名前を付けてくれた人   作:プロッター

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dialogo(ディアーロゴ)[dialog]【男性名詞】
意:対話、対談、会話

軽度のスランプに陥って、
クオリティがおかしなことになっています。
あらかじめご承知おきください。


Dialogo

 カルパッチョに手を引かれ、アルデンテがやってきたのは親水公園だった。公園の中心には噴水が設けてあり、そこから川のように小さな水路が引かれている。その水路の脇には砂利が敷かれた緩やかな川辺のような場所があった。恐らくは、子供たちが遊びやすいようにするための工夫だろう。

 その水路の脇にある小路を、アルデンテとカルパッチョの2人は並んで歩いていた。

 カルパッチョの手は既にアルデンテから離されてはいるものの、2人の間に会話はない。

 いきなりカルパッチョに『約束をしていた』と言われ手を掴まれ連行された時は何事かと思ったが、いざこうして2人きりになってもカルパッチョは話をしてこない。

 カルパッチョは恐らく、アルデンテに何かしらの話をしたいと思ってわざわざアンチョビたちと別行動を取ったのだろう。それはアルデンテにも分かる。

 だが、アルデンテはカルパッチョを急かすようなことはしない。あくまでアルデンテは、カルパッチョの意思を尊重して、話をしてくれるのを待つだけだ。

 そんな風に、お互い黙って小路を歩く時間がどれだけ続いたか、やがてカルパッチョが口を開いた。

 

「ごめんね・・・アルデンテ」

 

 まずカルパッチョは、最初に謝ってきた。

 

「急にこんなところにまで連れてきちゃって・・・」

 

 確かに最初は驚いたが、それについて怒ってなどいない。むしろそれなりの理由があるのだろうと分かっていたから、アルデンテは笑って首を横に振った。

 

「気にしなくて大丈夫だ。カルパッチョも、何か話したいことがあったんだろ?」

 

 アルデンテが確認するような形でそう言うと、カルパッチョはどうしてか恥ずかしそうに顔をわずかに赤く染めて、また口ごもってしまう。まだ、すぐに話すのは難しいらしい。

 とりあえずアルデンテは、カルパッチョに丁度いいところにあったベンチに座るよう促した。さらに近くの自動販売機でオレンジジュースを2つ買い、1つをカルパッチョに差し出す。カルパッチョは『ありがとう』と言ってそれを受け取るが、プルタブを開けて飲みはせず、手に持ったままだ。アルデンテはそのカルパッチョの隣に座り、バッグを自分の脇に置く。

 腰を下ろしたことで緊張が少し解れたのだろうか、カルパッチョが口を開く。

 

「実は、アルデンテに少し・・・聞いてもらいたいことがあったの」

「?」

「戦車道のことで・・・少しね」

 

 ある程度、そんなことだろうというのは読めていた。この前のメールを受け取った時から、そうなのかもしれないと考えていたのだから。

 戦車道の話をするためとはいえ多少強引な形でアンチョビたちから距離を取ったのは、自分より年上で隊を率いる統帥(ドゥーチェ)アンチョビと、同じ副隊長で友達のペパロニに心配と迷惑をかけさせないためだろう。

 だが、どうして戦車道とは無縁のアルデンテにその話をしようとするのか。

 それはこの数日で、カルパッチョとアルデンテは同じような感性を抱き、また性格も似ていることは分かっている。だから、自分の抱えている悩みや不安を一番理解してくれるのは、そのアルデンテだとカルパッチョは思い至った。アルデンテはそう考えている。

 そして、それは別にアルデンテとしても問題はない。戦車道のことに関しては知識が無いためアドバイスは難しいが、話や愚痴を聞くことぐらいはできる。

 それに、カルパッチョがこうして話をしてくれるということは、それだけアルデンテが彼女にとって気の置けない親密な仲になれたということ、とアルデンテは思う。無意味にポジティブになるのはアルデンテはあまり好きではないが、ネガティブに考えてもマイナスにしかならない。

