僕と君が出会った日は、雲ひとつない晴天だったね。

その時も、君は笑っていた。

君の笑顔を見ているだけで、満足だった。

君は今、どんなふうに生活しているかな?

友達と笑い合っているかな? 辛い思い、してないかな?

あの日のこと、覚えているかな?

ずっと幸せで......いるかな?

僕は決して忘れないよ。

君の声、君の姿。

君と過ごした時間。




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リメイルの「〇〇推しを泣かせるためだけに書いた作品」第1弾です。
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お久しぶりです。どうもリメイルです。
今回は丸山彩ヒロインのssです。
少し長めですが、どうかお付き合いください。




それでは、どうぞ。


丸山彩 編

周りを見渡すと、ちらほら桜のつぼみがつき始め、春が感じられるようになってきた頃。

 

 

私は色とりどりの花束を持って、一つのお墓の前に来ていた。

 

 

「ごめんなさい。今日はみんな用事があって来れなくなっちゃったみたいです」

 

 

別に嫌いなわけじゃないですからね?、と苦笑いしつつ、しゃがんで花束を置く。

 

 

その無彩色な表面には、ある人物の名前が掘ってある。

 

 

 

『工藤 流一』

 

 

 

決して忘れない、忘れてはいけない。

 

 

 

私に希望をくれた人。

 

 

 

そして、

 

 

 

「.........これからも、見守っててくださいね」

 

 

 

 

私が初めて好きになった人。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

聞き慣れたチャイム音。綺麗に並べられた机。

 

 

 

騒がしい生徒の話し声。

 

 

 

放課後、私は荷物をまとめていた。

 

 

 

今日は特に予定もなく、バイトのシフトの日ではないためまっすぐ家に帰ることにした。

 

 

 

カバンを肩にかけ、廊下に出る。

 

 

 

すると、遠くから綺麗なバイオリンの音が聞こえた。

 

 

 

「この音.....音楽室から?」

 

 

 

聞こてきたのは......クラシックの曲だろうか?

 

 

 

弾いているのは一体誰なんだろう?

 

 

 

気になった私は、昇降口に向かいかけていた踵をかえした。

 

 

 

 

 

 

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音楽室の入口は少し開いていた。

 

 

 

きっとそこから音が漏れていたのだろう。

 

 

 

覗いてみると、そこには年上であろう、青い髪のした男性がバイオリンを弾いていた。

 

 

 

しなやかながら、力強い。

その音色は、まるで羽毛に包まれているように、柔らかい。

 

 

 

私にとって、安心できるような音だった。

 

 

 

(..........綺麗.........)

 

 

 

と考えているうちに、曲が終わった。

 

 

 

男性はバイオリンを近くの椅子に置くと、気づいたのかこちらを向いた。

 

 

 

「......おっと、どうしたんだい?」

 

 

 

「え、えっと!綺麗な曲が聞こえてきたので.....その......勝手に覗いてしまって、ごめんなさい!」

 

 

 

きっと集中できなかっただろう。私は謝った。

 

 

 

「別に謝ることはないよ。僕の演奏を聴いてくれたんだ。ありがとう」

 

 

 

しかし男性は、笑顔でそう言った。

 

 

 

「.........そ、そんな!ただ私は勝手に来ただけです!むしろ、邪魔してしまったと....」

 

 

 

「そんなことはないよ.......僕も演奏を聴いてもらうのは久しぶりだからね」

 

 

 

男性は笑顔だった。

しかしその中に、小さく悲しい表情が見えた気がした。

 

 

 

男性は思い出したように、ハッとして、私に向き直った。

 

 

 

「自己紹介がまだだったね。僕は3年の工藤流一。よろしく」

 

 

 

それに慌てて応える。

 

 

 

「わ、私は、2年の丸山彩です!こ、こちらこそよろしくお願いします!」

 

 

 

これが先輩との出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────君の想いに気づけなかった──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へー。彩ちゃんはバンドをしてるんだぁ」

 

 

 

「はい!Pastel*Palettesって言うアイドルバンドなんですけど」

 

 

 

気分転換か、はたまた気持ちの成行きか。私は先輩に話していた。

 

 

 

「少し違うけど、夢を叶えられてよかったじゃないか」

 

 

 

「ありがとうございます!......でも実は」

 

 

 

