名前を付けてくれた人   作:プロッター

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Costume(コストゥーメ) da() bagno(バンニョ)[swimsuit]【名詞】
意:水着

完全に作者の趣味な話です。
なお、アンチョビたちのコスチュームは、もっとらぶらぶ作戦を参考にさせていただきました。


Costume da bagno

 いろいろな意味で衝撃的な結末を迎えた第63回戦車道全国高校生大会から2週間ほどが経過し、アンツィオ高校は夏季休業期間に突入した。陽気で、ノリと勢いは確かで、悪く言えば目先の欲に囚われがちな、ペスカトーレやアマレットをはじめとした模範的なアンツィオ生は、早くもレジャー方面の夏休みの計画を立てている。

 しかし、一般のアンツィオ生とは少し感性が違うアルデンテとカルパッチョは、堅実に宿題を片付ける算段を立てていた。

 いくらノリと勢いが売りだろうが、中学生が進学したい高校ナンバーワンだろうが、宿題はきっちり出される。各教科はもちろんのこと、自由研究や読書感想文などの表現力を求められる課題も普通にある。

 だがペスカトーレから聞いた話によれば、戦車道の強豪校として知られるお嬢様学校・(セント)グロリアーナ女学院は、夏休みの期間が1カ月ほどしか無いにもかかわらず、宿題の量が普通の学校とほぼ同じらしい。その話を聞くと、アルデンテはアンツィオでよかったと思える。

 アルデンテも、宿題は面倒だし苦しいとも思っている。しかし、何か計画を立てて順番にそれをコツコツと片付けていくのもアルデンテは好きだった。だから夏休みの宿題も、計画を立てて順番にこなしていき終わらせると、得も言われぬ気持ちになる。

 故にアルデンテは、一概に宿題は嫌いとは言い切れなかった。

 だがアルデンテには、宿題の他にも留意するべきことがある。それは、自分が開いているラザニアの屋台だ。

 世間一般で言う夏休みの間は、当然ながら外部からの観光客もいつも以上に多く訪れる。それは絶好の稼ぎ時、あまり休んでもいられないのだ。

 だが、夏休みの宿題もあり、屋台と宿題を両立させなければならず、実家に帰省する暇も惜しい。なので、今年もアルデンテはアンツィオ学園艦に留まっている。

 それは他の屋台を経営している生徒たちもほぼ同じで、屋台を開くアンツィオ生たちは学生の身分でありながらも、時間の融通が利かない社会人のような気持ちを味わっていた。

 

 

 そんな夏休みが始まってから1週間が過ぎた、ある日の昼下がり。

 

「すみませーん、ラザニア3つくださーい」

「はいはい、ありがとね~!オーダー、ラザニア3つ!」

「了解」

「注文いいですか?」

「少々お待ちください!」

 

 予想通り、アルデンテとペスカトーレの屋台には多くの客が訪れていた。

 この時期の客は大体、暇を持て余したアンツィオ生か、成人以上の外部から来た観光客、もしくは自分たちより少し幼い雰囲気のする少年少女たち。

 この年下らしき子たちは見た感じ中学生で、恐らく夏休みを利用してアンツィオ高校学園艦の見学に来たのだろう。学校説明会は既に夏休み前に行われていたので、この子たちは今は『学校』ではなく『学園艦そのもの』を見に来たのかもしれない。

 

「そこの少年!ウチのリゾット食べていかない?美味いぞ!」

 

 はす向かいのリゾット屋台を開く男子が、アルデンテの屋台で順番待ちをしている少年に声をかける。

 すると今度は、アルデンテの屋台の隣に構えるミネストローネ屋台に立つ女子が。

 

「はー?アンタこの間の家庭科の評価3だったじゃない!そんな奴のリゾットより、8評価のウチのミネストローネの方が美味しいって!」

 

 先に声を掛けられた少年は、2つの屋台の間でどうしたらいいのか迷っている様子。

 そしてリゾット屋台の店主は、売り言葉に買い言葉と声を荒げる。

 

「言ったなお前!なら教えてやるよ、料理は成績だけじゃないってなぁ!」

 

 そして始まる両屋台の小競り合い。だがこれもアンツィオ屋台街ではよく見られることなので、今さらだった。

 『どっちの屋台が美味いか勝負だ!』と些細なきっかけで喧嘩、というよりもいさかいが起こるのは日常茶飯事。それに客は特に嫌がりもせずに巻き込まれて『どっちも美味い!』という結果になり、『両方美味いんじゃしょうがないな!』と両屋台主が納得するまでがワンセットだ。

