アリス イン ワンピースランド   作:N-SUGAR

9 / 10
私の書きたかったことの一つです。




第九話 冒険の夜明け前(後編1)

「『幻想郷』か。懐かしい名前ね」

 

そいつは、私の故郷を知っていた。

 

「なかなかエキサイティングな体験だったわ。あそこは魔法が支配する土地だものね。私のためにある場所と言ってもいいくらい、実に素敵で、興味深い場所だった」

 

彼女は過去を懐かしむように、思い出を噛み締めるように、幻想郷を回想する。

 

「だけどあそこでは駄目だった。魔法だけの世界では、私の目的は遂げられなかった」

 

しかしそれは、彼女が幻想郷を過去のものとして切り離している証明でもある。

 

「今は違う。私の興味は、私の意欲は、()()()にある」

 

過去から目を離した彼女は前だけを向いている。そして今彼女の目は、私だけを見つめている。

 

「アリス・マーガトロイド。あなたさえ手に入れれば、私の夢はまた一歩完成へと近付くの。だから、あなた、私のモノになりなさい」

 

彼女はそう言って、私に手を差し伸べた。

 

彼女は魔法の言葉を紡ぐ。

 

「アリスが私のモノになるのなら、幻想郷に戻りたいというあなたの願いを、叶えてあげてもいいわ」

 

魅力的な提案だった。幻想郷に戻れる。その言葉だけで、私に対する誘惑としては充分過ぎる。

 

差し伸べられた手を取るには、充分過ぎる提案。

 

私は彼女の方に手を伸ばし、そして―――

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「おい、アリス。こりゃ一体どういう状況だ?」

 

「世界」の調査をするための実験を終え、私、ルフィ、ルーミアの三人はマキノの酒場にお昼ごはんを食べに行ったのだが、それから更に一時間経って、私達は店の外にいた。

 

そして私は、そこでそんな質問を投げ掛けられる。

 

困惑溢れる顔で繰り出された疑問に溢れる質問は、赤髪海賊団の船長。赤髪のシャンクスの口から放たれたものだった。

 

どうやらいつの間にか航海から帰ってきていたらしい。

 

世界の海を旅して、いろんな経験を積んでいるであろう彼をここまで困惑させるなんて一体それはどんな状況なのかしら。と、普段の私だったら非常に気になったであろうところではあったのだけど、しかし、その状況を作り出した張本人の一人は何を隠そう私であった。だからその正体が気になる道理などあるはずもなく、私はただ分かりきった現状を平然とした顔で説明するしかない。

 

「何って、見たまんまの状況だけど?」

 

「見たまんまって言われてもなあ…」

 

そう言ってまじまじと目の前に広がる現状を観察するシャンクス。その目線の先では、ルフィが山賊の手によって地面に押さえつけられていた。

 

「くそ!はなせー!馬鹿山賊ー!」

 

「ぜぇ…放すわけ…ぜぇ…ねェだろ…この…!」

 

ルフィは三人の男によって押さえつけられていた。いつだったかマキノの酒場に現れて、シャンクスの頭でお酒の瓶を割って帰っていったなんとかとかいう山賊の棟梁とその子分の三人だ。

 

あちこちが傷だらけで疲労困憊といった様子の三人の男はじたばたと拘束を外そうとするルフィを押さえつけるのに必死になっていた。それ以外の他の山賊たちに至っては、ボコボコに殴られて意識すら無い状態だ。

 

この場には私とルーミアもいることだし、それだけだったらシャンクスもここまで困惑せずに済んだのかもしれない。私達が山賊をボコったのかくらいの考えは浮かぶだろう。しかし、私とルーミアはマキノの酒場にあったテーブルと椅子を外に持ってきて、それをカフェテラスにして優雅にお茶を飲みながらのんきに状況を観戦している。確かに端から見れば、これは謎めいた状況に見えても仕方がない。

 

まだしもカフェテラスの横でハラハラしながら状況を見守っているマキノのような態度を私達もとっていたなら、もうちょっとは分かりやすい状況だっただろう。

 

何がなんだかわからないという様子の赤髪海賊団には可哀想だが、私は今日の朝から昼にかけて行った河童の針の実験で今日1日分の神経を既に使い果たしてしまっていた。一から丁寧に状況を説明してあげようという気には更々ならない。これで常日頃からルフィとルーミアの修行を訝しげな顔で見ながら通りすぎる村長さんが相手だったら、「見れば分かるでしょ」の一言で済ませるところだ。

 

だけど相手は村長さんではなく、日頃フラフラと冒険ばかりしてフーシャ村にいないせいでフーシャ村の情報弱者になってしまっているシャンクス達である。

 

いくら私が魔女だとしても、慈悲の心くらいは持ち合わせている。よろしい。哀れなシャンクス達のために少し説明してあげるとしますか。

 

「仕方ないわね。じゃあ、経緯を簡単に説明するわ。まず、私達はマキノの店でお昼を食べていた。続いてそこに山賊がやってきた。ルフィが喧嘩を売った。山賊がその喧嘩を買った。喧嘩なら外でやれと私が言った。…ここまでの状況説明は理解できる?」

 

「ああ…まあ…わかる」

 

「オーケー。説明を続けるわね。山賊達とルフィが店の前で喧嘩を始めた。長引きそうだったから私達はテーブルを持ってきてアフタヌーンティーでも嗜みながら観戦しようとした―」

 

「悪い。もう理解できなくなってきた」

 

「―マキノが喧嘩を止めようとした。ルフィが勝手に売った喧嘩をマキノが止めるのはナンセンスだから見ているように私は言った。余計なことはしないで一緒にお茶でも飲みながら観戦しましょうと誘ったけど、こんな状況でお茶なんか飲んでられませんと断られた。私はこれが真に常識的な反応なのかと、いつの間にか非常識の方に堕ちていた自分にショックを受けて―」

 

「話が脱線してないか?」

 

「―それで、ルフィが暴れまわった結果山賊の大部分はノックダウンした。けれど、とうとう最後の三人に取り押さえられてしまった。今ここ。状況説明おしまい。どう?分かった?」

 

「なるほど。わからん」

 

「まったく鈍いわね。どこが分からないのよ」

 

シャンクスはわりと間の抜けている所があるけど、まさかここまで説明して何も分からないほど馬鹿な男じゃないでしょうに。

 

「つまりあれか?この惨状はルフィが一人で生み出したと?」

 

「カフェテラスを惨状に含めるなら、それは私達の仕業だけど」

 

「カフェテラスはいいんだよ別に。この山賊の死屍累々の方の惨状だ」

 

「そっちは完全にルフィの仕業ね。なんだ。やっぱり分かってるんじゃない」

 

私が頷いて

 

「あんな人間に取り押さえられるなんて、ルフィはまだまだ修行が足りないよなー」

 

ルーミアが苦言を呈すると、

 

「まじかよ…。将来有望だとは思ったけど、ここまでは予想してなかったんだがなァ…」

 

シャンクスは苦笑いを浮かべることしかできないようだった。

 

そんなシャンクスの肩をベックさんがぽんと叩く。

 

「まあ落ち着けよお頭。アリスとルーミアがアレな感じなのは初めから分かってただろ?ルフィがこうなるのも時間の問題だったってだけのことだ」

 

ベックさんの方は割と現状を素直に受け止めているらしく、冷静にそんなことを言った。

 

「ちょっとベックさん?アレって何よ。アレって。」

 

「まったく鈍いな。分からないとこがあったか?」

 

聞き捨てならないことに私がツッコむと、ベックさんはニヤリと笑って皮肉を返してきた。赤髪海賊団で一番頭の回るベックさん相手だと、さすがの私も口で勝つのは難しい。私は反論するのを諦めてルフィの方に目をそらす。

 

どうやら山賊達は、とうとう暴れるルフィを完全に取り押さえることに成功したようだ。

 

「ぜぇ…はぁ…、クソっ!舐めた真似しやがってこのガキ…!」

 

山賊の棟梁は、どうやら息を整えたらしく部下二人にルフィの手足を押さえつけさせて、自由になった右手にサーベルを掴み、鞘から引き抜いた。

 

「ゴムのような身体なんて面白いと油断しちまったのが間違いだった…!化け物め。生かしちゃおかねェ!」

 

そう言って山賊はルフィの首に狙いを定めながらサーベルを振り上げる。

 

流石にこれは止めないわけにはいかない。

 

「ちょっと。あなた、それはもう喧嘩の領分ではないんじゃない?」

 

