薪となった不死   作:洗剤@ハーメルン

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常冬の城

 異音に剣を構えながら振り返った途端、視界は暗転し。身体の感覚は失われた。

何が起こった、と自問する間も無く。鈴の音のような音が暗い意識の中に響き渡ると、点火した油のように五感が戻ってきた。

 

「■■■■■■■■!!」

 

雪の冷たさ。身に付けている武具の感触。黒い巌のようなシルエット。

 

何が起こった

 

再びの自問。だが、その答えは勝ち誇るような咆哮から立ち返り、既に此方を睨みつけている。

"蘇生"したのだ。目の前の強大な英霊が。動きを止め、雷の大槍で上半身を粉微塵にされた状態から一瞬で。

そうだ。と応えるように獣となった英霊は吼え、露わとされた闘争本能の赴くままに斧剣をアストラに叩きつけた。

引っ掻くような金属音。遅れて聞こえる空を切る音。

一撃ごとに激しく雪を舞い上げる必殺を凌ぎながら、アストラは 不死人 と戦うものへと戦術を切り替え始めた。

そうでない者と戦う以上に、同じ手順で攻撃しない。奇跡や魔術も、牽制とするものも含めて違うものを使用する。

不死人は同時に優れた不死殺しだ。とはいえ、指輪などの外部装置を使わずにノータイムで蘇生したと思しき相手と、何方かが動かなくなるまで戦うというのは馬鹿げている。

「■■!」

 

先程隙を突いたような、ひどい大振り。

だが、飛び込むような真似はしない。バーサーカーの狂化には個体差があるとはいえ、それでも同じ手段を取る無謀さなど持ちあわせていない。

 距離を開けながら放つは『大火球』。その名の通りの大きな火の玉。触れれば内包したエネルギーを爆発させるという単純なものであるが、それだけに使い勝手は安定している。

 だが、そう易々と直撃を受ける相手ではない。

 比較的飛翔速度が遅い呪術をコマのように素早く一回転して避け、アストラへ向かって突進しながら岩のような剣を振り下ろしてくる。

 避け。斬り上げ。逸らし。奇跡。薙ぎ払い。逸らし、避け。

 猛追に対して、迎撃の手を弱めてはいけない。獣畜生も亡者もそうだが、単純な思考で動くモノにこそ怯む様子など見せてはいけないのだ。

 

 だが、このままでは埒が明かない。どうにかしてバーサーカーを退けるか撒いて逃げなければ。。

 

 "殺し切る"という発想はなかった。この英霊が誰でありどのような逸話があるか知っていればその手段もあったのだが、何度殺せばいいのかという糸口を掴めぬアストラにはそのようなリスクを取ることはできない。

 せいぜい動きを止めて殺した後、『ダークハンド』で吸い尽くしてしまえば殺せるだろうかという予想があるだけだ。人間性を奪う闇霊の(わざ)であり、吸精以外の武具として用いる手慣れた使い方などは実践レベルではない。

 とはいえ、『穏やかな平和の歩み』で足を鈍らせた上ならば可能性はある。その上で四肢を封じることができれば朽ち消えるまで吸い取ればいい。

 "人間性"が存在しているか分からぬこの世界の人間であったサーヴァントから何を吸い取れるかは不明だが、試してみる価値はあるはずだ。

 

 躱した斧の一撃が、大人の胴体よりも太い幹を四散させる。

 

 剣を、盾を。逸らし、弾き、フェイントを交えながら避ける。

その身に染み付いた技のキレ以外が削ぎ落とされていなければ、アストラ一人では細かく隙のない剣で確実に仕留められいたかもしれない。どこか親近感も湧きそうになる蘇生という強力な宝具を持ちえる逸話を誇る、力と技術を兼ね備えた素晴らしい英霊なのであろう。

 だが、バーサーカーとなったこの英霊は亡者と同じだ。付け入る隙はセイバーのそれと比べ物にならぬほど多い。

 大振りの一撃を直剣を打ち込むことで逸らしながらバーサーカーの顔に向かって指先を鳴らす。間の抜けた音がしたが、快音を出す必要はない。

 大量の油に火が灯ったような音と共に、指の先から真っ赤な炎が飛び出した。それは獣の大きく開けた口の中だけでなく、頭全体を包んで焼き尽くし。鼻を、耳を、目を、諸共に焦がし溶かした。

 

「――――――!!!」

 

