──米国歌手 パッシー・クライン
京都という土地柄でありながら、珍しくこの時期にちらほらと降る、白い雪。この辺りでは確か一月くらいに降るものだと思っていたのだが、変な季節もあるものだ。もしかすれば今、どこかで何かが起きていて、変なものが降るような面白おかしいことが起きているのかもしれない。
主に、戯言遣いのお兄ちゃんの周りで。
しかし、文字通りのホワイトクリスマスとは言えど、私もあの人もこういうイベントには疎いように思える。毎年、我が兄、萌太が何かしらプレゼントを買ってきていたりしていたからこそ認知していたイベントだが、去年からはそうではないわけで。
特に去年はまず近日にあの意味不明な忘れたくても忘れられない、戯言遣いのお兄ちゃんに在りもしない汚点を詰め合わせて悪化させて混ぜ合わせて何もかもを混ぜこぜにした上で全てを台無しにするかのような存在がいたせいでもある気はする。見ようによっては殺しても殺さなくても何も問題は無さそうな存在だ。
が、アレは殺すに限る存在だと私は思う。そもそも、何故生きているのか。どう考えても人生において全ての試合も勝負も敗北をしていて全世界における負け犬みたいな雰囲気でありながらまだ死んでいないのは自然の摂理に反しているだろう。
「二度として会いたくない…………」
「そんなことを言うと会いたくなっちゃうのが僕なわけなんだけど」
「は!?」
驚いた。
私の顔の真横、右にいきなり横向きのその男の顔が。近過ぎる上に唐突過ぎる。ふざけるな、腐っても闇口衆、対敵対存在感知はいつでも気を張っているというのに、こんな近くにまで寄られるなんて。それもこんな男に。
「な、何なんですか、何故ここに! 貴方はあの時、戯言遣いのお兄ちゃんに連れられてどこぞと知れぬ場所に帰ったのではないのですか!」
「いやあ、ちょっとした野暮用でね。ここがその野暮用の最後の地なんだ、それでほっつき歩いてたら何と目の前にとんでもない美少女の後姿があるじゃないか、声もかけたくなっちゃうよね」
どういうことだ。どういうことだ? 野暮用? しかも、声の調子が少し違うらしい。それに、雰囲気も。一年前とは打って変わって、とまでは言わないが、柔らかく……いや。憑き物が落ちたかのようになっている?
「まるで今日の雪のようにいや雪化粧をした遠方の山を地平線に置いて白銀の世界から純白の光彩を浴びせたかのような白磁みたいに透き通った儚げでありながらもそれこそ色が抜けたことを思わせるほどにまで清楚さと純朴さを兼ね合わせた白が広がっている綺麗な肌のうなじに、光を感じさせない漆黒なのにも関わらずこれでもかというくらいに艶やかで艶めかしさも誘発させていて見た人に闇夜を連想させてしまいかねない危険さを漂わせておいても尚その深く墨を差した影のようでいて深く清らかでもあることを突き付けてくる濡れ羽の黒で染められた美麗な髪の流れ、そしてそれらの相反していて反転していると言っても過言ではない白と黒という対極の色味を限りなくふんだんに使われた彩色である癖にだからこそとでも言いたげなほどにまでその秀麗さを導き出していて見る者見た者全員を魅了しかねない雰囲気を醸し出しつつ且つその絶妙に絶妙という絶妙を絶妙させたバランスを崩さないどころかそれ以上にその魅力を引き摺り出している何もを見透かしていそうなしかしだからといって人の髄までは覗かないことを決めていると分かる瞳に目鼻立ちに顔立ち。ここまでとんでもなく端麗な美少女のそれはもう風光明媚そのものと言っても全く言い過ぎでないことを体現した存在の後姿というどう考えても見た者は立ち止まって拝み咽び泣いてから地に平伏して感謝の言葉を述べ連ねるであろう僥倖を手にしておきながらその存在に声をかけないだなんて思考に行き着く男は人として存在する価値は無い上にそんな思考は思考とは言えるわけもなく考える葦である人間としての存在価値が問われるとしか言い様が無いから僕は声をかけたわけなんだけど」
「は?」
私はそのような追加情報を知りたくて黙ったわけではない。そもそも、このような男にどれだけ甘言を捲し立てられようと全く靡かないし心に響かない。嫌悪感があるわけでもなく、相手は心の底からそう思っていそうだということが何となく分かるが、それだけだ。
しかし、心の底から思うことをそのまま言うような人間だったのだろうか、この男は。もしかすれば、この人はこの人でこの一年のうちに何だかんだ色々あって、少しは心変わりをしたのかもしれない。