 

「迷惑だったり・・・する?」

 

 カルパッチョが確かめるように聞いてくる。

 だが、アルデンテは。

 

「いや、そうは思わない」

 

 優しく否定する。

 その言葉を聞いてカルパッチョは安心したらしく、手の中のオレンジジュース缶のプルタブを開けて一口飲む。アルデンテも同じく缶を開けてオレンジジュースを一口飲む。

 そして、一息ついてから、カルパッチョは言葉を選ぶように話し出した。

 

「この前の、大洗との試合で・・・・・・」

 

 

 

 カルパッチョから、アルデンテは試合についてのことを大まかに教えてもらった。

 アンツィオ戦車隊は、試合会場の山の中で戦車が描かれた看板を使って大洗戦車隊を一か所に足止めし、背後から回り込んで包囲するという作戦に出た。

 カルパッチョはセモヴェンテに搭乗し、アンチョビの乗るフラッグ車のP40の護衛を務め、さらにその作戦―――マカロニ作戦の指示を出していた。実際に作戦を遂行したのは、CV33部隊を引き連れ、自分もまた同じCV33に乗っているペパロニだと言う。

 しかしそのペパロニは、当初設置する予定の看板に加えて予備のものまで余分に置いてしまったのだ。それで、戦車の数がレギュレーションを越えたことに疑問を抱いた大洗側が作戦に感づいてしまい、マカロニ作戦は失敗に終わってしまった。

 その結果、アンツィオ側は数の上では有利なものの、性能面では不利であるのにもかかわらず、大洗との正面からの交戦を余儀なくされてしまった。

 カルパッチョのセモヴェンテは、幼馴染のカエサルが乗るⅢ号突撃砲と交戦。だが、その間にフラッグ車のP40は相手のⅣ号戦車に撃破されて敗北。カルパッチョのセモヴェンテも、結局はⅢ突と相討ちになってしまった。

 看板を使う欺瞞作戦も認められるとは、戦車道の試合も中々奥が深いな、とアルデンテは頭の隅っこで思った。

 

 

 

「・・・・・・そのマカロニ作戦、ドゥーチェとペパロニ、そして私で考えた作戦なの」

「そうなのか」

「うん・・・。だから、今回の作戦が失敗したのも、ペパロニが全部悪いとは思ってない。責任は、その作戦を一緒に考えて、実際に指示を出した私にだってあると思う」

 

 膝の上で小さく手を握るカルパッチョを見てアルデンテは、カルパッチョは真面目なのだな、と思う。

 アルデンテもそうだが、全くの事情を知らない一般人がその話を聞けば、主にペパロニが悪いと思うことがほとんどだろう。何せ、作戦を考えた身でありながら、その作戦をミスしてしまったのだから。実際、これにはあのアンチョビもご立腹だったらしく、無線越しに大声で『アホ』と言い放ったらしい。

 

「まあ・・・アンツィオらしい失敗だとは思うが・・・」

 

 アルデンテがフォローするように言うが、それでもカルパッチョの表情は晴れない。小さく握られた手も解かれない。

 

「でも・・・もっと他にやりようがあったと思う。予備を少なくするとか、忘れないように戦車の中にメモを貼るとか・・・・・・作戦を間違えないようにする方法は、いくらでもあったはずなのに・・・」

 

 缶を握るカルパッチョの手に、小さく力が入る。

 

「もっと、私がしっかりしていれば、ああならなかったって思うと、悔しくて・・・」

 

 カルパッチョの肩が小さく震えている。作戦を成功させることができなかったことに対する後悔や、情けなさ、さらには自分に対する怒りを覚えているのだろう。

 アルデンテは、そんなカルパッチョの肩に優しく手を置いた。カルパッチョは、少し驚いたように肩を震わせて、アルデンテの方を見る。

 

