神の暇つぶしでAUOにされたので好き勝手に生きます   作:K@krk

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@改正版。
アニメや原作を読んでいる内に書きたい内容が変化したので大幅に加筆しました。文字数多めです。


4. 滅びゆく島と繋ぎ止める鎖1

 

大きな荷物を背負い何かから逃げる様に怯えた顔をした幾人かの島民とすれ違う。

それとぶつからないように注意だけしながら進み続けると、島の中央にある大樹に近付くのを阻もうとするかのように指先に走る痺れが強くなっていく。

バテリラの時もそうだったが、"世界"はとことん俺という異物が気にくわないらしい。

 

 

(文句があるなら俺じゃなくて、俺をここに連れてきた"神様"にやれっつーの)

 

 

だいたいこういうのって『二次元に行きたい!!』って願ってる奴の願いを聞き届けてやるもんだ。

こんなだまし討ちのようなことをしなくても、『生き残れる程度の強い肉体と能力授けてやるから異世界に行ってみない?』とか声をかければ食いつく奴は山ほどいるだろ。

幼馴染なら即答する。あいつは推しの為なら金を湯水のように使う奴だったから、どの異世界かの選択肢だけ与えてやれば喜んで何もかも捨てて行くぞ。

それだけ断言できる。あいつはガチで二次元の推しに会う為なら世界だって捨てられる奴だ、と。

 

 

(そういや、あいつワンピの中でもロビンが一推しだって言ってたな……)

 

 

俺には、二次元の推しに貢ぐ為に数々のライバル達を蹴散らして大手企業に就職した幼馴染(アホ)がいる。

推しのグッズの発売日なら、大雨だろうが猛暑だろうが台風が来てようが俺に用事があろうが構わず巻き込んでショップに走る救いようのないアホ(幼馴染)だ。

そんなアホ(幼馴染)の話に付き合ううちに、流し読みしかしてなかった俺の脳内には物語の流れから敵の詳しい過去までぎっちりとインプットされてしまっていた。

あの頃は無駄知識だと思ってたが、まさかこうして役立てる日が来るとは思わなかったな。

本当に、人生何が役に立つか分からんもんだ……。

むしろ俺の現状を知ったら血涙でも流して悔しがるだろう。

……ダメだ、想像したらリアルにやりそうであまりの気持ち悪さに鳥肌と寒気が止まらなくなった。

 

 

(兎に角、エースの時のような失敗はしないように今回は気を付けないとな)

 

 

軽く咳払いをして考えを切り替える。

今は幼馴染の事よりも目の前に差し迫った悲劇をどう回避するかが重要だ。

え?エースの時の失敗って何だって?

出産が終わったばかりの奥さんとエースを親子共々拉致しようとしたらいきなり心臓が停まったんだよ。

受肉しているとはいえ英霊の体だ。そんじょそこらの毒や攻撃で止まるほど柔じゃないし、その時居たのはガープと医師と産婆くらいだ。

いきなり現れた俺に驚いて固まってる奴らに何か出来たとは思えない。

なら、原因は何か?

最初に頭に浮かんだのが、"抑止力"という言葉だった。

 

"抑止力"――Fateにおけるカウンターガーディアン。集合無意識によって作られた、世界を安定して継続させることを目的とした世界の安全装置。

 

だが抑止力というよりは、俺という異物によって既に定められた物語(未来)を壊されたくない"世界"があの状況を引き起こしたとみるべきだろう。

バテリラに上陸した時も、今と同じように指先が軽く痺れたような感じがしていたからな。

まあそんな状態の体でエースを取り戻そうと向かってくるガープとバトルするのは無理があってだな……。

泣く泣くエースの誘拐は諦めた。

なら、それ以外はどうだろう?