「加えて何とその完璧に完成されつつも今でもその完成具合が完全に増していくというのだから末恐ろしい。次いでそれを台無しにするわけもない服装のセンス。白色ワンピとはよく分かってるじゃないか、いーちゃんの差し金?」
「そういう話をするために貴方は私に話しかけたのですか」
だとすればすぐさまお帰り願いたいのだが。
「いや? 褒めに来たのは本当だけど、まあ、話す話題が別にないこともないかな。にしても、初対面の時にまるで嫌われてるかのような対応だったのにきちんと話してくれるし敬語なんだね。僕泣きそうだよ」
「…………仮にも年上でしょうからね。それに、前よりも何というか、空気が違う。差し出がましいことを訊きますが、
「うん。一度だけ、ね」
勝てた、のか。生涯無勝という只為らない雰囲気を存分に醸し出しておきながら、一度だけとはいえ。そういう言い方をするということは、試合に負けたけど勝負に勝っただとかではなく、試合にすらも勝ったということ。素直に、驚きだ。
「ああ、そういえば僕の名前を名乗っていなかったね」
「名乗らなくて結構です」
『
「虚言ですね」
「戯言だよ」
虚言にも程がある。どこまでこちらの世界のことを知っているのか定かではないが、こともあろうか飛ばされている柒の名を冠する名前を名乗るなど。ここまでの人間であれば有り得そうな気がしてくるが、間違いでも在って欲しくない。
「それで、貴方はそんなどうでもいいことを言いに来たのですか」
「うん? うーん、正直そうっちゃそうなんだけど、まあ、本題が無いことも無いかな」
おっと。正直そういうことしか言いに来ていないと思ったのだが、案外本当に何か話しかける用があったらしい。そういえば、野暮用だとか何だとか言っていたか。おそらくはその野暮用というのも本当なのだろう。となると、この男、喋り方の調子もそうだが口に出す言葉もそれなりに変わっているらしい。
何の心変わりがあったのだろうか。
「ほら、崩子ちゃんって殺し名? だとか何だとかの一員でしょ?」
「帰りますね」
「ええ……」
絶対に関わりたくない。そんなことを自分から訊いてくる人間といて良いことなど一つも無いのだ。どう考えたって碌でもないことになるに決まっている、加えてこの男が言ったのだぞ? 何がひっくり返っても最悪に近いシナリオを描かれる未来は確定事項。
「そんなつれないこと言わないでくれよ。僕は時宮さんに会いたいだけでさあ。迷惑かけちゃったから、それの償いをしに来たんだよ?」
全く以て信用できない。多少は性根が変わったことは認めるが、だからと言って罪償いをするような存在にも見えやしない。むしろ罪に罪を重ねに来たと言われた方が納得がいくくらいだ、吐くならばもっとマシな嘘を吐けという奴である。
「昨夜もそれで零崎って人に会ってね。そしたら丁度石凪さんって人も来て。全く話に取り合ってくれなかったから勝てそうもなかったけど、ま、そんなことは置いといて」
既に馬鹿なことになってしまっているじゃないか。私は嫌だ、そんな状況を作り上げてしまう奴の傍にいたくはない。何が悲しくて殺し名序列三位と七位を引き合わせ────殺し名の例外的一賊と殺し名の特権級死神を巡り合わせるような存在の近くにいなければいけないのだ。土下座されたって御免である。
そしていくら引き留めたいからと言って人のスカートの裾を摘まんで止めるのはやめてくれないだろうか。しかもきっちりしゃがんで……いや、位置と角度的にスカートの中身は見えていないのだろうが、それでも何となく嫌だ。気持ち悪い。
「離してくれませんか。貴方と一緒にいるとそのうちその話のようにすぐにでも別の殺し名の方々が──────」
「どうも。『掃除人』、天吹
「こんち。『虐殺師』、墓森
言った傍からこれだ。
二人とも、目線や言っていることからして仮名・柒剥神削のことしか眼中になさそうなのが私にとっては救いか。それにしたって、序列六位の天吹と序列五位の墓森だと? 昨夜来たのが石凪と言っていたが、どんなパレードが始まると言うのだか。
それも、この男はいるだけの存在にも関わらずそのようなことをされているわけで。殺した方が良いのでは、と一年前に言ったのは私だが見たわけではなく見る前から殺すためだけにこの場所にいるかのような物言い。筋金入りの殺され屋か何かか?
