次の日、ジャンプを読んだらルフィの懸賞金がうなぎ登りになっててさらにビックリ仰天驚天動地しちゃいましたけどね!あれはやばい。尾田栄一郎先生は常に私の予想を良い意味で裏切ってくれるぜ…。
そんなこんなで第五話です。ルフィ登場です。
ついでにあの人もな!
「うおぉぉ!スッッッゲェェェ!」
私の家では、家事は基本的に固定動作をプログラムした人形達が行っている。勿論大まかなプログラムだけでは足りないので最低限のマニュアルと並行して行っているが、大抵の場合、まるで勝手に動いて家事をしているように見える人形達を初めて見たときの来客の反応は大体同じだ。皆人形達の仕事に驚いて、しげしげと暫く人形達の様子を観察するのである。
そんな反応の中でも、とりわけ盛大に興奮した様子で目をキラキラ輝かせている少年が一人いた。昨日から私の家に住むことになったガープさんの孫。モンキー・D・ルフィ少年である。年齢は6歳。10歳はいかないであろう見た目のルーミアと比べてみてもまだまだ年下の印象であり、家族として認識するなら、世間的には私とルーミア両方から見ても弟ということになるだろう。因みに私とルーミアの実年齢は聞いてはいけない。見た感じは17歳と8歳くらいで、実年齢もそれに準ずる。それでいいのである。それ以上の追求は一切認めない。断じてだ。
「こっちの人形が上海で、こっちのが蓬莱っていうんだぞー」
「そっか!よろしくな!シャンハイ!ホーライ!」
ルーミアはルフィと一緒に部屋を駆け回って、人形一体一体の名前を紹介していた。どうやらルーミアは家を案内することで早速お姉さん風を吹かせているようだ。仲も良好なようだし、この調子なら、特に何かを心配するような必要もあるまい。
結論から言うと、ルフィは私が予想していたよりも遥かに良い子だった。少し好奇心が強すぎるきらいはあるが、年相応のやんちゃさを持った明るい子だ。
ガープさんから鬼みたいな迫力を抜いて子供にしたら、大体こんな感じになるんじゃないかと思う。はっちゃけて大災害を起こすような強ささえなければ、こんなにも平穏な子供が出来上がる。私はひとつ新たな発見をしたような気がした。
逆に言えば、ちっとも平穏では済まないガープさんは、屈強な大人の身体に少年のような精神を………いや、これ以上は追求すまい。彼の尊厳に関わることだ。あと、私自身気付きたくもない。気付いちゃいけないことというのも、この世にはたくさんあるのだ。
そのガープさんは、ルフィを私達に託すと、私とルーミアが捕まえた海賊達(一部死体は村外れの共同墓地に埋葬した)を引き取って、すぐに帰っていってしまった。
ルフィは実に明るい笑顔で「じいちゃんまたな!」と送り出し、そのじいちゃんから「もっと別れを惜しめ!」とかなり理不尽な拳骨を食らっていた。
話を聞く限り、ガープさん達は仕事の都合でこれから一年以上はフーシャ村に寄ることが出来ないのだそうで、ガープさんとしてはもっと孫と触れ合っていたかったのだろうと生暖かい目で見守ってあげたが、どちらにしても子供っぽいと思ってしまったのはガープさんには秘密だ。
後でルフィに聞いた話によると、ルフィはそんなにガープさんのことが好きじゃないのだそうだ。ジャングルに投げ込まれてサバイバルさせられたり、風船にくくりつけられて何処かに飛ばされたり、千尋の谷に突き落とされたり、修行と称した殺人未遂に何度もあっているのだと言う。
確かにそれは流石に引く。いや、予想通りではあるのだが、それにしたってまだ幼い子供相手に何をやっているんだあのじいさんは。むしろお別れになってせいせいする気分だろうなと私はルフィに深い同情の念を抱いたくらいだ。むしろなんでそこまでされてこんなにも素直な良い子のままでいられるんだろうか?人間不信になってもおかしくないんじゃないかと私はルフィに戦慄すらしたものだ。
「大体紹介は終わったな!ここが今日からルフィの家なのだ!私達が家族として暮らしていく家なんだぞー」
「おう!よろしくな!ルーミア!アリス!」
元気のいいルーミアにこれまた元気よく返事を返すルフィ。二人とも新生活の気配に興奮しているらしく、ぴょんすこぱたぱたと忙しなく動き回っている。普段なら外で騒げと言うところだが、今日くらいは少しくらい寛容になっても良いだろう。