「あ?なんだァテメェ…。そういやぁお前もさっきから生意気だったよな…。喧嘩なら外でやれとか図々しくもこの俺様相手に文句垂れやがって。あの時はガキの方がムカついたから見逃してやったが、お前、死にたいのか?」

 

「そっくりそのまま返すわ。あなた。死にたいの?」

 

「あ?」

 

私は椅子から立ちあがり、訝しむ山賊の前に歩いていく。

 

「私はその子の姉よ?弟を黙って見殺しにする姉がどこにいるのよ。ルフィが売った喧嘩だから、喧嘩でルフィを負かす位なら当然咎めないけれど、命なんて取らせるわけないじゃないの。そんなことさせるくらいなら私があなたを殺すわ」

 

「姉…。コイツのか?」

 

「ええ。そうよ」

 

山賊は黙りこむ。ルフィの予想外の強さを体感してしまったのだ。当然その姉と名乗る私にも何かあるのではないかと警戒はするだろう。この山賊も、粗暴ではあるが決して馬鹿なわけではない。

 

「―それに、ルフィをこれ以上傷つけるってならおれ達も黙っちゃいないぜ?」

 

山賊の前に立つ私の隣にシャンクス達も加勢する。マキノとルーミアも続いてその列に加わった。

 

「お前らは…あの時の腰ぬけ海賊共か」

 

「ぐぐ…。シャンクスは…腰ぬけじゃ…ねぇ!」

 

山賊の足元で押さえつけられているルフィがこの期に及んで声を上げる。まったく。本当にしょうがないんだから。私は呆れてつい、頬が緩んでしまう。

 

「なんだルフィ。おまえ、おれのために怒ってくれてたのか?」

 

シャンクスが意外そうに言う。口角がヒクヒクと上がっているので満更でもないようだ。

 

「う…うるさい腰ぬけシャンクス!おれは別にシャンクスのために怒ったわけじゃねぇ!」

 

「じゃあなんで怒ったんだよ」

 

「な…なんとなくムカついたからだ!」

 

「だっはっは!ルフィ。それじゃただのチンピラだぞ!」

 

シャンクスは素直じゃないルフィをからかってひとしきり笑った後、山賊の棟梁の方に目を向ける。

 

「なあ、山賊よ。ここら辺で勘弁してやってくれないか?こんな状況だ。流石にお前さんが不利なのは分かっているだろ?」

 

部下は大半が戦闘不能。自身も満身創痍で、回りには未知数の女と大勢の海賊達。この山賊がどこまで自分に自信があるのかは知らないが、これで不利を見抜けないようならそいつは集団の長になるべきではない。

 

そしてこの山賊の棟梁は、そこそこ頭は回る男だった。

 

「…ち。仕方ねェ。ここは退いてやる」

 

シャンクスの言葉に素直に従うのが悔しそうではあるが、山賊はそう言ってルフィをこちらに蹴りあげた。

 

「おっと」

 

飛んできたルフィをシャンクスがキャッチする。が、ルフィは体が自由になったと判断するやいなやすぐに山賊の方に飛びかかろうとする。シャンクスはルフィの服を掴んでそれを止める。

 

「ルフィ。やめなさい。この喧嘩はあなたの負けよ」

 

シャンクスに首根っこ掴まれた状態でジタバタと暴れるルフィを私は叱責した。

 

「まだ負けてねぇ!おれはあいつをぶっ飛ばすんだ!」

 

「いいえ、あなたの負けよルフィ。もう決着はついてる。これ以上やればそれはもう喧嘩では済まないわよ」

 

「くそー!アリスのわからずや!」

 

ルフィは全く納得してないようだが、取り敢えずいきなり山賊に飛びかかろうとする様子は無くなった。納得はしてないけど、これ以上ごねるのは男としてカッコ悪いと頭の中では分かっているのだろう。赤髪海賊団の生暖かい目に囲まれながら、ルフィはむすくれたままおとなしくなった。

 

 

 

 

「おまえら、次に会ったら覚えておけよ」

 

その後意識を全員取り戻した山賊達は、そんな捨て台詞を残して去っていこうとする。

 

色々と言いたいことはあるが、しかしここで終わるのならば、まだ今日という一日は平和に終わることができる。

 

ぞろぞろと村の通りを歩きながら去っていく山賊達の後ろ姿を見守りつつ、このあとどうしたものかしら。ルフィとルーミアをシャンクスたちに任せて家に帰ってお昼寝でもしようかなんて私が思っていると、

 

 

「お、やーっと見つけたわ。ここよここ。この後ろに私達の目的地があるわ」

 

「やっとか!まさかここに来て早々山下りするはめになるなんて思わなかったからもうくたくただぜ!」

 

 

山賊達の奥から、そんな二つの声が聞こえてきた。

 

女性の声。それも知らない声だ。少なくとも村の住人ではない。

 

「なんだお前ら」

 

山賊の棟梁が声をあげる。どうやら知らない誰か達は、山賊達の目の前で足を止めてるようだ。

 

「なんだと言われても困るわ。私は向こうに行きたいだけなのだけど、道を塞がないでくれない?邪魔なのよ」

 

「テメェ、あまり今のおれを怒らせない方がいいぞ。おれは今かなりイライラしてるんだ」

 

ガチャリという金属音が聞こえる。どうやら山賊はピストルを突きつけているらしい。ピクリと、シャンクスたちが身構える。いざというときに山賊を止められるように構えているのだろう。相変わらずお人好しだ。

 

「うん?そんなことしてしまっていいのかしら?化石みたいな骨董品とは言え、それは人を殺すための道具よ?」

 

しかし、ピストルを突きつけられているにも関わらず、女性の声にはいささかの動揺も見られなかった。

 

「あ?まだわかんねェのか。今すぐ退かなきゃぶっ放すって意味だよ。おれたちをなんだと思ってやがる。山賊だぞ。痛い目見たくなけりゃあ、やることがあるんじゃねェか?」

 

その瞬間。ふっ…と、空気が変わるのを感じた。底冷えするような。それでいて燃え上がるような怒りの感覚。

 

一体あの山賊の後ろにいるのは、何者だ?

 

「そちらこそ理解していないようね。私は邪魔というやつがとにかく嫌いだし、何より、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ…?」

 

 

 

山賊が何か言うよりも速く…。

 

 

 

()()()()()()―――()()()()()()()()()

 

 

 

「なっ!!!???」

 

何が起こった!?というか、それ以前にあの攻撃は一体なんだ!?

 

魔法じゃない。魔力反応は感じなかった。であればあれは科学の産物のはずだ。

 

だけど、だとするならあの十字架はなんだ!?そして何より、その十字架の出現時に展開された――()()()()()()()()()!?

 

あんな魔法的な現象が魔法じゃないなんて、これはどういう冗談なの!?

 

私が密かに動揺していると、紅い十字架の上げた土煙が晴れる。文字通りの死屍累々で倒れ伏す山賊達の奥に、そいつはいた。

 

赤い。第一印象はとにかくその一言に尽きる。服も赤ければ、羽織っているマントも赤い。身体の90%を赤で構成しているかのような少女だった。

 

「ああ――素敵ね。壁を薙ぎ払えば目的はすぐそこって感じがして。こういう感覚のためだけなら邪魔もそんなに悪いものじゃないのだけれど。…あれがこの世界の『特異点』よ」

 

「どれだぜ?結構一杯いるみたいだけど?」

 

傍らに昔ながらの海兵(セーラー)服を着た少女を引き連れたそいつは、不敵な笑顔を浮かべなら――。

 

――まっすぐに私をその目で貫いていた。

 

 

 

フーシャ村に、嘗て無い異変が起こった、まさにその瞬間が、この時だった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「な…なんだアイツ…。アリスの知り合いか?」

 

「知り合いじゃないわよ。そっちこそ知り合いなんじゃないの?」

 

シャンクスと私は、お互いに目の前の惨状を作り出した赤い少女の素性を問うが残念ながらその情報交換にあまり意味はなかった。

 

私は当然知らないし、シャンクスたちも何も分からないようだ。

 

ただし、何となくでも分かることはある。

 

私は確かにあの赤い少女とセーラー服の少女を全く知らない。

 

だけど、()()()()()()()()()

 

直感が、そう語りかけていた。

 

「あなた達…一体…」

 

私が呟くと、赤い少女とセーラー服の少女は山賊を踏みつけながらこちらに近づいてくる。

 