数日前、私たちパスパレは、ファンの人たちにエア演奏であることがバレてしまった。

その結果、しばらくの活動ができなくなってしまった。

 

 

 

それに私は深く落ち込んでいた。

自分の夢が遠ざかってしまったこと、今までの苦労が水の泡になったこと、そして何より───────

 

 

 

ファンの人たちを騙してしまったこと。

 

 

 

「............笑顔にするためにしてきたのに........逆に傷つけてしまった。これじゃあ、アイドルじゃないですよね」

 

 

 

「...............」

 

 

 

俯いている私の話を、先輩は黙って聞いていた。

 

 

 

「..........私なんかが、アイドルになんてっ!」

 

 

 

涙が溢れてくる。

悔しかった。

悲しかった。

苦しかった。

しかし、その気持ちは、頭への感覚で途切れた。

 

 

 

「.........大丈夫だよ」

 

 

 

「............っ!!」

 

 

 

顔を上げると、先輩が私の頭を撫でていた。

 

 

 

「先............輩?」

 

 

 

「君は頑張ったんだろう?頑張って、努力して。結果こうなってしまった。それならそれでいいじゃないか」

 

 

 

先輩の言葉は、生半可なものではない。

 

 

 

しっかりとした..........私を思ってくれている言葉だ。

 

 

 

「1度失敗したなら、もう一度立ち上がればいいんだよ。やってみなよ。ね?」

 

 

 

ただそれだけで、私の中で、不安が消えていった気がした。

 

 

 

「...........はい。ありがとうございます」

 

 

 

私は涙を拭いて、先輩に笑顔を向けた。

 

 

 

「よし。それでこそアイドルだよ」

 

 

 

先輩は私の頭から手をどける。

 

 

 

普段の私なら、少し名残惜しい。と思うかもしれないが、そんなこと、今はよかった。

 

 

 

「さぁて。そろそろ戸締りしないといけないから。荷物持って」

 

 

 

「あ、はい。えっと..........先輩」

 

 

 

「ん?どうしたんだい?」

 

 

 

「今日は、本当にありがとうございました!」

 

 

 

荷物を持って、私は先輩にお礼をした。

 

 

 

「いいんだよ。またなにかあったらいつでもおいで。基本的にここにいるからさ」

 

 

 

「はい!私頑張ります!!ありがとうございました!」

 

 

 

私は頭を下げて、音楽室から出る。

 

 

 

もう一度、チャレンジしてみよう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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数日後、私はもう一度音楽室に来ていた。

 

 

 

「雨の中チケットを売るなんて.............随分無茶したねぇ」

 

 

 

「えへへ!でもこれで、ちょっとはパスパレの信頼は取り戻せたんじゃないでしょうか!」

 

 

 

「............そういうことじゃないんだけどな」

 

 

 

今先輩に話している内容は、私が通る人に直接チケットを手売りしていたこと。

 

 

 

途中雨が降ってきて、大変だった。

しかし1人で売っていた私を見て、メンバーのみんなが手伝いに来てくれ、ファンの人たちに熱意を示すことができた。

 

 

 

「そのおかげで、みんなとももっと仲良くなりました」

 

 

 

「それは何よりだよ」

 

 

 

私はふと、先輩の丁寧に拭いているバイオリンが目に入った。

 

 

 

「ところで先輩は、何歳からバイオリンをしてるんですか?」

 

 

 

「んー。小学4年生くらいからかな?両親がプロでさあ。それを見て、僕もやってみたいって思ったんだ。このバイオリンも、父親から貰った物なんだよ」

 

 

 

「そうなんですか」

 

 

 

私は椅子から立ち上がり、近くで見た。

 

 

 

すると、先輩が

 

 

 

「弾いてみるかい?」

 

 

 

「え!そ、そんな......私はただ見ているだけで」

 

 

 

「僕以外の誰かに弾いてもらうのも、このバイオリンにもいい経験だと思うんだ。もちろん、君にもね」

 

 

 

と言って、本体と弓を私に手渡した。

 

 

 

「で、でも私、バイオリンなんて弾いたことなくて」

 

 

 

「大丈夫。僕が教えるから」

 

 

 

「あ、はい!」

 

 

 

そう言って、先輩は私の後ろに立ち、一緒に弾く体制になった。

 

 

 

「ちょ、先輩!?」

 

