クロスマイナス 『虚言使いと戯言遣い』   作:謂篠弐椎

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夢亡き者は理想亡し。
理想亡き者は信念亡し。
信念亡き者は計画亡し。
計画亡き者は実行亡し。
実行亡き者は成果亡し。
成果亡き者は幸福亡し。

故に、幸福を求むる者は────

夢なかるべからず。
  ──日本の武士 渋沢栄一


ブリスフルーザー 虚ろな大嘘への禊
過負荷


『おや』『こんな時間にどうしたんだい?』

『この話は僕が語ることではないし』『そもそもこうやって括弧付けて話している僕が話せることじゃない』

 

「だから何だって話だけどさ」

 

『ま』『本音で話したくても僕は僕の操縦すら思い通りになってくんないのが僕らしいんだけど』『でもそろそろどうにかしてほしいよねえ』

 

「色々と卒業してから何年経ってんだって話だし。いや、案外一日も経ってないかも?」

 

『そもそもこれだって本当に僕が語っているのか怪しいもんだ』『だって僕のそれからの足跡は』『まるで僕みたいに』『「なかったこと」』『になっているんじゃないのかい?』

『君が知る僕の情報はそのはずだ』『であれば』『今から語られる話は僕の記録じゃない』『誰かの記録だ』

 

「でも、僕は誰の思い通りにもなる気はなかったはずなんだけどなあ」

 

『何せ僕だぜ?』

 

「もしかして、僕を記録したくないだなんて思い過ぎて、それが逆説的に僕を記録しちゃったのかな? だとしたらかなり大失敗をしてしまったことになる」

 

『いやはや』『人生』『難しいもんだ』

『何をやっても上手くいかないのは変わらないや』『何か決心しても変わらない』『でも何故か、上手くいかないにも幅がある』『限度ってやつかな』

『周りは固められているけど、その中でなら自由に動けてしまうような』『ちょっとだけなら思い通りにはなってくれるような』『でも大雑把にはどうにもならない』『そんな感じ』

 

「まるで水槽みたいだ」

『まるで箱庭みたいだ』

 

「でもどちらにせよ、僕は強制的に被動させられているような気がするよ」

 

『神様の意志って奴かね』『神様なんて信じてないけど』『サンタさんだとか、そういうまやかしを信じるのは小学生で卒業したぜ』『ジャンプはまだまだ卒業しないけど』

『だって良いじゃないか、ジャンプ』『皆の理想の仮想が詰め込まれてるんだぜ?』『卒業する理由が無いね』

「良い非現実とも言う。友情・努力・勝利、そのどれもが美しい。僕だってその美しさに塗れてみたいもんだった」

『美しいかどうかを除けば案外』『いやどうだろう』『わっかんねえや』『その辺りの判断は君に任せるよ』『ああ、判断したという記憶も「なかったこと」になってしまうかもしれないけど』

『それとも何かな?』『君は忘れて僕は覚えているっていうのが不満かい?』『そうだね』『僕も出来れば僕がもっと不味い立ち位置でいたいところだよ』

『その位置にいるからこそ僕だしね』

 

「でも、いない時はいない。そういう場合は、仕方ないじゃない? 僕にどうにか出来るわけでもないし、折角の有利な状況、楽しんでみたいしさ」

 

『つっても』『すぐさま終わってくれるならそれはそれで』『良いんだけど』

『終わってくれるかどうかも分からないけどね?』

 

「勝っても負けても勝負が終わっても試合が終わっても、こういう単純な関わり合いは終われるもんじゃないのさ。僕は昔、いや昨日かな。明日かもしれない。そんなことを誰かにマイク越しに教えられたからね」

 

『誰かが誰かって?』『それを教えたら誰かじゃないじゃないか』『ぼかすからこそ括弧良いんだろうこういうのは?』

 

「一つ言っておくなら、純粋に好きな子さ」

『思いっきり傷付けた覚えしかないけど』

 

「元々僕は惚れっぽいからね。そうやって純粋に好きな子、一体何人いるんだって話だよ。初恋は不動だけどさ」

 

『それでも』『やっぱり』『惚れっぽいことに変わりはないんだよねえ』『その子には花束みたいなものを贈ったりもしたけど』『全くガラじゃなかったなって今では思うよ』

 

「後悔はしてないとも。当然だ」

 

『だって』『僕がその時に抱いた気持ちは』『紛れも、なく』

 

「『ノンフィクション』だったからね」

 

『にしても僕がノンフィクションを謳うとか』『片腹痛いにも程がある冗談だなあと僕でも思うよ』『何せ僕は元々大嘘憑きだったんだぜ?』

『オールフィクション、出る言葉返す言葉何でもかんでも全部嘘』『嘘で塗り固められただとかそんな甘いもんじゃあない』『それはもう真っ赤な真っ赤な嘘に嘘を重ねた二枚舌から出る絵空事を話半分に万八千三つ法螺を吹くようなもんだったさ』