「・・・・・・やっぱり、俺は男で、戦車には乗れないからどうこう言えないけど・・・」

 

 断りを入れてから、アルデンテはカルパッチョに優しく話しかける。

 

 

「カルパッチョは優しいよ。それだけは言える」

 

 

 カルパッチョは、キョトンとした顔でアルデンテのことを見返す。

 言葉の意図が分からない、どうしてそんな結論に至ったのか、とその表情は雄弁に語っている。

 

「あくまで部外者として言わせてもらうと、作戦が失敗した主な原因はカルパッチョじゃない。ペパロニのことを悪く言うつもりはないが、大きな原因はペパロニにあると思う。でも、カルパッチョはペパロニを責めないで、自分も悪いって考えてる」

 

 カルパッチョから目をそらさず、アルデンテは続ける。

 

「失敗を他人のせいにしないで、素直に自分も悪いと思っている・・・そう認めたカルパッチョは優しいんだと、俺は素直に思った」

 

 そして、アルデンテはカルパッチョの肩から手を離す。

 

「失敗を忘れようとしないで深く反省しているのも、真面目だと思う」

「・・・・・・・・・」

 

 カルパッチョが呆けたような顔をしているので、アルデンテは少し出しゃばり過ぎたと気付いた。

 

「あ、これはあくまで俺みたいな一般人の意見だから、それが正しいとは言えないけど・・・」

「ううん」

 

 だが、カルパッチョはアルデンテの弁解を遮って首を横に振る。

 

「そう言ってくれて、嬉しい」

 

 カルパッチョは、視線をアルデンテから目の前を流れる水路に移す。穏やかな水の流れは先ほどとは変わっていない。

 

「・・・・・・どうして、その戦車道の話を俺に話そうとしたんだ?」

 

 その理由は、大方予想はできている。

 けれど、その理由をカルパッチョの口から聞いておきたかった。

 

「・・・私と境遇や性格が似ているあなたになら、自然と全部を話せるような気がしたから」

「・・・・・・・・・」

「少しだけでも、誰かに話したくて・・・そうしないと自分を保てそうになかったから・・・」

 

 その理由は、アルデンテの予想していた答えだった。

 カルパッチョは、言った直後にアルデンテの方を向いて頭を下げる。

 

「ごめんなさい、こんな勝手な理由で話して・・・」

「いや、気にしなくていい」

 

 アルデンテは、その理由を聞いて不快な気持ちになったわけではない。

 その逆の気持ちになれたことを、本心をアルデンテは告げることにした。

 

「むしろ、カルパッチョがそう言う本心を告げる相手に俺を選んでくれたことが、嬉しい」

「え?」

 

 カルパッチョからの視線を一層強く感じて、アルデンテは天を仰ぐ。

 あんなことを言ってしまったのだから、その理由を聞くまでカルパッチョは納得しないだろう。

 しかし、その本心を包み隠さず話すとなれば、自分らしくもなくクサいことを言ってしまうだろうことが予想できる。

 だが、それだけ言って何も言わないというのもまた格好がつかない。

 だから、多少の恥は忍んでその本心を言うことにした。

 

「それだけ・・・カルパッチョが俺のことを信頼してくれているってことだと、思うから・・・」

 

 言っていてすごく恥ずかしい。カルパッチョの顔など見ることもできない。だから、思わず顔を逸らしてしまった。

 

「・・・・・・・・・」

 

 そのカルパッチョも、顔を赤くして視線を手の中にあるオレンジジュースの缶に落としていた。

 

「・・・変なこと言って、ゴメン」

「大丈夫・・・」

 

 先にアルデンテは謝るが、それでも妙な雰囲気は拭えない。

 アルデンテはオレンジジュースを呷るが、この雰囲気をどうにかしたかった。

 何か手はないかと悩むが、そこでアルデンテの脇に置いてあったショルダーバッグがずり落ちて、中身が地面に散乱する。

 

