名前を付けてくれた人   作:プロッター

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cangiare(カンジャーレ)[change]【自動詞】
意:変化する、変わる


Cangiare

 

「オーダー、ラザニア2つ!」

「了解」

 

 昼休み、アルデンテはペスカトーレと共に屋台を切り盛りしていた。ペスカトーレが客引きをして、アルデンテがラザニアを作りお客に渡す。それが普段からの2人の役目であり、今日も変わらず、明日からもずっとこのままだろう。

 例え、昨日の金髪の少女―――カルパッチョとの出来事が、アルデンテの人生の中で一二を争うほどのものであっても、アルデンテの日常に変わりはなかった。

 

「はい、どうぞ」

「ありがとうございまーす!」

 

 努めて優しくアルデンテが言いながらラザニアを渡すと、観光客らしき2人の女性がそれを受け取る。アルデンテなりの優しい雰囲気が伝わったのか、それともラザニアが美味しそうに見えたのか、2人ともいい笑顔だった。

 そして2人は、そこでラザニアには手を付けずにその場を離れていく。どうやら座れる場所で食べるらしい。この近くで座れる場所と言えば、コロッセオか、それとも一般的な公園か、あるいは普通にそこらにあるベンチだろう。

 しかし、料理を作るアルデンテからすれば味の感想を聞けないのは残念だ。料理を作り提供している以上、食べてもらった人には『美味しい』と言ってほしい。そう言ってもらえるかどうかが分からないから、それが気がかりだ。

 だが、そんなことをいちいち気にしていては、屋台営業などやっていられない。それに気を取られて、これから提供するラザニアの味に影響が出るのだって、あってはならないことだ。

 とにかく、客の流れが途切れたので、アルデンテは『ふぅ』と一息吐いて少しだけ休む。

 

「なぁ、アルデンテよ」

 

 そこでペスカトーレが話しかけてきた。

 

「なんだ」

「昨日、あの子とはどんな感じになったんだ?」

 

 またその質問か、とアルデンテは嘆息する。それは今朝、アルデンテが教室に着いた時も開口一番に聞かれたことだ。その時は、アルデンテは『別に』としか答えなかった。

 昨日カルパッチョと話したことは、他のアンツィオの生徒にはおいそれと言えるようなことではなかったし、何より昨日のことをアルデンテは他人に話したくはなかった。

 もっと言えば、カルパッチョとの思い出は自分の心の中にだけ留めておきたかった。それは、冷静であろうとも年頃の男子高校生らしい独占欲が働いたからである。

 その独占欲がなぜ湧いたのか、その理由についてアルデンテはあらかた想像ができていた。

 それは―――

 

「おっ、そこのカメラ持った彼女!取材ならウチの屋台に是非!ついでにラザニアも食べていきな!」

 

 ペスカトーレが突如客引きを始めたので、アルデンテも思考を一度切り替えて店先に目をやる。

 フリーのアンツィオ生、観光客と思しきカップル、学園艦の住人に混じってその少女はいた。着ている服はアンツィオの制服だが、随分癖っけのあるショートボブヘアーが特徴的で、手にはビデオカメラを持っている。新聞部か、あるいは生徒会の広報だろうか。

 

「あ~、すみません。私は今、戦車道の取材をしておりまして」

 

 少女は申し訳なさそうにペスカトーレにお辞儀をして、きょろきょろと辺りを見回す。

 

「あっ、戦車を載せた屋台があります!」

 

 そして少女は何かを見つけたのか、ある場所へと小走りに向かう。少女の言葉が正しければ、行先は戦車を載せたとある屋台だろう。

 その屋台は、この屋台街全体でも割と有名である。屋台のデザインもさることながら、店主を務めているのはアンツィオ高校戦車隊の副隊長。その副隊長の作る鉄板ナポリタンなる料理は絶品で、さらにその副隊長のフレンドリーな性格も相まって、屋台街でもトップクラスの人気を誇っている。アルデンテも1度その鉄板ナポリタンを食べたことはあるが、確かに美味かった。

 

「戦車道の取材かぁ・・・それじゃ仕方ないな」

 