 しかしアルデンテは、今のところそう言った小競り合いに巻き込まれたことはない。客引きをするペスカトーレの人当たりが良いのもあるし、アルデンテとペスカトーレが他の屋台の文句を一切言わないからだろう。また、アルデンテたちの屋台の客入りは他と比べるとそれなりに多く、人気の店にいちゃもんを付けていると周りに思われたくないのかもしれない。

 だが、流石に他人の屋台に並ぶお客にまで客引きをするのはどうかと思うが。

 そんなことは考えていても、アルデンテの手はてきぱきとラザニアを焼き、切り取って皿に盛り付けて、そしてお客へ差し出している。受け取ったお客はそこでラザニアを一口食べて、『すごく美味しい!』と顔を明るくして言ってくれる。それだけで、アルデンテの心は報われるのだ。

 そして、満足そうに去って行くお客に向けて『ありがとうございます』と感謝の言葉を告げて、次のラザニアを準備する。夏休みで宿題と屋台を両立していて忙しくても、客が多くて天手古舞でも、アルデンテはそのスタンスだけは決して曲げなかった。

 そんな感じで客をさばくこと数時間。作り置きのラザニアが切れてしまったので、新しいラザニアができるまでの間、アルデンテとペスカトーレは休憩する。

 

「まったく、今年も夏休みは客が多くて参るな・・・」

 

 ペスカトーレが、近くの屋台で買ってきたカッフェ(イタリア語でコーヒー)のジェラートを食べながらぼやく。アルデンテは、オーブンの近くに置いたパイプ椅子に座って、アランチャ(イタリア語でオレンジ)のジェラートを食べて頷き、答える。

 

「まあ、客が多ければ多いほど売り上げは伸びるし、それだけウチのラザニアが人気ってことだろ」

「そうだけどさぁ・・・」

 

 一応はアルデンテの言葉にペスカトーレも納得するが、それでもまだ不満そうだ。

 

「だからって、忙しすぎでしょ」

 

 まだ今日は半日しか過ぎていないが、用意した食材の半分以上を既に消費してしまっているし、他の屋台も恐らくそうなのだろう。

 しかしペスカトーレとアルデンテが屋台の外を見てみれば、そんな事情など知らずに多くの観光客やアンツィオ生が『次何食べる?』とか『あれ気になる!』など話しながら屋台を練り歩いている。アルデンテたちの屋台が『準備中』の札を出しているのを見ると、他の屋台へと流れていく。

 

「仕方ないだろ、戦車隊の皆はプールに行ってるんだから」

 

 今日、ここまでアルデンテたちの屋台が忙しいのは、戦車隊の面々が開いている屋台が閉まっているからである。

 そしてそれは、アンツィオ戦車隊を率いる統帥(ドゥーチェ)アンチョビが、戦車隊のメンバーを連れて学園艦のリゾート施設へと遊びに行っているからだ。なんでも、全国大会で頑張った皆を労うためらしく、それを抜いてもアンチョビだって夏休みは少し遊びたい気持ちなのだろう。

 それに誘われたアマレットやジェラート、ペパロニは喜んでいたし、カルパッチョも露骨にではないがそれでも顔は嬉しそうだった。

 この時、アルデンテとペスカトーレも、アンチョビやカルパッチョ、アマレットたちから『一緒にどう?』と誘われたのだが、アルデンテは丁重に断らせてもらった。

 アルデンテとしては夏休みという稼ぎ時に屋台を放っておくのは少し気が引けるし、戦車隊のメンバーを労うつもりなら自分はお呼びじゃないと思う。そして何より、水着女子ばかりのプールへ行くなど尋常じゃない度胸と覚悟を要する。それらを踏まえた上で、アルデンテは断った。

 逆にペスカトーレは『絶対行きます!』と最初は力んでその意思を示したが、アルデンテはそれをを全力で阻止した。と言うのも、ペスカトーレは去年の夏休みに、宿題のことを考えずに遊び呆けた結果、期日までに課題が終わらず最後にはアルデンテとアマレットにSOSを求めたことがあるからだ。そのことを覚えていたアルデンテによって、今回ペスカトーレが皆と一緒にプールへ行くのは却下となった。

 

「なんで止めたんだよ~。俺だってプール行きたかったんだぞ」

「なら宿題をさっさと片付けてから行けばいいだろうが。去年俺に泣きついたのを忘れたとは言わせないぞ」

 