そう考えて次に浮かんだのが此処、オハラだ。

ニコ・ロビンの故郷であり、空白の100年を暴かれる事を恐れた政府によってロビンを除く住民が皆殺しにされた島。

 

 

(『オハラは世界政府に逆らった事によって滅んだ』。その事さえ世間に広がれば問題ない筈だ)

 

 

例えバスターコールの最中に貴重な文献が丸ごと消えようが、考古学者達が消えようが、脱走兵が一人消えようが、全て『バスターコール発動中の出来事』だ。

俺が居たという証拠さえ残さなければ、この場にいる海軍も政府も『全て炎の中に消えてしまった』と考えるだろう。

そう考えながら、只ならぬ様子に怯えた島民達によって慌ただしい街中を進み続け、一か所に集められた学者達の中に一人紛れ込むロビンの姿に足を止めた。

 

 

(まだあんなに小さいのにな……)

 

 

これから起こる悲劇によって故郷も信頼できる大人達も全て奪われ天涯孤独となる少女の、想像していたよりも小さな姿に思わず眉間にしわが寄る。

若干8歳にして7900万という法外な懸賞金を懸けられ、信頼できる仲間も安住の地も得る事が出来ず、人間の汚い所ばかりを見せつけられていくだろうこれからを想うと胸が痛む。

 

――子供というのは無垢で無邪気であるからこそ愛でがいがあるというもの。それを早々に失うというのは憐れよな。

 

ふと何処からかそんな声が聞こえた気がして辺りを見回すが、辺りに居るのは逃げ惑う民間人ばかりだ。

一部の人間は足を止めてはいるが、その顔には不安と困惑ばかりが浮かんでいて先程の余裕ある言葉を言える状態ではない。

 

 

(空耳か……?)

 

 

にしてははっきり聞こえたがと首を傾げた瞬間、学者達より更に奥にある全知の樹から二度、爆音と煙が上がった。

政府の黒服達に捕まっている学者達の顔が驚愕と怒りに染まり、それから間もなく電伝虫が鳴く。

それを合図に止めていた足を動かし、黒服達の後ろを通り抜けて全知の樹へと向かう。

 

 

「ここに貴様らの『死罪』が確定した!!!」

「……実に残念。今日この日、世界一の考古学者達が一同に命を落とすとは……!!」

 

 

耳障りな男の笑い声と宣告する声を聞き流し、爆弾によって大きく開いた穴から全知の樹内部へと足を踏み入れる。

俺の行動を制限しようとでもいうのか、しびれから明確な痛みに代わった警告を無視して内部を見回した。

地下への隠し階段を見つける為に荒らされた室内は酷い有様だ。

幾つもの本棚が倒され、散乱した書類や本の中には折れているだけでなく足跡が付いている物もある。

 

 

(……本大好きな婆ちゃんが見たら般若になりそうな現場だな、こりゃ)

 

 

大好きだった祖母の影響で多少本を読む俺も、この状況には正直腹が立つ。

だが、此処で動かなければバスターコールが発動され、此処にある全てが火に包まれるだろう。

湖に落とされた本達だって、あの後どうなったのか分からない。

もしかしたら政府によって処分されたかもしれない。

そう考えると、これから俺が行うのは、正義の行動と言えるだろう。

被っていた兜を王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)に戻し、ヴィマーナとは違う移動用宝具で宙に浮く。

全知の樹の殆どの階が吹き抜けになっているおかげで然程時間もかからず、途中からは階段を使い最上階に辿り着いた。

道中感じてはいたが、黒服達は全員、地下の歴史の本文(ポーネグリフ)に釘付けになっていて此処まで来ていないらしい。

 

 

「邪魔者がいないというのは好都合ではないか」

 

 

ニヤリと口角を上げて、今回初めて使用する宝具を膨大なリストの中から選出する。

それは神すら縛る至高の鎖にして無駄使いは決して許されない、この体の唯一無二の存在。

エルキドゥ――そう心の中で読み上げた瞬間、自分の物ではない万感の思いが胸に込み上げてくる。

それは、この体に刻み込まれた想いか、それとも……。

 