 ペスカトーレが肩をすくめる。アルデンテもペスカトーレも男なので、当たり前だが戦車道を履修することはできない。だからこの屋台も、戦車とは一切の関係がない。

 

「俺も1回だけでいいから女になって戦車道やってみたいな~」

「気持ち悪いこと言ってないで客引きしろ」

「へいへい・・・」

 

 ペスカトーレの叶うはずもない妄言を聞き流して、アルデンテはクーラーボックスから新しいラザニアの生地を取り出して次のラザニアの準備に取り掛かろうとする。今日の売り上げもそこそこいい感じで、食材もそこそこ減ってきている。

 そこで、今度は屋台の外から声をかけられた。

 

「こんにちは」

 

 アルデンテは、その声を聞いて思わず顔を上げる。手にしたラザニアの生地を落とすなどという凡ミスはやらかさない。

 そこにいたのは、昨日自分が『カルパッチョ』と名付けた金髪の少女だ。

 そしてカルパッチョの隣には、明るい茶髪を肩まで伸ばした少女もいる。『ジェラート』という名前の彼女は、イタリア発祥の氷菓であるジェラートの屋台の店主でもあり、またアマレットと同様に戦車道履修生でもある。

 

「はろはろ~」

「いらっしゃい、ジェラート!」

 

 ジェラートが手を振りながら挨拶をし、ペスカトーレも営業スマイルとは少し違う本来の笑みを浮かべて挨拶を返す。

 ジェラートもまた同じ2年生でアルデンテ、ペスカトーレとも仲が良いが、クラスは別である。しかし、アルデンテとペスカトーレ、ジェラートの共通の友達であるアマレットを介して、お互いに屋台を開いていることを知ってから交流が深まり、いつしか友達になることができた。

 また、カルパッチョはジェラートの屋台で手伝いをしている身でもある。だと言うのに、今までアルデンテがカルパッチョのことを知らなかったのは、アルデンテがジェラートの屋台に行くことが無かったからだ。彼女の屋台はアルデンテたちの屋台から少し離れた場所にあるし、ジェラート屋台も近くにあったから。

 さて、ペスカトーレとジェラートが挨拶を交わしたので、アルデンテとカルパッチョも挨拶をすることになる。だが忘れてはならないのは、今はまだ『カルパッチョ』という名前は、アルデンテとカルパッチョが2人きりの時にだけ呼び合う名前である。今この場にはペスカトーレとジェラートがいるので、その名は呼べない。

 だから。

 

「やあ、えっと・・・・・・ひな」

「どうも、アルデンテ」

「「!?」」

 

 昨日も言ったが、ちゃん付けは少し馴れ馴れしいし、敬語は無しで話そうと決めたのだから、さん付けだと他人行儀が過ぎる気がする。だから、アルデンテはカルパッチョのことを本来の名前で呼ぶことにした。

 だが、それを聞いたペスカトーレとジェラートが首が折れるような勢いでアルデンテのことを見る。2人からすれば、いつも冷静で純朴なアルデンテが、あだ名ではなく下の名前で女の子を呼ぶことがあり得ないことだったからだ。

 

「ん、どうした?」

「い、いや・・・別に・・・・・・」

 

 だが、アルデンテからすれば逆にどこかおかしいところでもあったのかと疑問だったので、逆に聞き返す。ペスカトーレは、動揺を隠せなかったが、咄嗟に何もないように答えてしまう。

 

「な、なんでもないよ。それよりラザニア1つちょーだい!」

「お、おう!オーダー、ラザニア1つ!」

「ああ・・・了解」

 

 ジェラートも妙にソワソワしながら小銭をカウンターに置いて注文する。ペスカトーレが代金を受け取って、アルデンテがラザニアを準備する。最初の作り置きが切れて、オーブンの中の2つ目のラザニアを手前側に置く。最初の耐熱皿を洗って、次のラザニアを作るのだが、その前にまずはジェラートにラザニアを渡すのが先だ。

 

「はいよ」

「あ、ありがとう・・・」

 

