実に下らない話だが、神はダイスを振るらしい   作:ピクト人
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 またまた投稿が遅れてしまって申し訳ありません。今回は体調不良とかそういうのではなく、単なるスランプです。100字程度を書くのに数日かかるってもうね……。


善と悪、正道と外道。相反する友を思う第十四話

 

 蒼穹に薄雲の広く煙るは天の高きを風が翔る証か。人の手の届くはずもない遠く遥かなものは、頭上に常に在る。如何に懸命に手を伸ばそうと、所詮は地を往く人の健気に過ぎない。されど人は征くのだ。人の誇りは人の世にしかあり得ないのだから……などと思いもしないことを詩に詠いつつ、私は岩の上に寝そべって空を見上げる。柄でもない哲学に思考を遊ばせるのは、偏に暇だからである。

 

 

 爆弾魔並びにハメ組から奪ったカードを獲得した私は、その一事で以てグリードアイランドのトップランカーに躍り出た。突如として「名簿(リスト)」から消え失せたハメ組と私との関連性を疑わぬ者はおらず、すぐさま街で出会ったことのある幾人かから「交信(コンタクト)」が寄せられた。それは事実確認であったり、諸々の手順を飛ばしての交換交渉だったりと先方の用件は様々だったが、私はその全てを跳ね除けた。当然である。ゲームクリアへの道順を知っているのに、何故わざわざ誰とも知れぬ者たちと手を組まなければならないのか。

 

 そうすると必然、次なる交渉は腕尽くとなる。一夜にしてハメ組という一大勢力を滅ぼした私を恐れもせぬ自称強者たちが大挙して押し寄せてきたのである。然もありなん、ハメ組は数は多いが一人一人の実力は然程のものでもない。要は舐められていたのである。厄介ではあるが実力勝負となれば如何ほどでもない、それがプレイヤー間におけるハメ組の共通認識であったのだ。

 詰まるところ、そんな数を恃みにするハメ組を殲滅した私はただの幸運者だと思われていたのである。如何なる理由か一堂に会していたハメ組を奇襲する機会に恵まれただけのラッキーガール。ならば今度は我らがその幸運な小娘を打倒し、所有するカードをせしめてくれようと───夏の羽虫が火に焚べられにやってきたのだ。死ねば消滅するはずのカードを余さず強奪し、その上で一人として逃がさず殺害した……殺害できたという、その意味を知ろうともしないで。

 

 まさに鴨が葱を背負って来たようなもの。中途半端に知恵が回り、中途半端に腕が立つ彼らはG・Iの中位プレイヤーだ。仮にも幻影旅団を相手取った私の敵ではなく、再びゴンたちと距離を置いていた私は彼らを再起不能なまでに痛めつけ追い返した。流石にこれ以上死者を増やすと問題が出るので半殺しで済ませておいた私ってば優しい!しかしカードは容赦なく供出させたので、残るレアカードは「一坪の海岸線」や「一坪の密林」ぐらいとなった。

 

 これが私の策。私自身が誘蛾灯となることでプレイヤーを誘き寄せ、そしてカードを頂戴する。「交信(コンタクト)」してきたプレイヤーたちの口振りから舐められていると悟ったことで思いついた、名付けて「"飛んで火にいる夏の虫"作戦」である。そのためには貴重な指定カードを全て私一人が持つという危険を冒さなければならなかったが、しかしそれは私に限っては危険足り得ない。何故なら、私にはオールドレインというチートがあるからだ。

 どれだけ魔法のように見せ掛けていても、G・Iの呪文(スペル)は歴とした念能力の産物である。ならば、メルトリリスたる私にドレインできない道理はない。「追跡(トレース)」も「密着(アドヒージョン)」も、「窃盗(スティール)」や「強奪(ロブ)」でさえ、効力を発揮する前にただのオーラとして吸収してしまえる私の脅威ではなかった。

 