しかし当の殺戮対象はスカートを摘まんだままだんまり。
「……良いね、これ。次のトレンドはこれだねこれ。スカート摘まみ。とっても良いぞ」
「よくこの状況でそれを言えましたね!?」
虚言だとか戯言だとか以前に馬鹿かこの男は?!
「えー。だって良くない? 分かんないかなあ、この良さ。何なら説明するけど」
「しなくて結構です現実を見てください」
「仕方ないなあ……確かに、変に崩子ちゃんを巻き込むわけにもいかないし」『ま』『だからと言って、君達の相手をまともにするわけでもないんだけど?』
不意と。
喋り方を、一年前のソレに戻す。流石は天吹と墓森と言ったところか、その調子の切り替えだけで何やら危険かもしれないと察せられたらしい。『掃除人』の称号に相応しく清掃員のような恰好をして箒を持っている天吹と、『虐殺師』そのものと言える血塗れの拷問器具の数々を所持している墓森、どちらともに瞬時にそれぞれの武器を構えた。
しかし、それでも何も恐れずつかと一歩、足を踏み込む男が一人。
『おいおい何だよその武器は』『チリトリも無しに埃を掃くのかよ君は』『だとしたらこれまた随分と馬鹿馬鹿しい人だ。まるで経験値をくれないスライムみたいだぜ』
何故スライム扱いをわざわざしたのか。
『そっちの人もそっちの人だ』『何その武器?』『血塗れとか厨二恰好良いの骨頂かよ』『バトルアクションものの漫画だったら全く盛り上がらないクッソしょうもないとこで咬ませ犬になりそうな奴だぜ(笑)』
「便器に詰まって死ね」
「五万年苦痛でもがいて死ね」
どちらもその煽りが覿面だったのか面白いくらい息を合わせて超高速でその男を殺していた。『掃除人』はその箒の柄で男の喉を貫いて。『虐殺師』はそのフォークとペンチと針のムシロとで全て男の心臓を貫いて。結果、その散々貶した武器が突き刺さったままの穴からはだらだらと血液が垂れていく────
が。
それらが地面に付くことは無かった。
『『
柒剥神削がそう言う。見てみれば、血液は疎か、身体にも服にも穴は開いておらず、刺さっていた武器なんてものもない。しかもそれらが殺し名達の手元に返っているわけでもなくて、見たまま、まるでそれそのものがなかったことだったかのような現実。
「何を────しやがった!?」
『何も何も。言ったじゃないか、『
「それだけで分かるわけがねえだろうが! 何なんだよそのオールフィクションってのは! 俺の逸品共を全部消しやがって、返しやがれ!」
そう激しく抗議するは、墓森司令塔。血塗ればかりとなると錆び始めていて優れものでは無さそうな気がするのだが、どうもあの状態こそが彼らにとっては状態の良いものらしい。厨二恰好良いの骨頂かよというツッコミに対しては同意していたのだが、案外きちんとした理由があるのかもしれない。
「あんだけ恰好良くしといたってのに! またペイントし直すの大変だろうがよ!」
無かった。しかもペイント。拍子抜けが過ぎるぞ。
『やっぱりアレ恰好付けだったんだ?』『いやあ御免御免、僕ああいう恰好付けてるのって苦手でさ』『僕が恰好付けてないのに相手が恰好付けてるとかムカつくじゃん?』
「当たり前だろ! 女児のスカート摘まんで喜んでる奴が恰好付けてたらこっちが困るってんだよ!」
そして律儀に応答する墓森司令塔。拍子抜けが加速していく。無論そちらの意見にも同意しかできない、あの状況で恰好付けているなどとほざかれた方が反応に困る。いや、いっそその方がそんなわけがないだろと一蹴しやすいのか?