 『大発火』の呪術だ。ずば抜けた利便性を誇るこの呪術に、幾度助けられたことか。

 喉を焼かれ、獣の声にすらならぬ苦悶の叫び声。気配で位置を悟ることもできようが、もう遅い。

 右にやや回り込むように距離を取り、再度『穏やかな平和の歩み』を唱えた。

 

 静かな鐘の音がタリスマンから響き渡り、理は書き換えられた。

 あとは数メートルと少しの有効圏を押し付けるように近づき、手足を不能にしてやれば『ダークハンド』での吸精も安全に行えるだろう。

 

「――――!!」

 

 爛れた喉に、勢いよく擦れる空気の音。

 必死に頭を左右に振り、何か情報を得ようとしているバーサーカー。姿が消えてるわけではないのだ、手早く畳んでしまわなければ。

 直剣と盾をソウルへと還元し、『深淵の大剣』を両手で握る。あの太い手足を一太刀で斬り飛ばすにはこの重さと鋭利さが最適。柄を両手で握りしめ、一息に接近する。

 気配を察知し、がむしゃらだが確かにアストラ目掛けて薙ぎ払われる石の斧剣。だが、目を閉じて放った勘便りの一撃など、巻き込まれた木々にも触れずに避けるのは容易い。

 大振りの一撃を潜り避け。腰だめに構えた剣で足を薙ぎ返す。そう、剣を振ろうとした矢先だった。

 

「■■■■■■■■!!」

 

 赫々と輝く瞳に見下されたのは。

 咄嗟に脇を通り抜けて離れようとしたアストラへと、"機敏"な動きでバーサーカーは襲い掛かった。

 

 

 

 第四次聖杯戦争において、アインツベルンはセイバーとしてアーサー王を召喚した。そして同時に名も無き不死の男も。

 その男が館の中で使った魔術はこの世界のものではなく。聖杯戦争において彼はジョーカーになり得るだろうと思っていたのだ。

 まずその男がセイバー達を裏切り、こちらのマスターがアインツベルンを裏切り、結果として手にすることが戦力的には確実であったはずの聖杯は見るも無残に破壊された。たかだか この世全ての悪(アンリマユ)に汚染され、願いを歪めるとはいえ聖杯は聖杯であるというのにだ。

 それにより何が起ころうとも。何千何万、幾億という人間が死ぬことになろうともアインツベルンは構わないというのにだ。

 目的は一つ。「アインツベルン家が第三魔法を取り戻す」こと。

 だが、完全に望みが潰えたわけではない。

 冬木の地に送り込んだ監視者、忠実なメイド達。彼女たちがドイツ本家に送った情報は、如何に歴史が古くとも魔術師となってしまったアインツベルンにとっては千金をも越えるものであった。

 欠陥はあろうとも、その理屈に説明が付かぬ不老不死。異世界からの自身の同一存在と思わしき霊体の召喚。それらの現代の"魔法使い"第二と、彼らが求める第三と呼ばれる魔法の複合術まで当然のように行使する。

 

 「多少でも万が一の敗北の可能性が消えるようにと、聖杯戦争に赴かせたのは失敗だった」

 

 そう当主であるユーブスタクハイトに、アインツベルンに思わせるほどの貴重な"検体"。聖杯戦争の終結と同時に監視の目から逃れて姿を消した時には後悔したものだ。

 

 だが、それも取り戻せる失敗だ。

 

 魔術の灯りが全て消えた玉座の間。老翁の目には何も捉えてないようで、外で戦う英霊の姿が鮮明に投影されている。

 彼らが召喚したバーサーカーは優勢だ。裏切りを防ぐために理性を奪っているとはいえ、あの大英雄ヘラクレス。ステータスは当然の数値であり、さらに宝具も破格。

 『十二の試練』。ヘラクレスの生涯から昇華された宝具であり、場所がアインツベルン本家の城とあっては正面きっての戦闘で負ける理由などありはしない。即死させられない限り、即座にその傷を、削られた命のストックを癒し続ける。

 特に、小癪にも半分近く削られた命の回復に充てられる魔力は工房の維持を揺るがす規模だが、それに見合っただけのリスク回避となっているだろう。強力な耐性ができるのだ。もう一度同じ業を受けたところで、その半分減らせられれば驚きである。

 待ち遠しい。第三魔法はすぐそこだ。万が一にも、捕まえ損ねることがあってはなならない。

 それこそが、 "アインツベルン"が在る意味なのだから。

 

