クロスマイナス 『虚言使いと戯言遣い』   作:謂篠弐椎

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貴方が一番影響を受けた本は何ですか?
……銀行の預金通帳だよ。
  ──アイルランドの才人 ジョージ・バーナード・ショー


病的

「久し振りもクソもねえ、ふざけやがって天下天下(てんげてんげ)の過負荷野郎が」「畜生、まだ自分の身体が気持ち悪ぃ。何なんだこれもう」「全てを全て良いも悪いも綯い交ぜに台無しにするたあ聞いてたが、自分の存在自体をそうされるとは思わねえよ」「クソ」

 

「『虚数大嘘憑き(ノンフィクション)』────なんて説明しなくても良さそうだね。うん、久し振りだぜ水俣ちゃん。折角可愛い女の子でもあるんだからそんな風にクソクソ悪態付かない方が良いと思うよ、全く」

 

「にこにこにこにこにこにこにこにこ嗤いながら言うんじゃねえ。そりゃ確かにお前のそのクソふざけた能力(スキル)はどういうもんかは知ってるがよ」「悪態については反省する気もないね。ああないね」「絶対に嫌だ、これは私のアイデンティティ────」「ってわけでもねえが」

 

「君の場合、生来の性格だろうし治らないのはそうだろうねえ」

 

「つうかお前に可愛いと褒められても何も嬉しくねえな」「驚くくらい嬉しくねえ、むしろよくそんな風に言えるよな。逆に惚れそうだわ」「とりあえずぶん殴っていいか?」

 

「前後の流れが繋がってないよ、とか僕にツッコミ役を投げるのはやめてくれるかい。僕はその辺不慣れでねえ。にしても、それはまだ喋りづらそうだね」

 

 そう言い、再び、螺子を構える球磨川禊。と思っていると、気付けばソレは私の身体に螺子込まれている。本当ふざけた能力だ、私の思考以外、存在も能力も行動も記録も干渉も全部全部「なかったこと」にし続けやがって。

 あそこまで永続的に「虚構」に出来る馬鹿げた能力だと知っていりゃあ勝負なんてしかけなかった、いや気付かなかった私が悪いのか。仮にも一時的にこの男から直々に()()()()()能力(スキル)と言われた能力(スキル)を持っていると言われたのだから知っていて然るべきだったわけだ。

 

 ああクソ、忌々しい。

 

「『虚数大嘘憑き(ノンフィクション)』。君が思考でき「なかったこと」にしたことを「なかったこと」にした」

 

 言われて気付く。確かに今私は、口を開いていない。喋っていない。そういえばそんな虚構化の履歴もあったか、忘れていた。だああ畜生、人の気にしていないことすらほじくり返して抉り返して螺子り返してどさくさにまぜこぜにどうでもよくしやがる。

 

「それで? 私に関しては(なお)して欲しいかどうか訊かずに勝手に使いやがって」

「その辺はいーちゃんに言われた通り、どうしようもないからね。開き直って勝手にすることにしたんだよ、君には色々と話すこともある気がしないでもないし」

 

 絶対に話すことがない奴だこれは。私としても言いたい文句は多量にあるが話したいことは何もない。にしても、何の因果か知らねえが私が思考しかできない状態だと球磨川禊の周囲、数メートル以内にしかいられなかったことを把握しているとは。

 あれか、安心院なじみとかいう奴に教えてもらったクチか。ちと違うが、その私からすれば然程親しくもなければ詳しくもない間柄の人間からのイメージだと全知全能と言った具合だが。何より去年の生徒会長決めの選挙でもそんな感じだったぜ。

 思考しかできないのに視認はできるっつうのは如何せん気持ち悪いがな。匂いも捉えられるし音も聞こえるとかいう説明するに筆舌し難い実にふざけたとしか言いようのない状態。どうしろってんだか。

 

「んでえ? これでお前の御高尚な自分勝手な自業自得な自己中心的な罪滅ぼし全国ツッッアァァは御終いなあわけだが? どうすんだよ、これから。どうせ行くアテも無えんだろ球磨川あ。大学も会社も全部落ちたとか言ってたしよ」