「ふむ。どうやら彼女が私達の素性を御所望のようね。所詮私達はストレンジャー。礼儀としては此方から自己紹介するのが道理でしょう。ちゆり」

 

「はーい!了解したぜ!…じゃない。畏まりましたぜ夢美様」

 

山賊の死屍累々を越えて、こちら側にやって来た二人は、こちらと少し距離を保って立ち止まる。そして、セーラー服の少女が言った。

 

「さてさて、突然の騒ぎに面を食らっているお前達!この方の名前は岡崎夢美!そして私はその助手の北白河ちゆりだぜ!よろしくな!」

 

「ちゆり…。それは自己紹介とは言わないんだけど…」

 

岡崎夢美…というらしい赤い少女が頭を抱えて呆れる。しかし北白河ちゆりと名乗った少女は自信満々な体を一向に崩さないまま話を進めた。

 

「私達は、えーっとなんだったか、この世界の『特異点』とやらを探してこの村までやって来たんだ。ここにそれがあるって夢美様が言ってるんだけど、私もさっき突然聞いたばかりなのでどれがそれなのかなんてさっぱりわからん。ので、あとは夢美様の言うことをよく聞くように!」

 

話を進めると言っても、それはかなり一方的な進め方だった。何を言っているのかさっぱり理解できない。もうちょっとまともに説明してはくれないか。とは言え、聞き捨てなら無い単語が幾つかあることは確かだった。

 

「…()()()()?それって…」

 

そんな言い方をするってことはつまりそういうことなのだろうか?それに岡崎夢美も北白河ちゆりも、どう考えても日本人の名前だ。

 

「ああ、やっぱり本人にはある程度自覚があるようね。話が通じやすくて助かるわ」

 

岡崎夢美が私の呟きに反応した。迂闊な発言だったか?私は警戒度を一つ上げる。

 

「面倒なのは嫌いだから手っ取り早く行きましょう。『この世界』。いい着眼点よ金髪のあなた。そう。私たちがこの世界を『この世界』と呼ぶ以上、私達は()()()()()()()()()()()

 

簡単に言えば異世界人ね。と、彼女はそんな重大なことをさらりと言った。

 

私とルーミアにとって、それは超絶かなり重要な台詞だ。異世界人。つまりこいつらは――。

 

「い…いせかい人だと?なんだそりゃあ…?つまり、それはなに人だ?」

 

何もわかってなさそうなシャンクスが疑問の声を上げ。

 

「異世界人…。何となく想像は出来るが…。まさかそんなことがあり得るのか?」

 

何となくでも理解し始めているらしいベックさんが驚愕の声を上げる。

 

頭のできの差が如実に現れている光景ではあるが、この場合はベックさんが異常すぎるだけだ。想像の産物としての異世界という概念さえあまり知られていないであろうこの世界の住人であるベックさんが、今の一連の流れで何となくでもその概念を想像できてしまう。それはもはや頭がいいとかそういう次元ですら無い気がする。

 

「んで?そのイセカイジンとやらが、フーシャ村になんの用があってきたんだ?」

 

ヤソップさんが私の前まで進み出て口を開く。どうやらこの人は、分からないものを分からないものとして脇においたまま取り敢えず話を進めようとしているようだ。これはこれで賢い選択である。

 

「まあ、正確に言えば可能性世界人と言った方が正しいのだけれど、それはどうでもいいわね。何のために。そう。もちろん用があって私はここに来ているのよ」

 

岡崎夢美はそう言って、両手を広げる。

 

「この世界。特にここね。このフーシャ村が、一部『特異点』化しているからその調査に来たのよ。それが、私の野望に直結するから」

 

「『特異点』化?具体的にはどういう状況なんだそれは?危険なのか?」

 

シャンクスがこめかみを人差し指でグリグリしながら尋ねる。どうやら分からないなりに必死に話について行こうとしているようだ。それにチラチラと私の方を向いているから、恐らく私が関わっていそうだということを直感的に予想しているらしい。

 

「別に。危険なんて何もないわ。影響は有るかもしれないけど、この世界全体じゃあ別に大した影響にもならない。危険な場合もあるけどね。今回はそうじゃない。ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「もしよければ教えてくれないか?その特異点とは何のことなのか」

 

ベックさんが私のとなりまで進み出て尋ねる。

 

「もちろん説明するわ。そうした方が私の用事的にも手っ取り早いし、職業柄、人にものを教えるのは好きだしね。あなた達、時間はある?」

 

私達が曖昧にうなずくと、岡崎夢美はこちらに近づいてきて言った。

 

「なら、落ち着いて話せる場所に移動しましょう。どれだけ簡潔に説明しても、大雑把に全て説明しようと思ったら大学の講義一コマ分くらいになってしまうわ。立ち話するには長すぎる時間でしょ?」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「アリス、ルーミア…。それにルフィ、シャンクス…ね。なるほどなるほど」

 

夢美はなにやら考えながらうんうんと頷いている。場所は再びマキノの酒場。大勢で落ち着いて話せるところと言えばフーシャ村ではここくらいだ。そこで、私達がお互いの身分を紹介しあった後のことである。

 

その紹介によると、夢美はやはり日本人で、なんと大学の教授をしているらしい。この時点で彼女が異世界人であるということは私の中で確定した訳だが、しかし大学の教授と言うには夢美は若すぎるのではないかという疑問は残る。どう贔屓目に見ても、彼女が成人しているようには見えない。

 

「うん。大体判ったわ。やはり素敵なことになっているみたいね」

 

夢美はそう言うと、指を鳴らした。すると夢美の助手と名乗ったちゆりがどこからともなくホワイトボードを運んできた。いや、本当にどこから持ってきたの?少なくとも酒場にそんなものは無いはずなのだけれど。

 

「さて、それでは講義を始めましょうか。私達が何者で、どんな用があってここにやってきたのかの講義を」

 

彼女はペンを持って、講義を始めた。

 

 

 

「さて、まだいまいち状況がわかっていない未開人達のために説明すると、前提として、私達は異世界人。別世界の住人なの。つまり、あなた達が今暮らしたり冒険したりするこの世界の外に存在する、こことは違う世界の住人。

 

「より正確には、『可能性世界』の住人と言うのが正しいのだけれど、これを詳しく説明しようとすると講義の時間がもう三コマ分増えるからここではただ異世界とだけ認識しておきなさい。信じるか信じないかはあなた達の自由だけどね。

 

「その『異世界人』である私が何故この世界の、それもこんな辺鄙な田舎村まで来たのかといえば、これもさっきちらっと言ったけど、この世界のこの村に私好みの『特異点』を見つけたから。

 

「あなた達赤髪海賊団が心配しているのは、この『特異点』という不穏な単語が、何か村に害を及ぼすのではないかということでしょう?

 

「これもさっき言ったけど、結論から言えばそんなに危険なことはないし大きな影響もないわ。起こってることはすごいことなんだけど、そもそもこの世界が特殊すぎるから危険度はそんなに変わらないと言うのが正しいんだけどね。

 

「ここで私が言っている『特異点』というのは、その世界の流れだけでは本来起こり得ない現象が起こった場所ことを指すわ。大抵の場合、それは世界の外部からの影響であることが多い」

 

さて、と、ここで夢美は一区切りをおいて、私の方を向いた。

 

「ここで問題。このフーシャ村で現在起こっている『特異点』とは何か。アリス・マーガトロイド。簡潔に説明せよ」

 

夢美に指名されることで、周りの目線が一斉に私に集まる。

 

…この教授。もしかしなくても意地が悪い?