 

「あまり時間がない故、苦労をかけるが頼んだぞ!『天の鎖(我が友)』よ!!」

 

 

部屋全体に王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を展開。そこから飛び出した鎖が部屋中に散らばる本を器用に拾い集め、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)へ飛び込みまた戻ってくる。

その光景を見つめていると、穏やかにけれどどこか困ったように微笑む淡い緑の長髪の人物が脳裏に浮かんで、自然と口角が上がった。

実際に『彼』がこの場に居れば、仕方ないなあと言いながらも手伝ってくれそうな気がする。

だが、これだけの数となると彼だけでは大変だろうと、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から新たな道具を出す。

自動人形(オートマタ)と呼ばれる物だ。その数はざっと50。

テキパキと指示された通りに動き出す人形達と天の鎖を見ていると、外で一発の銃声と悲鳴が聞こえた。

 

 

(ああ、始まるのか)

 

 

外の喧騒を聞きながら階段を下りて吹き抜けのある階までたどり着き、さあ宝具で一階まで降りようと視線を向けたらちょうど黒服達()が何冊も積み上げげられた本の山に火を放とうとしている場面に出くわした。

 

 

「……」

 

 

あまりにも許しがたい光景に自分の顔から表情が抜け落ちるのが分かった。

けれど頭は冷静なまま、なるべく本を傷つけないようにと威力の低い宝具を一つ、塵に向けて放つ。

結果は予想出来ていたので見届ける事なく宙に身を躍らせ、途中で静止する。高さはだいたい10mくらいか。

そうして下に視線を向ければ、予想通り何が起こったのか分からずに目を白黒させている塵がいる。

とりあえず本に火が付いていないのを目視で確認してから口を開いた。

 

 

「地を這う虫けら風情が、誰の許しを得て此処に足を踏み入れている」

 

 

俺の声に顔を上げたその顔が、揃いも揃って口を開けたかと思えば青くなり、瞬く間に白を通り越した土気色へと変わっていく。

 

 

「貴様らは(オレ)を見るに(あた)わぬ。虫けらは虫けららしく地だけを眺めながら、死ね。」

「まっ、待って……!!」

 

 

塵の言葉など聞く価値もない。

俺の言葉と同時に王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から幾つかの宝具を射出する。

アレに許されているのは、抵抗も逃げる間も与えられず、撃ち出された宝具によって体を砕かれ血を撒き散らしながら絶命する事だけだ。

 

 

「散り様すら余興にならんとは……つまらん」

 

 

砕け散って幾つもの肉片となり、元が人だったと言われなければ分からなくなってしまったそれから視線を外し、さて次はどうしようかと思考を切り替える。

本の量が量なだけに、全て残さず回収しようとなると一体どれくらいの時間がかかるのか想像がつかない。

だがあまりもたもたしてると何隻もの軍艦による集中攻撃で火の海にされてしまうし……。

 

 

「な、なんだこれは……!?」

 

 

突然聞こえてきた声に視線を向けると、何人もの男女が口元を押さえたり青ざめたりしながら人間だった物の残骸を呆然と見つめていた。

ああ、ちょうど良かった。これなら火を消す手間が省けたおかげで回収するスピードも早くなりそうだ。

 

 

「雑種のくせに良いタイミングで現れるではないか」

「なっ、声!?」

「どこから……!!?」

 

 

きょろきょろと辺りを見回す学者達。

だがすぐに頭上にいる俺に気付くと、揃いも揃ってぽかんと口を開けた。

 

 

「何を呆けている。さっさと己の役割を果たすがよい」

「能力者か……!!?」

「待て、この顔どこかで見た事あるぞ……!!」

「騒ぐな、雑種ども」

 

 

本に火が付いていないと分かるとざわざわと騒ぎ出した考古学者達を目を細めて軽く威圧する。

それだけで顔を真っ青にして黙り込んでくれた。

善良な市民である彼らを威圧したくないが、バスターコールによる一斉攻撃が開始されるまでもう時間がない。

 