 

 

「ん?........ああ。ごめん。この方が教えやすいと思ったんだけど.........迷惑だったかな?」

 

 

 

「い、いいえ!そうじゃなくて.........」

 

 

 

さすがにあそこまで近づけば、誰だってこんな反応をしてしまう。

 

 

 

でも、悪い気はしなかった。

 

 

 

(先輩......香水をつけてるわけじゃないのに......いい匂い)

 

 

 

「.....彩ちゃん?」

 

 

 

「....わ!ご、ごめんなさい!」

 

 

 

アイドルらしからぬことを考えてしまい、先輩の声に驚いた。

 

 

 

「別に謝ることはないさ。それじゃあ、続けるね」

 

 

 

「あ......はい」

 

 

 

そう言って、先輩は弓を持っている私の手に、自分の手を重ねた。

 

 

 

その手は、暖かかった。

 

 

 

 

 

 

 

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「先輩、あのですね」

 

 

 

先程の出来事で、体が熱くなっていたが、意を決して先輩に話しかけた。

 

 

 

「どうしたんだい?」

 

 

 

「えっと......これを」

 

 

 

そう言って取り出したのは、1枚のチケット。

 

 

 

「今度、私たちのライブがやるので、是非先輩に来て欲しいなって思いまして」

 

 

 

「さっき話してたやつか」

 

 

 

「はい、そうです!」

 

 

 

そう答えると、先輩はチケットを受け取った。

 

 

 

「わかった。絶対行くよ」

 

 

 

「っ!!ありがとうございます!席番号はそれに書いてますからね」

 

 

 

それでは、と私はカバンを持ち、ドアに向かう。

 

 

 

「今日はいい経験になりました。ありがとうございました!」

 

 

 

「うん。気をつけて帰るんだよ?」

 

 

 

「わかってますよ!」

 

 

 

そう言って、私は音楽室から出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

足音が聞こえなくなったため、椅子に座った。

 

 

 

「ハア、ハア、ハア」

 

 

 

胸が苦しくなる。

呼吸がしづらくなる。

 

 

 

「.......頼む。あの子のライブまで.......持ってくれ!」

 

 

この時私は、先輩がこんな状態になっているのを、知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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今日は大雨。

つい、傘を忘れてしまった。

 

 

 

(......どうしよう)

 

 

 

千聖ちゃんたちは帰る時間が違ったため、今はいない。

 

 

 

びしょ濡れで帰るのは確実だろう。

 

 

 

「よし」

 

 

 

意を決して駆け出そうとした瞬間、

 

 

 

「彩ちゃん?」

 

 

 

後ろから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 

 

「あ。先輩どうも」

 

 

 

「今日はひどい雨だねえ」

 

 

 

工藤先輩が暗い空を見ながらつぶやく。

 

 

 

「........そうですね」

 

 

 

「ところで彩ちゃん。傘でも忘れたのかい?」

 

 

 

バレたぁ!!

 

 

 

少し顔を背けながら思った。

 

 

 

「それなら僕の傘、貸してあげるよ」

 

 

 

「い、いいえ!そんなことしたら先輩に悪いです!」

 

 

 

手をブンブン、と振る。

 

 

 

「でも。女の子を雨に濡らすのは、よろしくないから」

 

 

 

先輩が傘を差し出してくる。

 

 

 

(うぅ.......)

 

 

 

 

先輩の優しさが潔く受けるのもいい。でもやっぱり先輩にも悪い。

 

 

 

 

そのため私はある案を出した。

 

 

 

 

「そ、それなら!こうしましょう!」

 

 

 

 

 

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「.............」

 

 

 

「..............」

 

 

 

こうなることはわかっていた。でもこうするしかなかった。

 

 

 

(な、何を話そう.....)

 

 

 

私は緊張していた。

そのせいで思考が定まっていない。

 

 

 

(うぅぅ!)