 どこかよそよそしい態度で、ジェラートがラザニアを受け取る。ペスカトーレもそうだが、どうしたのだろうか。

 しかしそんなジェラートのいつもと違う様子も、ラザニアを一口食べて変わった。

 

「んー、美味っ!」

「どーも」

 

 満面の笑みでジェラートが告げて、アルデンテは小さく笑う。その言葉を聞いてから、アルデンテはオーブンの中のもう1つのラザニアの焼き加減を確かめていると、カルパッチョから声をかけられた。

 

「あの・・・・・・」

「ん?」

「昨日は・・・ありがとう」

 

 アルデンテが振り返ると、カルパッチョは頭を小さく下げる。

 カルパッチョは、昨日話をしたことに対してアルデンテに負い目を感じているらしい。

 それは無理もないことだと、アルデンテは思う。カルパッチョからすれば、昨日は初対面の男に対して、いきなり話がしたいと言って、悩みを打ち明けて、『名前』を付けてもらったりしたのだ。彼女の心の中に申し訳なさが残るのも仕方がないだろう。

 

「いや、そんなに気にしなくていい」

「でも・・・・・・」

 

 アルデンテはそんなカルパッチョを安心させようとできる限り優しく告げるが、それでもカルパッチョの不安は拭えない。

 どうしたものかとアルデンテは考えるが、ふとオーブンの中のラザニアを見て閃いた。

 

「・・・よかったら、ラザニア食べてく?」

 

 何か悩んだり不安な時は、美味いものを食べれば何とかなる。それはこのアンツィオの校風から学んだことだ。今のことばかりではなく先のことも考えるアルデンテだが、そのアンツィオ特有の考え方も一理あると思っている。美味しいものを食べれば、嫌な考えも幾分か晴れるから。

 それに、カルパッチョは初めてアルデンテの作ったラザニアを食べた時、美味しいと言って笑ってくれた。だから、ラザニアを食べさせてあげた方が良いと思ったのだ。

 

「・・・・・・そうね、1つ貰おうかしら」

 

 アルデンテの問いに、カルパッチョも笑って頷く。どうやら、アルデンテの気遣いに気付いてくれたようだ。

 

「おっ、食べてく?」

 

 そのカルパッチョの言葉をジェラートと話をしていながらも耳聡く聞き取った、ペスカトーレがカルパッチョに声をかける。カルパッチョも『はい』と答えた。

 

「おひとつ、いいですか?」

「はいよ!じゃあ250万リラ―――」

 

 ペスカトーレが代金を請求し、カルパッチョが財布を取り出す。

 そこでアルデンテが、『ああ』と言ってから。

 

 

「200万リラでいいぞ」

 

 

 そんなことを告げた。

 

「「何ィ!!?」」

 

 ペスカトーレとジェラートが揃って声を上げるが、カルパッチョも声は上げずとも少し驚いた表情でアルデンテのことを見る。

 

「そんな、値下げなんて・・・」

「いや、昨日話を聞いてくれたことのお礼ってことにしてくれ」

「でも、むしろ私の方が話をさせてもらったんだから・・・」

 

 食い下がるカルパッチョだが、アルデンテは首を横に小さく振る。

 

「俺も昨日、同じ境遇のひなに会えて、色々話すことができて嬉しかったんだ。だから、そのお礼がしたい」

 

 カルパッチョは、アルデンテの言葉を聞いて少しだけ考える。

 自分が話をしたことがアルデンテの負担になってしまったと思っていたが、そのアルデンテもカルパッチョと話せたことを嬉しく思っていた。そんなことは考えてもいなかったし、それが嬉しくないと言えば嘘になる。

 だからカルパッチョは、アルデンテの厚意に甘んじることにした。

 

「・・・・・・そうね、それじゃお言葉に甘えて」

 

 カルパッチョが財布から200円を取り出してカウンターに置く。

 

「・・・・・・まいど」

 

 ペスカトーレがその200円を抜け殻のような動きで回収し、対照的にアルデンテは張り切った手付きでオーブンから2つ目の作り置きのラザニアを取り出して、丁寧に切り取って皿に移し、フォークと共にカルパッチョに差し出す。

 

「熱いから気をつけて」

「ありがとう」

 