 至極当たり前の正論をアルデンテがぶつけるが、ペスカトーレはそれに噛みついてきた。

 

「バカ野郎!せっかくアマレット達に誘われたんだぞ!それを断るなんて・・・・・・」

「それが―――」

 

 どうした、と言おうとしたところでアルデンテは気付いた。

 ペスカトーレは、アマレットのことが好きでいる。だから、そのアマレットからプールに誘われて、ペスカトーレだって嬉しかったのだ。好きな人と一緒にいられる時間が作れると、喜んでいたのだ。

 だが、アルデンテはその時間を自らの手で潰してしまった。

 それでアルデンテも流石に罪悪感を覚え、素直に謝罪する。

 

「・・・・・・悪かった。俺、無神経だった」

「ホントだよ!」

 

 そしてペスカトーレが宣言する。

 

「せっかくアマレットやアンチョビさん・・・・・・その他戦車隊の水着が拝めるチャンスだったのに、ひどいぞお前!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 

 呆れたように口を開けるアルデンテをよそに、ペスカトーレは腕に力を入れて頭を掻きむしる。

 

「ちきしょう、見たかったよ水着・・・。それで水着女子と一緒に戯れたかったよ・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・とりあえず、俺の謝罪と反省の気持ちを返せ」

 

 真剣にものを考えていた自分がバカ臭くなったので、アルデンテは白けた目でペスカトーレのことを見る。だが、ペスカトーレにはその視線も言葉も感じないし聞こえない。

 

「普段は見れない水着姿が見れるなんて、そそるだろ?」

「そそらないからその口閉じろ」

「あわよくばポロリも期待したいけど欲張りかなぁ~」

「本気でぶっ飛ばすぞボンクラ」

「おっと、メールだ」

「俺の話聞けよ」

 

 アルデンテの辛辣な言葉など右から左に聞き流すペスカトーレが、ポケットに入れていた携帯を取り出す。画面を見ると『アマレットからメールだ!』と小学生のように喜んで声を上げる。こいつはどうしようもないな、とアルデンテは諦めかける。

 そしてペスカトーレが、メールを開いた直後。

 

「ふおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 歓喜の雄たけびを上げた。その声に、屋台の前を歩いていた観光客と、近くの屋台の店主がびっくりした様子でこちらを見る。アルデンテは椅子から立ち上がり、『すみません』とばかりにぺこぺこ頭を下げながら、ペスカトーレの頭を割と強めにフライパン(洗浄済み)ではたく。

 

「いきなり叫ぶな、周りが驚くだろ」

「これ見ろ!」

 

 ペスカトーレが携帯の画面をアルデンテに突き出すように見せる。

 その画面に映っていたのは、1枚の写真。もっと言えば、プールをバックに水着姿のアンチョビ、カルパッチョ、ペパロニが写っている。

 その写真の中央に立つアンチョビは、オレンジのタイサイドビキニを着ている。水着姿で写真に写るのが恥ずかしいからか、顔がわずかに赤く染まっている。

 その右隣には、黒の三角ビキニを着たペパロニ。アンチョビと違って恥ずかしくないのか、いい笑顔にウィンクでヤンキーピースを決めている。

 そして、アンチョビの左隣にはカルパッチョ。黄緑色のバンドゥビキニを着て、カメラに向けて控えめにピースを向けている。

 ペスカトーレの意見に賛成というわけではないが、確かに仲が良い人の普段見ない水着は新鮮な感じがした。

 

「見ろ、これ・・・・・・」

 

 しかし、ペスカトーレが注目しているものは別らしい。ペスカトーレが指差したのは、ペパロニ、の胸元辺り。

 

「・・・デカい」

 

 アルデンテは、ペスカトーレの男子高校生らしい超直球なコメントを聞いて、『はあああ』と大きくため息を吐く。

 確かにペスカトーレの言った通り、アンチョビやカルパッチョと比べると、ペパロニの“それ”は標準以上に大きい。いや、アンチョビもカルパッチョも標準もしくはそれ以上はあるが、ペパロニのは大きい。

 だが、アルデンテはそんなことは決して口には出さない。ムッツリだとかそう言うわけではなくて、モラルとかマナー的によろしくないからだ。

 しかし、平常心を保とうとしても、長時間露出度の高い女性の写真を見ているのは目に毒なので、アルデンテはオーブンの中のラザニアに視線を逃がす。丁度、いい感じに焼けていた。

 

「おい、そろそろ再開するぞ」

 