 斯くしてただ邪魔なだけの中位プレイヤーは多くが事実上の退場となり、ツェズゲラ組などの短慮に走らぬ上位プレイヤーのみが残った(一部の上位プレイヤーものこのことやってきて退場となったのは考慮しないものとする)。ゲンスルー組がいないこと以外は概ね原作通りであると言えよう。そして私がゴン組withヒソカと手を組んでいることを知らないプレイヤーたちは、私というダークホースのみを警戒することだろう。その間にマークされていないゴンたちは特訓を続けられるという寸法だ。

 

 ……そして無論のこと、こうして再び別行動をするにあたってゴンたちに事情は説明してある。爆弾魔とハメ組からカードを奪ったことと、奪ったカードを囮に寄ってくるプレイヤーを相手取ることをだ。

 「殺して奪った」とは言っていない。直接的な発言は敢えて避けたが、しかしそれで騙されるほどゴンは馬鹿ではない。私の言葉尻から、間違いなく私が何かしらの凶行に及んだことは察したことだろう。

 意外にもビスケットはこれといった反応を示さなかった。彼女のポーカーフェイスから思考を読み取るのは至難の業である。残念ながら私では彼女の胸の内を知ることはできなかった。

 キルアはもっと反応を見せなかった。「ふーん、やるじゃん」の一言で終了である。彼にとってはハメ組の生き死になどどうでもよく、ただゲームクリアに近付いたという結果にのみ喜んでいた。流石は元暗殺者、実にドライである。

 ヒソカはただニタニタと笑っていた。コイツについては心底どうでもいいので割愛する。

 

 ゴンは何かを察したかのようにハッと顔を引き攣らせ、そして悔し気に俯いた。

 ゴンは敬愛する父が作ったG・Iで殺し合いが横行する現状を憂いていた。そんな中で私が事に及んだことにショックを受けたのかと思いきや、どうもそうではなさそうだった。悲しさと悔しさ、そして僅かな怒り。それらが綯い交ぜになった複雑な感情の矛先は私ではなく、自分自身に向けられていたのだ。

 

 その顔を覚えている。その表情は、天空闘技場でヒソカに敗北した時のそれと同じものだ。己の力不足を悔やみ、それでも諦めず前を向く男の顔。

 そしてゴンは私の顔を見上げ、「オレ、強くなるから」と言い放ったのである。

 

「……またぞろ自分を責めてでもいたのかしら。自分の力不足を他人の所為にしないのはゴンの美点だけど、そもそも何を以て力不足と感じたのかしらね」

 

 もしや、私が凶行に及んでまでカードを集めてきたのを自分の力不足とでも思ったのだろうか。自分が弱いばかりに他人の手を汚させてしまった、とか。

 だとしたら見当違いも甚だしい。私が爆弾魔やハメ組を手に掛けたのは徹頭徹尾自分のためであり、誰かのためなどという殊勝な考えは皆無である。そもそも私の狙いは初めから彼らの経験値と能力であり、カードの回収は二の次であった。場合によってはカードを諦めてでも彼らを殺しドレインしていただろう。つまり私の凶行と彼らの死は必然であり、避けられないことだったのだ。

 

 ───出会った時から分かっていたことではあるが。はっきり言って、私は主人公(ゴン)の友人として相応しくない。

 

 私は人殺しである。相手が賞金首とは言え、手に掛けてきた数が数だ。少々度が過ぎている。恐らく数だけならキルアよりも上だろう。ハンターとして罪に問われるようなことはしていないが、しかし人倫に悖る行為を繰り返してきたことに違いはない。なまじ一般人を手に掛けていないだけたちが悪いと言えるだろう。

 私は自己愛の塊である。一番大事なのは自分自身であり、他人のために己の命を懸けられるような善性とは無縁である。自分に危険が及ばない範囲でなら多少の親切はしてやれるが、それは偽善ですらない自己満足に過ぎない。

 