 

 

 

いつも音楽室で話をしているとは言え、いざこんな状況になると、会話に困る。

 

 

 

しばらくそんな空気が流れたが、先輩が口を開いた。

 

 

 

「彩ちゃんはさ、将来どうしたい、とか決まってる?」

 

 

 

「........しょ、将来ですか?そうですねえ」

 

 

 

私がアイドルになろうと思ったきっかけは、あこがれの人に影響されてだ。

 

 

 

本格的な活動をあまりしていないとしても、自分も今はアイドルだ。

 

 

 

それなら、

 

 

 

「誰かに夢を与えられるようなアイドルになりたい.......です」

 

 

 

「夢を与えるか........いい目標じゃないか」

 

 

 

「先輩は、なにか目標はありますか?」

 

 

 

瞬間、先輩の雰囲気が変わった気がした。

 

 

 

「...........これからを歩む人の役に立ちたい........かな」

 

 

 

先輩の表情は、少し悲しそうだった。

 

 

 

その顔を見ていると、まるで先輩がいなくなってしまいそうに思えた。

 

 

 

だから私は、先輩の腕に抱きついた。

 

 

 

「!?」

 

 

 

「.......いなくならないでくださいね」

 

 

 

それをどう受け取ったのか、先輩は笑顔で頷いた。

 

 

 

「......うん」

 

 

 

 

 

 

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「今日はやけに上機嫌ね。彩ちゃん」

 

 

 

レッスンの休憩中、千聖ちゃんがこっちによってきた。

 

 

 

「そうかな?いつも通りだと思うけど」

 

 

 

「今日は特によ。一体何があったの?まさか好きな人が」

 

 

 

「ち、違うよ!千聖ちゃん!あの人はそんなんじゃ!........あ」

 

 

 

千聖ちゃんのニヤニヤした表情で気づいた。

 

 

 

のせられた......

 

 

 

その話を近くで聞いていた日菜ちゃんたちパスパレメンバーも、話に入ってきた。

 

 

 

「アヤさんにそんな人がいたんですね!」

 

 

 

「ジブン、驚きです!」

 

 

 

「すっっごく、るんっってきたよ!」

 

 

 

「彩ちゃんが好きになるのだから、きっと相手はいい人ね」

 

 

 

「も~~~~~お!!みんな!レッスン再開するよ!」

 

 

 

パスパレ内では、しばらくこの話で持ち切りだった。

 

 

 

私は先輩のことが好きなのだろうか?

 

 

 

しかし、この想いを伝える暇なんて残っていなかった。

 

 

 

 

 

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放課後、いつものように音楽室に向かった。

 

 

 

話したいことがたくさんあった。

 

 

 

音楽室に近づくにつれて、ふと違和感を感じた。

 

 

 

「..........音が.........聞こえない」

 

 

 

 

普段ならこれぐらいの場所に来ると聞こえるバイオリン音が、一切聞こえない。

 

 

 

 

(一体..........なにが)

 

 

 

少し早歩きで音楽室前にきた。すると案の定、先輩の姿はなかった。

 

 

 

 

『........これからを歩む人の役に立ちたい......かな』

 

 

 

 

先輩..........一体何が.......

 

 

 

しばらく音楽室の前にいると、先生が話しかけてきた。

 

 

 

「あら?丸山さん?ここでなにしてるの?」

 

 

 

「あの、先生。あの人は.....工藤先輩はどこに」

 

 

 

驚いた表情をする先生。本当にどうしたんだろうか。

 

 

 

 

「あなたは知らなかったのね.......実は....」

 

 

 

 

その言葉に、私は騒然とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼は今......入院しているの」

 

 

 

その言葉を聞いた時、既に駆け出していた。

 

 

 

 

 

 

 

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先輩の入院している病院に行くと、看護師の人が、簡単に通してくれた。

 

 

 

来るのがわかっていて、先輩が頼んでいたのだろう。

 

 

 

病室の前に行くと、妙に緊張してしまった。

 

 

 

「ふぅ」

 

 

 

深呼吸して、ドアをノックする。

 

 

 

「はい。どうぞ」

 

 

 

中から声が聞こえた。

 

 

 

「丸山です。失礼します」

 

 

 

そう言って、病室のドアを開ける。

 

 

 

工藤先輩は、白いベットで上体を起こしていた。

 

 

 

「彩ちゃんか。ありがとう、来てくれて」

 

 

 

先輩がいつもの笑顔を向ける。

 

 

 

「帰り道ですから、大丈夫ですよ。それで.......先輩」

 

 

 

私は近くのテーブルに荷物を置き、先輩の方に向き直る。

 

 

 

 

「どうして.........何も言わなかったんですか?」

 

 

 

 

「............」

 

 

 