 カルパッチョはそれを受け取って、ラザニアをフォークで器用に小さく切り取って一口。

 

「うん、美味しい」

 

 カルパッチョが笑い、アルデンテも自然と笑みをこぼす。

 

「アルデンテ、ちょーっといいか?」

 

 だが、それも束の間で、唐突にペスカトーレが話しかけてきた。そして、返事も待たずにジェラートと共にアルデンテの肩を掴んで、好物のラザニアを美味しそうに食べているカルパッチョから距離をとる。

 

「おいおいおい、どういうことだよお前!」

 

 十分距離を取ってから、ペスカトーレがアルデンテの肩を掴んで揺さぶりながら問いただす。だが、アルデンテにしてみれば、一体何がおかしいのかが分からない。

 

「何が」

「何がって、あんた屋台を開いてこの方一度も値下げサービスなんてしたことないでしょ!」

 

 ジェラートも顔を至近距離まで近づけて捲し立てる。女の子が気安く男と顔を近づけるなよ、とアルデンテは明後日の感想を抱く。

 

「それがお前、いきなり50万リラもまけるなんて、どういう了見だ!?」

 

 そのことか、とアルデンテは今頃事態を把握する。

 

「聞いてたかもしれないが、昨日あの子とはちょっと話をしたんだ。それで俺も、自分と似たような感じのひなと会えて話ができたのが嬉しかった。だから、そのお礼ってわけで代金をまけたんだよ」

 

 アルデンテの弁明を聞くと、ペスカトーレとジェラートはアルデンテに聞こえないようにひそひそと何かを話し合う。

 

「・・・・・・・・・これ、どう思う?」

「・・・・・・・・・いやー、なかなか」

 

 そして話し合いが終わると、ペスカトーレとジェラートは不気味なほどの笑みを浮かべて、揃ってアルデンテの肩を叩きこう言った。

 

「「頑張れ」」

 

 そして2人は、何事も無かったかのように元居た場所へと戻っていった。何が何だかさっぱりわからないアルデンテは、とりあえず屋台の調理スペースに戻ることにする。

 戻ると、既にカルパッチョはラザニアを半分ほど食べ終えていた。

 

「何話してたの?」

「いや・・・・・・よく分からん」

「?」

 

 ペスカトーレとジェラート2人の反応が腑に落ちなくて、アルデンテもそう答えるしかない。カルパッチョはジェラートを見て真意を聞こうとするが、曖昧な笑みを返すだけで返答は望めない。ペスカトーレも、アルデンテとカルパッチョの方を見ないように客引きをしていて、本当に何なんだとアルデンテは思う。

 その時、何かのモーターの駆動音が聞こえてきた。

 アルデンテが顔をその音のする方向へ向けると、アンツィオの戦車CV33が迫って来ているのが見えた。目を凝らすと、アマレットが箱乗りしているのが見える。その隣には、ライオンのように跳ねた髪の少女が同じように座っていた。

 

「やっほー」

 

 アルデンテたちの前を通りがかると、アマレットがこちらに向けて声をかけてきた。ペスカトーレとジェラートが同じく『やっほー』と返し、アルデンテとカルパッチョは軽く手を挙げて答える。それを見てアマレットは、ウィンクを1つかまして行ってしまった。

 そのアマレットを見ながら、『あいつにも報告しないとな・・・』と、何だか嬉しそうな笑みを浮かべてペスカトーレが呟いたが、アルデンテはそれには気付いていない。

 

「じゃ、そろそろ戻ろうかな」

 

 カルパッチョがラザニアを食べ終わったところを見て、ジェラートが伸びをしながら告げる。カルパッチョは空になった皿とフォークをアルデンテに渡し、ジェラートと共に自分たちの屋台へと戻っていく。

 

「またな」

 

 アルデンテは、背を向けるカルパッチョとジェラートに別れの挨拶を投げかける。ジェラートはそれに対して振り返らず片手を挙げるだけで答えたが、カルパッチョはアルデンテの方を振り返り、小さく笑って手を振り返してくれた。

 アルデンテは、その反応を見て少しだけ嬉しくなる。

 