 

とは言えここで嘘をついても仕方がない。何より私とルーミアの最終目的から言ってこれは嘗て無いチャンスなのだ。

 

「…私とルーミアがここにいること…かしら?私達が、本来この世界の住人ではないから」

 

ざわ…。と、周りが騒がしくなる。それはそうだ。赤髪海賊団やマキノからしてみれば衝撃的事実もいいところなのだから。別に隠すようなことでもないが、語らないままで済むのならそれに越したことはなかったのに…。

 

「アリス…、お前。いせかい人だったのか…」

 

隣に座るシャンクスが話しかけてくる。あと異世界の発音がまだちょっとおかしい。

 

「そうそう。実はそうなのよ」

 

「軽っ!?そして棒読みだな!いや、まあアリスがなに人だろうと別にいいんだけどさ。ぶっちゃけ『いせかい』がどうのと言われてもおれにはよく分からねーし…」

 

「それに、ある程度予想はついてたしな」

 

ベックさんが冷静に続ける。いや、ある程度予想が付いてたのはたぶんあなただけよ。この人、頭の回転が化け物過ぎるのだけど…。

 

「そう。アリスが異世界人であるのはこの場合かなり重要だけどそれだけなら大したことはない。特異点の直接の原因とすら言えない。つまり、さらに重要なことが他にあるの。点数にするならアリスの答えは40点ね。ちなみに単位取得は60点以上」

 

「落第してるじゃないの。じゃあ、何が特異点になってるっていうの?」

 

辛口な教授に私が文句を言うと夢美はにこやかに笑う。

 

「ええ。ええ。ま、アリスの『世界』に対する理解度もこれで何となくわかったからヒントをあげましょう。ヒント。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

あとは、あなたの今まで見聞きしてきたことを材料に答えを出してみなさい。

 

教授の出題に、私は考える。ちらりと、どう考えても私より頭が回るであろうベックさんを見てみるが、彼も答えは出せていないようだ。流石にベックさんでは答えを出すための専門知識が足りないか…。

 

考える。私がこの世界に来ることと、岡崎夢美がこの世界に来ることの違いとはなにか…。

 

「因みに…。それは私とルーミアの二人に言えることかしら?」

 

「もちろん。ルーミアちゃんも、別にただの人間と言うわけではないのでしょう?」

 

私の質問に、夢美は答える。そしてその答えはかなり大きなヒントを私にくれた。

 

()()()()()()()()()()()()()()。つまり、ただの人間なら問題はないということか?私達が魔法使いや妖怪だから問題があるということになる…?

 

しかし、魔法というのなら、それは夢美にだって言えることだ。彼女は先ほど見たこともない魔法のような力を使って山賊達を押し潰した…。

 

いや、違う。そうだ。

 

彼女は先ほど、()()()()()()()()()使()()()()()

 

見たところ彼女達はただの人間だ。変な力は持っているが、それは少なくとも魔法的な力ではない。

 

そして私の知識上、魔法的な力でないならそれは十中八九まず間違いなく科学的な力でしかあり得ない。

 

つまり、これらの情報から建つ仮説とは―――。

 

「この世界に…、()()()()()()()()()()が紛れ込んだことが…特異点の原因だということ?」

 

「60点。ギリギリだけど単位をあげましょう。ま、アリスの知識ではこれ以上の答えは望めないかしらね?」

 

私の仮説は、どうやら教授から及第点を貰えるものだったようだ。

 

そして、この仮説が正しいのならば、同時に判ったことが一つある。

 

「…つまり、この世界には、そもそも魔法という力や概念は、存在しない?」

 

「その通り。この世界は科学オンリーの世界よ。科学研究で解き明かせない世界の法則が何一つ存在しない世界。その力は大統一理論に従うものだから、本来この世界には魔力は存在しない」

 

そういうことになる。もともと魔力というものは神秘を含む空間にしか存在しない。つまりフーシャ村のような場所には私達の世界であろうとほとんど無いものであったから分かりにくかったが、この世界にはそもそも魔力という力そのものがどこにも無いということらしい。もちろん、彼女の言葉を鵜呑みにするならばという条件はつくが…。

 

魔理沙のように、人間のまま魔法を使うタイプの魔法使いだったらそれは絶望的な状況だったかもしれない。あいつのようなタイプの魔法使いは外から魔力を補充しなければ魔法を使うことができない。魔理沙が魔法の森でキノコを好んで採ってくるのは、個人の好みも勿論あるが、基本的には、魔法の森のキノコから魔力が抽出できるからだ。この世界に魔力源となるものが存在しないのなら、魔理沙のような魔法使いではいずれ魔法が使えなくなる。

 

しかし私やパチュリーのように、『魔法使い』という種族に、つまり人外となった者は違う。私達は自身の生体エネルギーを魔力に変換することができる。自身が魔力源となれるのだから外部に魔力源を求める必要はない。だからこそ、その事実には今の今まで気付くことができなかったとも言えるが…。

 

私が暮らしているせいで、私の行動範囲にはある程度魔力が漂っていたし…気付けという方が無茶な気もするのだけれど…。

 

そしてルーミアにしても同じことが言える。妖怪は人間からの認知や畏れを妖力に変換することで自身の力を補充している。フーシャ村の人からの認知だけでも存在するだけの妖力を得ることは容易だったし、何より私という特大の魔力源がいた。だからルーミアが自身の妖力不足に悩む心配は無かったのだ。

 

この世界には魔法という概念が存在しない。これは一概には否定できない仮説だった。

 

しかしである。魔法という概念が存在しない世界に魔法という概念を持った異世界人が紛れ込む。ここがそういう特異点だったとして、それが一体何を引き起こすというの?私はそんな疑問を口にした。

 

「もちろん、世界の概念が歪むのよ」

 

私の疑問に対し、教授が答える。

 

「概念というのは存在し、認知されることによって適応されるの。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「世界の概念が歪むと、どうなるの?」

 

「どうにも?ただ、この世界が魔力や魔法の存在を認めるというだけの話よ。そのうちどこからともなく魔法生物なんかが誕生するかもしれないけど、ぶっちゃけこの世界で今更そんなのが出てきたところで大した影響があるとも思えないわね。しかも今のところ魔力源となるものはあなた達しか存在しないわけだし」

 

ああ、それと――と、教授は続ける。

 

「概念の調整過程で世界の壁が多少不安定になることがあるみたいね。本当に多少だけれど世界がミクロ単位で流動するから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「―――あ」

 

意地の悪い笑顔でそう告げる教授を見ながら、私は今朝の実験の失敗を思い出した。

 

世界の壁を動かないものと高を括って調べていたら、世界の壁が動いたせいで世界に穴を開けてしまったあの実験。

 

あの失敗は、世界が不安定だったから起こったものだということか!

 

というか、この教授。あの実験のことを知っている!?

 

「本当に不用意も良いところだったわあれは!無造作に世界に穴を開けてしまうなんて、あれこそどんな事故が起こるか分かったものじゃなかったもの。まあ、お陰で私達は世界の外からあなた達を観測できたのだから私的には感謝してもし足りないくらいだけど!」

 

「なっ…!じゃあ、あなた達がここに来たのは、あの実験のせいだって言うの!?」

 

「イグザクトリー。その通りよ。いや、本当に運が良かったわ。あの時ここら辺をたまたま偶然通りかからなかったら危うく見逃すところだった。そもそもこんな素敵なことが起こっているような状況じゃなけりゃ、誰が好きこのんで科学オンリーなんてつまらない世界に来るものですかっつーのよ」

 

私が行った実験を世界の外から目撃される。まさかそんなリスクが存在するなんて想像もしていなかった。

 

しかし、やはりそうか。今の発言で決定的になった。

 

岡崎夢美は、異世界間の航行技術を所有している。

 

ならば、私はそれを何としてでも手に入れなければならない。

 

彼女の持つ技術を使えば、私とルーミアが幻想郷に帰ることも恐らく可能だろう。

 

どうしたものかと私が考えようとした時、ベックさんが口を開いた。

 

「それで?ユメミ。お前は結局何のためにここに来たんだ?ここで起こっている特異点とやらは、別に放っておいても問題はないんだろ?」

 

そうだ。それがあった。自分の目的に夢中になっていて忘れていた。

 

岡崎夢美は何のためにここに来たんだ?

 

特異点がある。科学の世界に私達が魔法を持ち込んだことで、世界の概念が歪んでしまった。

 

何とも壮大な異変に見える。

 

しかし、それを説明した本人は、特異点を大した問題ではないと言う。

 

ではその本人は、何故問題の無い特異点にわざわざ足を運んだのか?

 

「ああ、それね。もちろん。目的はあるわ。私は別に世界の安定とか平穏とか、そんなどうでもいいことのためにここまで来たわけじゃあないのよ。もっと私的な目的のためにここまで来ているの」

 

相変わらず気楽な調子で夢美は応対する。

 

しかし、その身をまとう雰囲気は明らかに先程までとは違っていた。

 

熱くなっている…のか?