「『調理師免許』・・・?」

 

 アルデンテが中身を拾おうとするが、そこでカルパッチョがバッグから出てきた本を拾い上げて、そのタイトルを口にする。アルデンテは『しまった』と思ったが、もう手遅れだ。

 

「アルデンテ・・・・・・調理師を目指してるの?」

 

 カルパッチョは先ほどまでの恥ずかしさを忘れて、アルデンテに向かって問いかける。アルデンテは頭を少し掻いて考えてから、ずっと言わなかった自分の夢、そしてアンツィオに来たもう1つの理由を話すことに決めた。

 

「将来な・・・・・・そうなりたいと思ってる」

「そうなんだ・・・・・・」

 

 どうやらカルパッチョは、その理由にも興味があるようで、まだアルデンテから目線を逸らそうとはしていない。

 

「俺がアンツィオに来たのには理由が2つあって、1つは前言ったように、自分の性格を変えたかったから」

 

 アルデンテは落ちたバッグの中身を全て回収し、そして残ったオレンジジュースを飲み切る。

 

「それともう1つは、料理人を目指すためだ」

 

 アルデンテは、視線を穏やかに流れる水路に向ける。水路の向こう岸の小路を子供連れの母親らしき女性が歩いている。しかし、その女性も子供も、対岸のベンチに座るアルデンテとカルパッチョには目もくれず歩いていく。

 

「最初に料理を作ったのは今よりずっと小さい頃・・・小学生ぐらいの時。一品だけ作った料理が家族から『美味しい』って言われて、それがすごい嬉しくって、気付けば料理が趣味になってた。で、いつか料理人になるんだって将来の夢が決まった」

 

 その夢が決まった時の、自分の中に芽生えた希望や嬉しさ、目的を成し遂げようとする決意を思い出して、アルデンテは小さく笑う。

 

「アンツィオは料理の授業が多くて、それに自主的に屋台を開くことができるって話を聞いた。だから、性格を変えるだけじゃなくて、料理の腕を上げるために、アンツィオに来たんだ」

 

 カルパッチョから『調理師免許』の本を受け取り、それもバッグに仕舞う。

 

「将来は、そうだな・・・・・・今日行ったあのイタリアンのお店みたいな、小さな店を開きたいと思ってる」

 

 そこまで言って、ペラペラ1人でしゃべり過ぎたと自省する。場の雰囲気に流され過ぎて、将来の夢まで明かしてしまった。

 

「・・・って、1人で喋り過ぎた。悪い」

「気にしないで」

 

 考えてみれば、アルデンテが将来の夢を―――小さな店を開きたいと話したのは、家族と、親友のペスカトーレぐらいだった。

 アルデンテの中で、料理人になって店を開くという夢は、不安定と認識していた。実現する可能性はゼロではないが低い。そんな夢をぺらぺらと語って実現しなければ、その夢を聞いた人は落胆するだろうから。

 だから、アルデンテはこの夢をあまり人には話してこなかった。

 しかし、今カルパッチョにその夢を話してしまったのは、調理師免許の本を見られて隠し通すことができないと悟ったからだ。

 それと共に、カルパッチョには自分の全てを知ってほしいという心理が働いてしまったのもある。

 

「そうなんだ・・・料理人に・・・」

 

 カルパッチョがアルデンテの夢を聞いて、何を思っているのかは分からない。

 彼女の目は、穏やかな水路に向けられていたが、やがてアルデンテの方を見て、そして安らかな笑みを見せてくれた。

 

「頑張って、アルデンテ。私は、あなたならその夢を実現できると思うわ」

 

 シンプルで、それでいて心に響く真っ当な応援を受けて、アルデンテもつられるように笑い、そして頷く。

 

「・・・ありがとう」

 

 カルパッチョの応援してくれる気持ちを無駄にしないためにも、この夢は絶対叶えなければ、とアルデンテは胸の中で決意を新たにした。

 一方でカルパッチョは、夢を語ったアルデンテを見て、1つだけ言わなければならないことができてしまった。

 

