(割と真面目に、夏祭りなんて10年ほど行っていないのでどんなものがあるか分からず、友人を頼ったのは秘密)
ps.10連ぶん回したら飛鳥出ました、サンキュード○○○ん。
夏祭り当日。浮かれる俺を察してか、武内氏が「残りの仕事はこっちでやっておきます」と言ってくれた。サンキュータッケ、やはり敏腕プロデューサーは格が違った。
夏祭り……か……肇は浴衣を着ていくと言っていたし、俺も着ていったほうがいいのかね……ただ、浴衣があったようには思えないからどこかで買ってから行くしかない。
とりあえず銀行で一万円ほどお金を下ろしてしまむ○で浴衣を買う。俺の180cmを超えないくらいのひょろ長の背格好的に、やはり浴衣の色は黒か紺色だろう。柄物とか無理ぽ。俺が着こなせる気がしない。黒ならまだワンチャンあるかもしれないけど白い模様とか入ってるのは無理、絶対に無理。
「これで……いいか」
選んだのは黒に少し薄目の色で掠れた小紋柄。まあ、ここいらが無難なところだろう。多分、柄には見えないし。灰色の帯、下駄も追加で3000円。なんとまぁ、安いことだろうか。お財布に優しい、さすがしま○ら。
さて……あの子はどんなものを着てくるんだろ。
――――――
一応、神社の入口で待ち合わせということになった。レッスンの関係で少し遅れて電車で来るらしい。郊外、つまり東京都○○区じゃなくて東京都○○市みたいな所だからか区内に比べて人が少ない気がしたが、屋台は大繁盛のようで勧誘の声が入口の俺まで響いてくる。
「……畢兄さん、待った?」
「ううん、待ってな……い……」
肇の声がした気がしたのでそちらを向いたら、その先には女神がいた。薄紫を基調として、色とりどりの花が刷られている可愛くも少し色気がある浴衣で、その上彼女にしては珍しくポニーテールにしているのでうなじが見えることによる破壊力がばつ牛ンで致命的な致命傷を負った。
「……うん……その……可愛いよ、本当に……」
「そ、そう?あ、ありがとね……畢兄さんも、よく似合ってるよ」
「そ、そうか……そりゃ、良かった。浮いてそうで心配だったんだ」
意識してしまって顔がまともに見れない。浴衣効果は偉大だが、それ故に好きな人がやるとここまで殺傷力が高くなるのかと改めて実感した。
「そろそろ行こうか」と言うと、彼女は右手をこちらに突き出してきた。
「……どうしたんだ?」
「手、繋がない?昔みたいに、はぐれないようにって……ダメ?」
その聞き方は卑怯だろ、肇ちゃんや。それやられて断れる男なんざ誰も居やしないはずだ。少なくとも俺は無理。
そうやって恥ずかしがっているのを悟られないように少し微笑みながら俺が手を出すと、彼女は手を繋ぎ、それどころか指を絡ませる所謂『恋人繋ぎ』にしてきた。やめてくれ、その攻撃は(精神的に)俺に効く。
「さ、行こ?」
「……よし、行こうか!」
「何であの子達付き合ってないんですか……」
「本当に、何で今まで付き合ってなかったの……」
「あーもう、まどろっこしいなぁ!」
「未央ちゃん、大きな声出したらバレちゃいますって!」
「卯月がさらに大きな声出してどうするの……」
――――――
後ろで聞き覚えのある声で騒いでる奴がいる気がしたけどオレ、キコエテナイ、イイネ?
「それにしても、色々な屋台があるもんだなぁ……」
「本当……昔は屋台の数が少なかったし……」
「そうだなぁ、昔はお好み焼き食べて二人で大喜びしてたもんな」
「ふふっ、懐かしい」
「それに……射的とかの景品も今みたいにゲーム!とかじゃなかったしな」
「そうだね。ああいうのってどこから持ってくるんだろ……」
「さぁ、な……おや、噂をすれば射的があるけど……やるか?」
「……うん!昔の私とは違うんだから!」
「おお?そりゃ楽しみだな?」
少し煽るように声をかけると肇は心外だと言わんばかりに頬をぷくーっと膨らませてこちらを見てきた。やっぱり可愛いっすね(語彙力)
屋台の店主と思われるおっちゃんに400円を渡し、二人分の銃とコルク弾を貰う。そうそう、このボルトアクションっぽいやつだよ。昔は腕力がなくて毎回おじいさんにリロードしてもらってたっけ。
「お兄さん方、机から身を乗り出すのはいいがくれぐれも地面から足を離すなよ。足を離して撃ったやつが倒れてもノーカウントだからな」
『はーい!』
「……おうおう、仲睦まじいこった」
二人揃って返事をすると、おっちゃんはニヤニヤしながらこちらを見てきた。俺らが何をしたって言うんだよ!