 

教授は声を張り上げて、叫ぶようにその目的を告げた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!私の今の目的はそれだけだし、そのための手段をこの特異点に見つけたから、私はここに来たのよ!!」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「魔法の存在を…認めさせる?」

 

「そう。私の世界の、大統一理論に前頭葉を支配されたカーバイン頭のジジイ共にね」

 

教授は熱く語る。

 

「私の世界は、アリスの世界と比べるとどちらかと言えばこちらの世界に近い可能性世界なの。つまり、科学だけの世界。粒子の種類や原子構造が多少異なっているせいで世界の様子は大分違うけどね。

 

「そして私の生まれた時代では、大統一理論という学説が学会の主要になっていて、大統一理論に当てはまらない魔法の存在は完膚なきまでに否定されていた。でも私はそれを認められなかった。

 

「魔法の存在を証明しようと幾つも論文を提出したわ。でも、学会の重鎮共はろくにとりあいもしなかった。

 

「私はとうとう平行世界に魔法を求めることにした。結果的に、私の目論見は成功したわ。私は魔法が支配する素敵極まりない世界に辿り着くことができた。

 

「私はその素敵な記録を学会に提出したわ。この世紀の発見を学会の石頭共にも共有してやろうと思った。でも私の恩師の筈のくそジジイがそれを見て何て言ったと思う?「中々面白い妄想だな岡崎君。小説にするには些か文量が足りないが、何らかのメディアで発表すればそこそこ人気が出るのではないかね?」よ!?挙げ句、あろうことか私を学会から追放しやがった!頭の中であのくそジジイの殺害方法を5000通り考えたけど、全部返り討ちにあったから実行するのは諦めたわ。

 

「私は理解した。あのくそジジイを始めとする学会の連中を納得させるには、やつらの鼻っ柱に魔法を叩きつけるしかないって。

 

「私は素敵な魔法の世界から、魔法に関する品をこっそり持ち帰っていた。魔力を溜め込んだ魔法植物だったのだけど、取り敢えずこいつであのジジイを殴り殺すことから始めようと、植木鉢を持ち上げて、そして絶望したの。

 

「私が持ち帰った魔法植物は、このときにはもう、ただの植物に成り下がっていた。少々魔力を溜め込んでいるだけの魔法植物では、科学の世界に均されて科学概念に取り込まれてしまう。世界には自己修復機能があって、少々の魔力なんて元々無かったものとして扱われ世界に認識すらされないと気付いたのは、その時だった。

 

「私は失意に暮れたわ。外の世界から魔法を持ち込んでもこの世界はその魔法を否定してしまう。それでも諦めきれなくて、私は再び可能性世界に答えを求めた。

 

「そして―――とうとう私はその答えを見つけたの」

 

岡崎夢美は、私の肩を掴む。

 

「あなたという、答えを!!」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「私という、答え?」

 

「そう!あなたこそが!私の答え!」

 

夢美は続けざまに言う。目が割とヤバイ感じになっているのは気のせいだと思いたい。

 

「魔法単体を持ち込んでも科学の世界には意味がない。世界がそれを均して消してしまうから。だけどこの世界は違うわ!」

 

「…科学オンリーの世界に魔法という概念が適応されつつあるという、特異点が生じているから?」

 

「その通り!それは何故!?」

 

「…私が…。自分で魔力を精製できるから…かしら?」

 

「90点!素晴らしい答えね!そう。世界が少々魔力を均そうとしたところで、あなたには無限の魔力を精製する魔力炉がある!そうでしょう?そうに決まっている。でなければ説明がつかないからね!」

 

「ええ…。まあ…。そうね」

 

「世界の修復機能がどんなに頑張ったところで、世界はあなたというイレギュラーを排除することが出来ない。魔法という概念を認識せざるを得なくなる!すると世界はどう動くか?」

 

「…魔法という概念を含む世界へと、自らを作り替える」

 

「そう!そして実際にこの世界はその過程にある!」

 

ああ、これでやっと話が繋がった。

 

「つまり、あなたは今このフーシャ村で起こっている特異点を、あなたの世界全体で起こしたい訳ね?」

 

「100点満点!完璧な答えよ。ならこの後私が言うことも、賢いあなたなら予想がつくかしら?」

 

ゾクリと、私の背筋に悪寒が走るのを感じた。

 

夢美の目的と、私という手段。そこから考えられる彼女の次の行動なんて一つしかない。

 

「まさかあなた…。私をあなたの世界に連れていこうとしているの!?」

 

「120点。まさしくその通り。私の夢のためだもの。もちろん拒否権なんて与えないわ」

 

掴まれた肩に痛いほどの力が入る。

 

 

ユラリ…と、夢美の背後の空間が歪むように見えた。

 

 

ヤバイ。何が起こるのか分からないが…何かされる…!?

 

 

「アリス!!」

 

 

シャンクスの声が聞こえて、同時に身体が突き飛ばされる。

 

バシュッ!という、空気が破裂するような音が聞こえたかと思うと、私の頬に何か熱い液体が降り注ぐ。

 

赤髪海賊団の船員達が立ち上がり、酒場に緊張感が張り詰める。

 

私はすぐに体勢を立て直して状況を確認する。

 

そして、目の前に広がる光景に、絶句した。

 

「シャンクス!!」

 

 

ルフィが叫ぶ。

 

 

「腕が…!!!」

 

 

 

シャンクスの、左の肩から先が、無くなっていた。

 

ボタボタと、血が店の床に零れ落ちる。

 

 

「あーあー。ダメじゃないあなた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。逆に片腕だけで済んでよかったわね」

 

こいつ…!やっぱり私を連れ去ろうとしていたのか!

 

何ともない様子で頭を掻いている夢美は、再び私の方に近づこうとして、

 

「おっと、それ以上動くなよ教授さん」

 

ベックさんにライフル銃を突きつけられた。

 

夢美は胡乱な目線をベックさんに向ける。

 

「それはどういう意味かしら?ベン・ベックマン。あなたも私に銃を向けるの?言っとくけど銃は――」

 

「――脅しの道具じゃない。そうだな。これは、()()()()()()()()()()()()

 

ベックさんが銃の引き金を引く。火薬の破裂音と共に銃弾が夢美の脳天へと吸い込まれ―――

 

―――謎の魔法陣に阻まれた。

 

ピシリ…と、魔法陣にヒビが入り、夢美は笑う。

 

「あっはっは!対核爆撃レベルの耐久を誇る私の魔法陣にヒビを入れるなんて、ライフル銃の威力じゃないわねこれ。ベックマン。あなた、本気で私を殺す気じゃない」

 

「お頭の腕を持ってかれてる。こっちは海賊なんだ。それくらいするさ」

 

「あはは!確かに。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。―――ちゆり。足止めよろしく」

 

「アイアイサー!」

 

北白河ちゆりが夢美とベックさんの間に割り込む。彼女は人間離れしたスピードで鉄の塊のような不思議な形の銃を取り出すと、その引き金を引いて

 

「『次元断壁』!」

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

「「「なっ!?」」」

 

空間そのものに壁を作ることで、マキノの酒場が完全に二つの領域に分けられた。非常に不味い。味方の大半が()()()に置いてかれている。あちらも壁を何とかしようとしているみたいだが壁が壊れる気配はない。そしてこちら側には、夢美とちゆりの他には私、シャンクス、ルフィ、ルーミアの四人しかいない。しかも店の出入り口は向こう側にある。

 

それに戦力分析的にも不味い。世界間移動なんてことができるのだから薄々感づいてはいたが、こいつら、科学力が段違いだ。河童の比じゃない。

 

人間の、それも科学世界の研究職のくせに科学力を平気で兵器運用してるとかどんな世紀末の世界から来たんだと突っ込みたくはなるが、今はそんなことを言っている場合でもない。狙われているのは私自身なのだ。それに――。

 

「シャンクス…あなたそれ、大丈夫なの?」

 

「いや…、あんまり大丈夫じゃないな。アリス。慰めてくれ」

 

「…軽口が叩けるんなら大丈夫だと判断するけど」

 

「いやすまん。冗談だ。取り敢えず血が止まらん。アリスって、一瞬で止血とか出来たりするか?出来れば戦闘復帰が即座に可能なレベルの」

 

「………すっごく痛くていいなら、可能よ」

 

「痛いのか。それは嫌だな。……だけど頼む。やってくれ」

 

私は息を吐いて、懐から河童の裁縫針を取り出す。シャンクスは私を守るために片腕を失ったのだ。ならば、アフターケアを含めて完璧に傷を縫合するのが、私のやるべきことだろう。

 

「おっと、邪魔者の最大戦力を復活させる暇を与える私達だと思うのかしら?」

 

しかし、どうやら今回の敵は、それを傍観してくれるほど甘い性格はしていないようだった。夢美とちゆりはそれぞれに何かをしようと動き出して――。

 

 

「その暇とやらは、お前らを殺せば手に入るのかー?」

 

 

――私の背後から、ルーミアが飛び出した。

 

ルーミアの顔を一瞬見た私は少し頬が引きつった。捕食時の肉食獣並みに目が鋭くなっている。この妹、もしかしなくても大分怒ってるな?

