「ああ因みに?」
「こ」
「の」
「言」
「葉」
「が」
「変」
「な」
「様」
「に」
「聞」
「こ」
「え」
「る」
「な」
「ら」
「て」
「め」
「ぇ」
「は」
「私」
「に」
「は」
「勝」
「て」
「な」
「い」
「だ」
「ろ」
「う」
「よ」
「!」
一文字ずつ、変えて言う。
落ち着いた声で。
荒ぶった声で。
怒った声で。
静まった声で。
発情した声で。
死んだ声で。
苛立った声で。
腐った声で。
泣いた声で。
悲しむ声で。
喜ぶ声で。
諦めた声で。
元気な声で。
驚いた声で。
蕩けた声で。
厳しい声で。
怯えた声で。
戸惑う声で。
愛しい声で。
悩んだ声で。
恥ずかしい声で。
頼った声で。
分かり切った声で。
恨んだ声で。
切ない声で。
楽しい声で。
虚しい声で。
優しい声で。
蔑む声で。
悔やむ声で。
安心する声で。
だが、その台詞自体は、球磨川禊ならば嘲って返すものでしかない。
『勝てないだろうよ?』『何言ってんだか────僕は
だから、手加減はしない。躊躇なく。
「…………か……はっ」
地面に彼女を磔にする。螺子で。
「……これ、僕らは送るだけという事ですから傍観してて良いんですよね?」
「ふん、良いんじゃないか。面白くなくなったら動いてはもらうが」
「……僕に、なんでしょうね、それ」
再び観戦を決め込むいーちゃんと、それに付き添う西東天。と、言ってもどちらとも面白そうだからというのが西東天の本音なあたり、人格が知れる。流石は人類最悪の遊び人、遊ぶことにおいては暇がない。
「前は受ける前に『騙し』たから気付かなかったが、はあん。これが『
おかしい話だった。球磨川禊はそれこそ徹底的に、彼女に会ったときと同じように喋れないよう、喉にも螺子込んだはずなのだ。が、水俣真美はさらりとその螺子の刺さっていない声帯を使って喋る。予想できるは一つの効果。
「残念ながら、受けた後でも『騙す』事は出来るんだぜ?」
球磨川禊に匹敵する
死んでも、死を「なかったこと」にする彼と。
死んでも、死を『騙し』てしまう彼女。
『いやあ』『戦い甲斐があるってもんだよ!』
「そりゃどうも! でもな、私にはまだ──────三つ能力が残ってるんだぜ?」
『────っ鎖!?』『くっ……!』
水俣真美の掌から、鎖が射出される。その鎖の先は別段尖っているなどでもないが、水俣真美は四つの
わけがない。
「はっはぁ! 受けたな! その能力を受けたな!」
彼女は嗤う。
「『
どろりと。先程の鎖を受けた右腕が、溶け出す。服も皮も肉も骨も関係なく、まるで腐ったかのように、全てまとめて。加えて、鼻が曲がりそうになるほどの悪臭を放ちながら。その臭いだけで思考が途切れてしまうくらいであり、次いでその溶けていく手の痛覚は健在。絶叫ものの、痛み。
「……腐ってますね」
「腐ってるな」
その姿を見て、さらりと判断を下す最弱と最悪。
『何の! 僕には『
「そりゃそうだ! 『
そう言う。と、球磨川禊は笑いを零す。当然だ、相手は絶世の
どさと、溶けかけ、肘から先は既に無くなっている彼の右腕が地面に落ちる音。
「な……!」
彼女は何をしたのかと問いたそうな顔をして、球磨川禊を睨む。何てことはない。ちょっとばかし、右腕を螺子切っただけなのだ。当たった部位を溶かし、そして対象の
しかし、わざわざ当てなければいけない理由が無いし、当てた時に思考を奪うような腐敗をさせる意味が分からない。能力封じの能力ならば、もっと相手に危害を加えなくて済むだろう。ならば、どこか
何せ、螺子切ったあとにその右腕は
『部分的に封印されているならね』『その封印している部分を丸ごと捨てるのが定石に決まってるじゃないか』『もしかして僕が自分の身第一な奴だと思ってた?』『そうなら甘いなぁ。なかなか癖になる甘みだけど』『少しばかり不純物の混ざった甘さだ。』
「聞いていれば……散々言いやがって……! 何が甘いだぁ!? ふざけてんじゃねえよ、格下が!」
また鎖を投げる。
『呆れる。』『そう何度もしても───』
呆れた調子で喋る球磨川禊は、その鎖を螺子で弾く。
事すら出来ない。すり抜けた。すり抜け、彼の心臓部にヒットする、も、痛みは無い。溶けだすこともない。しかし貫通したわけでもないらしい。心臓に当たった瞬間にその鎖は消える。能力が使えなくなる違和感があるわけでも無いらしい。