「それにしても」

 

 そこでペスカトーレが、感慨深そうに言葉を洩らした。

 

「まさかお前が、値下げサービスなんてするとはなぁ。アマレットとかジェラートみたいな常連に1万リラもまけなかったお前が」

「もうその話はいいだろ」

 

 乱暴に話を打ち切るアルデンテ。

 だが、50万リラも値引いたのは自分でも大したものだと思う。ペスカトーレの言った通り、アルデンテは屋台を開いて一度も値段を変えたことはない。常連相手にサービスをしたことだってない。

 それなのにカルパッチョに対してだけ値引きをしたのは、もちろん昨日話ができて嬉しかったのもある。それに加えて、カルパッチョに良い印象を持ってほしかったという、アルデンテの望みもあった。

 なぜ、そんな望みを抱くのか。

 その理由は、昨日カルパッチョと話をした後で別れてから考え始めていることだ。

 自分はもしかしたら、カルパッチョのことが好きなのかもしれないと。

 だが、その『かもしれない』という予想は、だんだん確信へと変わってきていた。

 

 

 屋台へ戻るまでの間、ジェラートは私のことをなぜかニコニコと笑顔で見つめていた。

 

「どうかした?」

 

 それがとても気になったので、思わず聞いてみる。ジェラートは、笑みを崩さないまま話し出す。

 

「知ってる?アルデンテって今まで、相手がお得意様とか友達でも一切値引きサービスなんてしなかったのよ」

「そうなの?」

 

 ジェラートの明かした情報に、私の目が丸くなったのを感じる。

 

「そうなの。だからね、ひなちゃんのラザニアだけいきなり50万リラもまけたのが驚きでね」

「・・・・・・・・・」

 

 ジェラートに言われて、私は少し考える。

 私は昨日初めてアルデンテの屋台を訪れて、そこで1回ラザニアを食べただけ、とてもお得意様とか常連とは言えない。

 けれど、昨日は学校の外で待ち合わせて色々話をしたから、もしかしたら常連以上に親しい関係だと思う。

 

「だから、もしかしたら・・・・・・と思ってね」

 

 ジェラートの言おうとしていることは、なんとなくわかる。

 このアンツィオは、食事と芸術、ファッションにこだわりを持っているが、それに加えて恋愛に積極的で情熱的でもある。生徒間でのナンパは割とよく見ることだし、他人の告白シーンに出くわしたこともある。さらにここには、他人の恋路は嫉妬することなく素直に応援し、それが成就すれば素直に喜ぶ優しい心の持ち主が揃っている。

 もっと言えば、恋愛には敏感だ。

 そんなアンツィオで、友達にも常連にも一切値引かない人が、私に対して『だけ』値引きをするなんて聞けば、誰だって『そういうこと』を期待するだろう。

 ジェラートが何に期待をしているのか、それは曲がりなりにも2年アンツィオにいる私にだって分かった。

 

「そんなのじゃないよ」

「ふーん?」

 

 ジェラートが頭の後ろで腕を組みながら天を仰ぐ。

 しかし私自身、もしジェラートの言っていること、思っていることが本当なら、とも思う。

 私は、アルデンテのことをもう赤の他人とは思っておらず、親しい人だと思っている。私と話をしてくれて、自分でも気付かなかったことに気付かせてくれて、そして『名前』を付けてくれたのだから。

 そんなアルデンテのことを、私は好意的に見ている。悪く思ったりはしていない。

 そして彼が、もしもそう思っていたら。

 本当に私のことを、『そう』思っているとしたら。

 

「・・・・・・っ」

 

 そんなことを考えようとして、私は自分の頬を小さくはたく。ジェラートが『どうかしたの?』と尋ねるが、私は『何でもない』と答える。

 今、私は何を期待していたの?

 私とアルデンテは、そう言う関係じゃない。

 なのに、相手が『そう』思ってくれていたらと考えるのは、思い上がりに近い。

 そして、どうしてそう言うことを考えてしまうんだろう?

 私は本当は、アルデンテのことをどう思っているんだろう?

 それが気になって、午後の授業はあまり身が入らなかった。

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