 

「『黒爪(ブラッククロウ)』」

 

飛び掛かりながら、ルーミアは両手に闇を纏う。その闇で鋭い異形の爪を作り出したルーミアは、その爪を振るって二人に襲いかかった。夢美が再び魔法陣の防御を試みるが、黒い爪に触れた途端、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………へえ?」

 

二人は後退してルーミアの爪を避ける。同時に、夢美は山賊を押し潰したあの紅い十字架をルーミアに放つが、ルーミアが再び爪を振るうと、その十字架もまた、同じ様に削り取られた。

 

「うっそだろ!?」

 

ちゆりが驚愕の声をあげる。

 

「夢美様。あの爪ってもしかして、削り取るとかいう概念そのものでも持ってるのか?幾らなんでも夢美様の防御魔法陣を削り取るとか核熱ブレードでも持ってこないと物理的に不可能なんだぜ。魔法に関しては専門外だから私じゃよく判らん!」

 

「フフ。惜しいわねちゆり」

 

教授は興味深そうにルーミアの爪を見つめながらちゆりに答える。

 

「マクロ的な視点で見れば確かに起こっている現象は『削り取られた』だけど、ミクロ的に見ればあれはむしろ『吸い込まれた』が正しいでしょう」

 

ルーミアが応戦しているうちに私はすぐさまシャンクスの左肩の縫合作業を開始する。もちろん、同時に戦闘の情報収集も怠らないわけだが、その上で言わせてもらうとやはりあの教授、ただ者ではない。まさか今の一瞬だけでルーミアの攻撃のカラクリを看破するなんて…。

 

「嘘だろ夢美様!?まさかあの爪、()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

そしてその助手のちゆりとかいう奴も、たった一言のヒントから正解を言い当てるところを見るに頭はかなり回るようだ。

 

「そう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。あの技の原理はまさにマイクロブラックホールそのものだわ。技術的には、微粒物体干渉用吸着式マニピュレーターとでも言ったところかしら。まったく素敵ね!こんな未開の文明圏でも、魔法を使えばいとも容易く私達の科学に追い付けるって言うんだから!」

 

夢美は歓喜を叫びながら掌に新しい科学の魔法陣を作ると、今度はその両手でルーミアの手に掴み掛かった!

 

「んなっっ!?()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

ルーミアが叫ぶ。ルーミアの新しい技である『黒爪(ブラッククロウ)』は、いかなる攻撃・防御もその爪で引っ掻いただけで、微粒子レベルからその対象を吸引し削り取る。少なくとも物理的な手段であの爪を攻略することはおよそ不可能に近い非常に強力な技だ。だというのにルーミアの両手を鷲掴みにした夢美の手はルーミアの黒爪に削り取られていない。

 

一体これはどういうことなの!?

 

ガッツリと、お互いの手を掴み掛かった状態のまま、夢美は嗤う。

 

「簡単な話よお嬢ちゃん。()()()()()()()()()()()。当然の論理でしょう?それならば、私の掌に、あなたの引力と同じだけの斥力の力場を形成するだけでその技には対応できる。――そんなことよりも、私はあなたの魔法をもっと研究してみたいわね。ルーミアちゃんはもちろん、こんな重力の使い方も当然に、できるのでしょう?」

 

「あがっっ!?!?!?」

 

ルーミアの足元に別の魔法陣が展開される。次の瞬間、ルーミアの身体が店の床にめり込む勢いで押さえつけられた。

 

というか、斥力を使って対応したと思ったら今度は重力力場を発生させたのかあの教授は!?

 

あまりにも技の構成が多様すぎる!!

 

「さあ、今のうちにちゃっちゃとアリスを捕らえちゃいなさいちゆり!」

 

「おっしゃ!流石夢美様!」

 

ルーミアの技の対抗策を即座に用意し、その上でルーミアの拘束をする。あの教授…もはや私でも出来るかどうか怪しいことを一瞬で実行するなんて…!

 

しかも今度はちゆりがこっちに向かってくる。夢美ほどではないにしても、彼女からもかなりヤバイ気配がするのは間違いない。

 

「シャンクス。ごめんなさい。施術の完了が5秒遅れる」

 

「構わない。好きにやってくれ。こっちも右手で何とかする」

 

私は右手で縫合を続けながら、左手の糸を人形に繋げる。とりわけ戦闘機能の高い上海人形と蓬莱人形を使って足止めを試みてみるが、さて、何秒保つか…。

 

 

「やめろ!アリスを連れてくな!」

 

 

「……ルフィ!?」

 

 

しまった!ルフィを縛り上げてでも拘束しておくのを忘れてた!この状況でルーミアが飛び出してルフィが飛び出さない訳が無いっていうのに!

 

ちゆりの前に両手を広げて立ちはだかるルフィ。私は即座に上海と蓬莱をルフィに向けて飛ばそうとする。

 

「おっと!?ルフィ少年には用が無いんだぜ…。あー…、確か私の記憶が正しければ、ルフィ少年はゴム人間だから、打撃技が効かないんだっけ?」

 

ちゆりはそんなことを呟くと、続けざまに蹴りの動作に入る。ルフィを蹴り飛ばすつもりか。どうやら子供相手に手加減するだけの良心は持ち合わせているようだ。

 

良かった。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「上海!蓬莱!足を取りなさい!」

 

 

「うおわっ!?!?」

 

 

ちゆりがルフィを蹴りあげるために上げた足に、上海と蓬莱は素早く糸をくくりつけ、そして引っ張る。

 

結果、ちゆりは派手に床へすっ転んだ。

 

「くっそー!()()()()()()()()()()()()()!?自分が動かなくても攻撃できるとか流石魔法使い!汚いぜ!」

 

「どの口がそれを言うか!」

 

ちゆりはただでは転ばなかった。転んだ瞬間こっちに向けて銃からなんとレーザービームを撃ってきやがったのだ。

 

しかし、飛んできたビームはシャンクスが右手で抜いた剣で弾き、続いて上海と蓬莱がちゆりの銃を取り上げて押さえつける。

 

これで北白河ちゆりの足止めは完璧だ。あとはシャンクスの縫合を終わらせて――。

 

「あーもー。何拘束されちゃってんのよ。ちゆりってば使えないんだから…。まったく。―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

()()()()()()

 

 

 

「―――は?」

 

「嘘だろおい!?」

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

メイド姿の――誰だこいつは?

 

冗談が過ぎるわよ岡崎夢美―――!今の今まで、こんなやつの気配微塵も感じなかったのに!?

 

「紹介が遅れたわね。彼女は『るーこと』。私の世界では一家に一台は愛用されてる由緒正しい量産型メイドロボットよ。身の回りの世話から戦争まで使い道は何でもござれ。アリスも私の世界に来たら召し使えてみると便利かもね?」

 

ふざけるな!紹介が本当に遅すぎる!あの教授、まだ切り札を隠し持っていたなんて…!まさかとは思うけど、あいつ自分の辞書に「一手足りない」という言葉を書き忘れたまま生活してるんじゃないでしょうね!?

 

迫り来るるーことの手にバチリと電流が走る。

 

まさかあのメイドロボット、自身の手をスタンガン代わりにして私達を気絶させる気か?

 

上海と蓬莱はちゆりの拘束で手が放せないし、シャンクスも満足に動き回ることができない。

 

これはいよいよ切羽詰まったか?

 

と、私が思ったときだった。

 

 

「だから――やめろって言ってるだろ!!!」

 

 

ルフィがるーことに回し蹴りを食らわせたのだ。

 

そうだ。ルフィは日頃ルーミアと修行しているお陰で、全く動けないというわけではないのだ。

 

しかし、るーことはルフィの回し蹴りでダメージを受けた様子はない。まあ当然だ。何しろ彼女はロボットだ。痛覚というものが恐らく存在しない。故障か無傷か。100か0かみたいなものだ。

 

そして、るーことはルフィを障害と認識したのか、ルフィに向けて手を伸ばす。いけない!高圧電流がルフィに襲いかかって――!