そんなことわかっていた。

 

 

 

「.......そういえば、彩ちゃんには言ってなかったね」

 

 

 

先輩は窓の方を向いて、語り出した。

 

 

 

なぜ黙っていたのか

 

 

 

本当は聞きたくなかった

 

 

 

「僕は昔から体が弱くてね。しょっちゅう病院通いだったよ」

 

 

 

 

いやだ、と声には出ないが、叫びたかった。

 

 

 

 

「両親も苦労しててさあ。相当迷惑かけたよ」

 

 

 

 

違う、そう否定したかった。

 

 

 

 

「それで今回は、かなり重い病気なんだって」

 

 

 

 

先輩の口から、そんなことを聞きたくなかった

 

 

 

 

「『死ぬかもしれない』ってさ」

 

 

 

 

「.........ッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

わかっていた。

 

 

あんなに元気だった先輩が、突然こうなってしまったのにはわけがある。

 

 

そう思っていた。

 

 

 

でも─────────

 

 

 

「.......君には心配かけたくなくてね。ごめんよ。言えなくて」

 

 

 

違う、そうじゃない。

 

 

 

「.........どうして」

 

 

 

大丈夫、と言って欲しかった。

 

 

 

 

「どうしてっ.........」

 

 

 

 

今まで通り、過ごせると、言って欲しかった。

 

 

 

 

「どうして先輩なんですかぁぁ!!!!???」

 

 

 

 

こんなこと、言ったところでどうにかなるわけじゃないとわかっていた。

 

 

 

心が張り裂けそうだった。

 

 

 

 

「........ごめん」

 

 

 

 

「いつも笑って、楽しく会話して、一緒に楽器を演奏して」

 

 

 

それだけなのに.......

 

 

 

「........なのに........どうしてなんですか?」

 

 

 

 

涙が溢れてきた。

 

 

 

そんなの1番言いたいのは先輩なのに......

 

 

 

「........彩ちゃん」

 

 

 

先輩は、前のように、私の頭を撫で、抱きしめた。

 

 

 

「いいんだよ。ありがとう、こんな僕のために泣いてくれて」

 

 

 

「.......先輩ッ!」

 

 

 

私はしばらく、泣き止むことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「..........すみません。取り乱してしまって」

 

 

 

そう言って私は近くの椅子に腰掛ける。

 

 

涙の痕はまだ残っている。

 

 

 

「いや、いいんだよ。彩ちゃんの新しい一面が見れたからさ」

 

 

 

「もう!先輩は、いつもそうやって私をからかって!」

 

 

 

そんなつもりはないんだけどね、とまた笑う先輩。

 

 

 

さきほどの言葉を聞いたためか、視線が真下にいってしまう。

 

 

 

「こんな状態じゃ、ライブには来られませんね......」

 

 

 

「うん.....残念だけどね.....」

 

 

 

「でも、大丈夫です。いろんな人が応援してくれてますから」

 

 

 

もちろん、先輩もだ。

 

 

 

先輩と話していると、自然と安心する。

 

 

 

この気持ちが一体なんなのか、私にはわからなかった。

 

 

 

「それじゃあ、これをあげるよ」

 

 

 

そう言って差し出したのは、紅い雫のネックレス。

 

 

 

「これは?」

 

 

 

「君が持っていてくれ。行けない僕の代わりだと思ってさ」

 

 

 

 

そのネックレスを両手で握りしめた。

 

 

 

 

「はい!ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

 

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レッスン終わりやバイトがない時、何度も先輩のお見舞いに行った。

 

 

 

時にはなにかお土産を持っていったり、パスパレのメンバーを連れてきたり。

 

 

 

彼はずっと笑顔だった。

 

 

 

いつでも、どんな時でも。

 

 

 

先輩の余命が、残り少ないことを知った。

 

 

 

持って1週間。それ以上は難しいと。

 

 

 

そのため、私はいろんな話をした。

 

 

 

私が今に至るまでのこと、パスパレのこと、学校生活のこと。

 

 

 

先輩はそれを自分のことのように喜んでくれたり、悲しんだりしてくれた。

 

 

 

私はそれが、嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてライブ当日。そして、先輩の生きられる最後の日。

 

 

 

ライブの準備休憩中、私は先輩のところに行った。

 

 

 

今日は中庭で風を浴びていた。

 

 

 

本来なら、部屋にいた方がいいのだが、先輩が医者を説得したのだ。

 

 

 

「彩ちゃんはさあ。今、幸せかい?」

 

 

 

「どうしたんですか?急に」

 

 

 

先輩は突然立ち上がり、バイオリンを構えた。

 

 

 

「彩ちゃん、聴いてくれるかい?僕の演奏」

 

 

 

先輩の顔は、今までよりもやせ細っていたが、それでも笑顔だった。

 

 

 

「........はい!」

 

 

 

美しい音が、奏でられる。

 

 

 

(これは....私が初めて聴いた曲.....)

