鈍い痛みで、目が覚めた。
「つっ・・・・・・」
地面に倒れ伏していた身体を起こし、軽く頭を抑えて呻く。頭の奥から鈍痛が湧き上がってくるようだ。
「ここは・・・」
頭を抑えつつ彼が辺りを見渡すと、そこは見覚えの無い森の中だった。雰囲気で言えばアメリカ大陸で見た森に近いだろうか、遠くから微かに鳥の鳴き声のようなものも聞こえてくる。
右手の甲を確認する。そこには奇妙な紋様が浮かび上がり、魔力を通すと軽く発光した。
「令呪は無事、か・・・でも、ここは一体・・・?」
彼は一人ごちつつ辺りを詳しく確認する。いつぞやもこんなことがあった。それも何度も。見知らぬ場所で目覚めて、そして見知らぬサーヴァントと共に戦闘に巻き込まれるのだ。
しかし、周囲には自分以外の人影は無い。拙い腕で魔力感知を試みるも、どうやら魔力反応を持つ何かは存在していないようだ。
どういうことだと彼は思案する。何度も経験しているパターンとは趣が違うものの、このような突拍子の無いことはカルデアに来てから日常茶飯事だった。慣れてしまったのだろう、自分でも驚く程冷静に思考を巡らせる。
まず、なんらかの縁に引かれて強制的にレイシフトした場合。それなら周囲に呼び寄せられた原因となるサーヴァントがいるはずだ。いないにしても、なんらかの手がかりや触媒があるはず。しかし周りは森ばかりでめぼしいものは見当たらない。この森自体が触媒という可能性も0では無いが、サーヴァントの痕跡が影も形も見えない以上その線は薄いだろう。
次に、契約サーヴァントと同調して夢を見ている場合。複数のサーヴァントと契約するようになり、彼ら彼女らの生前をリアリティーに溢れる夢として見ることが多くなった。だから、今回もその類なのかもしれない。が、
「・・・・・・無い、かな」
彼は曖昧に否定した。サーヴァントの夢とは鮮烈であったり、凄惨であったりしたけれど、このような『何も無い夢』というものは見たことが無い。
何せ、誰もいないのだ。夢を同調しているはずのサーヴァントが現れていないということはつまり、これは英霊の生前を写す夢でもないのだろう。
であれば、一体この状況はなんだというのか。
「ひょっとして、ただのリアリティーに溢れる夢なのかも」
希望的観測を含みつつ呟くが、案外当たっている気がした。というより、そう思って行動した方が気は楽だ。
とりあえず、周囲を探索してみよう。彼はそう思い立ち、軽く屈伸をした後歩き始めた。
彼は気付かない。起きてすぐに令呪を確認したというのに、それを用いてサーヴァントを呼び出そう、という考えが思い浮かびもしなかったことを。
彼は気付かない。自らの服装が、カルデアに来る前のただの一般人として生きていた頃の服になっていることを。
彼は気付かない。カルデアからの魔力供給が途切れていることを。
彼は気付かない。目覚めた時から湧き上がっている頭痛を、自身が気にしなくなっていることを。
彼は気付かない。彼は気付かない。彼は気付かない。
・・・・・・だからこれは、きっとただの夢なのだろう。
彼がしばらく森を探索していると、ふと微かに魔力の反応を感じた。
森は平穏そのもので、鳥や虫、小動物などは見かけたがどうやら大型の動物はいないようだ。足跡などを見逃しているだけなのかもしれないが、そこまで神経質になるほど彼は臆病な性格では無かった。
彼は魔力の気配を探る。それは弱い反応で、サーヴァントどころか一般の魔術師ですらなさそうだ。例えるならそう、魔術をかじっただけの一般人のような気配。
まるで自分みたいだ。心の中で呟きつつ、忍び足で魔力のある方に近付いていく。危険かもしれないが、手掛かりの可能性がある以上背に腹は代えられない。
どうやら魔力反応のある場所は少しひらけているらしい。鬼が出るか蛇が出るか、どちらも恐ろしいものに違いは無い。彼はとあるサーヴァント達を思い浮かべつつ、魔力の原因を確認するため、そっと草陰から覗き込んだ。
果たしてそこにいたのは、一人の少女だった。木にもたれかかるようにして気を失っている。年の頃は自らと同じくらいか。赤みがかった髪を頭の横でまとめており、服装は現代風に見える。