 オーブンの火加減を弱めながらペスカトーレにそう言うが、当の本人は今なお気持ちの悪い笑みを浮かべながら、その水着写真を穴が開くほど眺めている。

 

「・・・・・・柔道で一本背負いって技を習ったんだが」

「ハイハイそこの彼女!ウチのラザニアおひとつどうですか!?」

 

 アルデンテのボソッと呟いた脅しとも取れる言葉に、ペスカトーレは素早く携帯をポケットに仕舞って弾かれたように客引きを始める。早速、声をかけたアンツィオの女子生徒が1つ注文して、アルデンテはラザニアを切って皿に載せて差し出す。

 その女子が去って行った後で。

 

「・・・ペスカトーレがペパロニの水着姿に鼻の下を伸ばしてた、なんてアマレットが聞いたらどう思うだろうな」

「言わないでくれ!頼む!」

 

 必死に懇願するペスカトーレを見て、アルデンテは『言わないからさっさと仕事しろ』と言うと、ペスカトーレは休憩前よりも明るく客引きを始めた。

 アルデンテも、まったくと思いながら新しいラザニアの準備を始めようとする。

 と、そこでアルデンテのポケットの中の携帯が震える。回数からしてメールだった。

 

「?」

 

 ラザニアの残量を見て少し余裕があるのを確認してから、携帯を開く。さっきのバイブレーションの正体はやはりメールで、『新着メール:アマレット』の文字が。メール本文には『プレゼント♪』としか書かれておらず、さらに添付ファイルが1件。

 ペスカトーレに届いたのと同じ写真だろうな、と特に深く考えもせず、身構えたりもせずに一応と添付ファイルを開くと。

 

 

 目に飛び込んできたのは、さっきも見た黄緑色のバンドゥビキニに身を包んだカルパッチョの写真。背景もさっきと同じプールだが、写っているのはカルパッチョだけである。

 だが、彼女の表情は少しだけ恥ずかしそうで、困ったような顔をしている。

 それどころか、彼女は前屈みの体勢を取っていて、右手を右ひざに、左手をお尻に添えている。その体勢を取っていることで、さっきのペスカトーレの写真でも分かっていた、カルパッチョのそこそこある胸が強調されている。

 端的に言うと、セクシーポーズを取った水着のカルパッチョの写真だった。

 

 

 その写真を見た直後、アルデンテの思考は停止した。

 しかしすぐに復旧し、目と脳が写真を認識する。

 そして認識し終えると。

 

「・・・・・・はっ!?」

 

 変な声が出た。

 

「ん、どうした?」

 

 ペスカトーレが不安そうな顔でアルデンテのことを見るが、アルデンテは反射的に画面を閉じて『何でもない!』と首を横に振って、ラザニアの様子を窺う。

 しかし、頭の中には先ほど見たカルパッチョの写真が焼き付いて離れない。

 だが、アマレットが写真を撮ってそれをアルデンテに送ってきたのはアルデンテをからかうためなのは確定として、カルパッチョがどうしてあんなポーズを取っていたのかは分からない。カルパッチョの性格を考えれば、あんなポーズは無意味にしないだろうに、しかもそれを他人にその写真を撮らせるなんて絶対ないはずだが。

 悶々と考えていると、今度は手の中の携帯が電話の着信を知らせた。画面には『着信:カルパッチョ』と表示されていて、丁度いいのであの写メールの真意を訊ねようと思い、ペスカトーレに一言断りを入れてから応答キーを押す。

 

「もし―――」

『もしもしアルデンテ!?』

 

 だが、こちらの挨拶が終わる前に、いつになく取り乱した様子のカルパッチョの声が耳に入ってくる。

 

『アマレットから変な写真送られてこなかった!?』

「え?あ、まあ・・・カルパッチョの写真が送られてきたけど、別に変じゃ―――」

『今すぐ消して!』

 

 アルデンテが割と本心から来る感想を述べようとしたが、それを遮るようにカルパッチョが懇願してくる。やはり、あのポーズと写真は本意ではなかったらしい。

 そこで割り込むように、聞き慣れた少女の声が割り込んでくる。

 

『消しちゃダメだよ~?パッチョ姐のセクシーショットなんて誰もお目にかかれない超貴重な写真なんだから~』

「・・・・・・やっぱお前の仕業か、アマレット。っていうかパッチョ姐って」

 