 

「そんなもん―――効かん!!ゴムだから!!!」

 

しかし、ルフィはるーことの高圧電流を意に介することなく、るーことの顔面を殴り飛ばした!そのままメイドロボットはバランスを崩して壁まで転がって行く。

 

「しまった!そういやルフィの身体は全身絶縁体だったわ!」

 

夢美が頭を抱える。こんな切羽詰まった場面でまさかルフィの能力に新発見があるとは、こっちもビックリである。

 

というか、さっきから疑問だったのだが、あの異世界人共、私やルーミアには初見の反応をしていたくせに、それ以外の面子についてはルフィを含めてある程度事前知識があるような対応を取っている気がするのは気のせいだろうか…。

 

まあ、そんなことを今気にしても仕方がない。この謎は後で考えるとしよう。

 

とにかく、これで首の皮一枚繋がった。――()()()()()()()()()()()()()()()

 

縫合、完了である。

 

「シャンクス!終わったわ!」

 

「良し!有り難う!そして一仕事終わって早々急で悪いが、―――アリス!ルフィ!ルーミア!頭を下げろ!それとアリスは上海と蓬莱を仕舞ってくれ!―――ベックマン!お前達は先に外に出ろ!!マキノ!すまん!店に大穴あける!」

 

シャンクスは私の施術が終わるや否や、即座に行動した。

 

矢継ぎ早に指示を出したかと思うと、次の瞬間には壁際まで動き転がっているるーことを持ち上げている。

 

そしてさらに次の瞬間に、ちゆりと夢美を一射線上に捉えられる位置にまで移動し、低い体勢で()()()()()()()()

 

「おっと、これは不味い」

 

嫌な予感を感じ取ったらしい夢美とちゆりがシャンクスの射線上から逃げようとするが、シャンクスはその動きを一睨みで封じた。いや、嘘だろこの男。視線と殺気だけであの教授達を怯ませるとか…。

 

「ぐ…覇王色…か。えぐい使い方をする…わね…」

 

「この感じ…嫌な予感しかしないんだぜ…」

 

一瞬の間身動きが取れず、自身の不幸を悟ったような声を出す夢美とちゆりに、シャンクスは宣告する。

 

 

「そうだな。取り敢えずは、()()()()

 

 

()()()()。と、シャンクスは、二人に向かってるーことを投げつけた。

 

ドガアアアン!!!と、空気が破裂する大音響が聞こえる。いやいやいや、衝撃波(ソニックブーム)って!?この男…素手での投球でマッハを越えたというの!?

 

大きな音と、大きな土煙が止むと、その奥のあろうことか店の屋根に、大きな穴が空いていた。どうやら投球の軌道が、店の中という狭い空間の中で上向きの曲線を描いたらしい。出鱈目すぎる。この男ほんとに人間か?

 

「よし。みんな無事か?無事なら、あの穴から外に出るぞ」

 

シャンクスが爽やかな笑顔で告げる。しかし、私とルフィはポカンとするばかりで、頷くことができたのは拘束が解けて服についた埃を払っていたルーミアだけだった。

 

「ていうか、あいつら倒したんだし、放っておけばそのうちあの変な壁が消えるんじゃないのかー?」

 

ルーミアは、ちゆりが仕掛けた店を横断する謎の壁を指差して言う。あのソニックブームで傷ひとつ付いてないということは、やはり空間そのものに干渉するタイプの術式なのだろう。因みに、ベックさん達は既にシャンクスの指示に従って店の外に出ている。

 

「そ…そうだぞ。だいたいおれ、あんなとこから外出れねーし」

 

ルフィがルーミアに同意すると、シャンクスは苦笑しながら

 

「いや、流石にそこまでのんびりはしていられないさ。()()()()()()()()()()()()()

 

などとぬかしやがった。

 

「え、いや、嘘でしょ?今のでまだ決着が付いてないとか…。そんな人類がいるの?」

 

私が半信半疑どころか、無信全疑くらいな感じで聞くと、シャンクスは気まずそうに右の頬を掻いた。

 

「それが有り得るんだよなー。店の上空に、あの二人の気配がまだあるし」

 

「絶対嘘!」

 

 

 

100%嘘だ。と、思いたくて思いたくて仕方がなかった私だが、しかし他の誰でもないシャンクスの証言だ。下手なことは期待しないほうが吉だろう。

 

私とシャンクスとルーミアの三人は、屋根の大穴から店の外へと飛び上がった。

 

「え!?おれは!?」

 

「ルフィは留守番だ。そこで壁が消えるのを待ってな!」

 

「嘘だろシャンクス!?おれも連れてってくれよーー!」

 

ルフィは駄々を捏ねるがしかし、流石にルフィをこれ以上この戦闘に参加させることは出来そうにない。どう考えてもレベルが違いすぎるし、さっきみたいな幸運がそんなに長く続くとも思えない。

 

…そもそも、私ですら適正レベルに至っているかどうか疑わしい…。

 

私達は店の屋根の上に飛び移り、上を見上げる。

 

果たしてそこには、岡崎夢美と北白河ちゆりの両名が空の上に立ちはだかっていた。

 

()()()

 

「はっはっは!いやはや参ったぜ!まさかあんな風に私達が吹っ飛ばされるなんて!人生初体験だ!」

 

「るーことはもう駄目みたい。完全に壊れちゃった。まったく…。このメイドロボット、意外と高いのよ?」

 

ちゆりは笑っておおらかに、夢美はずたぼろになったメイドロボットを持ち上げて困ったように、それぞれ発言する。

 

「まあ、それは仕方ないんだぜ。私達はギリギリで防御魔法陣が間に合ったけど、るーことはソニックブームをもろに浴びるはめになってたからな!」

 

ちゆりが夢美を慰める声を聞きながら、私は呆れた声を出した。

 

「あの攻撃を受けて無傷って…。あんた達は、不死身かなんかなわけ?」

 

「まさか!私達はなんの変哲もない、ただの人間なんだぜ!」

 

強いってのは確かだけどな!と、ちゆりは自信満々にこたえた。

 

ああ…、憂鬱だ。なんだって私はこんなのに狙われているんだろうか…。

 

「ところで」

 

と、今度は夢美が口を開く。

 

「興奮しすぎて問答無用に訴えたせいでややこしくなってしまったけれど、改めて訊くわ。アリス。あなたは、本当に私の世界に来る気は微塵もないのかしら?」

 

「逆に、あなたの世界に行くことで、私に何の得があるのかしら?」

 

私が訊き返すと、夢美は少し考えるそぶりをする。

 

「そうね。あなたの利益…、か。全く考えてなかったわね」

 

この教授、サイコパスかな?

 

徹頭徹尾自分の目的のことしか頭に無いと見える。

 

「では、そう。あなたにとっての利益を提示してみましょうか」

 

と、夢美は言う。

 

「私の知見では、あなたとルーミアは恐らく『漂流者』であると予測しているわ。つまり、何らかの事故で異世界転移をし、元の世界に戻れなくなってしまった異世界迷子である。違う?」

 

「違わないわね」

 

隠すようなことでもない。というか、むしろ今更感が凄い内容の質問に、私は即答する。

 

「であれば当然、あなた達は元の自分のいた世界に戻りたい筈。そのために、あなたは世界に穴を開けてしまうような実験までしていた」

 

「そうね。世界に穴が開いたのは実験が失敗したからだけど」

 

流れはわかる。つまり、彼女はこう言いたいわけだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ああ―――。全くその通りだ。その事実だけは、私は無視することができない。

 

「…アリス」

 

「わかってるわ。ルーミア」

 

何か言いたそうに話しかけるルーミアの言葉を私は遮る。ルーミアの言いたいことはわかってる。

 

「…確かに、私達は元の世界に帰りたいと思っている。私達の故郷―――幻想郷に帰れると言うのなら、それ以上に求めるものなんて何もないくらいには」

 

私の言葉に、夢美はピクリと反応した。

 

「ふうん?『幻想郷』か」

 

彼女は少し意外そうな顔をして言った。

 

「懐かしい名前ね」

 

「…幻想郷を知ってるの?」

 

私が訊くと、彼女は穏やかな笑みを浮かべる。

 

懐かしい思い出を振り返るように。

 

「ええ。知っていますとも。なかなかエキサイティングな体験だったわ。あそこは魔法が支配する土地だものね。私のためにある場所と言ってもいいくらい、実に素敵で、興味深い場所だった」

 

彼女は過去を懐かしむように、思い出を噛み締めるように、幻想郷を回想する。

 

「私が魔法の存在を確かめたのは、まさにそこでのことなのよ。これは凄い偶然だと思わない?アリス」

 

偶然。それは確かに凄い偶然だ。まさか夢美の言っていた『魔法が支配する世界』が幻想郷のことだったとは…。私も少し驚いた。

 