 

 『穏やかな平和の歩み』を意に介さぬ快速をもって斧剣を叩きつけられ、アストラは木々を何本もへし折りながら宙を舞う。城から突き放されるように雪原を転がり、いっそう太い樹の幹へとぶつかることでようやく止まると。剣を握る拳の指が、えらく少ないことに気が付いた。

 間に、なんとか剣を挟み込めた。『深淵の大剣』は折れも曲がりもしなくとも、その使い手は別なのだ。俗世の鎧がいくら強く鍛え直されようと、それを壊しながら中身を潰せるような英雄の一撃だ。

 握っていた右腕は骨が肘から飛び出し、それを支えた左腕は肘から先がどこかに転がっている。加えて脚にも、胸にも痛みを感じた以上、バーサーカーが迫ってくる前にやることは一つだった。

 蘇生までのインターバルを縮められる、『犠牲の指輪』があるからこそできる戦い方。身じろぎするだけで雪が赤く染まるのが早まるのも意に介さず、割れた肩当ての切先を首の隙間へと自ら突き刺し、首を捩じりながら引き切るのだ。

 蛇口を一気に捻ったかのような鮮血と、雪を叩く赤い雨音。血の泡が喉の奥から込み上げた。顔から地面に突っ伏したが、雪の冷たさなど既に感じ取ってはいない。

 視界があっと言う間に濁ってゆき、様々な色の光が眼球内を走り回る。その後、視界は真っ白なまでに明るく輝き。そして、すぐに暗くなるのだ。

 不死人はそこで終わらない。奥底で何かが沸き滾り、溢れんばかりに存在自体を包み込む。

 

 指輪が砕けた。視界は霧中。迫り来る巨影。握りしめていた剣を、意識せぬ動きで構えた。

 

「――――――!!」

 

 震える空気が肌を打つ。そして、影が何かを振り上げたところで、ようやくアストラの意識は覚醒した。

 肉を潰す異音は響き渡らず、岩をぶつけ合ったような鈍い音が木々に枝先の雪を払い落とさせる。一撃に一撃を合わして雹のように降り注ぐ連撃を打ち逸らし続け、大振りの隙を付いて距離を取った。

 

 ――――なんて英霊だ。

 

 恐るべきバーサーカーの宝具。『穏やかな平和の歩み』を無効化していた。蘇生効果のある宝具に加えてそんなものまで保有しているなど、知名度の高い大英雄に違いない。

 この世界の歴史に詳しければこのような英雄の名も末路も知っているのだろうが……。

 大剣に持ち替えたことで広がった間合い。ずっと相棒としていた武器というわけではないために勝手は違うが、打ち合えているのは一重にそれと獲物の強力さ故だ。深淵に侵されようと、元は『アルトリウスの大剣』。感触では、武器の性能は(まさ)っている。

 

「■■■■■■!!」

 

 焦れた獣は、苛立ちのままに声を発した。

 サーヴァントであり、この世界の理に引かれるバーサーカー。彼の正体はギリシアの大英雄、ヘラクレス。

 バーサーカーでなければ、アストラを何もさせぬまま圧殺することは難しくないだろう。僅かに残った理性がそれを理解し(いか)るからこそ、狂える獣の行動は荒いものが増えてくる。

 だが、それがアストラに確実に有利になるかといえばそうではない。

 

「――――!!」

 

 斬られながらも構うことなく兜割りのように剣を振り下ろし、避けられたところをその岩のような拳で引っ掛けるように殴り抜く。体勢を立て直す暇も与えることなく正面から襲い掛かり、杭を地面に打ち込むように斧剣でアストラを切り刻むのだ。

 再び『犠牲の指輪』は砕け散り。蘇生したアストラは数度打ち合った(のち)、酸の霧を吐き出す呪術を浴びせて『雷の大槍』を叩きつけてみた。

 結果はやや重傷。手足にひどい損傷を負いながらも戦意を見せるバーサーカーを、大剣をもって一息に斬り殺す。そして、盾と直剣に戻して考えた。

 殺さなければマスターにより再生され、攻撃が徐々に通らなくなっていく相手。しかも、足止めの手は不用意に使ったせいで無効化されている。

 これは、中々に詰んでいるのではないかと。

 

 

 

「イリヤ……」

 