 

「ん? じゃ何、君が実は大富豪の娘で僕を拾ってくれでもするのかい?」

「は、お前みたいな野郎、従僕(フットマン)としても雇えねえよ」

 

 敷地内に入れるのも御免だね。

 

「あはは、そうだろうねえ」

 

 軽く笑い、足を踏み出してどこかへ行こうとする。

 

「……結局どうすんだよ」

 

「どうもこうも無いさ。僕は球磨川禊、そんな名前を持っていたどこかの誰か。適当にほっつき歩いて、座って、立って、食べて、寝て、起きて、生きて、住んで、倒れて、死ぬだけの男さ」

「…………お前ってさあ、昔から鈍いとか言われたことなかったか?」

「無いねえ。あるわけ無い。僕はまず誰かから好意を持たれるっていう主人公体質は持ち合わせていなかったんだ。そして今でも持ち合わせていないし、僕自身持っていないと思い切っている。無いのさ、そんな事実」

 

「………………女心を分かるってか?」

 

「分からないなあ。僕は男心どころか自分の心すら分からないような人間だ。黒髪の女の子だとか、お人好しの女の子だとか、安心できる女の子だとか、宝のような女の子だとか、立ち上がるような女の子だとか、言わずもがな、どの女の子が好きな先だったのかすら僕は知らない。」

 

「……………………だったら」

 

 お前とは違って女として、女心を多少は分かっていた私から言わせてもらおうか。

 お前と違い最低じゃない、その辺の粋がってただけの私から言わせてもらおうか。

 

『言わなくて良いさ。』

 

「…………………………は」

 

「言わなくても分かってる──わけじゃないけれど、()()()()()()()。そこを忘れてもらっちゃあ、困る」

「だから、曖昧にして、適当にして、台無しにして、何も正解にせずに、そこら辺に散らばらせていくってのかよ?」

 

「良いじゃないかそれで。御目が高かったり、瞳が良かったり、なじんだり、今だったり、斬れそうだったり、機会があったり、先だったり、半袖だったり。どんな女の子でも、どんな女の子からでも、僕という過負荷(ぼく)過負荷(そう)としか記憶されないままで良い」

 

 本当、自分だけに都合の良い野郎だ。

 

「それで良くないっつう女がいたらどうすんだ」

 

「その時はその時さ。そんな子なら、もしかすれば、僕を」

 

 見つけられるかもしれないね。

 

 そんな言葉が聞こえそうになった頃には、そんな言葉を吐きそうな声は聞こえなくなっていた。後ろを振り向いてみると、そんな声を出しそうな背中は見えなくなっていた。周囲を見渡してみても、そんな背中をしていそうな男はいなくなっていた。

 あいつはスキル名を発しなくてもスキルをいくらでも使える────螺子さえ、出す必要もなくスキルを使えてしまう。だから、私はあいつがスキルを使って消えたのか、偶然意識を縫って消えたのか、判然とはしない。

 更にはそのスキルが『大嘘憑き(オールフィクション)』なのか、『安心大嘘憑き(エイプリルフィクション)』なのか、『虚数大嘘憑き(ノンフィクション)』なのかさえも私には理解できる範疇を越えている。

 

 最後まで、嫌味な野郎である。

 

「……け。」

 

 お前の人生をここまで付き合わされた身にもなれや。

 そんなお前をひいこら探そうとしてる女だっている。そいつが果たしてお前を見つけられるかは分からんが、少なくとも私はそいつに手を貸しはしねえ──好い加減なまんまで良いってのがお前の望みだってんなら、それくらい従ってやろう。

 私だって、少しくらいは過負荷(マイナス)なんだ。それに。

 

「お前をスキル無しで見つけられるような女なんざ、例え特別でもいて欲しくねえもんだね」

 

 全国ツアー、楽しかったぜ、クソ野郎。

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