「だけどあそこでは駄目だった。魔法だけの世界では、私の目的は遂げられなかった。科学と魔法の混沌にこそ、私の求めるものがある」

 

夢美は私を見る。

 

「だから今は違う。私の興味は、私の意欲は、()()()にある」

 

夢美はの視線は、私を捉えて放さない。自分の野望を一心に見つめ、彼女は私を逃がさないようにその目で捉えている。

 

彼女は私を通して、自らの夢の先を見ているのだ。

 

「アリス・マーガトロイド。あなたさえ手に入れれば、私の夢はまた一歩完成へと近付くの。だから、あなた、私のモノになりなさい」

 

彼女はそう言って、私に手を差し伸べた。

 

彼女は魔法の言葉を紡ぐ。

 

「アリスが私のモノになるのなら、幻想郷に戻りたいというあなたの願いを、叶えてあげてもいいわ」

 

魅力的な提案だった。幻想郷に戻れる。その言葉だけで、私に対する誘惑としては充分過ぎる。

 

差し伸べられた手を取るには、充分過ぎる提案。

 

私は彼女の方に右手を伸ばし、そして―――私は応えた。

 

 

 

「おととい来やがれ。サイコパス野郎」

 

 

 

くいっ、と、私は右手の中指以外の指を全て折り畳み、手の甲を上に向ける。

 

同時に、予め糸を繋いでおいた人形達が、上空の夢美達に向かって光線を放った。

 

 

魔光『デヴィリーライトレイ』。

 

 

地面から天に向かって放たれる地対空砲火のスペル。

 

上から目線のくそったれを地面に叩き落とすために作った、悪魔の閃光である。

 

ダメージを狙ったものじゃない。どうせあいつらはこの程度の光線どうとでもするだろう。

 

 

だが誘いの返答には、このスペルが一番相応しい。

 

 

「あっはっは!これはひどい返答もあったものね!」

 

当然のように、夢美とちゆりは頭上に立ち続けていた。それぞれの足元に広がる魔法陣が、レーザーから彼女達を守ったのだろう。

 

「まー、こーなるとは思ってたけどな。夢美様ってば流石に相手を馬鹿にしすぎだよ。今日び、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ちゆりが呆れたように夢美に話しかける。

 

まったくだ。幾らなんでも私を馬鹿にするにもほどがある。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

私がこの世界に来てからおよそ一年半。その間にあったこの世界の変化は、フーシャ村に微弱な特異点ができかけているというたったそれだけ。

 

ならば、科学の世界全体に魔法という概念を組み込むのに掛かる時間は一体如何程なのか、考えるだけ馬鹿馬鹿しい。

 

「私のモノになりなさい」なんて誘っている時点で、あいつは私に人権を認めていない。

 

私を幻想郷に帰す気なんて、あいつには更々有りはしないのだ。有ったとしても、それは数十年、下手すりゃ百年先のことだろう。

 

何より―――。

 

「大体ね。あなたが詐欺をかけようとかけまいと、私はあんたの誘いには乗らないわよ」

 

「へぇー?それは何故?」

 

まだ笑いが収まらないらしい夢美の疑問に、私は舌打ちをする。

 

ピリ…と、空気が震える。私としたことが、無意識に魔力を放出してしまっているようだ。今後気を付けなければならない。

 

「そんなの決まっているのかー」

 

「そうね。そんなこと、わざわざ聞くまでもないことだわ」

 

ルーミア堪らずといった様子で口を開き、私はそれに同意する。

 

私とルーミアは口を揃えて夢美に答えた。

 

 

 

 

「「()()()()()()()()()()!!()()()()()()()()()()()()()()()!!!!」」

 

 

 

 

轟ッ!!!!と、空気を震わせるように、私とルーミアは魔力と妖力を放出する。同時に、人形と闇がそれぞれの周囲に展開された。

 

 

「…やっぱり衝動で動くものではないわね。話し合いはここまでか」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

夢美とちゆりの二人はそれに合わせるように、紅い十字架や魔法陣を自らの回りに出現させる。

 

二人と二人が睨み合い、空気が震える。

 

 

 

「教授さんよ。アリスとルーミアの二人と熱い視線を交わしあってるところ悪いが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

がっ!と、屋根を荒々しく踏みつける音が聞こえた。意識を向けると、地上から一足飛びに屋根の上に登ってきたベックさんが空気の震えに割り込んでいた。同じ様に、幾つもの影があちこちの屋上に、夢美とちゆりを囲むように現れる。

 

「全くだ。こっちも友達があわや拐われかけるところだった」

 

影達の出現に呼応するように、私の隣に立っていた男が、私の前に進み出た。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

気が付けば私の周りには、大海賊、赤髪海賊団が戦闘態勢を整えて、私とルーミアと同じように上空を睨み付けていた。

 

 

だが、そんな危機的状況で怯むようなら、彼女達はそもそもこんなところに居やしない。

 

「あっははははは!!!!壮観!!壮観ねこれは!!どうやら私達は、この世界の最高戦力の一角を本格的に敵に回したみたいよちゆり!!」

 

「元気だなー夢美様。アドレナリンでも出てんのかな?まあ確かに、これなら久しぶりに本気を出しても不足は無さそうだぜ」

 

彼女達は、誰を敵に回そうと恐れないし止まらない。

 

「私は邪魔が大嫌い。でも、壁は高ければ高いほど、それを薙ぎ払ったときの爽快感は気持ちのいいものよねえ!!辺境世界の最強ごときで!私の野望は揺るがない!!!」

 

「は!脳内麻薬の出すぎで台詞が完全に悪役だぜ夢美様!!まぁ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!」

 

 

二人が並び、夢美が右手を、ちゆりが左手を天に掲げる。魔法陣が頭上に現れそして―――空が紅く染まった。

 

否、空が紅くなったのではない。紅霧異変とは違う。

 

紅霧異変とは、()()()()

 

そう――

 

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「さあ、果たしてこれをどうする?歴戦の強者ども」

 

 

 

互いの夢を求めるための戦い。――《夢創異変》は、ここから過激化を極めていく――。

 

 

 

To be continued→




あとがき

私は基本、好きな展開が多すぎるタイプの人なのですがそのなかに、

胸アツ展開。

エセ科学バトル。

魔術と科学が交錯する。

知らない間にキャラがなんかめっちゃ強くなってる。

そもそも味方が強い。

でも敵はさらに強い。

めっちゃ強いやつが割とあっさり負けちゃう。(ただし自分が納得できる形で)

なんていうシチュエーションがあったりします。私はこれらのシチュエーションをめっちゃ書きたい!書いてみたい!と思っているのですが、筆のペースが遅すぎるしオリジナルの話を書けるほど創造力が豊かじゃないというのもあってなかなか書けません。じゃあ、この二次創作で何とか出来んものか。いやいや。ていうか、それ以前に、このままだとシャンクス腕取れないんだけど。今更ヒグマでどうこうなるアリスじゃないし、近海の主までどう考えてもいかないわこれ。じゃあ誰が他にシャンクスの腕取れんのよ。そんな都合のいいキャラがいねーよ!?え?シャンクスの腕無理して取らなくていい?いやいや、ナイナイ。普通取るでしょ?と、そこまで考えたとき、天は私に言いました。

「東方にそれ全部できるキャラ、おるで」

うっそだろおい!そんな都合のいいキャラいんのかよ!?冗談はよしこさんだよ!と、天啓にセルフ突っ込みしながら頭の中の東方キャラを検索していくと…。

あ、おったわ。いや、つーかこれ、旧作やん。ていうか異世界人やん。特に何の理由もなくすぐに出せるやん。え?なにこの人月とか動かしちゃうの?それってどういう科学なの?チートなの?なんでこんなキャラがこんな初期の初期にいるの?怖いんだけど。

なんて思いながらも、とりあえず書き進めることにした今日この頃でした。こわい。東方万能過ぎてこわい。

力入りすぎてちょっと長くなったのはご愛敬。まあ、この教授ならこれくらいのことはできるっしょっつって色々させちゃったし、投稿ペースがハワイ島並みの速度だし、多少はね?

あー。科学いいわー。問題解くのは大嫌いだけど、好きやわー。科学。魔法とおんなじくらい好き。

そんな私はゴリゴリの文系なんですけどね。おあとがよろしいようで。それではまたいつか、出来れば近いうちにお会いしましょう。



で、この教授、どうやって倒せばいいんだ?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。