ひらりと、ルーミアの髪の毛と一緒に青いリボンが揺れる。ルーミアが元々付けていたリボン(御札?)は、先の海賊との戦闘でボロボロになってしまっていた。本人いわくあのリボンは外せなかったから付けていただけで、大してリボンの有る無しは気にしていないということだ。だけどいつものリボン姿のルーミアを見慣れていた私にはどうも座りが悪いように感じて、クローゼットの奥から私が昔使っていたカチューシャリボンを取り出してルーミアにあげたのだ。
日傘と違って、そのリボンには特に何か特殊効果があるなんてことは全く無かったのだが、ルーミアはやっぱりそれを嬉々として四六時中付けるようになった。お風呂の時くらいは外せとルーミアに注意した時は、呆れるような面映ゆいような、なんとも微妙な気持ちがしたものである。
しかし何と言うか、こうして改めて青いリボンを付けたルーミアを見てみると、結構本気で昔の自分を見ているような気分になってくるからさらに面映ゆくなってくる。服装の方は全く違うし、厳密には髪型も髪色も何から何まで違うから全く見分けがつかないなんてことはないが、最近のルーミアの成長と合わせて、私とのシンクロ率が急増しているような気がする。ルーミアが私という存在を目標に掲げたのも原因の一つだと思うのだが、今になって初めてガープさんに会えばなんて仮定をすると、自分達が義理の姉妹だとは思われなかったんじゃないかとすら思うほど家族として違和感が無くなってきている。家の構造もかなり熟知しているし、いきなりルーミアが人形を操りだしても私はなんとも思わないんじゃないかとすら思ってしまう程の違和感のなさだ。
ただまあ、性格の方まではそうでもないわね。私がルーミアくらいの頃は、確かに子供ではあったけど、もう少し落ち着きがあったもの。そこはやはり、育った環境の違いが現れるってものよね。
ルーミアの明るく何者にも物怖じしない性格は、むしろガープさんやルフィの方によく似ている。野性味溢れるという意味では、確かにルーミアの普段の生活スタイルからして性格が似てくるのも宜なるかなって感じだけれど、こうして見るに私達はルフィも含めて、かなり家族としてバランスがいいんじゃないかと思えてくる。
下世話な話になるようだが、海賊達を倒したお陰で、なんと一億ベリーを優に越える臨時収入が舞い込んできたことだし、暫くは平穏無事な生活が送れそうだ。
ありがとう。かませ犬、ジャガ芋、あと、ちゃんと会うことは結局出来なかったけど、ルーミア曰く「へたれ侍」。あなた達のお陰で私達の生活に余裕とゆとりが生まれました。
私がこっそり天に向かってご冥福を祈っていると(うち二人は生きてる気がするが、どうでもいい)、人形達がひととおりの準備を完了させたようだ。
「さてと、昨日は色々ばたばたとして延期になっちゃったけど、これからマキノの酒場でルフィの歓迎パーティーをするわよ。二人とも準備はいい?」
そう言うと、私は人形達にシチューの入った大きな寸胴鍋を持たせ、ついでにルーミアとルフィにも焼きたてのパンなどがいっぱい入った大きなバケットを持たせる。
「ムシャムシャ…。アリスー。これはなんだー?」
「すっげえウマいな!このサンドイッチ!」
「マキノだけじゃパーティーの準備は大変だから、参加者各自でも食事を作って持ち寄るのよ。だから二人とも、つまみ食いはしないでくれる?」
持たせたとたんに中身を食べ始める二人に呆れながらも、私は二人を伴いマキノの酒場へと向かう。
そんな感じで、私達の新生活は、割りと明るい見通しでスタートを切ったのだった。
―――それから数日が過ぎて、フーシャ村にまた新たな変化が訪れた。
この村、辺境の田舎村なのに変化多すぎじゃない?と思わないでもないが、訪れちゃったのである。
具体的には港に、また海賊船が一隻停泊してきたのだ。
スラップ村長からその話を聞いたとき、私はまた厄介事か?と、少し警戒したが、どうやらそういう話ではないようだ。
「なにもここに来る海賊どもが皆略奪をして行く訳ではない。前にも言ったと思うがな、先の海賊団のような奴等もいれば、大人しくしとれば普通の船団と特に変わりの無いような奴等もいる。村からしてみれば後者の方は普通にお客様と言っていい。酒やら食料やらにお金を落としていくからな」
今回停泊してきた海賊団は、わざわざ村長のところまで菓子折りを持ってきて、停泊と、暫くこの村を拠点にすることに対する許可を求めてきたらしい。つまりは後者の方の海賊と言うわけだ。スラップ村長はそのことをわざわざ私の家まで訪ねて説明してくれた。
もしかして私、村長に喧嘩っ早いとか思われてたりする?
