その時も、君は笑っていた。
君の笑顔を見ているだけで、満足だった。
君は今、どんなふうに生活しているかな?
友達と笑い合っているかな? 辛い思い、してないかな?
あの日のこと、覚えているかな?
ずっと幸せで......いるかな?
僕は決して忘れないよ。
君の声、君の姿。
君と過ごした時間。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
リメイルの「〇〇推しを泣かせるためだけに書いた作品」第1弾です。
いい話だなあ、と思ったらぜひとも感想お願いします。
今回は丸山彩ヒロインのssです。
少し長めですが、どうかお付き合いください。
それでは、どうぞ。
周りを見渡すと、ちらほら桜のつぼみがつき始め、春が感じられるようになってきた頃。
私は色とりどりの花束を持って、一つのお墓の前に来ていた。
「ごめんなさい。今日はみんな用事があって来れなくなっちゃったみたいです」
別に嫌いなわけじゃないですからね?、と苦笑いしつつ、しゃがんで花束を置く。
その無彩色な表面には、ある人物の名前が掘ってある。
『工藤 流一』
決して忘れない、忘れてはいけない。
私に希望をくれた人。
そして、
「.........これからも、見守っててくださいね」
私が初めて好きになった人。
〜~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
聞き慣れたチャイム音。綺麗に並べられた机。
騒がしい生徒の話し声。
放課後、私は荷物をまとめていた。
今日は特に予定もなく、バイトのシフトの日ではないためまっすぐ家に帰ることにした。
カバンを肩にかけ、廊下に出る。
すると、遠くから綺麗なバイオリンの音が聞こえた。
「この音.....音楽室から?」
聞こてきたのは......クラシックの曲だろうか?
弾いているのは一体誰なんだろう?
気になった私は、昇降口に向かいかけていた踵をかえした。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
音楽室の入口は少し開いていた。
きっとそこから音が漏れていたのだろう。
覗いてみると、そこには年上であろう、青い髪のした男性がバイオリンを弾いていた。
しなやかながら、力強い。
その音色は、まるで羽毛に包まれているように、柔らかい。
私にとって、安心できるような音だった。
(..........綺麗.........)
と考えているうちに、曲が終わった。
男性はバイオリンを近くの椅子に置くと、気づいたのかこちらを向いた。
「......おっと、どうしたんだい?」
「え、えっと!綺麗な曲が聞こえてきたので.....その......勝手に覗いてしまって、ごめんなさい!」
きっと集中できなかっただろう。私は謝った。
「別に謝ることはないよ。僕の演奏を聴いてくれたんだ。ありがとう」
しかし男性は、笑顔でそう言った。
「.........そ、そんな!ただ私は勝手に来ただけです!むしろ、邪魔してしまったと....」
「そんなことはないよ.......僕も演奏を聴いてもらうのは久しぶりだからね」
男性は笑顔だった。
しかしその中に、小さく悲しい表情が見えた気がした。
男性は思い出したように、ハッとして、私に向き直った。
「自己紹介がまだだったね。僕は3年の工藤流一。よろしく」
それに慌てて応える。
「わ、私は、2年の丸山彩です!こ、こちらこそよろしくお願いします!」
これが先輩との出会いだった。
───────君の想いに気づけなかった──────
「へー。彩ちゃんはバンドをしてるんだぁ」
「はい!Pastel*Palettesって言うアイドルバンドなんですけど」
気分転換か、はたまた気持ちの成行きか。私は先輩に話していた。
「少し違うけど、夢を叶えられてよかったじゃないか」
「ありがとうございます!......でも実は」
数日前、私たちパスパレは、ファンの人たちにエア演奏であることがバレてしまった。
その結果、しばらくの活動ができなくなってしまった。
それに私は深く落ち込んでいた。
自分の夢が遠ざかってしまったこと、今までの苦労が水の泡になったこと、そして何より───────
ファンの人たちを騙してしまったこと。
「............笑顔にするためにしてきたのに........逆に傷つけてしまった。これじゃあ、アイドルじゃないですよね」
「...............」
俯いている私の話を、先輩は黙って聞いていた。
「..........私なんかが、アイドルになんてっ!」
涙が溢れてくる。
悔しかった。
悲しかった。
苦しかった。
しかし、その気持ちは、頭への感覚で途切れた。
「.........大丈夫だよ」
「............っ!!」
顔を上げると、先輩が私の頭を撫でていた。
「先............輩?」
「君は頑張ったんだろう?頑張って、努力して。結果こうなってしまった。それならそれでいいじゃないか」
先輩の言葉は、生半可なものではない。
しっかりとした..........私を思ってくれている言葉だ。
