黄金の日々   作:官兵衛
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答え合わせ

 

 

 

 

 

 

 

「そんな訳で父上も老いたのだろうな……俺に国を託そうとするなんて正気の沙汰ではないぞ?」

 俺がラナーの部屋に来て、クライムとラナーに事の顛末を話すと、二人は呆然とした顔をした。

「お言葉ではありますがザナック様……ランポッサ王のお心を鑑みますに、そのお気持ちを無碍になされる……ラナー様!?」

 

 えっ ラナー? ラナーの方を向こうとした瞬間、「げしっ」と言う音がして、ラナーが俺の左膝に物理的に蹴りを入れた。ええー

 

「いたっ えっちょっとラナー!?」

 俺が痛みで屈んだ瞬間、顔の両頬をムニッと掴み上げて限界まで広げる。

 

 みしみしみしみしみしぃ!

 

「いひゃいいひゃいいひゃい!ふぁなーひゃん!?」

「……お兄様は、一体何を考えておいででございますか?」

 そう言うとラナーはニッコリと笑った。怖い。

「いひゃ ひぇもひょうひゃいひぇひふぃ……」

「何を言っているのか解りません」

 

 そらそーだろ!?

 俺はブルンと顔を振るわせて、ラナーの手を振りほどく。

 コイツ……俺のましゅまろホッペを千切るつもりだったんじゃなかろうか……。

 おかしいな……良くクライムがやられている時は微笑ましいと思っていたのに、俺がやられたら心から恐怖を感じたのだが。

 

「ふう……いや、でも将来的に辺境地で、のんびりライフを送るというのは昔からの俺の目標であってだなあ……」

 

 そう。二度目の人生を悔いなく送るために必死に頑張ってきた。前世が一般人という凡人の俺が王国の第二王子という重すぎる立場にも負けずに頑張ってきたじゃないか。でも王様だなんて、さすがにそりゃ無理だ。余りにも不釣り合い過ぎる。例えば何かの選択をしなくてはならない時に、普通の為政者なら取れるであろう「小を捨て大を取る」という判断を取れないために、目先の満足で未来の不幸を発芽させてしまうことになるかも知れない。今回のカッツェ平野の大虐殺でボウロロープを始め数多くの貴族派が死に、今は王派が権威を伸ばす時なのだろうが、一般人的な視野しか持たない俺には自分の利益のために、貴族派を陥れたり謀略を良しとすることは出来ないだろう。平凡なだけじゃない。リアルでの一般人のモラルや道徳が染み付いている俺には権力者として最低限必要な判断が出来ないのだから。

 ここまで国家が危急存亡の時に相応しい王は、俺じゃなくてラナーだと本気で思うんだけどなあ……父王や大臣たちには隠しているものな。ラナーの悪魔的な頭脳という奴を。

 ラナーは多くの提案をしているがその多くはお花畑けの様なフワフワした物が多い。ただ、ここぞという時に大きな成果をもたらすアイディアを提案してくる。もちろんお花畑はダミーで、彼らの目を逸らすために育てているだけに過ぎないのだ。

 

「私もクライムとのんびりと暮らしたいのですが、私に押しつけられると?」

 

 ラナーが俺にスッと近づく。やべえ刺されると思った俺は「ひぃっ」と男らしく悲鳴を上げて飛び退く。

 

「……お兄様、どうして私に何かされるような態度を?クライムの見ている前で」

「いや!?お前さっき蹴ったよね!」

「気のせいです」

「なんでやねん」

「気のせいです。ね?クライム」

「はい 気のせいです」

 !? そんな……クライム……。そうか酸素欠乏症で……。

 

「クライムが遂に暗黒面(ラナー)に落ちた!?」

「なんでしょう。今、ふくよかな人に悪口を言われた気がします」

 馬鹿な!? こいつ、俺の心を!?

「ザナック様。ラナー様が兄を足蹴にする訳がありません。先程のは気のせいか、見間違えに違いないのです」

 かっ カルト!?

「しっかりしろクライム!? オマエ、ガゼフに悪を討てと言い残されたんだろ!よく見ろクライム。悪とはコイツの事だ」

 俺はクライムの両肩を掴んで揺さぶると、決め顔でラナーを指さした。

「うふ」

 そんな笑顔を見せたラナーが、ゆっくりと片手を上げると俺の突きつけた指をギュッと握った。

 

 ぺきぽき あっ

 

「ぐぬうおおおおおおお!?」

「ざ、ザナック様ああああ!?」

 ゆ、指の関節が逆に曲がっている!?躊躇なく折りに来た!?鬼だ!貴様、格闘漫画に出てくる軍人か何かか!?