 人の命の健やかなるを慈しむことが人生の正道だとするならば、私は外道であった。私は人の命を切り崩し、刈り取ることを以て己の人生を生きている───楽しんでいる。他人の命を溶かし奪うことに罪悪感を覚えていたのは最初の内だけだ。ドレインを繰り返すこと数百回。今ではもう何の感慨も抱くことはない。むしろ、目に見えてオーラや能力が上昇していくことに微かな悦びすら抱いている。これを邪悪と呼ばずして何と言う。

 そんな邪悪()がゴンと肩を並べているという違和感。原作主人公というものを神聖視するわけではないが、しかし彼の純粋さを見るにつけ思うのだ。ここは私のいるべき場所ではないと。

 

 例えばクロロ=ルシルフル、そしてヒソカ=モロウ……この二人は紛うことなき悪人筆頭、今まで私が見てきた中でも最たるものだ。彼らは息をするように他者を殺め、そしてそこには些かの呵責もない。悪人である己を偽ることなどしない、一本筋の通った「悪」である。

 それに対する私の中途半端さよ。己の欲のために他者の命を食い物にし、尊厳も何もかもを情け容赦なく奪い去る。そしてその一方で、善人の皮を被り何食わぬ顔でゴンたちと接するのだ。浅ましいことこの上ない。そして何より、その振る舞いに何の抵抗も覚えないことに我ながら滑稽さすら覚える。

 

 私はキメラアントとその王の討伐を目的と定め力を蓄えているわけだが、今の私とキメラアントに如何なる違いがあろうか。左手に掴んだ人肉を貪り食らいながら、右手を差し出しゴンたちに友好関係を求める、蟻の姿をした私のイメージが脳内に浮かんだ。まるで滑稽さを前面に押し出した風刺画のような脳内イメージに苦笑する。

 別にそのことを深刻に捉え思い悩んでいるわけではない。メルトリリスの肉体を有し、ジル・ド・レェの魔導書を操る私は端から人間ではないのだから、人間としての善悪だの何だのと、そんなことにかかずらうだけ時間の無駄というものだ。そんな無駄なことを思考するのは、私に残った元一般人としての感覚の残滓がそうさせるのと、思索に耽るだけの時間が有り余っているからだ。二度目だが、要は暇なのである。

 

 よっこらせと身を起こし、強化した視力で数キロ先の景色に目を凝らす。私の視線の先では、ゴンとビスケット、そして私が譲渡した「大天使の息吹」の複製を使って完全回復したヒソカが特訓に励んでいた。

 「大天使の息吹」を使う代わりにゲームクリアと特訓の協力を条件として呑んだヒソカは、意外なほど真摯にゴンに付き合っているようだ。今は「流々舞」という組手を行っている。

 万が一にもゴンたちとの協力関係が露呈しないように距離を開けているので分かりにくいが、ゴンの攻防力移動は以前とは比ぶべくもなく丁寧でスムーズになっていることだろう。それだけ鬼気迫る勢いで修行に取り組んでいる。現在キルアはハンター試験を受けるため一時的にG・Iを去っているが、キルア不在の間にも修行のペースを落とすことはしていないらしい。

 

 暫くそうやってゴンの修行風景を眺めていると、キイイイィィィン……と甲高い音が接近してくるのに気が付く。それがここ数日の間にすっかり聞き慣れた「同行(アカンパニー)」による飛翔音だと思い至った私は、服に付いた砂埃を手で払い除けながら立ち上がった。

 ザッ!と砂塵を巻き上げながら降り立った人影は三人。その内一人は見覚えがある。つい先日「同行(アカンパニー)」で数人の仲間と共に襲撃をかけてきたプレイヤーの内の一人だ。二度と変な気を起こさないよう、両腕を圧し折って追い返したのを覚えている。

 しかし、どうも私が負わせたものではない別の傷を幾つもこさえているようで、身体中ボロボロな上に顔面を痛々しく腫らしている。両腕が折れているという特徴がなければ誰だか分からなかったであろうほど、その顔は原形を留めていない。凄惨な暴行が行われたことは明白であった。