「1度失敗したなら、もう一度立ち上がればいいんだよ。やってみなよ。ね?」
ただそれだけで、私の中で、不安が消えていった気がした。
「...........はい。ありがとうございます」
私は涙を拭いて、先輩に笑顔を向けた。
「よし。それでこそアイドルだよ」
先輩は私の頭から手をどける。
普段の私なら、少し名残惜しい。と思うかもしれないが、そんなこと、今はよかった。
「さぁて。そろそろ戸締りしないといけないから。荷物持って」
「あ、はい。えっと..........先輩」
「ん?どうしたんだい?」
「今日は、本当にありがとうございました!」
荷物を持って、私は先輩にお礼をした。
「いいんだよ。またなにかあったらいつでもおいで。基本的にここにいるからさ」
「はい!私頑張ります!!ありがとうございました!」
私は頭を下げて、音楽室から出る。
もう一度、チャレンジしてみよう!
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
数日後、私はもう一度音楽室に来ていた。
「雨の中チケットを売るなんて.............随分無茶したねぇ」
「えへへ!でもこれで、ちょっとはパスパレの信頼は取り戻せたんじゃないでしょうか!」
「............そういうことじゃないんだけどな」
今先輩に話している内容は、私が通る人に直接チケットを手売りしていたこと。
途中雨が降ってきて、大変だった。
しかし1人で売っていた私を見て、メンバーのみんなが手伝いに来てくれ、ファンの人たちに熱意を示すことができた。
「そのおかげで、みんなとももっと仲良くなりました」
「それは何よりだよ」
私はふと、先輩の丁寧に拭いているバイオリンが目に入った。
「ところで先輩は、何歳からバイオリンをしてるんですか?」
「んー。小学4年生くらいからかな?両親がプロでさあ。それを見て、僕もやってみたいって思ったんだ。このバイオリンも、父親から貰った物なんだよ」
「そうなんですか」
私は椅子から立ち上がり、近くで見た。
すると、先輩が
「弾いてみるかい?」
「え!そ、そんな......私はただ見ているだけで」
「僕以外の誰かに弾いてもらうのも、このバイオリンにもいい経験だと思うんだ。もちろん、君にもね」
と言って、本体と弓を私に手渡した。
「で、でも私、バイオリンなんて弾いたことなくて」
「大丈夫。僕が教えるから」
「あ、はい!」
そう言って、先輩は私の後ろに立ち、一緒に弾く体制になった。
「ちょ、先輩!?」
「ん?........ああ。ごめん。この方が教えやすいと思ったんだけど.........迷惑だったかな?」
「い、いいえ!そうじゃなくて.........」
さすがにあそこまで近づけば、誰だってこんな反応をしてしまう。
でも、悪い気はしなかった。
(先輩......香水をつけてるわけじゃないのに......いい匂い)
「.....彩ちゃん?」
「....わ!ご、ごめんなさい!」
アイドルらしからぬことを考えてしまい、先輩の声に驚いた。
「別に謝ることはないさ。それじゃあ、続けるね」
「あ......はい」
そう言って、先輩は弓を持っている私の手に、自分の手を重ねた。
その手は、暖かかった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「先輩、あのですね」
先程の出来事で、体が熱くなっていたが、意を決して先輩に話しかけた。
「どうしたんだい?」
「えっと......これを」
そう言って取り出したのは、1枚のチケット。
「今度、私たちのライブがやるので、是非先輩に来て欲しいなって思いまして」
「さっき話してたやつか」
「はい、そうです!」
そう答えると、先輩はチケットを受け取った。
「わかった。絶対行くよ」
「っ!!ありがとうございます!席番号はそれに書いてますからね」
それでは、と私はカバンを持ち、ドアに向かう。
「今日はいい経験になりました。ありがとうございました!」
「うん。気をつけて帰るんだよ?」
「わかってますよ!」
そう言って、私は音楽室から出た。
足音が聞こえなくなったため、椅子に座った。
「ハア、ハア、ハア」
胸が苦しくなる。
呼吸がしづらくなる。
「.......頼む。あの子のライブまで.......持ってくれ!」
この時私は、先輩がこんな状態になっているのを、知る由もなかった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
今日は大雨。
つい、傘を忘れてしまった。
(......どうしよう)
千聖ちゃんたちは帰る時間が違ったため、今はいない。
びしょ濡れで帰るのは確実だろう。
「よし」
意を決して駆け出そうとした瞬間、
「彩ちゃん?」
後ろから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あ。先輩どうも」
「今日はひどい雨だねえ」
工藤先輩が暗い空を見ながらつぶやく。
「........そうですね」
「ところで彩ちゃん。傘でも忘れたのかい?」
バレたぁ!!
