比企谷くん、ある日のラブコメ。   作:白鷲
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戸塚さんのひとり語りです。イチャイチャ成分はゼロです。


戸塚彩加は呼んでみたい。

 

 

 

 君の目は、いつも君だけの色をしていた。君を初めて見た時から、ずっと忘れられない。僕は言ったね。去年から同じクラスで、なかなか話しかけられなかったって。でも、いつからなんて教えなかった。教えられるわけないからね。理由なんて大したことじゃないよ。ただ恥ずかしかっただけなんだ。

 

 『5月の連休明け。最初に君が登校した日、最初に教室にやってきた日。その時から』

 

 そんなことを言ったら、君の背中だってまともに見れなくなるから。それにね。僕だけじゃないんだ。事情は知らなかったけど、その人は僕よりも早く、君に釘づけになってたんだ。

 

 今になって思えば、まあそれも当たり前のことなんだよね。だから、今はこうして、君ともう1人の彼女と、他人が踏み込めない場所を作ってるんだ。

 

 正直言うとさ。失敗した、って後悔してるんだ。だってそうでしょ? 彼女にはそもそも僕が手に入れられない、絶対のものがあって、それを理由にして顔を伏せたら、いつの間にか、僕のいない君になってたんだから。

 

 ねえ、おかしいかな? 僕は、君の隣に立っていられると思ってたんだよ。たとえそれが、僕の育ててきた感情が望む立ち位置じゃなくても、君の特別で、一番の何かでいられるんだって。でもダメだったんだ。多分、無理やりだったんだろうね。だから、いつの間にか、君の物語に、僕は必要なくなるんだ。一度だけ頼ってくれたけど、もうそこまでなんだ。僕はきっと、そこで終わる。

 

 話したことがあったかな、僕の好きな小説。その結末。主人公が素敵な思い出を築きながら、忘れ去られる話。名前は誰もが覚えていて、『優しい子だ』と言われながら、どの物語からも姿を消す。

 

 きっと君にはわからないだろうね。

 

 僕が君のことを考えて、1人でココアを飲みながら月を見ているなんて姿も、そんな儚いだけの本が風にめくられる夜も。僕にとって特別で、どうしようもなく大切な君は、僕を宝物にはしてくれない。

 

 君は朝会うといつも僕をからかうけれど、それがどれだけ僕を嬉しくさせて、残酷な絶望を突きつけているのかを、君は知らない。

 

 君にとって僕は、「優しい友達」だから。それは僕1人だけ。やった、ついに手に入れた特別だ。友達だって喜び合った日のことを君は深く覚えてないでしょう。僕はよく覚えてる。初めて名前を呼ばれた日だから。驚いて君を困らせちゃったけど、本当に心臓が止まっちゃうくらい、胸の奥で何かが弾けたような、溢れてくるような。それから、僕も名前を呼ぶようになった。君は時々にしか呼んでくれないけれど、君の声で呼ばれることがたまらなく嬉しくて、どれだけ僕が繰り返せば君が返してくれるのか、知りたくて仕方のない時もあった。

 

 でもさ。それだけじゃダメだったんだよ。嬉しくて嬉しくて、嬉しすぎたから。誰よりも近くにいるのに。一番立ちたくなかった場所にいる。嫌な事実を噛み締めて、「知りたくなかった」なんて、時々ありもしないことを言いたくなる。そんなこと言ったって、恨むのは僕の心なんだから。

 

 

 こんな雲の薄い夜に、君は何をしているんだろう。国語が得意で、好きな人には面白い告白をしそうな君は、この夜に何を思うだろう。聞いてみたくなるけれど、僕にはそんな勇気がない。

 もう何度目になるんだろう。月だけが照らす部屋で、液晶に君を浮かべるのは。何かを伝えようとして、何かを受け取ろうとして。必死に開いてみるけれど。話したいことは山ほどあるのに。君に言いたいことはたくさんあって、言ってほしいことはひとつだけだから。夜更けに話すのにちょうどいい話題なんて、昨日までも、今日からも、僕にはずっと思いつけないままなんだ。

 

 思春期は悩みの時期、なんてよく言うよね。そんな僕だから。泣きたくなる時もある。そんな時、君は優しい。痛いなんて思わせないで、泣かせてくれる。思う必要のないことだから。本当は逆なのにね。でもそれでいいんじゃないかと思ってる。だってその通りになるんだったら、僕は全部忘れる方がいいからさ。何も最初からなかったんだって教えてくれる方が、僕は泣いてしまうから。

 

 

 君は知らないだろうね。彼女や彼女が君を見つめて、君に笑って、君に呆れて、君に幸せを感じている時。そんな君の時間に、僕はいられない。全部欲しくなってしまう。だから僕は俯いて、君の足元しか見つめられない。

 

 そんな僕さ。君の隣に立っていたくて、絶対に君の一番になれない僕。それでも構わないって思うのは、君のそばにいられるから。たとえ微妙な距離でも愛せるんだ。

 

 僕はいつでも君の優しい友だちで、君に笑いかける。それだけでいいんだろう。君を嫌いにならないように。好きになんてなるんじゃなかったと、歌わなくて済むんだから。

 

 ただ、君の姿に、君の目に、君の声に、君が僕を呼ぶことに。無邪気に惹かれて、一途に騒ぐ。そんな僕の心を憎めば、それでいいだけなんだろう。

 

 だけどもし。もしも叶う世界があるのなら。その時は。

 

 

 

 

 「八幡!」

 

 「おう、戸塚」

 

 

 

 心を乗せて、呼んでみたい。

 

 

 

 




取り敢えずめぐりんとはるのんと戸塚さんまで上げておきます。ハイ。連続であげてすみませんでした。







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