 

「い、言われた通り連れてきてやった!もういいだろう!?俺はこの女に『次会ったら殺す』って脅されてんだぞ!」

 

「好きにしろ」

 

 両腕を骨折している男は四苦八苦しながら「再来(リターン)」のカードを取り出すと、脇目も振らずこの場から去っていった。

 残った二人の男は既に戦闘態勢であり、無言で剣呑な視線を向けてくる。私はそれぞれの額に彫られた刺青から二人の正体をおおよそ察したが、念のためにと誰何の声を投げ掛けた。

 

「一応聞いておくけど、どちら様?」

 

「……ゲンスルーを殺したのはお前か?」

 

「質問に質問で返すな、と言いたいところだけど……さて、さて。ゲンスルーねぇ、生憎だけど覚えがないわ」

 

 肩口まで伸ばされた黒髪の男の問いにすっとぼけたように返すと、赤髪を毬栗のように逆立たせた男が苛立ちも露わに唸り一歩を踏み出した。

 

「手前ェ……!」

 

「落ち着け、サブ!……質問を変えよう、ニッケス組を全滅させたのがお前だというのは本当か?カオル=フジワラ」

 

 やはり、と私は確信を深める。この二人はゲンスルー組三人の内の二人、サブとバラだろう。原作ではゲンスルーが仕掛けた"命の音(カウントダウン)"を即時爆破するための補助を担っていた念能力者だ。

 そして今、黒髪の男は赤髪の男をサブと呼んだ。ならば、比較的冷静な黒髪の男はバラで間違いあるまい。サブとバラ、この二人の目的は一目瞭然……即ち、ゲンスルーの仇討ちだろう。ゲンスルーの協力者である彼らは当然ハメ組を裏切る日取りも聞かされていただろうし、その日にハメ組諸共ゲンスルーが消息不明になったとすれば、真っ先に疑われるのはハメ組を全滅させカードを奪った私であろうことは想像に難くない。

 

 ご名答。君たちの仲間を殺したのは、紛れもなくこの私である。

 

「ええ、そうよ。あの日、洞窟に集合していたハメ組……いえ、ニッケス組を襲撃してカードを奪ったのはこの私」

 

「その中に、サングラスを掛けた男はいたか?金髪で、面長の背が高い奴だ」

 

「ああ、それならよく覚えているわ。何せ───」

 

 ───一番最初に殺したのが、その男だったのだから。そう告げた直後、憤怒の表情で殴り掛かってきたサブの拳を往なし、がら空きとなった胴を蹴り飛ばした。

 

「ガッ!」

 

「サブ!……チッ、やはりテメエがゲンスルーの仇で間違いねぇみたいだなァ!」

 

 怒りの感情を押し隠し、努めて冷静であろうとしていたバラ。しかし私が正真正銘ゲンスルーの仇であると判明した今、バラはその怒りを隠すことなくオーラと共に放出した。

 高まっていくサブとバラのオーラ。流石ゲンスルーの仲間だけあって、そのオーラ量はかなりのものだ。原作ではそれぞれキルアとビスケにあっさりと打倒されていたが、それでも強力な念能力者であることに違いはない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()。私は舌なめずりをすると、"秘密の花園(シークレット・ガーデン)"を解いて鋼の脚を露わにさせた。

 

「丁度いいわ、爆弾魔の能力改良に手古摺っていたところだったのよ。アナタたちにはその手伝いをしてもらいましょうか!」

 

 ハメ組を躊躇なく惨殺する一方で、ゲンスルー同様とても仲間想いなサブとバラ。彼らの行ってきた所業は悪であれ、その友情はとても美しいものだ。ゲンスルーたちを只の外道と見做せぬ最大の要因である。

 さりとて、それで手を緩めるような殊勝さなど持ち合わせてはいない。彼らは外道でなくとも、私は外道なのだから。

 