「大げさねえ お兄様。突き指くらいで」

「突き指で関節が規格外の曲がり方をするか!」

「王宮回復師のところへ行ってくださいな。その程度はすぐに治りますわ?」

「なにこのファンタジーの嫌な所!?相手を怪我させた時の罪悪感が軽すぎるわ!」

「はいはい では参りましょうか? お兄様」

「え?」

「王宮回復師の所へです。私が御案内致します」

「嫌だ!?絶対になんか酷いことされるもん!」

 アタイを校舎裏へ呼び出して、これ以上何する気よ!?

「そ、そうなのですか!?ラナー様」

「ほら!兄さんのせいでクライムが怯えてるでしょう!可哀想に」

「怯えてるのも可哀想なのも俺だ!?」

 

 この金色の悪魔め!

 

 

 

 

 

 

 さて……楽しい時間は、一旦終わりだ。

 俺は窓の外が赤くなってきたことを確認すると、ゆっくりと息を吐いた。

 

 

 

「……クライム。紅茶に入れるハチミツを取ってきてくれないか?」

 俺が無表情で、そう頼むとクライムは一瞬、ハッとした顔をした後、満面の笑みを見せた。

 

「はい。少し珍しいハチミツを探してまいりますので、少々お時間を頂きたく思います」

 クライムは俺とラナーに礼をすると部屋から出ていく。

「クライムは良い子だな」

「ええ、とても」

「オマエは悪い子だな」

「ええ、とても」

「さて……」

「何かを掴まれたのですね」

「ああ」

「解りました。では、私とお兄様の答え合わせと参りましょうか?」

 

 そう言うとラナーは高貴な姫に相応しいロイヤリティスマイルを見せた。

 

 

 

 

 

 

「言っておくけど間違っていたら教えてくれ」

「……」

 ラナーは薄目で俺を見つめ続ける。

「そして……正解だとしても何も変わらない。俺はオマエのお兄ちゃんだ」

「……懐かしい台詞ですわね」

「そうだな……オマエは、ある日突然出会ったんだな。悪魔に」

「……」ラナーは笑みを崩さない。

「元々はオマエは俺と同じ様に辺境地などで良いからクライムとノンビリと暮らせる未来を企んでいたと思うんだが」

「ええ そうですわね」

「しかし、それを悪魔の出現という大きすぎる出来事が全てひっくり返してしまった。オマエとクライム。そして俺が願っていた安穏とした変わらない毎日が続く……そんな未来の絵図を根本から引き裂いたんだ」

「……」

「奴の名前はヤルダバオト……として暴れた悪魔であり、本当の名前はデミウルゴス。お前にピンポイントで接触してきたということは前々から我が国を念入りに調査していたのだろうな」

 

「……」

 ラナーは『デミウルゴス』という名前のところで体を固くさせた。

 

「そしてお前は考えた。自分にとっての最低限の未来を得るために、この悪魔に何を差し出せば良いのだろうか?と」

「……」

「そして、取引は成立した。悪魔たちが欲している物、つまり人間と財宝を与えた。これが悪魔襲撃事件の一端だ」

「……」

「『もうすぐ会戦もありますし国庫の整理をした方が宜しいかと』という建議書が出されたのは襲撃事件の3週間前。その建議書提出者にはオマエの名前がサインされてある」

「……」

「少なくとも事件の三週間前には悪魔と取引があったんだろうな。国庫は整理されて、ある意味、金品を運びやすい状態になった倉庫と、人が入りやすいスペースの空いた倉庫郡が肩を並べていた」

「……」

 

 ラナーは黙ったままだ。

 

「悪魔達は非常にスムーズに人も金も攫うことが出来ただろう。だが、冷たい目で見れば不幸中の幸いでもある」

「……何が、ですか?」

「もし、財宝も人も綺麗にまとまっていなければ、一体どれだけ王都は荒らされただろうか? 悪魔に(あらが)う人々の被害は?家族が攫われようとしたら命がけで助けようとして、彼らの被害はとんでもなく膨れあがっただろう」

「……」

「その襲撃事件はデミウルゴスだけが動いた訳ではなかった。例えば……吸血鬼のシャルティア・ブラッドフォールンも彼に協力していた」

「その名前は初めて聞きますわ」

「ふむ 珍しいな」

「ええ 少し悔しいですわね」

「そして、カッツェ平野での大虐殺。それを行ったのは魔導王『アインズ・ウール・ゴウン』」

「それは周知のとおりです」

「このアインズ・ウール・ゴウンはデミウルゴスとシャルティアの関係者だと俺は思っている」

「……」

「もう一つ気になっていることがある」

「はい」

「ブレイン・アングラウスは野盗の用心棒をやっている頃にシャルティアと会っているんだが、その場所と当時冒険者組合が複数のチームを差し向けることなった吸血鬼ホニョペニョコが現れたのは、ほぼ同時期で、かなり近い場所だ」

