってその後か。)」

 

「はい!、私は…」

 

 

 

■■■■

 

 

時は遡り、朝8時程。場所は皇城、玉座の前。

 

 皇帝ジルクニフは気持ち悪いくらい上機嫌なフールーダーを前に、聞くか聞かぬか迷っていた。

 

「(どう考えても面倒事だ。じいがこんなに上機嫌とか見た事無いぞ、また頭痛の種が増えるんじゃ無いだろうな?)」

 

 意を決してジルクニフは聞く事にした。

 

「フールーダー、聞きたい事がある。昨夜騎士団を動員して人探しをしていたそうだな。そいつはフールーダーにとって、なんだ?帝国に有用か?」

 

 待ってました、ばかりに満面の笑みで頷くフールーダーを見てジルクニフは頭を抱えたくなった。

 

「有用か?とな。もちろん有用だ。私が待ちに待った人物で、今この帝国に必要な人物であるのは私が保証する。」

 

「フールーダー、上機嫌なのもその男絡みか?」

 

「(ヤバイぞヤバイぞ、嫌な予感がする。有用かも知れないが絶対に厄介ごとだ。)」

 

「左様。彼は私と同等の魔力を持ち、デュラハンを瞬く間に屠る騎士でもある。あれほどの人物は十三英雄以来と言っても良いでしょう。まずはコレを見て欲しい。」

 

 ガフガリオンとデュラハンの戦いの一部始終。

 

「フールーダー、彼に会わせろ。早急に。」

 

「(これを引き入れる為なら、騎士団の私用での動員も認めても問題無い。苦情はなんとかしよう。)」

 

「陛下、午後より彼との会談の続きを行う。その際、四騎士より重爆を模擬戦の相手としてお借りしたい。」

 

 チラリと後方のレイナースを一瞥し頷く。

 

「構わないがレイナースだけで良いのか?ナザミも居た方が良いんじゃないか?」

 

「ふむ、とりあえず重爆だけで良いと思う。重爆との対戦によっては四騎士全員でやった方が良いかも知れんが。」

 

 「全員か、全員はなぁ。まあいい、見てから判断しよう。」

 渋い顔をしつつも許可を出すジルクニフ。

 

「場所は訓練場を予定しています。彼には各種魔法の実演とアビリティと言う武技のような物を実演してもらう予定です。他にも何人か騎士を借りたい。」

 

 聞きながら随時許可を出していくジルクニフ。

 

「(身元不明の強者など、やっぱり厄介事じゃないか。だが、戦力が欲しいのは事実だ。手に負え無ければじいに任せよう。じいなら何とかするだろうしな。)」

 

 不安を覚えつつもフールーダーには全幅の信頼を寄せている。騎士達より強くても、きっとフールーダーならなんとかなる。多少投げやりであるが、フールーダーに勝る者などそうそう居ないだろうと思い安心した。

 

「さて、それでは私は午後からの準備に入るのでこれで失礼します。」

 

 フールーダーはそう言い退室した。ジルクニフはレイナースを見て言った。

 

「レイナース、実力もだが人柄の方も頼むぞ。もし、帝国に仇なす人物であればフールーダーが何を言っても構わん。始末しろ。お前だけでダメなら全員で掛かれ、後詰めも支度させておく。」

 

「戦力は欲しいが、怪しければ排除だ。まだまだ帝国は改革途中だ、火種は即座に消さねばならん。欲をかいて燃え拡がってからでは遅いからな。レイナース一時的にここを離れて構わん、万全の用意をして事に望め。」

 

「御意。」

 

 レイナースが退室するのを見送り、他の三人に向くジルクニフ。

 

「お前達、よく覚えておくといい。余はフールーダーの笑顔が何よりも恐ろしい、上機嫌な時は大抵無理難題を吹っ掛けてくる。お前達も見掛けたら注意しろ。そして見掛けたらすぐに教えてくれ、大至急でだ。」

 

 疲れた様に言うジルクニフ。フールーダーの言う良い事は、大抵の人間にとっては意味不明か頭痛の種である事が多かった。

 

「はぁ、今から憂鬱だ。朝から何て問題を持ち込むんだ…」

 

 一日は始まったばかり、今日悩みが尽きぬ若き皇帝であった。

 

 

 

 




ミシェル「強い男 強い男 強い男 強い男。」

憂鬱なのは、休みが長過ぎるせいだ。もっと仕事を。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。