 怒りに任せ飛び掛かってくるサブとバラ。その二人を私は笑みすら浮かべて迎え撃った。

 

 悪を滅ぼしたのは善ではなく、より大きな巨悪であった───これは、只それだけの話である。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「はい、そこまで!根を詰めすぎよ、ゴン。少し休憩しなさい」

 

「お、オス!」

 

 かなりの集中力を要求される流々舞を終えたゴンは、肩で息をしながら仰向けに倒れ込んだ。

 一方、組手の相手をしてくれていたヒソカは涼しい顔だ。「大天使の息吹」で完全回復した身体の調子を確認するかのように丁寧に組手を行っていた。

 

 やっぱりレベルが違う、と僅かにかいた汗を拭うヒソカを眺めながらゴンは思う。天空闘技場での敗北からまだ半年程度しか経っていないのだから当然ではあるが、宿敵との力の差は未だ歴然としている。今はまだ、辛うじてヒソカの影を踏めるようになった程度か。その背中は依然遠い。

 

 ……たった半年でヒソカの背に追い縋りかけていることの異常性を理解しないまま悩むこと暫し。ふと日が陰ったことに気が付いたゴンが顔を上げると、今まさに一本のペットボトルが顔面目掛けてすっ飛んでくるところだった。

 

「うわっ……と!」

 

 ギュンギュンと無駄に乱回転するペットボトルを慌ててキャッチするゴン。キンキンに冷えた水が詰まったペットボトルの冷気が掌を通して伝わってくる。

 

「忘れずに水分補給!いくら頑丈な念能力者でも脱水症状によるコンディションの低下は思わぬ事故を生むから、よーく留意しておくこと!」

 

「オス!」

 

 見れば、ビスケットがカード化したペットボトルの水をゲインしている。ゴンは視線で謝意を伝えると、貪るようにして水を流し込んだ。

 疲労し火照った身体に冷たい水が心地良い。渇きを癒し一息ついたゴンの隣に、よっこらせとビスケットが座り込んだ。

 

「随分と頑張るわねぇ。アンタは最初から熱心に修行に取り組んでたけど、ここ最近は特に。鬼気迫ると言うか何と言うか……」

 

「負けられない相手がすぐ傍にいるからね!気合も入るよ」

 

 そう言うゴンの視線の先にいるのは、身体を捻って無駄にセクシーなポーズをとる───恐らく身体の調子を確かめているのだろう。多分、きっと───ヒソカの姿があった。性格とファッションセンスにさえ目を瞑れば色気溢れるイイ男であるヒソカの艶姿に視線を吸い寄せられそうになるのをグッと堪え、ビスケットは以前から気になっていた疑問をゴンに投げ掛けた。

 

「ゴン、アンタはカオルのことをどう思ってるの?」

 

「カオル?もちろん友達だよ!」

 

「あー……言い方を変えるわ。アンタは、カオルをどういう人間だと思っているの?」

 

「…………」

 

 以前からの疑問。それはゴンと並べて比較すればするほど浮き彫りになる、カオルという少女の異常性だった。

 

 ビスケットのもう一人の教え子であるキルア、彼もまた闇の住人だ。経験豊富なビスケットからすれば、身のこなしや雰囲気から裏社会の闇の気配を見出すのは容易いことだった。

 しかし、カオルのそれはまた別種のものだ。血の匂いがするという点ではキルアと同じだが、その性質が異なる。強いて言うならばヒソカが近いか。ビスケットは、正気を装う狂人の気配をカオルから感じ取っていた。

 

 加えて、選考会でも感じ取った莫大なオーラ量だ。ハッキリ言ってオーラ量だけならば、ビスケットが知る中でも最強の念能力者、アイザック=ネテロをも凌駕していると確信している。それほどの規格外だった。