どこにでもいる、普通の少女。彼の目にはそう映った。
しかし。しかし、彼は少女に駆け寄ることが出来なかった。彼女を目にした途端、目覚めた時から感じていた頭痛を自覚したからだ。
「これ、なんだ・・・?」
頭を抑えて呻く。目の前の少女が原因なのだろうかと思案を巡らせようとしても、痛みは増すばかりで考えることが出来ない。
彼はあまりの痛みにうずくまる。痛い、痛い、痛い。『こんなに痛いのは初めてだ』。
頭の片隅に、もっと痛いことがあったという思考が頭をよぎる。あれはレイシフト先でのことだったはずだ。でも、思い出せない。
視界に、少女が身じろぎしているのが映る。その途端、彼はとてつもない恐怖に襲われた。
いけない。彼女が起きてしまっては、恐ろしいことになる。よく分からないけど、とても恐ろしい何かが。
彼は頭痛でふらつきながらも、立ち上がって少女の方に向かう。何をしようとしているのかは自分でも分からない。ただ、彼女を目覚めさせてはいけない。そんな恐怖が、彼の全てを支配していた。
足をもつれさせながらも彼女の目の前まで辿り着く。湧き上がる感情に突き動かされるままに、彼は腕を彼女の首に伸ばそうとした。と、
彼女の目が見開かれる。目が合う。
髪の色と同じく赤みがかった瞳が彼を見つめる。彼女は困惑を隠さず、見つめられて動けなくなっている彼に向けてポツリと呟いた。
「貴方、誰?」
「――い―――せん―――きて―――」
遠くから声が聞こえる。慣れ親しんだ、頼れる後輩の声だ。
「―――先輩!起きてください!」
どこか切羽詰まったような声に、彼女はゆっくりと目を開けた。
真っ先に飛び込んできたのは心配そうな表情をした少女の顔。そしてもふもふな毛に包まれた小動物。
「おはよう、マシュ」
状況が掴めないままとりあえず起床の挨拶をすると、少女――マシュ・キリエライトの顔が安心したように綻んだ。
「あぁ、先輩、目を覚ましたんですね!良かった・・・」
そんな後輩の様子を見つつベッドから体を起こすと、フォウ君が肩に駆け上り頬をちろちろと舐めてくる。
「フォウ、フォフォーウ」
「うん、フォウ君もおはよう。それで、そんなに慌ててどうしたの、マシュ?」
少し涙ぐんでさえしているマシュに疑問をぶつけてみる。
「先輩が起床時刻を過ぎても一向に部屋から出てくる気配が無かったので、様子を見に来たのです。最初は熟睡しているだけかと思ったのですが、声をかけても全く目を覚まさず・・・以前の時のように精神だけ別の世界に飛ばされてしまったのかと慌ててしまいました。申し訳ありません、先輩・・・」
しょぼんと肩を落として謝罪するマシュ。少しむず痒いような気分になって、それを隠すようにマシュの頭に手を伸ばしてわしゃわしゃと撫でる。
「わっ、先輩!?」
「マシュが謝る必要なんて無いよ。でも、心配してくれてありがとね」
「いえ、そんな、私は何も・・・」
マシュは小声で何か呟きながらも、撫でられてまんざらでもなさそうに頬を緩める。その様子に彼女も微笑み、さらに愛らしい後輩とスキンシップを取ろうとした所で、
『はーい、マイクのテストなんて必要ない、何故なら私がメンテナンスしてるんだからね!さて藤丸ちゃんにマシュ、既に集合時間は過ぎてるよー!消化に悪くない程度で早急に朝食を済ませ、管制室まで来るように!』
備え付けられたスピーカーから女性――ダヴィンチちゃんの声が部屋に響き渡る。はっとした様子で二人は時計を確認し、慌てたように部屋を出る準備を始めた。
彼女達は気付かない。決定的に何がが違ってしまっていることを。
それは枠の外の事象。気が付ける筈も無い、なんの意味も無い変化。
これからもこの変化は繰り返されるのだろう。気紛れに、奔放に。
他ならぬ、貴方の手によって。
ぐだーずを「英霊の好きな所を百個上げないと出られない部屋」にぶち込んでモニタリングしたい。
TSF大好きなので書きました。あんまTSF関係無いけどこういうのもありだよね。