『…………この能力は?』
「『
水俣真美はまたしても高笑いに戻り、そう猛々しく宣言する。
『『
が、意味は無い。
「……くそが!」
『なあんだ、こっちには効くのか』『だったら後はさっきの
「そこまで知ってるのかよ────だったら!」
追い詰められた、というほどではないだろうが、まるで奥の手を出すかのように、彼女は右腕を挙げる。何かを指示するかのような、何かの合図かのような。そして、そう思った球磨川禊の思考は、間違っていない。
「
ぞろ。
ぞろぞろ。
ぞろり、と。人が出てくる。
「因みにコレは独学で知っただけなんだがよ────何かに対抗できるんだそうだな?」
出てきたそれは、箱庭学園の全校男子生徒。それも学校舎から、だ。全員こんな時間にまで待機させていたのだろうか。いや、球磨川禊がいつ帰ってくるかなど、分かるわけもない。正門でわざわざ待機していたことから、どの辺りからか彼の帰還を知っていて、かき集めたのだろう。
「ま、私にゃ知ったこっちゃねえが」
しかし全校男子生徒、というのは否定すべき言葉だった。人吉善吉の姿は見えない。阿久根高貴も、雲仙冥利も、日之影空洞も、黒神真黒も、蝶ヶ崎蛾々丸も。
「さて球磨川。てめぇはこの数を──────」
「意味ないですよね」
「『意味ないですよね。』ふん、全くその通りだな」
『『
「使えねえ!」
『僕が一人ずつ倒すという無駄な時間を「なかったこと」にした』『さあて水俣ちゃん?』『僕は君の最後の一つとしか対抗出来ないと最初から思ってたんだけど。』『『騙す』能力、『
「…………………………」
『どうしたんだい?』『『
水俣真美は焦る。
『僕は今僕と同等以上……いや、同等
水俣真美は確信する。
球磨川禊は、彼女と同等以下などではない。格が違い過ぎる。核から違い過ぎる。球磨川禊の言う通り、彼女は複数の能力を持っているが故に中途半端なのだ。
『
『それとも』『『
僕以下なんだから。
「…………っ!」
重い。
その言葉が重い。
薄っぺらく聞こえるのに、素晴らしく重い。
出来る事も言われたら出来なくなるような緊張の劣化版の状態だろうか。出来ない事なのに言われてしまってする気すら失せてくる。彼女は、死にたくなってくる。
本当は思い通りならば『騙せ』た時点で水俣真美の勝ちだったはずなのだ。なのに何で球磨川禊はどこまでも水俣真美の価値を汚す。貶める。勝った気にさせない。勝てる気を起こさせない。何せ、
『あまり考える時間は作らないでほしいな』『僕は明日も朝からお忙しい仕事が待ってるんだからさぁ』『今日はもう帰ってぐっすり寝たいんだ』『ほら、時間だってもうかなりだよ』
彼は時計塔を指差す。しかしそんなものを見てる余裕は、今の水俣真美には無い。何せ、心を読めるわけでもない彼女は、心を読まれるわけがない彼がいつ攻撃してくるのかまるで分からないのだから。
『何だかつまらなくなりそうだね』『ちゃんとしてほしいな』『僕がぺらぺら喋ってるだけじゃ何も面白くないよ』『大体そもそも面白くないんだし、さっさと熱いバトルに入って』『出来る限り上手い事終わらそうぜ』
ふざけている。いつも通りの、平常運転。ここまでおちゃらけた奴に誰が負けるのか、とむしろ水俣真美は自信を持つ。誰もが勝つだろうと。さっきまで悩んでた自分が馬鹿らしいと。例え勝っても、それが胸糞悪いものになり、虚しくなってきた人間が幾人も存在するという前例を忘れて。
「OォォォゥKエエエェェェェッいいだろうっ! 私に戯言を吐きまくった罰を与えてやろう! 『
「……あいつが吐くのは戯言じゃないと思うんだけどなぁ」
「『あいつが吐くのは戯言じゃないと思うんだけどなぁ』。んなわけあるかよ。お前のソレはあくまで名乗ったもん勝ちみたいなとこあるんだからよ、球磨川禊が言ってたって何ら不思議じゃねぇ」
「ま、それはその通りですけどね。ですけど。ですけど、あいつには僕の思う戯言には程遠く口が足りませんよ」
「『口が足りませんよ』って、それで上手くかけたつもりか。戯言にもならねぇ、三点だぜ」
「五点満点ですかね」
「九百九十点満点に決まってんだろ」