 念能力者の実力を語る上で、オーラ量の多寡は数ある物差しの一つに過ぎない。しかしあれほど極まっていれば話は別だ。オーラ量という一点のみであらゆる念能力者たちを抜き去り凌駕し得る、そんな異常性をカオルという少女は秘めているのだ。

 例えば、普通の念能力者は全身の攻防力50の状態である"堅"を基本とし、状況に応じて攻撃部位の攻防力70・全体の攻防力30……というようにオーラを割り振り戦闘を行う。ところがカオルはというとオーラの総量そのものが常軌を逸しているので、極論、攻撃部位200・全体100の攻防力で戦うなどという馬鹿げた行いが可能となってしまうのだ。

 

 その異常な力……それをゴンが持っているのならまだ安心できた。しかし、その力の持ち主はカオルという───恐らくは少なくないG・Iプレイヤーを殺害したであろう精神破綻者だ。警戒するな、などと言うのはどだい無理な相談である。

 そして、そんなカオルとゴンは友人同士であるという。ゴンはともかく、カオルという少女は一体何を思ってゴンとキルアに近付いたのか。何か企みがあるのでは……と勘繰ってしまうのも無理からぬことであった。

 

「アンタは気付いていないかもしれないけど、カオルは危険な人物よ。ヒソカや以前会ったビノールトほどあからさまではないけれど、恐らくは───」

 

「……分かってるよ、ビスケ。オレだって気付いてるさ。カオルが人殺しだってことは」

 

 え、と目を見開くビスケット。ゴンは空になったペットボトルを置き、別行動中のカオルがいるであろう方向……肉眼では捉えられないほど遠方の岩場に視線を向けた。

 

「オレ、結構鼻が利くんだ。だからハンター試験中の飛行船の中でキルアがさせていたのと同じ匂い……血の匂いをカオルがさせているのを何度か感じたよ」

 

 ゴンが言うそれは、荒事に慣れた人物、人殺しの経験が多い人物が纏う剣呑な気配や雰囲気を評するのに用いる「血の匂い」ではなく……純然たる血液の匂い、饐えた鉄錆にも似た「血の匂い」であった。

 ゴンは、カオルの本性が決して善人なだけではないと気付いていた。気付いていながら、しかしゴンは変わらず主張し続ける。依然変わりなく、カオルは大切な友達であると。

 

「キルアは人殺しだけど、オレの初めての友達だよ。既に暗殺稼業から足を洗おうとしているから、じゃない。()()()()()()、キルアは大切な友達なんだ!

 カオルも人殺しだけど、同じだよ。友達になったのは試験中の偶然の出会いだったけど、あんなに強いのにまだ全然弱かったオレたちを気に掛けてくれたんだ。天空闘技場では強くなりたかったオレのために、ウイング先生と一緒にオレとキルアを鍛えてくれもした」

 

 ゴンからすれば、カオルは大切な"友達"の一人であり……そして師匠のように自分たちを先導してくれる、頼りになる"先輩"のような存在であった。

 

「キルアもカオルも同じ人殺しだけど、大切なオレの友達。でも人殺しの仕事から離れようとしているキルアと違って、カオルは今も殺人を厭わない賞金首ハンター。だから───」

 

 ───オレは強くなる。もしカオルが道を踏み外しそうになったら、それを止めてあげられるだけの力が欲しい!

 

 それは、友人を想うゴンの純粋で高潔な精神の発露だった。その宣言に籠められた熱意に、ビスケットはかつてダイヤモンドと評したゴンの魂の在り様を垣間見た。

 

「友達が間違いを犯そうとしていたら、殴ってでも正道に引き戻す……それが本当の友達、親友なんでしょ?」

 

 レオリオがそう言ってたんだ!と屈託なく笑うゴンを見て、ビスケットも思わず釣られて笑う。そして納得した。闇の住人であるキルアが、ああもゴンを慕う理由が。遍く闇を照らす光、それがゴンの持つ意志の輝きだ。