少し顔を背けながら思った。
「それなら僕の傘、貸してあげるよ」
「い、いいえ!そんなことしたら先輩に悪いです!」
手をブンブン、と振る。
「でも。女の子を雨に濡らすのは、よろしくないから」
先輩が傘を差し出してくる。
(うぅ.......)
先輩の優しさが潔く受けるのもいい。でもやっぱり先輩にも悪い。
そのため私はある案を出した。
「そ、それなら!こうしましょう!」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「.............」
「..............」
こうなることはわかっていた。でもこうするしかなかった。
(な、何を話そう.....)
私は緊張していた。
そのせいで思考が定まっていない。
(うぅぅ!)
いつも音楽室で話をしているとは言え、いざこんな状況になると、会話に困る。
しばらくそんな空気が流れたが、先輩が口を開いた。
「彩ちゃんはさ、将来どうしたい、とか決まってる?」
「........しょ、将来ですか?そうですねえ」
私がアイドルになろうと思ったきっかけは、あこがれの人に影響されてだ。
本格的な活動をあまりしていないとしても、自分も今はアイドルだ。
それなら、
「誰かに夢を与えられるようなアイドルになりたい.......です」
「夢を与えるか........いい目標じゃないか」
「先輩は、なにか目標はありますか?」
瞬間、先輩の雰囲気が変わった気がした。
「...........これからを歩む人の役に立ちたい........かな」
先輩の表情は、少し悲しそうだった。
その顔を見ていると、まるで先輩がいなくなってしまいそうに思えた。
だから私は、先輩の腕に抱きついた。
「!?」
「.......いなくならないでくださいね」
それをどう受け取ったのか、先輩は笑顔で頷いた。
「......うん」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「今日はやけに上機嫌ね。彩ちゃん」
レッスンの休憩中、千聖ちゃんがこっちによってきた。
「そうかな?いつも通りだと思うけど」
「今日は特によ。一体何があったの?まさか好きな人が」
「ち、違うよ!千聖ちゃん!あの人はそんなんじゃ!........あ」
千聖ちゃんのニヤニヤした表情で気づいた。
のせられた......
その話を近くで聞いていた日菜ちゃんたちパスパレメンバーも、話に入ってきた。
「アヤさんにそんな人がいたんですね!」
「ジブン、驚きです!」
「すっっごく、るんっってきたよ!」
「彩ちゃんが好きになるのだから、きっと相手はいい人ね」
「も~~~~~お!!みんな!レッスン再開するよ!」
パスパレ内では、しばらくこの話で持ち切りだった。
私は先輩のことが好きなのだろうか?
しかし、この想いを伝える暇なんて残っていなかった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
放課後、いつものように音楽室に向かった。
話したいことがたくさんあった。
音楽室に近づくにつれて、ふと違和感を感じた。
「..........音が.........聞こえない」
普段ならこれぐらいの場所に来ると聞こえるバイオリン音が、一切聞こえない。
(一体..........なにが)
少し早歩きで音楽室前にきた。すると案の定、先輩の姿はなかった。
『........これからを歩む人の役に立ちたい......かな』
先輩..........一体何が.......