まあ、間違ってはいないけど。ちょっと過敏過ぎない?
「大丈夫よ。先の海賊団に喧嘩を売ったのは、あくまでもあいつらが酒場で強盗紛いのことをしようとしていたからで、私は海賊相手に問答無用で喧嘩を売るような野蛮人ではないから」
「そうだといいんじゃがのう…」
取り敢えず村長を安心させようと喧嘩にはならないと保証したら、疑わしそうなジト目で返された。失敬な。私のことを、海賊相手だったら問答無用でぶん殴るであろうガープさんみたいなのと同類項で括ってるんじゃないでしょうね。私は平穏と平和を何より愛する冷静沈着な都会派魔法使いですよ?
まあそうは言っても、やはり気になることは気になるので、私は海賊達が今たむろしていると言うマキノの酒場に向かってみることにした。
「と、言うわけで二人とも。留守番よろしく」
「「いやだ。面白そうな予感がするから一緒に行く」」
三人で行くことになった。
道中、私は村長から渡された海賊達の手配書をめくって今この村にいるという連中の確認をする。前回よく手配書を見なかったせいで凡ミスを連発したので、予習はしっかりやっておくに限る。
「えーっと、何々?『赤髪海賊団』。船長は『赤髪のシャンクス』で、懸賞金が……」
………………………………………。
見なかったことにした。
パタン。と、手配書の束を閉じ頭痛を堪えるように頭に手をやった私を見て、
「どうかしたのかー?アリスー」
と、ルーミアが疑問の声をあげるが、私はそれに返事を返すことが出来なかった。
えっと…。見間違いじゃなければ、結構な数字が書かれていたような気がするんですけど。数学の難しい計算じゃないと出てこないような。欧米の宝籤じゃないとお目にかかれないような金額が書かれてるような気がしたんですけど。
私は改めてパラパラと手配書を斜め読みしていく。
おかしいおかしいおかしい。船長は勿論のこと、高額賞金首がまあ出るわ出るわ。
ソーリュー海賊団の
あと、ここって本当に
「ねえ、ルーミア。ルフィ。やっぱり行くの、止めない?」
「「え?やだ」」
ですよねー。この二人ならそう言うと思ってた。
と言うか、たった一日しか経ってないのに本当に息ぴったりね…。あなたたち…。
はあ…。まあ、赤髪海賊団は村長の話から判断する限りでは、民間人に積極的に害をなすような海賊ではないみたいだし、刺激さえしなければそこまで恐れることもないか。
ワンチャン賞金の数に踊らされてるだけっていう線も…。うーん…。あるといいわよねー。
私の直感はそれはないって囁いているけどねー。
「どちらにせよ、マキノは接客してるみたいだし、赤髪海賊団はここを暫く拠点にするっていう話だし、そうなると何時かは会わなきゃいけない存在でもあるわけだしね。行きましょうか」
「おー!素敵な出会いの予感がするのだー!」
「おう!おもしろいことになる予感がするぞ!」
まったくこの子達は…。
「それは何?勘なの?」
「「うん!」」
「そう。なら、仕方ないわね」
ルーミアは長年の経験値から来るものなのか、勘だけは妙に鋭いし、ルフィはあのガープさんの孫だ。それだけで説明できちゃうのも中々にクレイジーだが、少なくともこの二人が素敵で面白そうだと言うのなら、それはきっと素敵で面白い出会いになるのだろう。
私がこの二人の勘を信頼する根拠など、それだけで十分なのだから。ためらう理由など、何処にもない。
気付けば、前方の建物からどんちゃんと昼間っから騒がしく宴会でもやっているような喧騒が響いてきた。
「さて、と。そうこう言ってるうちに着いちゃったわね。マキノの酒場」
「「お邪魔しまーす!」」
「展開が早い!」
そうは言ってももうちょっとくらい心の準備をさせてほしかった私は、ルーミアとルフィの二人に引っ張られるようにして慌てて酒場に入店する。
しかし入ってしまったものは仕方ない。私は気を取り直してマキノに話しかける。
「マキノ。席、空いてるかしら?」
「あら。アリスさんいらっしゃい。カウンターのお席なら空いてますよ」
店内は何時に無い混雑を見せていたが、確かによく見ると店の奥のカウンター席には一人しか客が座っていなかった。