「……」

「1チームを除いて冒険者チームは全滅をした。唯一死ななかった、ホニョペニョコを倒した冒険者はアダマンタイトに昇格した。もしこのホニョペニョコがシャルティアと同一人物だとしたら?冒険者がアダマンタイトに出世すためのマッチポンプの道具だとしたら? その冒険者はホニョペニョコ……シャルティアと組んでいると考えられる。つまりアダマンタイト冒険者『漆黒』はアインズ・ウール・ゴウン、デミウルゴス、シャルティアの一味では無いのか?という疑念が俺には浮かんでいる」

「ということはエ・ランテルでモモンが魔導王の配下に入り、市民の支配がモモンの尽力により滞りなく進んでいるということも」

「ああ 初めから織り込み済みなのかもな。魔導王とは大した知恵者だよ」

「そうね……デミウルゴスという悪魔でも恐ろしい智者であるのに、その支配者はその上を行くらしいですわ」

「ほう」

 

 アインズ・ウール・ゴウンと名乗る魔導王はブレインの話を聞いた限りでは公式未公認ラスボスのモモンガではないかというのが、俺の推論だ。

 俺はずっと、彼も俺と同じようにゲーム中に死亡してこの世界に転生をしたのだろうと、そしてマスクを被り魔法の才能に恵まれてアインズ・ウール・ゴウンと名乗り魔導王となったのだと考えていた。それは十分ありえる話だったからだ。その軌跡は自分自身が体験しているのだから。

 有り得ないのはデミウルゴスとシャルティアの存在だ。なぜゲームのキャラが実体化しているんだ?

 そして、アインズ・ウール・ゴウン……骸骨のオーバーロード「モモンガ」もまた、何故ゲームのプレイアブルキャラが実体化しているのだろう?

 

「では……お兄様は一体、何者なの?」

「何者でもないよ」

「え?」

「でも、ある日オマエが生まれてくれて、その日から俺はお兄ちゃんになったんだ」

「黙って!」

「はい」

「アインズ・ウール・ゴウンの動きに関しては推理や洞察で導くことも出来るかもしれません。でも、何故『デミウルゴス』という名前を知っているのですか? 私の知らないシャルティアという吸血鬼の名前もです!この世界に突然現れたとしか思えない、あの悪魔の名前を何故!?」

「……」

「……」

「……」

「……?」

「……」

「喋って」

「はい」

 

「この世に突然現れたとしか思えない……だって?」

「はい もし彼らが今までこの世界に存在していたというのでしたら、アレだけの力と智謀を持ちながら、今、このタイミングで動き出す意味が何もないのです。智謀と能力に反して、この世界への知識の少なさは異常です。一番シックリくる答えは『彼らは突然この世界に現れて、()()()()()()()()()()()()()()()』などという馬鹿げた答えだけです。魔界のゲートでも開いたのでしょうか?スレイン法国の言うカタストロフドラゴンが呼び寄せたのかしら?」

 

 ラナーが取り乱すのを俺は初めて見た。

 ラナーは俺の瞳から自分が映らなくなることを許さないかの様に顔を近づけて、真正面に俺を見据える。

  

「昔も一時、考えました!兄さんの矛盾を!不可思議さを!」

「そうなのか?」

「ずっと見てきました。ずっとずっと見てきたのです!兄さんには、この世の者なら誰でも辿り着く考え方が出来ません。余りにも価値観がオカシイ。そして思考法がオカシイ。故に導き出される答えがオカシイ。逆にこの世の、この社会の人間では思いもつかない価値観や考え方が、その根底に流れています」

 

 ラナーの火が出るような熱量と、凍てつくような波動を同時に放出するその瞳が迷い子のように揺れながら俺の心を掴み上げる。

 

「つまり……兄さんは……兄さんも、突然この世界に現れた?……そして、彼らの名前を知っている……そう、何故知っているのか?ではなく、知っているのが当然な状態……つまり、彼らと同じ世界から来た……?」

 

 

 

「……」

「……」

「――――いや、それは俺にも解らん」

「え?」

「そもそも、俺にとってデミウルゴスだとかアインズ・ウール・ゴウンという存在は実在しない名前なんだ」

「どういう……ことですか?」

「そうだな……解りやすく言うぞ?」

「はい」

「例えば……お前が子供の頃に聞いていた御伽話。昔話ではなく御伽話とかがあるだろ?」

「はい 『天使のスーズ』や、リア王やマクベスなどの『ハイデルケン寓話』などが好きでした」

 