しばらく音楽室の前にいると、先生が話しかけてきた。
「あら?丸山さん?ここでなにしてるの?」
「あの、先生。あの人は.....工藤先輩はどこに」
驚いた表情をする先生。本当にどうしたんだろうか。
「あなたは知らなかったのね.......実は....」
その言葉に、私は騒然とした。
「彼は今......入院しているの」
その言葉を聞いた時、既に駆け出していた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
先輩の入院している病院に行くと、看護師の人が、簡単に通してくれた。
来るのがわかっていて、先輩が頼んでいたのだろう。
病室の前に行くと、妙に緊張してしまった。
「ふぅ」
深呼吸して、ドアをノックする。
「はい。どうぞ」
中から声が聞こえた。
「丸山です。失礼します」
そう言って、病室のドアを開ける。
工藤先輩は、白いベットで上体を起こしていた。
「彩ちゃんか。ありがとう、来てくれて」
先輩がいつもの笑顔を向ける。
「帰り道ですから、大丈夫ですよ。それで.......先輩」
私は近くのテーブルに荷物を置き、先輩の方に向き直る。
「どうして.........何も言わなかったんですか?」
「............」
そんなことわかっていた。
「.......そういえば、彩ちゃんには言ってなかったね」
先輩は窓の方を向いて、語り出した。
なぜ黙っていたのか
本当は聞きたくなかった
「僕は昔から体が弱くてね。しょっちゅう病院通いだったよ」
いやだ、と声には出ないが、叫びたかった。
「両親も苦労しててさあ。相当迷惑かけたよ」
違う、そう否定したかった。
「それで今回は、かなり重い病気なんだって」
先輩の口から、そんなことを聞きたくなかった
「『死ぬかもしれない』ってさ」
「.........ッ!!!!!!」
わかっていた。
あんなに元気だった先輩が、突然こうなってしまったのにはわけがある。
そう思っていた。
でも─────────
「.......君には心配かけたくなくてね。ごめんよ。言えなくて」
違う、そうじゃない。
「.........どうして」
大丈夫、と言って欲しかった。
「どうしてっ.........」
今まで通り、過ごせると、言って欲しかった。
「どうして先輩なんですかぁぁ!!!!???」
こんなこと、言ったところでどうにかなるわけじゃないとわかっていた。
心が張り裂けそうだった。
「........ごめん」
「いつも笑って、楽しく会話して、一緒に楽器を演奏して」
それだけなのに.......
「........なのに........どうしてなんですか?」
涙が溢れてきた。
そんなの1番言いたいのは先輩なのに......
「........彩ちゃん」
先輩は、前のように、私の頭を撫で、抱きしめた。
「いいんだよ。ありがとう、こんな僕のために泣いてくれて」
「.......先輩ッ!」
私はしばらく、泣き止むことができなかった。
「..........すみません。取り乱してしまって」
そう言って私は近くの椅子に腰掛ける。
涙の痕はまだ残っている。
「いや、いいんだよ。彩ちゃんの新しい一面が見れたからさ」
「もう!先輩は、いつもそうやって私をからかって!」
そんなつもりはないんだけどね、とまた笑う先輩。
さきほどの言葉を聞いたためか、視線が真下にいってしまう。
「こんな状態じゃ、ライブには来られませんね......」
「うん.....残念だけどね.....」
「でも、大丈夫です。いろんな人が応援してくれてますから」
もちろん、先輩もだ。
先輩と話していると、自然と安心する。
この気持ちが一体なんなのか、私にはわからなかった。
「それじゃあ、これをあげるよ」
そう言って差し出したのは、紅い雫のネックレス。
「これは?」
「君が持っていてくれ。行けない僕の代わりだと思ってさ」
そのネックレスを両手で握りしめた。
「はい!ありがとうございます!」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
レッスン終わりやバイトがない時、何度も先輩のお見舞いに行った。
時にはなにかお土産を持っていったり、パスパレのメンバーを連れてきたり。
彼はずっと笑顔だった。
いつでも、どんな時でも。
先輩の余命が、残り少ないことを知った。
持って1週間。それ以上は難しいと。
そのため、私はいろんな話をした。
私が今に至るまでのこと、パスパレのこと、学校生活のこと。
先輩はそれを自分のことのように喜んでくれたり、悲しんだりしてくれた。
私はそれが、嬉しかった。
そしてライブ当日。そして、先輩の生きられる最後の日。
ライブの準備休憩中、私は先輩のところに行った。
今日は中庭で風を浴びていた。
本来なら、部屋にいた方がいいのだが、先輩が医者を説得したのだ。
「彩ちゃんはさあ。今、幸せかい?」
「どうしたんですか?急に」
先輩は突然立ち上がり、バイオリンを構えた。
「彩ちゃん、聴いてくれるかい?僕の演奏」
先輩の顔は、今までよりもやせ細っていたが、それでも笑顔だった。
「........はい!」
美しい音が、奏でられる。
(これは....私が初めて聴いた曲.....)