横では、肇が弾込めをやり終えたようでちゃんと足をベタ付けしながら身を乗り出している。狙う先にはさっき言っていたぬいぐるみ……ぴにゃだっけ。ブサ可愛いとか言われる系のやつだろうか、目元が武内氏に似ている気がしなくもない。
そうこうしている内に肇が一発撃ったが狙いとは見当違いの下のラムネに当たって、落ちた。待てや、何がどうなったら下に行くねん。
「……計画通りです」
「なーにが計画通り(キリッ)だ、どうして下に行ってんだよ」
「……キリッまでは行ってないじゃない……!見てて、絶対にあのぬいぐるみを撃ち落としてあげるんだから……!」
二発目も見当違いの方向へ。しかし三発目からはようやく当たり出した。胴体、頭と二発連続で当ててそろそろ落ちそうという時だった。
ラストの五発目。肇がさっきと変わらない体勢で撃とうとした、その時だった。
「……うひっ!」
「……うひっ?」
「……お腹が……腹筋が攣っちゃった……」
射的あるある、腹筋が攣る事件。いつも使わない筋肉を使っている人が多いから、無理な体勢でやるとこんなふうに腹筋が攣るのだ。小学校の頃の俺も何度か攣ったことがある。
「おっちゃん、この子のラストこっちで撃っていい?」
「……いつもならダメだが……今回は許してやる、無念を晴らしてやれ」
「……うっす!」
こちらもベタ付けで身体を乗り出してぬいぐるみに銃口を近づける。その距離は肇がやっていた頃よりも遥かに近かった。身長と腕の長さはここで活かされるのだよ、ピアノの時に役立ったことはないけど。
息を一つ吸い込んで、狙いを定め……そして放つ。放たれた弾は吸い込まれるようにしてぬいぐるみへと突き刺さり、そしてそのまま後ろのネットの方に落ちていった。
「お、おめっとさん!」
「よっしゃ、おっちゃんありがとな!」
「いいってことよ、おい嬢ちゃん。アンタの連れがぬいぐるみ取ったぞ」
「いたたっ……えっ?本当!?」
「マジマジ、ほれ」
おっちゃんから渡されたぬいぐるみを見せると肇は大喜びでぴょんぴょん跳ねて喜びを表現した。その姿が子供の頃と全く同じで面白くてつい笑ってしまう。すると彼女は「なんで笑うの」とまた頬をぷくーっと膨らませて拗ねてしまった。でも、なんだか嬉しそうな顔をしていた。
「…………ぐはっ」
「卯月ー!?」「しまむー!?」
「……所詮彼女は三人の中で最弱……」
「何ボスっぽくカッコつけてるのしぶりん」
「……でも、流石にあそこだけ空気が甘過ぎない?」
「わかりみが深い」
――――――
誰か一人倒れている気がするが、多分俺の気の所為。そうであって欲しい。
そんな俺の不安とは真逆に肇は夏祭りを満喫しているようで、楽しそうな声が聞こえてくる。
「畢兄さん!たこ焼き食べよ、たこ焼き!」
「わかった!わかったから走るのやめてくれ!」
引っ張るのはやめてくれたが、「もう待ちきれない」と言わんばかりに目を輝かせてこっちを見るのもやめてほしいなって思っちゃダメですか……ダメですよね分かります可愛いもん。
「たっこ焼きー、たっこ焼きー」
「……お前、そんなにたこ焼き好きだっけ?」
「別に好物ってわけじゃないけど……」
「じゃあ何で……」
「それは……一緒に食べられるから。一緒に食べた方が美味しい、でしょ?」
「…………そうだな」
そんなことを唐突に言われたら、顔が赤くなってしまう。何でこの子こんなに尊いことしか言えないんだ……
肇も素面で言い放ったように見えるが、耳が赤くなっているので多少恥ずかしがっているのだろう。もし恥ずかしがってなかったらそれはとても怖い女という事だ。良かった良かった。
屋台の店主に500円を渡し、船に入った八個のたこ焼きを受け取る。湯気が出ていて出来たてほやほやのようだが、出来たてに付きまとうのが熱さである。たしか、肇は猫舌だった気が……
「ふーっ、ふーっ、ふーっ……」
知ってた。なんかやるんだろうなと思ったら本当にやってた。その様子は昔の子供の頃を連想させてくれた。やはりあの頃と変わってないところは多いんだな……
「あ、あふっ……美味しい」
「そうか……良かった」
熱さからか少し涙目で笑っている肇と一緒に食べるたこ焼きは、いつも居酒屋で食べるたこ焼きの数倍は美味しく感じた。
「うっ…………」
「しぶりん!?」
「未央……後は……頼んだよ」
「しぶりーーーーん!!!」
――――――
「金魚すくい、か」
「畢兄さん、金魚すくい苦手だもんね……」
「七年経ってるんだし、得意になってると信じたい」
「わからないよー?もっと下手になってるかも」
「そりゃ困る」
店主に600円払って二人分のポイと器を貰う。器に少し水を入れ、戦闘態勢に入る。慎重にポイを水に付け、金魚の真下に滑り込ませるとスッと上に持ち上げた。すると、ポイの上で金魚が暴れだしてしまい、真ん中からごっそりと持って行かれて破れてしまった。
「あーあー、破れちった」
「えっ!?もう破れたの!?」
心外な、破りたくて破ったわけじゃない。そう思っていると肇はポイを水につけ始めた。その目はまるで獲物を狩るハンターのよう……あれ、渓流釣りでもこんな目をしていた気がするぞ?