他の客達と一緒に大口開いて笑っているその男は、麦わら帽子を被っていて、全体的にラフな格好をしていた。歳は20代後半くらいだろうか。真っ赤な髪が良く映えて、いかにも気さくそうな、なんならそこら辺の田舎村に一人は居るんじゃないかってくらいの雰囲気を纏った男だった。
うーん。でもね。見覚えあるんだよね。その顔ね。
具体的には、ついさっきここに来る道中に見た手配書の束の一番先頭に載ってた写真の男と、良く見たら顔一緒なんだよね。写真と雰囲気全く違うからそっくりさんでしょと言われたら納得しちゃいそうだけど、よくよく観察したらパーツの一つ一つが全く一緒なのよね。
その男にはガープさんと違って一目見たら判る強さは感じられない。一目見て判るのは割りと適当でだらしなさそうなおっさんだってことくらいだ。
だけど、見た目だけで強さの判別なんてしていたら、幻想郷では弾幕少女や異変解決なんてまずやっていけない。あそこは一見か弱そうな少女であっても、ものすごい強さを秘めていることがある場所なのだ。だから幻想郷で人を視る時は、外見からではなく、もっと内側の本質を見抜く能力が必要になって来る。
その能力は、時として私のように魔法的見地に基づく技術的なものであったり、また、ルーミアのように経験則による完全なる勘に基づくものであったりもする。
さて、そんなわけで私は少し意識を集中させて男の内側を観察することにする。内側というのは、要するに実力のことだ。
「ん?なんだいお嬢ちゃん。おれに何か用か?」
マキノに葡萄酒を注文してカウンターの席に座りつつ、最上級にさりげなく、目線もくれずに魔力による観察だけをしたにも関わらず、私の観察が余裕で気付かれた。
どう考えても魔術の素養なんて無さそうな海賊相手にものの数秒で気づかれるとは、流石の私も予想外だった。
「可笑しなことを言うわねお兄さん?私、貴方に目線すらくれた覚えも無いんだけど?」
「いや、まあ確かにちっとも目は合わせてなかったけどな。だけどとは言え、そんなに熱心に視られてたら、緊張しちゃってうかうか酒も飲めないのさ。わかるだろ?」
そう言ってジョッキを傾けグビグビ酒を飲む男には、一見緊張感の欠片すらも感じられない。
まあ、あくまで一見だけど。
判る奴にしか判らないような、ほんの微かなピリピリと突き刺さるような視線を受けて、私は惚けるのを諦めて肩を竦める。
「別に緊張なんてしなくても大丈夫よ。私は海軍でも賞金稼ぎでもないし、なんなら正義の味方ですらないから。ただ、こんな田舎村に大海賊様がやって来たって言うから興味本意で出歯亀しに来ただけ」
私が手配書をヒラヒラさせながら言うと、男―――赤髪のシャンクスはニヤリと笑みを浮かべた。
「ほーう?そりゃおれ達の手配書か?こんな所にまで出回ってるとは、おれ達も有名人になったもんだなあ」
「白々しい。大体貴方ね。一体何やったら政府からこんな懸賞金出されるってのよ。良かったら教えてほしいものね」
「さてなあ。おれたちゃただ自由に冒険してるだけのつもりだったんだがね。突っ掛かってくる奴等を追っ払ってたら、いつの間にかそんなことになってた」
「呆れた。大した自己管理能力だこと…」
どっ!と笑うシャンクスを見て、私は自分の肩の力が抜けていくのを感じる。
物は試しと、一言二言会話してみたら、何だかもう既に警戒するのがバカらしくなってきた。赤髪のシャンクス。実力者であることは間違いないが、掴み所がなく、何とも不思議な雰囲気の男である。
「しかし、自己管理能力っていやあ、お嬢ちゃんの方こそ随分無用心なんじゃないか?あんたが言うところの…あー、なんだ。大海賊様にこんな風に話しかけるなんて」
「私の言うところの大海賊様が、この程度の会話に腹を立てるような小物の集団だったなら、確かに私の視る目がなかったということになるんでしょうね。過大評価のし過ぎだったと、その時は潔く諦める他無いわ」
私が大袈裟に頭を振ると、シャンクスはそれがツボに嵌まったのか、膝を叩いて笑う。