「何でTOEICなんですか。三点とか逆に一問程度しか合わなかったって事じゃないですか、逆に凄いことになってますよ」
「例のテストで一問しか解かなかったお前なら出来るだろ」
「英語は苦手です」
「お前に苦手じゃないものはないのか」
「ないでしょうね」
『やっと本気を出してくれるみたいだねぇ』『先輩として僕は嬉しいよ』
「勝手に先輩面してんじゃねぇよ!」
『
「まずは最初から大技だ────」
対象の存在を、「
『な────────』
しかし、その技を受けた球磨川禊は消える。服も体も、命も何もかも─────
真後ろから衣擦れの音。
「やっぱ無駄かよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
『僕がこの世からいなくなってもそれは結果的に『死』と同義だ────ある条件を満たさなければ『
無駄にスキルの解説をする球磨川禊。しかもそれで攻略の糸口が掴めたわけでもないというのが、これまた本当に厭らしい。と、言っても、彼がどこまで事細かに能力を説明しようと、攻略できるわけもないのだが。
そもそも、球磨川禊を完膚なきまでに負けさせたければ方法は一つ。そしてその方法は既に二度、実践されてしまっているわけで。
「まぁ元々成功するとは思ってないね。何せ大技なだけであって切り札じゃない。最も、大技は全然大きくなかったようだが」
『次は僕から攻めてみようか』『君は僕と同じだから『
戯言だ。球磨川禊はそんなこと微塵も思ってはいない。思えない。
言葉に出してるだけだ」「絶対にいつか殴殺だが蹴殺だかしかけてきやがる───」
『さあ、どうだろうねぇ?』『僕は誰かさん曰く甘いから』『本当にそういう攻撃をしないかもしれない』
「!?」「思考が────読まれて!?」「いや、待て、何故」「私は、口にだして──────?」
『『
「─────!」「んな屁理屈でも通るのかよ!」「ふっざけんじゃねぇ!」
『
『僕はいつでも真面目だよ』『真面目にふざけてる』
「地面に螺子を突き刺して言いやがる────」「それでもフザケ過ぎなんだよ、最低があっ!」「ニヤリと笑う」「否、嗤う」「実に、気持ち悪い」「本当に────」
「……なかなか特殊な使い方をしますねぇ、球磨川くん」
「俺はどっちかっつと今の水俣真美の発言の方が気になるがな。ふん、球磨川禊も哂ってやがる」
「確かにそうですねぇ……最低でしたっけ?」
「実に気味が悪い。最悪と言っても差し支えは無いな」
「ま、これで決着は付きますかね────『騙し』と『虚構化』の闘いは正直MPとかPPの削り合いに近いですから、六十時間くらい続いても不思議ではなかったんですがね」
「『六十時間くらい続いても不思議ではなかったんですがね』。なんでその時間なんだよ。いや、同意はするが。そこは流石お前の上っ面と激似ってとこだな。素晴らしく常識破りだ」
「僕はあなたに近いと思うんですかねぇ……人類最悪さん」
「それならあいつも最弱を名乗ってんだからお前の方が近いだろ人類最弱」
『あは。』
球磨川禊はその表情に実に似つかわしいい笑いを一言、漏らす。
『最低、ねぇ』
「な、なんだよ────何か文句でもあんのか!?」「お前はどう考えても最低だろ!」「最悪でも何でも良い、それらの類だ!」「この私でもそう思うぜ、何が同等だ!」「私とこいつじゃあ全然違うじゃねぇか!」
『…………』
「くそっ、思考が筒抜けなのは『
『ふうん』
「なら────」
しかし、それだけ身構えている水俣真美を無視し、球磨川禊は、
『白けた。』
飽きた。
「……は?」
『いやさぁ、僕と君は一緒じゃないんでしょ?』『僕の方が下なんでしょ?』
「確かにてめぇより下は存在しないとは思うが」「だから何だっていうんだ?」「私はコイツに負けるしか────」
『君は
「何なんだよ……さっきは挑発しておいて、今度は失望かよ。それも作戦か? 大体私は
『どっちにしろ君は
「何を、勝手に────!」
球磨川禊のそのやる気のない言動に、水俣真美の苛つきは増すばかり。しかし、苛ついているわけではないが、球磨川禊も水俣真美に関してどんどんと関心が薄れていっている。面白くない、つまらないのだ。
『僕は悪くない』『こればっかりは限りなく君が悪いよ……』『よく今まで他の
「ふざっけんな! 私の何が悪いんだ!