 あのカオルが己の異常性を隠してまでゴンと接するのは、あるいはキルアと同じ理由かもしれない。そう思ってしまうほど、ゴンは人を惹きつける天性の魅力を備えているようにビスケットには感じられた。

 

 良いハンターは自ずと人を惹きつける。思えば、あのネテロ会長も十二支んを筆頭に多くのハンターたちに慕われていた。あるいは、今はまだ未熟なこの少年も───

 

「───さ、休憩終了!次は"発"の修行だわさ!」

 

「おぶっ!」

 

 バシィンッ!と勢いよくビスケットがゴンの背中を叩く。踏鞴を踏んでよろけるゴンにニッコリと笑いかけ、ビスケットは更なる荒行を提示する。

 

「今から行うのは『石割り』よ!今日の目標は300個、ハイスタート!」

 

「うひゃあ、あれキツイんだよね」

 

 ゴンの系統である強化系の修行、一個の石を用いて計1000個の石を割る「石割り」。"周"と"硬"の維持、そして何より"流"による速やかな攻防力移動が求められるのだ。現在のゴンの最高記録は210個であった。

 

「フフフ、大変でもやらなきゃ強くなれない♠ゴンはカオルを倒せるようになりたいんだろう?」

 

「わ、ヒソカ聞いてたの?」

 

「バッチリとね♥」

 

 音もなくゴンの背後に忍び寄っていたヒソカ。それに驚きつつも、ゴンは口を尖らせてそれに反論する。

 

「オレは別にカオルを倒したいんじゃないよ。もしカオルが目の前で悪いことをしようとしたら、それを止められるように……」

 

「同じことさ♣️カオルはある意味ボクと同じ……絶対的な"暴力"の信奉者なのだから♦」

 

 ゴンたちプロハンターの生きる世界は、とにもかくにも"力"がなければ何も為せぬ厳しい世界だ。その"力"の種類は何でもいいが、"力"無き者はただ屍を晒すのみ……そんな無慈悲な世界に身を置いているのだという自覚を持たなければならない。

 善を謳うのにも、悪を為すのにも。正道を歩むのにも、外道に生きるのにも……何らかの"力"が要るのだと。

 

 そしてカオルは、その"力"に"暴力"を選んだ。この過酷な世界で我を通すため、そして何より生きるため……"暴力"こそが何にも勝る武器となり得るのだと確信しているのだ。

 

「"暴力"に生きる者は、"暴力"でしか制することができない……それが道理というものさ♠ボクに釈迦の有難い説法が意味を成さないのと同じようにね♥」

 

 故に予言しよう、とヒソカは哂う。ゴンが力尽くにでもカオルに正道を歩ませようとするならば───

 

「───キミとカオルは戦うことになるだろう♣️己の主義主張を通すために……"暴力"で以てね♦」

 

 始まりの女(イヴ)に誘惑を囁く(サタン)のように、不気味に目を細めて哂う道化師は少年に毒を告げた。

 その予言に、「そっか」と短く返したゴンは集めた石の一つを手に取り、石割りの修行を開始した。

 

 手にする石に施した"周"と"硬"を維持し、台に置いた石に振り下ろし続けるという強化系の修行。淡々と石を割りつつも、ゴンの耳にはヒソカの言葉が呪いのようにこびりつき、暫くの間離れることはなかった。

 

 




 本当ならとっととドッジボールさせたかったのですが、物語に厚みを持たせるため心情描写に一話を費やすことにしました(悪足掻き)。
 元々短編小説になる予定だったものだから中身が薄くて……ちょいちょい話を追加して肉付けしてやらないと、描写不足甚だしいことこの上ないのですよ。そしたら時間が掛かること掛かること。まだG・I編なのにこの有り様って、そしたらキメラアント編なんてどうなってしまうんでしょうね……。

 定期更新を続けられる他作者様方の偉大さというものを改めて実感しつつ、今回は締め括らせて頂きます。それではまた次回。


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