「どうしたんじゃ、シャーロット。食欲がないのかね?」
「…アハハ、ちょっとお菓子を食べ過ぎたみたいです…」
夕食の席にて、シャーロットはダンブルドアの部屋に入ったことがバレないか不安であまり食事が入らなかった。不思議そうなダンブルドアには笑って誤魔化した。
3日間ほどはバレないかビクビクしていたが、幸運にもダンブルドアは部屋に入ったことに気づかなかったようだ。イライザが不安そうな様子のシャーロットを見て楽しそうにしていたので、何度か睨み付けたがそっぽを向いていた。
シャーロットはダンブルドアの課題を終わらせたあと、イライラしながらちょっとした作業をしていた。簡単な魔法の道具の作成だ。杖がないので魔法自体はかけられず、作業は捗らない。ちなみに例のごとく、現在ダンブルドアは不在だ。
「杖!杖さえあれば、なんとかなるのに!」
当面の課題は杖をダンブルドアから奪うことだ。ここまでくると、シャーロットはダンブルドアが杖を返すことは絶望的であることを察していた。なんとかして、奪わなければ。しかし、丸腰でダンブルドアに挑むなんて自殺行為だ。
「……早くしないと、ハリー達も危ないわ」
ハリーの戦いも迫っている。このままシャーロットは外野でじっとしてるつもりはない。なんとかして、ハリーの手助けをしなければ。
「……」
杖をダンブルドアから奪うのは無理だ。しかし―――、
「……仕方ないわね。ちょっと危ないけれど、行動を起こしましょう」
ため息をついてシャーロットはトランクを開けた。
ホグワーツにて、5年生達はOWL試験が近づき空気がどんよりしてきた。精神集中や頭の回転によく効くという薬の闇取引まで行われている。ハリーはうまくいかなかった「閉心術」に関して少し気にしていたが、周りの熱っぽい雰囲気が試験以外のものを徐々に頭から追い出してしまった。
夜のグリフィンドール談話室。夜が遅いため、人は少なくなっていた。ハリー、ロン、ハーマイオニーは何も話さずに教科書を読んだり何かを書き込んだりしている。
「ロン、それ綴り間違ってるわ」
「シャーロット、もうそれはこの際どうでもいいからちょっと黙って――、シャーロット!?」
懐かしい声があまりにも自然に聞こえたので、ロンは普通に答えてしまったが、それが誰の声か分かり、思わず立ち上がって叫んだ。ハリーとハーマイオニー、そしてその周囲にいたグリフィンドール生も仰天して顔を上げる。
ホグワーツの制服は着ていないが、そこにいたのは間違いなくシャーロット・ダンブルドアだった。
「シャーロット?!うそ!あなた――」
「シャーロット、今までどこに…」
ハリーとハーマイオニー、その他の生徒達がガヤガヤと声をあげる。あまりにも騒がしいので寝室へ入っていた生徒も起きてきて、そこにいたシャーロットの姿を見て驚愕していた。
「はいはい。質問には答えられないわ。今日は忘れ物を取りに帰って来たのよ」
シャーロットは誰の質問にも答えずにそう言って、手に持った杖を握りニッコリと笑った。
この杖は4年生になる前の夏休みにオリバンダーの店に修理に出していたシャーロットの初代の杖だ。
『ハナミズキの枝だったので、芯にはあなたのそばにいる不死鳥の尾羽根を組み合わせて作成しました』
オリバンダーは杖を修理したあと、親切にもホグワーツへこの杖を届けてくれた。返ってきた杖は確かに魔法が使えるようになっていたが、一つ問題があった。かなりの気まぐれでやや使いにくい杖だったのである。
「ルーモス!」
杖が返ってきてすぐに使用したところ、杖は「バチっ」と不思議な音を出して、光を灯したが、強さや明るさを変えたりとかなり不安定だった。他の魔法を使っても、どこかおかしな結果となる。