 

 

 

あの日、この曲が聞こえ、

あの日、音楽室に向かい、

あの日、彼と出会った。

 

 

 

それから始まった、私にとっての幸せ。

 

 

 

この出会いは、私にとってかけがえのないものなんだと、私は実感する。

 

 

 

たった少しだけの時間、その時間が、私にとって、永遠のものとなった。

 

 

 

もし、この出会いがなかったら。

 

 

 

私は今、どうなっていただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

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『お送りしました曲は、「しゅわりん☆どり~みん」でした。それでは、これが最後の曲となります!』

 

 

 

ライブは、もうすぐ終わり。

 

 

 

ずっと不安だったけど、先輩と話をして、こんなに楽しくなった。

 

 

 

この曲を、先輩にも送ろう。

 

 

 

『聴いてください。「パスパレボリューションず」!』

 

 

 

 

イヴちゃんのキーボードから始まり、みんなのコーラス。

 

 

 

 

この曲は、先輩と出会った日から作った曲。

 

 

 

あの言葉から、絆を取り戻し、もう一度ステージに立つことができた。

 

 

 

(聴いていますか?工藤先輩)

 

 

 

私の目の前に、花畑が広がった。

 

 

 

そして私の視線の先には先輩がいた。

 

 

 

バイオリンを弾いていた。

 

 

 

その音が聞こえる。

 

 

 

先輩は.....ずっといてくれたんだ。

 

 

 

曲の終盤に来ると、先輩の姿は少しずつ消えていく。

 

 

 

(........待ってください.....)

 

 

 

これは......彼がこの世から消えていく証拠だ。

 

 

 

(まだ......言えてないのに!)

 

 

 

風が吹く。

 

 

 

(私は......あなたが......!)

 

 

 

彼は笑っていた。まるでそれが、わかっていたかのように。

 

 

 

(先輩!!!)

 

 

 

彼の姿は、輪郭なく、消えていった。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

彼のお墓の前で、手紙を開く。

 

 

 

拝啓 丸山彩ちゃん

 

 

この手紙を読んでいるとき、僕はもうこの世にはいないでしょう。

 

 

だから、君宛に、この手紙を残そうと思う。

 

 

君はいつだって、元気で、明るくて、努力家で、

 

 

自分の夢のために、頑張っていた。

 

 

たとえ周りがどんなにもレベルが高くても、自分なりに努力して、積み重ねていた。

 

 

時々失敗することもあるけど、それでも諦めないで、また立ち上がって。

 

 

君はそれは僕のおかげだ、なんて言っていたけど、それは違う。

 

 

僕はただ、君の心の奥底から、その思いを出してあげただけ。

 

 

今のようになったのは、君自身の力だよ。

 

 

君はこれから大きな壁にぶつかると思うけど、その熱心な思いで、これからも頑張って。

 

 

最後に.......僕はずっと君と話していて、今ようやく気づいたんだ。

 

 

君の想いに。だから────

 

 

────────気づけなくて、ごめんね────────

 

 

 

 

いつか君も、僕以外の、素敵な人と出会うと思う。けど、

 

 

僕のことを......あの音を.....忘れないでね。

 

 

工藤 流一

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......忘れませんよ.....絶対」

 

 

 

涙が溢れてくる。

 

 

 

「だから......最後に言わせてください。私はあなたが────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────好きです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~FIN~

 

 

 




ということでどうだったでしょうか。
かなり時間がかかってしまう話でしたが、なんとか完成できました。
話すことがまとまらないので、あとがきはこんな感じにしておきます。
良かったら感想&評価、お願いします。

それではまた別の作品でお会いしましょう。さよなら。


PS.バイオリンカバーって、いいですよね。


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