『何てことを言ってくれるんだ君は!』『スカートつまみが恰好良くないだと!?』『どこを見てそう言える!?』
「どこをどう見たって格好良くねえだろうが! むしろダサみの極みだろうが!」
『何をう!』『スカートという世間一般上では女性しか履くことを許されていない男女差別を存在から象徴しているかのようなその女らしさそのものを捲るのではなく摘まむことによって逆説的に尋常ならざる背徳感と罪悪感を産み出ししかし摘まんでいるだけなうえパンツを見ることが目的ではなくそれどころか摘まんでいる本人の目線と意識は全くパンツに行っていないが故にされた女性は何とも言い難い気持ちに陥り周囲のスカート捲りなんかをしてきたしょうもない男共は目的と手段が入れ替わってしまっているような気がして気が気でなくなるこの行動のどこが!』『摘まむことにより自分好みのパンツが見えなくとも良い感じに太腿との視界のバランスが取れ場合によっては自ら絶対領域を作り出したり最高の色の采配を作り上げられ加え相手の女性の下腹部には若干の空気を感じさせた上でのやはり見えない見えていないというマッチングを現実に引き摺り出しているこの行動のどこが!』『恰好良くないだと!?』
いや全く格好良くない。
そしてまた私のスカートの裾を摘まみながら言わないで欲しい。何が何だか分からない能力についてでも考えていたのか黙り込んでいた天吹正規庁の方の開いた口が塞がっていないし、反論することを諦めた墓森司令塔は至極嫌そうな顔をして見るからに拒否感を示している。
「…………すまない、墓森。私にこの男は手に負えない……離脱させてもらう…………予想以上の汚れがこびりついているらしい……無理だ……これ以上見ていると綺麗にする前にこちらがヘドロ塗れになる………………」
「お、おお……俺も正直無理強いはしねえわ…………うん……」
というかドン引きしている。当然だ、こんなことをそれはもう盛大に力説されてしまっては引く他ない。私も正直今すぐにでもこの場から立ち去りたい。戯言遣いのお兄ちゃんの元にでも行って今すぐ癒されて浄化されたい。
そして気付けば本当に天吹の人間は帰っていった。それほどにまで柒剥神削の言動は耐え難かったということなのであろう。そしてその事実を本人が認識できていないというのがこれまた手痛い。自覚していればそのようなことを言えるべくもないが、それが仇になり過ぎている。自覚してくれ、頼むから。
「俺ももうこいつの殺しはすぐに終わらせてえから…………これで行くか!」
と、天吹が姿を消したことを理解してから新たに何かしらの武器を取り出し、目の前の男へと飛び掛かる。アレは何の拷問器具なのだろうか。首輪に両端がフォークのような棒が付いたものに、籠手やお面。長い錐のようなものもあれば、純粋なナイフと思わしきものもある。尚、血塗れではない。
しかし、それらは全てが全て、男に喰らわすことも叶わない。私から見れば、それらは唐突に空中で消えて、その違和感を即時感じ取った墓森がその場で止まったことが理解できた。とは言えど、私も彼も、何故いきなりその道具達が消えたのかは理解できておらず。
『『
「なかったことにした」。
そう言った。
なかったことにした? いや待て、それは流石に馬鹿げ過ぎている。どう考えても、などというものじゃない。どんな人間にだってそれを考え付くことは不可能だ。意味が分からない。
なかったことにするだと? それはつまり、何でもかんでも消え失せるということではないのか。先ほどのは傷と武器を消して、今のは武器を消した。武器という固形だけならばまだしも傷も消せたということは、その対象の範囲は相当なもののはず。武器、傷、記憶──────いや。
命さえも。
消せてしまうのではないのか?