「だっはっは!確かにそうだ!こりゃ敵わねぇな!傑作過ぎる!」
私の元に注文した葡萄酒のジョッキが来たのを受けて、シャンクスは自分の飲んでいたジョッキを私に向ける。
「どうやらあんたはおれたちのことを既に知ってるみたいだが、改めて自己紹介だ。おれの名はシャンクス。海賊で世界をめぐる冒険の旅をしている」
「私はアリス。アリス・マーガトロイドよ。職業は人形遣い。この村で、妹と弟の三人で暮らしているわ」
私は自分のジョッキをシャンクスのジョッキにガツンと当てて乾杯する。
それが、海の覇者として君臨する四皇の一人。赤髪のシャンクスと私との、初めての会合だった。
「あー。ところでアリス」
「何かしら?」
シャンクスの不思議な雰囲気に当てられたのか、それとも店の賑やかな喧騒に当てられたのか、何となくいい気分で葡萄酒を飲んでいると、シャンクスが目線を他所に反らしながら言った。
「アリスの妹弟ってのは、あっちで酒のんで大笑いしている青いリボンの女の子と、酒のんでぶっ倒れてるガキのことでいいんだよな?」
「え…。ちょっ!ルフィ!?」
私が慌てて駆け寄ると、ルフィはどうやらジョッキ一杯分のラム酒をイッキ飲みしたらしく、目を回してぶっ倒れていた。
そこに赤髪海賊団の船員達と、完全にできあがってるルーミアがやって来て
「いやー!すまねえな!お宅のお嬢さんがあんまりにもいける口だったんで、ついつい調子に乗っちまった!」
「アリスー!こいつらなー!めっちゃおもしろいぞー!」
などど宣った。
「ルーミア…。あなたはともかくとして、ルフィにお酒を飲ませちゃ駄目でしょ!まだこの子6歳なのよ!?」
「うん。まさかこんなに弱いとは思わなかったのかー」
「強いとか弱いとかいう問題じゃない!あなたお姉ちゃんでしょうが!見てたんだったら止めなさい!」
「おーそーだったのかー!じゃあ次からは止める」
ルーミアに注意していると、ルフィがへべれけの状態でガバッと起き上がって抗議する。
「リューミアー!おりは弱くらいぞ!」
「おー?じゃあまだ飲めるのかー?」
「お酒が強くたって自慢になりません!あとルーミアも飲ませようとするな!」
私はルフィとルーミアの二人に拳骨を振り下ろした。
「ぎゃっはははは!二人とも怒られてやんの!」
頭にたんこぶを作って転げ回るルーミアとルフィを指差して笑う船員達に、私はキッと鋭い目を向ける。
「あんた達もよ。子どもにお酒飲ませるなんて何考えてるの。一人ずつしばき倒してあげるからそこに並びなさい」
「「げえっ!?」」
大袈裟に身体を仰け反らせる船員達。よくよく見たら一人一人がそれなりの実力者だが、酒の席でそんなものは関係ない。
「はいはいはい!おれからいきます!美人にしばかれるとかそれむしろご褒美!」
お酒の飲みすぎで真っ赤な顔をした船員の一人が勢い良く名乗りをあげたので、私は大して目もくれずにその船員に向かってぺいっと、ストロードールを放り投げる。
ボンっ!と、軽い破裂音の後に残されたのは、アフロヘアーになってぴくぴくと痙攣している船員のしかばねだけだった。
悪のりしていた船員達の顔からサーッと血の気が引ける。
「さ、全員こいつとおんなじにしてあげるから、そこに一列に並びなさい」
私は酷薄な笑みを浮かべて船員達を見回す。
船員達は一斉に目を反らした。
「お、おかしらぁ~…」
その内の一人がさっきまで私とお喋りしていたシャンクス船長に助けを求めるが、彼はあっけらかんとした顔で
「ま、自業自得だわな」
と、見事に部下達を見捨てた。
部下達はお互いの目を見合わせると、タイミングを見計らい、
「「逃げろ!」」
ダッシュで酒場から逃げ出した。
その後、村中を蜘蛛の子を散らすように逃げ回る海賊達と、それを追いかける藁人形という世にも珍しい光景がフーシャ村にて観測されたのは、別のお話。
こうしてフーシャ村に、ルフィや赤髪海賊団という一際賑やかな新住人が加わった。新しい風の到来に、私たちの平和な日常は、更に騒がしいものへと変化していくのだった。
風車はさらに、その回転の勢いを増して行く。
To be continued→