『遊び心のある杖で、刺激や楽しみを好みます。困難な状況において実に優れた魔法を発するでしょう。欠点としては、無言呪文を拒否することと、魔法を使うときにやたらと大きな音を立てることです』
オリバンダーからの手紙にそう記されており、シャーロットはガックリと肩を落とした。これではいつも使っている杖を使う方がずっといいと考え「必要の部屋」に隠しておいたのだ。隠したあとはそのまま存在自体を半ば忘れてしまい、ホグワーツを脱出する際、忘れてきてしまった。不安定な杖だが、ないよりはずっといい。
「みんな、元気だった?」
「シャーロット、それよりもあなたどうやってここへ!?」
ハーマイオニーが怒ったような目で見つめてきて、シャーロットは曖昧に笑って口を開いた。
「それはヒミツ」
「ヒミツって、あなたねぇ――」
「はいはい。お説教はまた今度聞くわよ。それよりも、はいこれ」
シャーロットは羊皮紙の束をハーマイオニーに押し付けた。
「何よ、これ!?」
「私特製のOWL試験予想問題集。」
ハーマイオニー以外はげっそりとした顔を見せた。シャーロットはそれに構わず談話室の窓を開けた。
「じゃあ、私は帰るわ。早く帰らないとお爺様に気づかれちゃう。」
「えっ、ちょっ、待って、シャーロット!」
「あ、ハリー。忘れないで。
シャーロットは最後にそう言って談話室の窓から飛び出していった。
「シャーロット!?」
生徒達が慌てて窓に駆け寄るが、外を見渡してもそこにシャーロットの姿はなかった。
「…僕ら、今夢見てたの?」
ハリーが思わず呟く。風のようにやってきて、去っていったため、生徒達は何が起きたか分からず皆呆然としている。ハーマイオニーもポカンと口を開けたままだ。その手から羊皮紙が数枚スルスルと落ちていった。
シャーロットはハチドリに変身した姿で懸命に羽根を動かした。アパートに戻ってくると窓からスルリと自室に入る。元の姿に戻ると部屋で待っていたイライザがすり寄ってきた。
「ただいま。イライザ、お爺様は部屋に入って来なかった?」
イライザはピーと答えた。どうやら大丈夫だったらしい。
「よかった。これでいろいろできるわ」
シャーロットはホッとして、学校から取ってきたばかりの杖を握って見つめる。ひとまずはこの杖を手なずけなければ。
数日後、シャーロットは都会の大きなビルの屋上に立っていた。周りには誰もいない。今は真夜中だ。周囲は真っ暗で、上には曇った夜空が、下方にはキラキラとした夜景が輝いている。
冷たい風が顔に当たり、シャーロットは瞳を閉じた。その時、イライザが翼を羽ばたかせながら、シャーロットのもとへ舞い降りてきた。薄く笑って腕を差し出す。イライザはシャーロットの腕にとまり、目をじっと見てきた。
「イライザ、綺麗な眺めね。こういう眺めを見ているとこんな世界も悪くないって思えるわ」
シャーロットはじっと輝くような都会を見つめた。強い風が吹く。シャーロットの赤い髪がふわりと揺れた。少し伸びたようだ。
季節は6月を過ぎたのに、気温は低く少しじめじめしている。ビルの屋上にいるせいか、強い風が体に当たった。
数時間前、ダンブルドアに夜の挨拶をした後、自室に入りベッドに向かうふりをしながら、隙を見て逃げ出してきた。今頃ダンブルドアはもぬけの殻となったベッドを発見し、真夜中に姿を消したシャーロットを探しているだろう。今夜あのアパートを出て離れることは決めていた。
始まるのだ。神秘部の戦いが。
自分が去ったあと、ホグワーツでの出来事は原作とほとんど変わらないはずだ。シャーロットの考えが正しければ、ハリーは明日にはヴォルデモートに神秘部に誘い出されるだろう。構わない。避けられない戦いなのだ。心配なことはいくつかあるが……。