『エイプリルフールにしたって酷過ぎる嘘の吐き方だったね』『今でもそんな感じだ』『元々って言っちゃったけど、案外今も嘘に憑かれている気がするよ』

『ああでも』『今じゃあ僕はかなーり』『ちょっぴり』『幸せになっちゃってる節があるから』『その憑かれている嘘も段々と劣化していっているのかもね』

『だったら安心だ』『何が安心か、なんて言われても答えられないけど』

 

「少なくとも、もしかしたら会うかもしれない君は安心なんじゃないかな?」

 

『例えどれだけ幸せ(プラス)になったって僕は(マイナス)だからね』『それとも、君は僕と会っても普通(ノーマル)なままかい?』『この球磨川禊はその昔、プラスマイナスゼロになることすら許されなかった身だぜ』

『それにもし君がどちらでもない(ゼロ)だったならば』『僕に会うと過負荷(マイナス)に偏っちゃうよ』『それでも大丈夫だなんて言う人がいるとは思わないけど』

『その場合』『(マイナス)と縁が《合》っても大丈夫なんだからもしかすれば』

 

「虚数だなんていう、面白い解答をしてくれる人なのかもね」

 

だがそれは違う(ノットイコール)』『安心院さんですら見つけきれなかった種別の人間が今更いるだなんて』『フィクションにも程があるさ』

『僕といて大丈夫だなんて夢物語』『理想郷でも夢見てるのかな?』『それくらい、僕は折り紙付きの筋金入りで過負荷(マイナス)なのさ』『どうしても』

 

「それに、そんな理想郷を築くための歯車が足りなさ過ぎるよ。世界は一人一人が螺子(パーツ)なのさ。だったらもっと、規定の(きちんとした)規格(思想嗜好)螺子(人達)用意し(集め)ないとね」

 

『それにそんな思想』『頭の螺子が外れた人しか浮かばないよ』『実現できるべくもない』『どこかの誰かの説得に窘められて』『螺子伏せられて』『終わりさ』

『それに僕はそういう負完全な(取り返しの付かない)螺子(スキル)は捨てたんだ』『僕という過負荷(マイナス)から螺子(マイナス)という能力(マイナス)無くなっ(マイナスされ)た』『だからって僕は』『プラスじゃないんだけどね』

 

「僕の貯め込んだ大切な大切(プラス)は、あの子に贈っといたから。」

 

『だからといって勿論何も持ってないわけ(ゼロ)じゃないぜ?』『それは僕の役割じゃない』『そういう役割の人はいなくなったんだ』『強いて言うなら』『皆幸福(プラス)だ』

『だったら僕は何かって?』『ま』『ゼロでもない、何でもない何か』『ってとこかな』

 

虚無(ノン)だとかだと、恰好良いよね」

 

『それでもやっぱり』『安心院さんやめだかちゃんとか』『多分善吉ちゃんも』『もがなちゃんも』『須木奈佐木さんも』『笑い飛ばしてこう言うんだろうなあ』

「何言ってるんだ。お前は紛れもなく良い奴(マイナス)だよ」

『って』

『善吉ちゃんなんかは強く否定してくるだろうなあ』『安心院さんとかは軽口叩いてくる程度かもしれない』『そう考えると』『僕はやっぱり恵まれてる(プラス)かも』

 

「温かい話だぜ、全く。君たちの方が充分に良い奴(プラス)だって言うんだ」

 

『こんなどうしようもないマイナスを、プラスにまでしてしまうほどの大きなプラス』『とんでもない奴等だよ』『嘘を憑いて接していた僕が馬鹿らしいくらいだぞ』

『ならもっと』『本音で接しておけば』『良かったかな』

 

「今更後悔しても、何にもならないけど」

 

『それに時間は有限とは言え無限に近い』『その埋め合わせはいくらでもやってられるさ』『前提として僕は嘘が嫌いなんだ』『僕は僕を許してない』

 

「僕が、悪いんだから」

 

『でも僕は悪くない』『僕は甘ちゃんだからね』『例え僕が悪くても僕が悪くないよう、都合よく解釈しちゃって』『責任転嫁しちゃうんだ』

『君達だって似たようなことをしたことが無いかい?』『我が身が可愛くて、つい』『誰かをちょっとだけ貶してしまったり』『自己弁護する際に在りもしないでっちあげをしたり』『主観的な意見で、相手の感情を聞く気が無かったり』『さ』