 実に愉快そうなアマレットの声に、アルデンテの瞼がぴくぴくと震える。ついでに、カルパッチョが妙な呼び方をされていることにもツッコミを入れておく。

 要するに、あのカルパッチョのポーズもアマレットが唆し、隙を突いて一枚撮ったのだろう。カルパッチョも元来のおどおどした性格から、素直に断れなかったのかもしれない。

 

『ありゃ、お気に召さなかった?』

「お気に召すとか召さないとか言う問題じゃなくてだな・・・」

 

 そこでまたカルパッチョの声が聞こえてくる。

 

『と、とにかくさっきの写真は消してね!お願い!』

「あ、ああ」

 

 それで電話は切られた。どうやら、本当にあの写真を消してほしくて電話をしてきたようだ。とんだ災難だ、とアルデンテはそう思う。

 アルデンテは、カルパッチョに言われた通り写真を消そうと、さっきのメールを開く。

 が、メールを消す直前になって、アマレットの言葉が脳裏によぎった。

 

『パッチョ姐のセクシーショットなんて誰もお目にかかれない超貴重な写真なんだから~』

 

 確かに、カルパッチョはその性格ゆえにあんなポーズをあんな恰好でとることなどあり得ない。そしてこの先、カルパッチョは頼んでもそのポーズはしないだろう。

 とすれば、今この手の中にあるその写真は大変貴重なものではないだろうか?

 それに、アルデンテはカルパッチョのことが好きでいるから、カルパッチョの写真はできるだけ手元に収めていたい。

 そう思うと、この写真を消すことが惜しくなってくる。

 アルデンテの指が震え、消去キーから離れ出す。

 いくらアンツィオの校風からかけ離れた性格だろうと、周りと比べて冷めた性格だろうとも、所詮アルデンテも健全な男子高校生の1人に過ぎない。こういった写真に興味があるか無いかを問われると、あると答えてしまう。

 だが、アルデンテは今一度冷静になって考える。

 さっきの電話でカルパッチョは、切実に『消してほしい』と訴えていた。それだけ彼女にとっては恥ずかしいものだったからだろう。

 そこでもし、この写真を消去せずに保存していることがカルパッチョにバレてしまえば、カルパッチョはひどく悲しむだろう。そしてアルデンテは間違いなく失望され、軽蔑される。最悪、縁を切られてしまうかもしれなかった。

 そうなれば、アルデンテがカルパッチョに想いを告白することなど不可能、未来永劫できない。想いを受け入れてくれる可能性だって塵芥ほども無くなる。

 その上で、選択肢が浮かび上がる。

 恐らく今後一切見ることはないカルパッチョの写真を保存するか。

 カルパッチョを悲しませず傷つかせないためにこの写真を消去するか。

 

(消去っと)

 

 選択の余地などなかった。

 アルデンテは消去キーを押して、写真がメールごと消される。

 好きな人を悲しませ、傷つけることなど、アルデンテ自身が許せなかった。カルパッチョが悲しんでいる姿など、見たくない。アンチョビとも、カルパッチョを泣かせないと誓ったではないか。

 だから、この写真をとっておく価値など無いも同然。

 

「オーダー、ラザニア2つ!」

 

 現実に引き戻すかのようなペスカトーレの声。アルデンテは軽く手を挙げてそれに応え、オーブンの中にある耐熱皿を取り出してラザニアを切り出し、皿に盛り付ける。

 もうさっきの写真のことは忘れて、これからの仕事に専念しよう。

 アルデンテはつま先で軽く地面を蹴って、そう意識を切り替えた。

 

 

 翌日の11時過ぎ。昨日同様観光客たちで賑わう屋台街の一角で、アルデンテとペスカトーレの屋台は今日も繁盛していた。

 そこに、昨日はアルデンテにとっては傍迷惑でペスカトーレにとっては生きる希望となる写真を送ってくれたアマレットと、カルパッチョがやってきた。

 

「うおおアマレット!昨日はマジでありがとうな!あんな写真送ってきてくれるなんて!」

 

 アマレットの姿を認めた瞬間、ペスカトーレはアマレットの手を取りブンブン上下に振っている。

 

「いいっていいって。あんた、プールに行けなくてがっかりしてるだろうと思ったし。せめて、ってね」

「アマレット・・・くぅ、マジでありがとう・・・泣きそうだ」

 

 泣きまで見せるペスカトーレ。

 さて、そのペスカトーレがペパロニの水着を見て鼻の下を伸ばしていたというのは、昨日ペスカトーレから口止め料として夕飯を奢ってもらったので、アルデンテは言わないでおく。