「シャーロット」
後ろから自分を呼ぶ声がして、シャーロットは鳥肌が立った。もうここにいることがバレたのか。
振り返るとダンブルドアが穏やかな顔で立っていた。
「シャーロット、どうしてこんなところに来たんじゃ?」
シャーロットは黙ったままその穏やかな顔を見つめた。そんな様子に構わず、ダンブルドアが口を開く。
「ここにいると風邪をひくよ。さあ、帰ろう」
「いいえ、ちょっと出かけてきます。会いたい人がいるんです」
シャーロットが笑ってそう言うと、ダンブルドアは首をかしげた。
「…誰に会いに行くんじゃ?」
シャーロットは歌うように楽し気に口を開いた。
「ヴォルデモート!」
ダンブルドアの顔が強張る。シャーロットはそれに構わずのんびりと言葉を紡いだ。
「お爺様、お爺様はハリーには甘いですよねぇ。ハリーは気づいていないですけど。でも残念ながらハリーには『閉心術』は向いていないと思いますよ」
シャーロットはゆっくりと歩いてビルの縁へ立った。ギリギリまで近づき、あと一歩足を踏み出すとビルからまっ逆さまに落ちるだろう。そんなことが気にならないようにシャーロットはクルリと振り向き、ダンブルドアと正面から向き合った。
「お爺様、ハリーはそろそろ自分が何者か知るべきです。予言の事とか、ね」
「シャーロット……なぜそれを……」
「あぁ、今更そんなことどうでもいいでしょう?どこで知ったとかは問題じゃない。今問題なのはあのハゲ帝王をどうやって殺すか、です」
シャーロットはにこやかに笑った。ダンブルドアは顔が真っ青になっている。
「できれば私が殺したいけど、それはハリーがやるのかな?でも他の死喰い人となら遊んでもいいでしょう?」
シャーロットの言葉にダンブルドアが近づこうとしてきた。
「いかん、シャーロット、戻るのじゃ。早くそこから降りて…」
「嫌ですね、そんなに慌てなくてもいいじゃないですか。冗談ですよ」
シャーロットは口を尖らせた。
「でも、そうも言ってられなくなりますよ。これは戦争です。こっちが殺さないと、躊躇っていたらやられちゃいますからね。まあ、今はアズカバンにぶちこむくらいで我慢しようかなあ」
シャーロットは杖を懐から取り出した。
「その杖は…」
「アハハ、ずいぶん前に戻ってきた最初の杖なんです。なんだかワガママな杖だけど、ないよりはいいかなって――」
ダンブルドアの顔がますます強張る。
「お爺様」
シャーロットが笑う。
「――私を殺すなら今ですよ」
ダンブルドアは何の反応も見せなかった。シャーロットは少しの間穏やかな顔でダンブルドアを見つめていたが、ダンブルドアが何の行動も起こさないことに肩透かしを食らい、視線を外した。
「あなたは私を殺すべきだった。私を引き取るのではなく、私と出会ったその日に息の根を止めるべきだった」
「……」
「楽しかったですよ。あなたにとっては監視だったとしても、少なくとも家族の皮を被って私を育ててくれたのだから。でも、それでも言わせてもらえるならば、あなたは私を家族として扱うべきではなかった。」
「……」
「そうすれば、私は裏切られることもなかった。こんな思いをしなくても済んだ。私は、あなたを家族だって思ってたのに。」
シャーロットは再びダンブルドアを真っ直ぐに見つめた。
「大好きだったのに。この世界で一番。」
ダンブルドアはその瞬間、確かにシャーロットの目に光るものを見つけた。それが何かを認識する前にシャーロットは杖を握ったまま、両手を広げて後ろへ倒れるように身を投げ出す。そして、ビルから落ちていった。
「シャーロット!」
ダンブルドアが駆け寄ったが、シャーロットの姿はそこから煙のように消失していた。後には光輝く街の景色と夜の静寂だけが残った。