 ……リヤ王? マクベス? 俺の世界と同じ話だろうか?だとしたらハイデルケンって誰だよ。

 

「それでだ……お前が急に死ぬとする」

「え、お兄様?」

「ああ……それで終わりのハズの人生が、何故か突然もう一度、目が覚める。すると生まれたて赤ん坊のお前は知らない夫婦に抱かれて名前をつけられて、新しい人生が始まるんだ」

「宗教の一派にもありますね。魂が巡ったり、生まれ変わりの前世みたいなのとか」

「そう ただ問題は、新しい生を受けた場所が前とは違う世界であるということと、前の人生の記憶が、何故かそのまま受け継がれていたと云うことだ」

「まさか……」

「そうだ。そういうことだよ」

「……なるほど……ああ!……なるほどですね」

「そして今の状況は、その新しい人生に天使のスーズやハイデルケン寓話の登場人物が現実の存在として目の前に現れて暴れている……という状況だ……何を言っているのか解らんと思うが、大丈夫だ。俺も解らん」

 

「いえ 解ります。そちらの方がしっくり来るのです」

「そうか?」

 

「ええ 本当に解ります。今、初めて私はザナック兄さんを理解出来ました。あの宿題を解くまでにこんなに時間がかかるとは思いませんでした」

 

 そう言うとラナーは笑った。初めて見たその顔は、本来は、子供の頃にコイツが本当に笑ったとしたら見ることの出来たであろう、無邪気で本当に天使の微笑みだった。

 

 ……何が「こんなに時間がかかると思わなかった」だ。

 俺が、オマエのその顔を見るために、一体何年かかったと思っているんだ……。

 知らず知らずに、景色が(にじ)んでゆく。

 金色のラナーと夕焼け光射す風景が一つとなって、まるでハチミツの海に潜っているかの様だった。

 

 

 

 答え合わせが済んで紅茶を一息で飲み干す。

 

「あら、クライムが本当にハチミツを持ってきたらどうなされるの?」

 と、ラナーが微笑みのままで尋ねてくる。

 

「むろん、そのハチミツも飲み干すさ!」

 俺はサムズアップして、キラリと笑顔を見せる。

 

「いえ 格好良い感じで仰られましたが、どこまで丸くなる気ですか」

「そんなに丸くないだろ」

「丸いですわ。クライムが頭を抱えてましたわよ。料理長が王子を甘やかすのですと」

「ふふ……シャビエルとはツーカーの仲だからな」

「……ところで兄さん」

「……なぜ急に悪い顔に」

「約束の件ですが」

「前も言ってたけど……約束って、なんの?」

「ふう……お兄様は言いました。「俺が王なら愛妹とクライムをくっつけてやるのに」と」

 

 …………言ったっけ? まあ 俺も馬鹿じゃない。ここで知らんとか言ったらバルブロの次に消されるのは俺かも知れん。あと愛妹(あいまい)ってなんだ。

 

「……確かに言ったね。うん、言った」

「はい」

 

 ラナーはゲスい顔でニマニマしている。オマエ本当に黄金って渾名が付いている一国の姫君か?

 

「しかし……だからと言ってバルブロを消したのは……」

「いえ あれは想定外でした。せいぜい失態を重ねて、完全に次期国王の芽が無くなるだけの予定でしたのに」

「今は行方不明扱いだけど……殺したのか?」

「人聞きが悪いですね。普通にしていて下されば精々蹴散らされて逃げ帰ってくるはずでしたのに、どうやら愚かな行動を選んでカルネ村の守護者に始末されたのではないかと」

「そんなの居るのか……」

「ええ 恐らく」

 

 よし、俺は絶対にカルネ村には行かないぞ。行くものか!

 

「そのうち帰ってくるかもと長老達を宥めたのに……と、いうことは本当に俺が次期国王になるしかないのだろうか」

「そうみたいですわね」

「……助けてよラナえもん」

「イヤですわ」

 

 ……えもん?と不思議そうな顔をしながらラナーは満足気に現状を楽しんでいる。

 先程までとは違い晴れやかな顔だ。

 

 ……結局、何処から何処までが酷妹(ひどうと)の手のひらの上だったのだろうか?

 

 俺は心の中で、優雅にノンビリ暮らしを楽しむザナック(自分)の未来絵図がボロボロに崩れ落ちていくのを感じた。

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 




 
 
 



粘土a様 Sheeena様 誤字脱字の修正を有難うございます







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