あの日、この曲が聞こえ、
あの日、音楽室に向かい、
あの日、彼と出会った。
それから始まった、私にとっての幸せ。
この出会いは、私にとってかけがえのないものなんだと、私は実感する。
たった少しだけの時間、その時間が、私にとって、永遠のものとなった。
もし、この出会いがなかったら。
私は今、どうなっていただろう。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
『お送りしました曲は、「しゅわりん☆どり~みん」でした。それでは、これが最後の曲となります!』
ライブは、もうすぐ終わり。
ずっと不安だったけど、先輩と話をして、こんなに楽しくなった。
この曲を、先輩にも送ろう。
『聴いてください。「パスパレボリューションず」!』
イヴちゃんのキーボードから始まり、みんなのコーラス。
この曲は、先輩と出会った日から作った曲。
あの言葉から、絆を取り戻し、もう一度ステージに立つことができた。
(聴いていますか?工藤先輩)
私の目の前に、花畑が広がった。
そして私の視線の先には先輩がいた。
バイオリンを弾いていた。
その音が聞こえる。
先輩は.....ずっといてくれたんだ。
曲の終盤に来ると、先輩の姿は少しずつ消えていく。
(........待ってください.....)
これは......彼がこの世から消えていく証拠だ。
(まだ......言えてないのに!)
風が吹く。
(私は......あなたが......!)
彼は笑っていた。まるでそれが、わかっていたかのように。
(先輩!!!)
彼の姿は、輪郭なく、消えていった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
彼のお墓の前で、手紙を開く。
拝啓 丸山彩ちゃん
この手紙を読んでいるとき、僕はもうこの世にはいないでしょう。
だから、君宛に、この手紙を残そうと思う。
君はいつだって、元気で、明るくて、努力家で、
自分の夢のために、頑張っていた。
たとえ周りがどんなにもレベルが高くても、自分なりに努力して、積み重ねていた。
時々失敗することもあるけど、それでも諦めないで、また立ち上がって。
君はそれは僕のおかげだ、なんて言っていたけど、それは違う。
僕はただ、君の心の奥底から、その思いを出してあげただけ。
今のようになったのは、君自身の力だよ。
君はこれから大きな壁にぶつかると思うけど、その熱心な思いで、これからも頑張って。
最後に.......僕はずっと君と話していて、今ようやく気づいたんだ。
君の想いに。だから────
────────気づけなくて、ごめんね────────
いつか君も、僕以外の、素敵な人と出会うと思う。けど、
僕のことを......あの音を.....忘れないでね。
工藤 流一
「......忘れませんよ.....絶対」
涙が溢れてくる。
「だから......最後に言わせてください。私はあなたが────────
────────好きです。
~FIN~
ということでどうだったでしょうか。
かなり時間がかかってしまう話でしたが、なんとか完成できました。
話すことがまとまらないので、あとがきはこんな感じにしておきます。
良かったら感想&評価、お願いします。
それではまた別の作品でお会いしましょう。さよなら。
PS.バイオリンカバーって、いいですよね。