『心なしか、そんな不条理を相手に突き付けてしまったことって』『ないかな?』『僕はあるよ』『勿論ある』『そういう理不尽を表に出すし』『嘘泣きなんてザラさ』『言い訳とかも皆すーぐしちゃうだろう?』『いかがわしいことだって何度したことか』『インチキだって罵ったことも数えられないくらいだ。むしろ僕がインチキしていたのにね』

『そうやって堕落するのさ』『自分が可愛いからついつい堕落しちゃうのさ』

『ほら、今君がいるであろう社会の混雑の中でもそんな堕落の結果』『本当の善意じゃない偽善で正義ぶってる人もいれば』『本当の悪意じゃない偽悪で不良ぶってる人もいる』『おかしな話さ』

『不幸せそうだよね』『不幸せそうだ』『自分の不都合に合わせて他人を冤罪にしたりするし』『その流れ弾で誰かが見苦しくみっともなく、他の誰かに対して風評被害を撒き散らして密告するやもしれない』

『大体そういうのは嫉妬が原因さ』『あいつは皆が可愛がってくれるのに、自分は自分しか自分を可愛がってくれないだなんて格差社会だ』『なんてね』

『結論』『人は自分しか信じなくて』『知人なんか裏切るし』『子供なんか虐待するし』『他人なんか巻き添えにするし』『例え誰に二次被害が起きようとも関係無しに生きるのさ』『そうやって生きなきゃ』『やってられないのさ』

 

「でもやっぱり、心の中では自分が悪いことを分かってしまっているから、やってられないんだよね」

 

『その羨望は恋人みたいに愛しいけれど』『ね』

『そう考えると世の中って』『案外単純だよね』『善悪とかさ』『良悪とかさ』『そういうの』

『でも人生はそれだけじゃない』『善人だからって人生勝ち組じゃないし』『悪人だからって人生負け組じゃない』

『勝ち馬が全員良い人かって言われたらそうでもないし』『負け犬が全員悪い人かって言われたらそうでもない』

『そりゃ勿論』『大抵の人は』『悪いよりは良く在りたいだろうし』『負けるよりは勝ちたいんだろうけど』

『善は(マイナス)かもしれないし悪は(プラス)かもしれないし勝ちは勝ち(マイナス)かもしれないし負けは負け(プラス)かもしれない』『そうとは限らないよって話だね』『だって悪いってことは何かをしたってことだ』『だって負けたってことは戦ったってことだ』

『悪があるから善があるし』『負けがあるから勝ちがある』『悪平等だなんてメじゃない平等さだねえ』

 

「ま、これ全部受け売りなんだけども」

 

『本当』『こーんな言葉に絆されちゃうだなんて僕も甘々だね』『週刊少年ジャンプに定期的に連載されるラブコメディ並に甘い』『口から砂糖が吐けるくらいの甘さだ』

『でも僕はそんな恋愛漫画の端役でもなければ主役でもない』

『僕は僕の物語の主役さ』『当然だろう?』『君だって君という人生の物語の主役なはずだ』『ああ、僕は主役だし君も主役だとも』

『僕としては、今更気付いたのかい?』『といったところだけどね』

『友達がいなくたって努力してなくたって勝てなくたって』『僕は主役だったのさ』『主役を張れていたのさ』『驚きだよね』『アレだけの啖呵を切ったのに、安心院さんに申し訳ないや』

 

「ま、それはそれとしてファーストキスを奪われて奪ったんだから不本意ではないけれど?」

 

『マイナスだとかプラスだとかゼロだとか所詮は下らない話だったってこと』『そこはあの頃の安心院さんの思考の中でも共感できることの内の一つだったなあ』『でも、それが全て等しいわけではなかった』

『マイナスでもプラスでも』『ゼロかイチかで変わるのさ』『ゼロの先はどんな欠陥が起きようともどれだけ失格しようとも何らかのイチが待っている』『等しくなんかないんだよ』

 

「不平等という平等。矛盾してるようだけど、これもまた世界の真髄な気がするぜ」

 

『今からでも安心院さんに教えてあげたいくらいだ』

『でも案外あの人のことだしな』『もう既に辿り着いちゃってるかもしれない』『ちっくしょー』『あの人に先んじて真相をしってその情報をひけらかすの』『やってみたかったんだけどなあ』

『ひいこらひいこら僕を崇めて』『傅いてくれるんだぜ?』『全裸パーカー……』『いや、ここは敢えて今までの全てを合わせて裸パーカージーンズエプロン…………?』『裸要素が消えたっ!』『なんてことだ!』

『いやそれは置いといて』『僕の趣味に合った姿で僕を崇拝する安心院さんとか』『拝んでみたいもんだったぜ』『本人にいったらそれこそ容赦なく』『一京』『二八五八兆』『五一九憶』『六七六三万』『三八六五個のスキル全部ぶち込まれちゃいそうだけどね』