 

「貴様らが己の命も顧みずに此処に戻ってきたのは、一節でも多くの歴史を後世に残す為であろう」

「!?」

「ならば限られた時間を無駄に消費するでない。残された時間はそう多くはないぞ?」

 

 

俺が言い終わると同時に一斉砲撃が始まったのだろう、打ち上げ花火の時のような音が辺りに木霊する。

だが花火と違って破壊しか齎さないそれは、容赦なくオハラという島を焼き尽くさんと炎を噴き周囲を火の海へと変えていく。

 

 

「そ、そうだ!本を図書館の外へ!!」

「本を守れ―!!」

「一冊でも多くの本を!!」

 

 

我に返った学者達が俺の足元を通り、散り散りになっていく。

ある者は持てるだけの本を持ち、またある者は力を合わせて仰向けに倒された本棚を持ち上げて外へ運び出そうとする。

その外へ向かおうとする学者達の歩みを止めさせる為に声を張り上げた。

 

 

「無駄だ。貴様らも理解していよう。この島の全てを燃やし尽くすまでこの砲撃は止まらぬと」

「なら湖へ落とす!!燃えてなくなるよりはマシだ!!」

「たとえそれで残ったとしても、その後がどういうものになるか理解できぬ貴様らではあるまい?」

「だとしても、諦める訳にはいかないのよ!!!」

 

 

だから俺の宝物庫で預かるよと話を繋げようとしたところで、一人の女性が声を上げた。

細腕に見合わない量の本を抱え、気丈にも俺を睨み付けてくるその瞳には、様々な感情が混じり合っている。

得体の知れない俺に対する警戒、困惑、不安、そしてそれを凌駕する考古学者としての使命に殉じる決意と覚悟。

それは現在(イマ)を必死に生きる人間が魅せる魂の輝き。

 

 

「……人の話は最後まで聞かぬか、たわけ」

 

 

その女性に一瞬だけ騎士王の姿が重なった気がしたが、一瞬だけ目を伏せてそれを思考の彼方へ追いやった。

時間もない事だし、こういうタイプには直接見せた方が早いだろう。

タイミング良く被弾した衝撃で吹っ飛んできた何冊かの本をその場に展開した王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)で回収。

学者達の目の前に一つだけ展開して、そこに先程の本を積み上げてやる。

 

 

「見ての通り、これらは全て中で繋がっている。如何なる攻撃であろうと通さぬ我が宝物庫にな」

 

 

つまり何が言いたいかって言うと、世界で一番安全な場所だから安心しろって事だ。

世界最古の英雄であり最強のサーヴァントの宝具だからな、閉じてしまえば俺以外誰も開けない。

伝わったかどうかは、学者達の瞳に浮かんだ新たな感情ですぐに分かった。

 

 

「理解したか?ならば、此処に在る蔵書及び紙片一つに至るまでの全てを我が宝物庫に納めよ」

 

 

詳しい説明は全て後回しにして、俺は両腕を組み、新たに宝物庫に通じる黄金の波紋を図書館中に波立たせる。

その数はおよそ300。上階も合わせると600ほどになるか。

 

 

「此処に在る書物はどれも興味深い。故に紙片一つであっても損なう事はこの(オレ)が許さん」

 

 

本を腕に抱えたままの学者達の視線が俺に集中する。

それを感じながら、彼らの協力を得る為にもう一つ言葉を落としてやる。

 

 

(オレ)が治める島には幾つかの歴史の本文(ポーネグリフ)も保管してある。貴様らが望むのであれば思う存分研究をさせてやろうではないか」

「!!!」

 

 

俺の言葉に学者達の目付きが変わり、まるで競うように本を王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)に投げ込んでいく。

さて、これでどのくらい時間を短縮できるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 


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