『じゃあ一つ質問するけど』『今まで虐められてた事は?』
「ないね。あるわけない。今までの学校全部手中に収めてきたからなああああああ」
『……はあ……』
先程よりも更に明らかに落胆した様子で、溜息を一つ。
「溜息とは何なんだ」「質問に答えてやったつうのに……」「大体、何をもって
『じゃあ教えようか?』『試合放棄したのは僕だからさっきの勝負は既に僕の不戦敗でまた勝てなかったけど』『後輩に教えられるくらいは出来るよ』
「しらっと言う」「何が言いたいんだか全然分からないが」「……良いだろう、先輩らしく、教えてくれよ……切り札を使った私に教えられるんならなああああああああああああああああああああああ!」「『
『……おやおや』『どこにいったんだか』
『
球磨川禊は、気配を「なかったこと」にしているのだから、それに比べればまだまだだ。
「さあこれでてめぇは私にリンチされるしかねぇんだぜ!」「さてまずはどこかrrrrrrrrrr
何かが刺さる。
いや、勿論ソレは螺子だが、何故刺さったのか、水俣真美は全く理解できていない。姿を認識できていないのだから螺子込めるわけがなく、勘だけで当てるなども不可能に近い。
『君は『騙し』方を間違えたね』『視覚以外にも、聴覚や嗅覚を『騙さ』ないと意味が無い』『それに君は『騙し』たあとにすぐに移動しなかったね』『それじゃあ透明人間でも意味が無いよ』『ただ甘いだけだ』
好き勝手言う、が、だから何だという話でもある。彼女の『騙し』は結局今も解除はされていない。そのため、認識されるわけもなく、当たった螺子ですら認識されなくなる。当たったという事実すら、『騙さ』れ、る。はずなのに。
その螺子は、消えない。気が付けば、彼女の思考が漏れ出す口も、何も喋らない。
『甘いだけ……』『なんだけど』『……アレ?』『僕は……』
そのことに気付いたわけでもない球磨川禊は、訳が分からないような顔をする。反応をする。
『誰と戦ってたんだっけ?』『誰かに会ったせいでこうなったはずなんだけど』『記憶の混濁の仕方が変過ぎる。気味が悪い』
何を言っているのか、球磨川禊が理解していなければ、水俣真美も理解していない。だが、少なくとも戦っていたことを忘れかけられているし、そもそも名前も姿も忘れられ始めているらしいということは分かる。
『よく分からないや』『ああ、いーちゃん』『一応多分もう終わったと思うから帰ってくれて大丈夫だよ』『もう未明だ』
「……ま、それはそうだけどね」
どういうことなのか。水俣真美は甚だ疑問符を浮かべる。何故私を忘れてるのか、おいふざけるなよ、と。喋れもしない口を開いて、当たりもしない手を振って、足跡も付かない足を動かして。
「君はこれからどうするんだい?」
『僕は仮眠でもするよ』『流石に、眠い』
「君でも睡眠欲は一応あるんだね」
『昔「なかったこと」にしようとも思ったんだけどね』『流石に困るかなぁって』
「寝るのも一種の快感だからなぁ……僕も寝れなくなるのは御免かな」
「おい、何してる。置いてくぞ」
西東天は車のエンジンをかけながらそう言う。水俣真美は先程、叫んだつもりだったが、彼らにはその叫びは全く聞こえない。加えて、能力を使おうにも使えないし、素手での暴力に訴えかけても全く通らない。『
「はいはい、今行きますよ」
「『今行きますよ』ね。何で俺がエンジンをかけれるのかは疑わないのな」
「子供のころから色々ありましてね、その程度の事じゃ驚かないんですよ」
ほのぼのしやがって、というのがそんな状態に陥った水俣真美の率直な感想だ。
「そういえば球磨川くんは誰と戦ってたんだい? 僕には終始分からなかったんだけど」
『さあ……』
いーちゃんも、忘れている。分からない。何故か? そして西東天も、先程の戦いに関しては大抵を忘れている。何か、戦っていて球磨川禊が途中で飽きて、色々としていたのだという事実は確認しているが、ふわふわとしていて現実的に感じていない。
「俺はそれより最後何したのか気になるけどな」
『何をしたって……』
無論、『
『確か後輩へのお仕置き……だったんで』『
球磨川禊は実は咄嗟の思い付きで試したのだが、その「なかったこと」にされた弊害はとんでもなく抜群だ。何せ、
『誰かの存在感を記録から何から、「なかったこと」にしました。』
のだから。
「ふうん……なるほどな。それで誰かは皆から無視されて、いくら叫んでも気付かれない……」
「
言うならば、世界記憶、と言ったところか。やらかしたことがことなだけに痕跡は残っているが、それをしたのが誰かは分からないし、例え恨んでいても恨んでいる対象が分からなくなる。目的のための手段なのに、目的が消えてしまったのだ。
そして、そんな存在が世界に干渉することは勿論不可能。世界自体が忘れてしまっているのだから、何に関与しようとも忘れられてしまって、逐一「なかったこと」にされ続けるのだ。そのため、水俣真美は、これから一生、誰にも。
「なかったこと」になり続ける。
『ま、そういうことですよ』『それではばいばい、戯言卿』
「またどこかで縁が《合わ》ないことを祈っとくよ、嘘吐伯楽」
『あ、昨日喜界島さんに呼ばれてたの忘れてた』