『全部が全部攻撃系じゃないとはいえ』『しょうもないスキルでも攻撃に転化しちゃうところがあるからね』『恐ろしや恐ろしや』

 

「恐ろしいと言えば、一昔。僕が記憶に無い誰かに京都だったかどこだかに飛ばされた時も、恐ろしく怖い人がいたもんだったね。あの、赤色の」

 

『その隣にいた無色の人も記憶に何となく残っているよ』『まともに何の制約も無しに殴り合ったら圧倒的に僕が負けるであろう自称最弱さん』『彼はこれまた見たことのない欠陥製品(マイナス)だったなあ』『ヘラヘラしない過負荷(マイナス)っていうか』

『そうだね』『名付けるなら』『否現実(ネゲイション)かな? いや、もうちょっと良い感じのものがありそうな……』『ま、いいか』『何にせよ彼からは』

 

「なるようにならない最悪、といった印象を抱いたよ」

 

『思い通りになるわけがない僕と似たり寄ったりだ』『でも、どこかが違うんだよね』『もしかして彼は裸エプロンや裸ジーンズは嫌いなのかもしれない』『だとしたらソリが合わないのも納得だね』『裸レインコートとか好きそうな人だと思ってたのに』『酷い話だぜ』

『でも盗み聞きした限りでは』『彼らの中での「最悪」って、あの死に装束の人らしいんだよね』『もう、二度として会いたくないあの人』『驕るつもりじゃないけど僕どころか彼にまでそう思わせるって』『相当なものだよねえ』

 

「同族嫌悪と言われれば、それまでな気もするけどね。どっちの人もなんだか周りをめちゃくちゃに搔き乱しそうな雰囲気をしてたでしょ」

 

『何もしなくても状況が悪化する』『みたいな』

『え?』『僕もそうだろって?』『嫌だなあ、僕は自ら引っ掻き回してるだけでいるだけで迷惑だとかそんなそんな!』『……え?』『マジ?』『存在が迷惑?』『マジかあ…………』

『あの人達とそんなとこまで一緒だとか思いたくないんだけど』『いやでもまさか』『嘘だよねえ?』『嘘は嫌いだよ?』『いくらなんでも僕がいるだけで迷惑だなんて有り得ないよ』『むしろめだかちゃんの方が余裕で周りを巻き込むよ』

『僕のはそんなパッシブスキルじゃない』『断言するよ』『信じて信じて』

 

「自分から率先して掻き回していたっていうのも何のフォローにもならない自己卑下な気はする。でも、流石にいるだけでそんなことになるだとか、ないと思うよ?」

 

『というかそういう質問は求めてないって』『とにもかくにも彼らの話だ』『いや、目が死んでいた彼の話だ』『痛みに慣れているようだったし案外マゾヒストなのかもしれない彼の話さ』

『僕について君が』『()()()()まで知っていそうだからここまで長々と六〇〇〇文字くらいで話させてもらったわけだけど』『勿論、僕は色んなとこにいたからね』『端的に言えば、あの辺りにも寄ったんだよ』

『そしたら何と奇遇も奇遇の奇跡偶然あらびっくり』『ってな寸法でさ』

『いやあ、まさか「なかったこと」にした本人じゃない人と遭遇するとは思っていなかったんだよね』『何せ』『何回か言ったように僕のあれからの足跡は「なかったこと」にされたかのように雲隠れしているはずだし?』

『だったら今話しているお前は何だなんていう言葉はエヌジーだぜ』『ほら』『あの死に装束の人も言っていただろう?』『物語を進めるためさ』『これは安心院さんと似たところがあるけれど』『重要なことだ』

『それでどんな話をしたのかって?』『おいおい焦るなよ』『それを今から話すんだからさ』

『と、言っても僕から話したんじゃ味気ない』『僕は一応「なかったこと」になりかけている人間そのものだ』『それに』『嘘か本音か分からない僕の言葉で語り部なんて』『読んでられないぜ?』『今僕が話していた内容だって、きっとどこかで八割方無視して読んでくれだなんて注意書きがあるレベルだよ』

 

「さてそれじゃあそろそろ本題だ」

 

『本題というか、これこそ注意書きかな』『この物語はフィクションです、ってやつ』『安心院さん的に言うなら、現実から切り離して読んでね』『ってところかな』『じゃあ改めて、注意書きを』『いや』『()()()()を』

 

「──────これは混沌よりも這い寄り(どうしようもなく)

「本当に負完全に(どうしようもなく)

「『大嘘憑き(オールフィクション)』ではなく」

「『劣化大嘘憑き(マイナスオールフィクション)』でもなく」

「『安心大嘘憑き(エイプリルフィクション)』でもなく」

 

「『虚数大嘘憑き(ノンフィクション)』だ」

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