勝てぬと諦めて帰れたら、どんなに良いか…。
戦う前から気持ちで負けている、騎士としてそんな心境で良いわけは無い。先程の蹂躙を思い、一歩間違えば死ぬ。この国に蘇生魔法の使い手は居ない。
まだまだやりたい事、叶えたい夢がある。呪いを解く方法はきっとある。だからこんな所で死ねない。
生き残る為に、全力で戦い。この場を切り抜ける。気持ちを切り替え、決意したレイナース。
「両者準備は良いな?」
緊張はもう無い、自然体で立つ。
「(能力向上、能力超向上)」
もう、手段は選ばない。今を生き延びられれば良い。
「始め!」
開始と同時にレイナースはガフガリオンを中心に円を描き左に回り込もうと
ガフガリオンが対応して向く前に後ろになんとか回り込めた。
「(鎧の隙間を穿てば、きっと。)」
自身の最速で突きを槍を突き出す。研ぎ澄まされた精神は常の限界を越えた。
だがしかし、無情にも暗黒の騎士は身体を反らし容易く避けた。突きを放ち無防備な身体を晒した隙を見逃すほど甘い男ではない。
反らした身体を傾け、肩からそのまま体当たりを仕掛けた。
槍を戻す余裕は無い、刹那の間に思考は加速する。このままでは体当たりで吹き飛ぶのは明白。
「(ならば飛ぶまで。)」
直撃する前に槍を放棄し、少しでも衝撃を逃がす為に自ら後方に飛ぶ。
自身へと加えられる凄まじい衝撃に、苦悶の声を上げたくなる。しかしそれをする吐息すらも惜しい。
全身金属鎧を着込んだ女を容易く吹き飛せる男は何を思ったか。今まさに飛び行く女の足を掴み自身へ引き寄せる。急激に逆に力が掛かり女は激痛にその整った人形の様な美貌を歪ませ、苦悶の声を上げてしまった。
「ああっっがああ。」
引き寄せられた挙げ句、逆側へ投げ飛ばされ地面をバウンドし転がっていく。
「(右足の感覚が無い、私の足はついているか?)」
思わず疑問を抱く、だが同時に行動を起こす。帝国で手に入る最高峰のポーション、その1本を飲み干した。まだ痛みは残る、だが感覚は戻り直ぐ様立ち上がる。双方の距離は7m、だがそれは一瞬で埋まる距離に過ぎない。
「(やれる事は…)」
槍無き今、武装は腰に提げた
いや、そうか?本当に武技しか無いのか?
死ぬ行く
死ぬ行く末期の最後の力を振り絞り、己が命を魂を捧げ自らを殺す者を苦しめ続ける練獄の呪い。
己の身の内には
ならばそれも己の力。それに気付くまでの時間は一瞬に満たなかった。
見知らぬ
兜の内に紅く血走った眼が見開かれ、業により闇の力を引き寄せた。
劔を抜き放ち、命有る者を呪う言葉を紡ぐ。
「邪悪なる波動よ、我が命を糧にその力を示せ!」
「イービルデッド!」
自身の魂までを喰らわんとする闇の力は、容赦なく、レイナースの体力を奪う。闇に呑まれ意識を喪えば、死ぬと確信した。死ねない、死ぬ訳にはいかない。自身の中の怪物を理解し制した。
放たれた闇の波動。受け止める者もまた闇の騎士。魂を蝕もうとする激痛を感じ、初めて苦悶の声を上げた。自身の業と近しいも遠い業。なれども怨霊の怨嗟は体力を奪っていった。
倒れ伏す事なくとも、想定していなかった痛みに冷や汗を流す。老いても現役として戦い抜いた勘が警鐘を鳴らす。
眼前の若き女騎士は、危険であると。先程とは比べ物にならない存在へと昇華してしまったと。
油断も侮りも、しては為らぬ。
己の命を食い潰すかのように剣を振るい斬り込んだ若き暗黒騎士を、自身の若き頃と重ね苦虫を噛む。力に振り回されては命を落とす。
戦闘不能ではない、魂を食い潰され滅ぶと。
二人の闇の騎士は斬り結ぶ。うら若き乙女と老兵、立ち位置は違えど同じ闇の騎士。闇を見つめ受け入れる者、諦め闇を受け入れた者。
拮抗は長くは続か無かった。負傷を精神で抑え付けた女騎士は突如、糸の切れた人形の様に力尽きた。
浅く呼吸し、瞳孔は開き死を間近に感じる。
薄れ行く意識の中で女騎士は思う。ここで潰えるのは無念であると。だが自身の全力を受け止めた強い男の胸の中で逝くならば、それも悪くはないと。