 登山ウェアを脱ぎ捨てた男は歓喜のつぶやきを上げた。

 全ては彼の計画度通り。恐れいていた、サーヴァントはアストラが交戦中。城の魔術防護も、その補助に費やされている。

 イリヤの居場所は”とっくに検討がついている”。アストラにはその一切を伝えなかったが、人を監禁する場所というのは建造物の中で限られているのだ。

 魔力探査で最も警戒の薄い、森の中を潜り抜け。雪にへばり付くように地を這いながら、森から白へとたどり着き。城の中へと侵入した後は、目星を付けていた幾つもの部屋のドアを蹴り破った。

 

「イリヤ!!!」

 

 そして、何枚目かを抜けた先。槍を構える二人のホムンクルスと一人の少女がそこにいた。

 少女は天蓋付きのベッドに横たわり。付き添うように見下ろすのが二人だ。

 先ほどまでの焦燥溢れる様子と打って変わり、衛宮切嗣の行動は機械的なものだった。サブマシンガンを構え、僅かにでも反応が早い方を見極めて引き金を引く。

 ホムンクルスというものは、不完全な存在だ。だからこそ、戦闘用であるかどうかはその人間性に着目すればよく分かる。その点、アインツベルンはホムンクルスをどう運用するか、その性能がどれほど驚異的なものか。切嗣は熟知していた。

 マズルフラッシュが瞬けば、あっという間もなく穴だらけになって崩れ落ちたホムンクルス。その血に濡れた白が思い起こさせる光景があったが、切嗣は即座に拭い払って寝台へと進んだ。

 

「イリヤ!」

 

 もう二度と、会えないと思いもした愛娘。だが、その瞼が呼びかけに応えることはない。やはり。

 

「機能を制限しているか……」

 

 聖杯のバックアップもなしにあのような大英雄を戦わせるなど、一人の魔力では到底補えるはずがない。バーサーカーからアインツベルンの工房に魔力のラインを繋げているのは確か。ならば、よほど焦って呼び出したらしい。

 魔術で精査したが、彼女から何かに魔術経路(パス)が通っているという様子はない。恐らく、再調整を施そうとしたタイミングでアストラの侵入を検知し、二次策であった別の誰かにサーヴァントを召喚させるという方法を取ったのだろう。未調整で聖杯による大きな補助もなしとなれば、いくらサポートをしようとも小聖杯としての調整が進んでいないであろうイリヤには依代として耐えられない。

 最高傑作に成り得るホムンクルスの保護を選んだ。魔術師らしい、合理的な考えだ。

 片腕でイリヤスフィールを抱き上げる。

 

「少し、体重が増えたかな?」

 

 腕にかかる重さが変わったように感じるのは単に目方の問題か、それとも自身が弱ったからか。何にせよ聞かれたら怒られそうだ。

 そう思いながら廊下を隠れ、走り抜け。城から出たその瞬間。手元のスイッチを数回押すと切嗣が通ったルートをなぞるように、白壁のような古城から赤い炎の渦が吹き出した。

 続いて、森からも凄まじい火の手が上がり。アインツベルンを囲む山の一つからも、静かな爆発と共に城の逆側へと雪の層が迫ってくる。計画通りの威力だ。

 赤々と燃える周囲をも意に介さず響き続ける剣の音を一瞥し、何か月も前から決めていたルートへと足を向けた。入り込むのに失敗したように見せかけて、苦労した隠したスノーモービルが待つ所へと。

 マスターであろうアハト翁の注意はこちらへと逸れる。損害の程度によっては家の保身を優先した行動を取る可能性が高い。森と城の爆破によって綻びが出た結界を使い物にする魔力はそう軽くはない。

 

 あとは、アストラが戻れば作戦は完全だ。

 

 どのようなサーヴァントを呼ばれていようが最も勝率が高い、といった作戦ではない。妻子を利用し世界を救おうとして、いざ失ってしまえば心残りや恨みが残ってしまった男が立てた復讐にもならない中途半端な計画だ。

 燻っていた親心に突き動かされ。拗れたとはいえ自分が原因のことで恨み。冬木で待つ少年のためにも、すべき事としてアインツベルンに打撃を与えた。

 

 思い返せば、ひどく身勝手な人生だ。




色々書きすぎてサブタイ悩んだり。話を進めたかった感
シュウ=カツはわりとなんとかなっても、更新速度が上がるわけじゃないんやなって
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