「なかったことに……だと? おま、お前、何してくれてんだ。ふざけんな、ふざけんなよ……今までの歴史でどれだけ拷問器具が役に立って来たと思ってんだ!」
墓森司令塔の塔員はまたしても憤慨し、再び幾つかのそれらしい危惧を出して駆け出す。今度はペンチの大型と、三叉のペンチ。だが、それもまた消える。これはもう驚く必要もないだろう──
『『
「……………………!! ふ、ふざ……! ま、まさかお前! この世から全ての拷問器具を失くす気じゃねえだろうな!?」
『……ふうん? なるほど、この世からか……それも良いね!』『君の持ってる分だけで勘弁してあげようと思ったんだけど、そんなキラーパスを出されちゃったから』『応えるしかないよねえ?』『いやはやしかし』『昔にもそんなキラーパスを出された覚えがあるかな』『結局あの時に「なかったこと」にしたものはぜーんぶ安心院さんに元通りに塗りたくられちゃったんだっけな』『流石だよねえ』
飄々と、そう言いながら一つの長い長い螺子を、どこからともなく取り出す。どこから出した? もしかして、その能力は時間すらも、なかったことにするとでも言うのか。そして、そんな疑問に対して答えてくれるわけもなく、その螺子の先を地面に付け、少し埋まったところで腕を乗せて立ったまま寛ぐ。
「や、やめろ! 拷問器具ってのは、俺みたいな奴にとっちゃ」
『『
「!?」
螺子が全て地面に埋もれる。
相手の言うことを途中でぶった切って、本当に、そうしてしまったようだ。青褪めて全身をくまなく服の上から叩いてはポケットの布を引っ繰り返し、上着を脱ぎ、袖を捲り上げて、肌の露出を増やしていく。そしてそのどこにも、彼が探しているであろうものの姿は形も影もない。
「お、ま…………か、返してくれ! あれは、俺にとっちゃ宝物みたいなもんで、子供の頃から大事にしてたんだ! 親の形見なんだ! だから、か、返してくれよ! なあ!」
『おいおい』『馬鹿言っちゃいけないぜ』『そんなもので君は人を殺そうとしたのかい? うわあ人の風上にも置けない人だ。よくそんなにいけしゃあしゃあと言えたもんだよ』『大体そんなこと誰が信じると思ってるの? 馬鹿じゃないの?』
「あ、ああ、何とでも言ってくれ! 俺を殺してくれたって良い、だから、だからせめて一番最初の
……傍観者を気取っている私が言うのもなんだが、もうこれではどちらが悪役なのか全く分からない。墓森司令塔の人間が通常考えればおかしいことを言っているのは分かるが、心がかなり籠っている。しかしそれを咎めているはずの男は見るからに悪役という風体で、どちらが正義なのか全く見当が付かなくなってくる。可哀想、などではない。何だこの、気持ち悪いのは。
良いも悪いもないまぜに、というか。悪いことをしているはずの人間が、悪いことを言っているはずの人間が何故か良い人に見えてくる。良いことをしているはずの人間が、良いことを言っているはずの人間が何故か悪い人に見えてくる。
『そんなに懇願したって無理なものは無理さ』『『
「それでも……!」
『何つって』
「が………………?」
「は?」
目視できたのは肉片と化す墓森。いきなり体が膨れ上がったかと思えば、皮が破れ、肉が裂け、欠陥がはち切れて、血液をぶち撒ける。その残骸が飛び散りまくったところで視認できたのは何やら先程まで持っていた武器群の数々で、見ていないものもちらほら。それに明らかに数が多くなっていて、形と大きさが合わないものもある。
体内に入れていたとは考え難いし、そこの男が全てなかったことにしていた拷問器具があるというのはおかしいし、あれほどの量を体内に隠し持っていたとも考えづらい。であれば、あれらがいきなりそこに現れた、というのが正しいわけだが……なかったことにしたことはなかったことには出来ないとも言っていた。
ならば、やはりおかしいわけで。
とか。
現実の視界情報に私の理解が追い付かないうちに、気が付けば墓森司令塔の姿は元に戻っていた。
そこに出てきた器具達は周りに散らばっていて、当の虐殺師は白目を剥いて口を開けて泡を吹いて失神している。失禁している。でもその周辺に血は飛び散っていないし、肉片は一つもない。服が破けているわけでもない。どういう、ことだ?
『『
「どう…………いう……こと、です……か……?」
理解が。
追いつかなさ過ぎる。
『ん?』『ああ、そっか』「……わんこちゃんはいーちゃんや人識ちゃんほど
「は──────」
意し、き、が。
「ま、生涯無価値からの餞別だとでも思っておくれ。いや、スカート摘まみの良さを分からせてくれた謝礼かな。何にせよ、もうおねんねしな、美少女ちゃん。今までの放送は、《