そんなことを思っているあいだに肇はポイポイと金魚をお椀の中に入れていく。あれ?上手いな!?
三匹になった所でポイが破れてしまったが、三匹取れているだけで俺からしたらすごいことだと思った。
「すごいな、練習してたのか?」
「うん、少しね」
「ったく、ずるいぞそれ」
他愛もない会話をしながら店主に金魚を袋の中に入れてもらう。それを肇が貰ったその姿は、浴衣とのコントラストのせいかとても綺麗に見えた。
「うっ…………いや、まだ私が倒れるわけにはいかない。倒れちゃったしまむーやしぶりんの為にも、最後まで見届けなきゃ……!」
――――――
今回の夏祭りの舞台となっている神社の隣には大きな川が流れている。どうやらそこを利用して花火を打ち上げるらしい。
神社の本殿の途中の階段に座って、肇の仕事の話なんかを聞いていると、時間になったのか屋台の明かりがほとんど消えてしまった。そして……ドーン!という大きな音とともに金属の炎色反応によって起きる綺麗な色が空に大輪を咲かせていた。
『綺麗……』
思わずそんな言葉がこぼれる。それは彼女も同じだったようで、言葉がハモってしまった。顔を見やって微笑み合う。キザな奴ならここで「君の方が綺麗だよ」とか言うんだろうけど、俺には言えない。だって、俺はチキンだから。好きなことをやりたいって言って中途半端に逃げたチキン野郎だから。
でも……でも、ここで言わなかったらいつ言うんだ……!
「なぁ、肇」
「……ん?何?」
肇が俺の声に反応してこっちを見てくる。その瞳に、今パッと光った花火が映ってとても綺麗で、俺に勇気をくれた。
「この際だから、言っちゃうわ」
「……うん」
「俺さ……
――――――お前のことが好きだわ」
「…………そう、なんだ」
背後で花火が上がる音と、それに呼応して上がる歓声が聞こえてくる。その歓声は、まるで俺が言ったことを応援してくれているような気がして――――――
「正直、ここに入ったばっかりの時にお前と会った時は驚いたよ。だって、全然違うんだもの。姿もすっかり大人に変わって、性格も大人びて……」
「……うん」
「でもさ……そんなお前が誰かに取られるのは、俺は嫌なんだよ。独りよがりな独占欲かもしれないけど、俺はお前と、『付き合いたい』んだ」
「……うん」
「だから、改めて言うよ。お前のことが好きだ、だから俺と付き合ってほしい」
言い切った。渾身の出来だと自分でも思う。あとは肇自身の返答を待つだけだ。
少しの静寂のあと、花火がまたひとつパッと上がって、俺たちの顔を照らした。その時に見えた肇の顔は、泣いていた。
「私……嬉しいの。畢兄さんにそうやって言ってもらえて、すごい嬉しいの」
繋いでいた手がさらに強く握りしめられる。まるで、もう離れたくないと言わんばかりに、強く握られる。
「私も……兄さんの事が、好きだよ。だから……こちらこそ、よろしくお願いします……?」
「……マジで?」
「マジ、だよ」
そう言うと、彼女は花火がなくなり、俺が彼女のことが見えなくなった隙を利用して――――――
頬に、柔らかい感触。
何が起きたかわからないまま、目を白黒させていると彼女は笑ってこちらを見てきた。それと共に目玉の一号花火が大輪と爆音を空に響かせた。それで照らされた肇の顔は赤かったが、それは花火の光の色か、それとも――――――
「あっ、ダメっ、尊い…………」
中間発表がありましたね。肇ちゃんはランク外でした……でも、まだ半分あるから……(震え声)
感想、ご意見等お待ちしておりますので、お気軽にどうぞ!
ps.活動報告に、重要なことを書かせていただきましたのでコメントよろしくお願いします。
また、次回更新予定は活動報告の結果に寄りますので未定(最長一週間後の5/3)となります。