「・・・あのね、アルデンテ」

「ん?」

 

 残っていたオレンジジュースを飲み干したカルパッチョは、少しだけ恥ずかしそうに話を切り出す。

 

「今日、実は・・・」

「?」

 

 既に中身は全て飲み終えた缶に視線を落とすカルパッチョ。

 アルデンテは、何も言わずに言葉の続きを待つが、そのカルパッチョの顔がわずかに紅く染まっていることに気付く。一体、どうしたんだとアルデンテが少しだけ心配し始めたところで。

 

「・・・最初は、ドゥーチェとペパロニは誘わないで、私とあなたの2人だけであのお店に行こうと思っていたの」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 

 予想外の告白に、アルデンテが声を洩らす。恐らく今の自分の顔は、みっともないぐらいに口が開かれていて、目も真ん丸に見開かれているだろう。

 

「でも、2人だけで出かけるって思うと、恥ずかしくなっちゃって。それってなんだか・・・・・・」

 

 カルパッチョが、チラッとアルデンテの顔を見る。やはりカルパッチョの顔は、赤くなっていた。

 

 

「デート、みたいで・・・・・・」

 

 

 アルデンテが、ハッとしたような表情になって、すぐにカルパッチョから視線を逸らして、水路を見る。カルパッチョも同じ方を向いた。

 自分とアルデンテの2人だけで出かけるのがデートのようで、それが恥ずかしかったから、カルパッチョはアンチョビとペパロニも誘ったのだ。

 自分とアルデンテは『まだ』そう言う関係ではないから、2人だけというのが無性に恥ずかしく思えてしまい、またアルデンテももしかしたら迷惑と思っているんじゃないかと、不安になったのだ。

 だからアンチョビたちも誘ったのだが、カルパッチョは先ほど夢を語るアルデンテを見て、それを隠し通すことに妙な罪悪感を覚えてしまった。

 それで、どうして誘ったのかを正直に白状した。

 けど、これもまた恥ずかしい。

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

 またしても気まずい沈黙が2人の間に訪れるが、先にその沈黙を脱したのはアルデンテ。ショルダーバッグを肩に提げ、そして先に立ちあがって。

 

「・・・・・・そろそろ、戻ろうか」

 

 カルパッチョを見て、そう言った。その顔は、太陽の逆光でよくは見えなかったけど、赤くなっているようにカルパッチョは見えた。

 

「・・・うん」

 

 カルパッチョも立ち上がる。そしてアルデンテは空になった缶をカルパッチョから受け取り、自分のものと合わせてごみ箱に捨てると、水路に沿った小路を公園の出口に向かって歩き出す。

 もちろん、アルデンテとカルパッチョは隣同士で歩いていた。

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

 先ほどのカルパッチョの『デートみたい』という言葉を意識してしまって、お互いに顔を合わせることも、言葉を交わすこともできなくなってしまう。

 私服姿で同い年ぐらいの男女2人が並んで歩いている今の状況は、客観的に見ればデートと捉えられるかもしれない。

 それに気づいたアルデンテは余計に恥ずかしく、気まずくなってしまい、この空気をどうにかしようと考えて意を決してカルパッチョに話しかけることにした。

 

「・・・・・・カルパッチョ」

「・・・・・・なに?」

 

 話題を探す。まずアルデンテの目に入るのは、当然ながらカルパッチョの姿。そして次には、その服が目につく。

 

「本当に、本当に今更だけど・・・・・・その服」

「?」

「すごく、可愛い」

 

 見たままの感想を、今日初めてその姿を見た時の感想を述べたのだが、言った直後でアルデンテは『バカなことを言ってしまった』と後悔する。確かにカルパッチョの服は可愛いが、今言うべきではなかっただろう、せめて会った時に言うべきだっただろう、と。