 すると今度は、アマレットがアルデンテに対してニヤニヤと底意地の悪い笑みを向けてくる。

 

「アルデンテは?昨日の写真どうだった?」

 

 カルパッチョはそれも気になったようで、顔を赤くしつつもアルデンテのことをチラチラと窺っている。

 

「あんなのカルパッチョの電話の後で速攻で消したぞ」

 

 アルデンテが肩をすくめて言うと、アマレットは『えー?』とつまらなそうにぶーたれて、カルパッチョは胸をなでおろす。ただアルデンテも、消すか消さないかで僅かな葛藤が生まれたことについては黙っておいた。

 

「何で消すのさ?パッチョ姐のあんなポーズ、もう2度と見れないかもしれないのに」

「カルパッチョが嫌がってただろ。っていうか『パッチョ姐』ってなんだ」

「副隊長のニックネーム。呼びやすくていいでしょ?」

「ニックネームにさらにニックネーム付けるのか」

 

 アルデンテがアマレットと話をしながら、ラザニアを切り出して皿に盛り付け、フォークと共にカルパッチョに差し出す。カルパッチョは財布から200円を取り出して、アルデンテに渡した。

 全国大会が終わってから、もう何度もペスカトーレはカルパッチョに対して『だけ』ラザニアの値引きサービスをしているが、アマレットとペスカトーレはそれについてはもう何も言わない。

 アルデンテとしては、好きなカルパッチョのためであればタダでもよかったのだが、カルパッチョが『無料は流石に申し訳ない』と言ったので、仕方なく値引きで妥協した。

 

「っていうか、アルデンテってあのパッチョ姐の写真見て何とも思わなかったの?もしかして、男が趣味の人?」

「何でそうなる」

 

 アマレットがふざけたことを抜かしてきたので、とりあえず鋭い視線をアマレットに向けて放つ。

 だがカルパッチョは、心底ショックを受けたような顔をしているのにもアルデンテは気付いていたので、変な誤解を招かないように弁明をする。

 

「俺は至って普通だよ。恋愛は女の子に対してだけだし、あの写真についても・・・・・・まあ、思うところは・・・・・・あったけど」

 

 最後の方は言うと引き返せないと思って掠れるような感じになってしまったが、それよりもアマレット達が気になったのは『恋愛は女の子に対してだけ』という言葉の方だ。

 

「もしかしてアルデンテって、今好きな子とかいたりするの?」

 

 アマレットが面白そうな笑みで聞いてくる。昨日カルパッチョの写真を送ってきたのもそうだが、まさかアマレットはアルデンテのカルパッチョに対する想いに気付いているのだろうか。人の変化―――特に恋愛による変化に対しては敏感なアンツィオ生ならではか。

 ペスカトーレが『さー、どーなんだろーなー』と棒読みでそんなことを宣うが、それは却って疑惑を加速させるものでしかない。

 

「いや、俺は・・・・・・」

 

 適当に誤魔化そうとするが、カルパッチョが真っ直ぐな瞳でアルデンテのことを見つめている。

 その瞳にわずかにたじろぎ、思わず本音が出そうになるが。

 

「どうも~、広報でーす」

 

 アンツィオ高校生徒会の広報らしき男子生徒が、軽い挨拶と共にやってきた。どうも、ラザニアを食べに来たわけではないらしい。

 

「これ、皆さんに配っている書類です」

「あ、どうも」

 

 アルデンテがお辞儀をしながら、その差し出された書類を受け取る。

 

「下半分が申込書になってるので、参加する時は切り取って生徒会まで送ってくださいね」

「分かりました、ありがとうございます」

「いえいえ。それでは、アリヴェデールチ~」

 

 イタリア風の別れ言葉と共に、広報はその場を離れる。そして向かい側の屋台の店主にも、アルデンテ動揺に何かの書類を渡して二言三言何かを話している。

 

「もしかして、あれか?」

 

 ペスカトーレが、アルデンテの受け取った書類を横から覗き込む。

 

「何それ?」

 

 アマレットが訊いてきたので、アルデンテはその書類を見えやすいようにカウンターに置く。カルパッチョも覗き込んでくるが、その時カルパッチョの髪からふんわりと甘いシャンプーの香りが漂ってきて、アルデンテは思わず目を瞑る。

 そんなアルデンテをよそに、カルパッチョが書類の表題を声に出して読んだ。

 

「『屋台総選挙の案内』・・・?」

 




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ペパロニって、もしかして頭に行く栄養が全部胸に(ドゴォ
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