 カルパッチョの顔は一気に赤くなってしまい、気まずい空気がより濃くなってしまった。

 何を言っても気まずい空気になってしまいそうだと思ったアルデンテは、もう何も言うまいと口を閉ざしてしまった。カルパッチョも、先ほどのアルデンテの唐突な褒め言葉に動揺したのか、何も言葉を発しない。

 そして2人は、黙々と歩き続けることしかできなくなった。

 だがその途中で、カルパッチョの手が隣を歩くアルデンテの手と不意に触れてしまった。

 指先がほんの少し触れた程度だったのだが、熱い鍋に触れた時のようにカルパッチョは素早く手を引っ込める。一方でアルデンテは、その触れてしまった手を見て、さらにカルパッチョを見て、そしてまた恥ずかしくなったのか足下に視線を落とす。

 だがカルパッチョは、手がわずかに触れてしまって、胸の内に『もっとアルデンテに触れていたい』という想いが込み上げてきてしまった。

 その想いに抗えず、カルパッチョはアルデンテの左手を優しく握る。握ってしまう。

 

「・・・・・・っ」

 

 アルデンテがびっくりしたようにカルパッチョを見るが、カルパッチョもいっぱいいっぱいだった。カルパッチョは、前を向いて歩いたまま口を開く。

 

「嫌だったら・・・迷惑だったら、離していいから。振りほどいていいから」

 

 だが、カルパッチョの言葉を聞いても、アルデンテは手を離そうとはせず、むしろその手を握り返す。それに驚き、カルパッチョはアルデンテのことを見る。

 アルデンテは少し恥ずかしそうに目の下が薄く赤く染まっているが、それでも静かに笑ってカルパッチョを見て告げた。

 

「・・・嫌なんかじゃない」

 

 

 

 アンチョビ、ペパロニと合流したのは、港近くの噴水広場だ。

 だがアンチョビたちは、アルデンテとカルパッチョの2人が手を繋いで向かってきたのを見て、目の玉が飛び出るほど驚いていた。

 

「お、お前たち・・・まさかそこまで進展していたのかっ!?」

 

 アンチョビが指差して尋ねると、そこでアルデンテとカルパッチョはようやく手を離す。そしてお互い恥ずかしくなって、アンチョビやペパロニに顔を向けられない。

 

「アツアツだねー」

 

 ペパロニが、目線を逸らすアルデンテたちに追い打ちをかけるが、アルデンテもそう見えても仕方がないと思っていたので、反論できない。

 カルパッチョはと言えば、先ほどまでアルデンテと繋いでいた手を愛おしそうに握っていて、瞳が海のように揺れている。

 

「アルデンテ、ちょっと来い」

 

 そこでアンチョビが、何を思ったのかアルデンテを手招きして、噴水の裏側まで誘導する。そして、恐らくカルパッチョたちに声が聞こえないであろう距離まで来たところで、アンチョビがアルデンテに向けて人差し指を突きつける。

 

「何ですか?アンチョビさん」

「・・・まだ、気が早いとは思うが・・・・・・」

 

 アンチョビの表情は真剣そのもの。一体、何を言われるのだろうか。

 

「・・・・・・お前とカルパッチョが、どんな関係なのかは分からない。けど、それなりに親しい関係だってことは、私にも分かる」

「・・・・・・」

「だから・・・・・・カルパッチョを泣かせたりしたら、絶対に許さないからな」

 

 アンチョビがそう告げて、アルデンテも目を閉じる。

 アンチョビも、カルパッチョのことを心配していたのだ。それは自分がカルパッチョのことを副隊長に任命したからであるし、同じ戦車隊の仲間でもあるからだろう。

 そして、その言葉に対するアルデンテの答えは、もちろん決まっていた。

 その答えを、アンチョビの目を真っ直ぐに据えて、そして小さな笑みと共に答える。

 

「・・・もちろんです、ドゥーチェ」

 

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