春を告げる妖精リリーホワイト。ただ春を告げるだけだったはずが、とんでもない妖怪に出会ってしまい、幻想郷を混乱の渦に飲み込ませてしまう!!

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分裂!リリーホワイト

 日本には季節の移り変わりがある。

 それは、幻想郷とて変わりはない。

 ただ、幻想郷にはいくつか外の世界との違いがある。

 例えば、季節の変わり目に妖精が現れることだ。

 特に春がやってくると現れるリリーホワイトは、春の幻想郷の風物詩である。

 リリーホワイトは、春がやってくるとそこら中に春が来たことを告げる妖精だ。

 そのため、どうやらリリーホワイトという1匹の妖精がいるのではなく、何匹かのリリーホワイトがいるようだ。

「春ですよー」

 1匹のリリーホワイトが、名も無き子供のリスの妖怪に向かって春を告げた。

「ああ……もう春か……」

 冬眠から目覚めたばかりのリスの妖怪は、目を擦りながらリリーホワイトを見つめた。

「そうですよー。春ですよー」

「そうか……」

 リスの妖怪の眼は、春しか告げないリリーホワイトを悲しそうに見ている

「どうかしたですか?」

 そのことにようやく気付いたリリーホワイトは、心配そうにリスの妖怪に近寄る。

「冬眠している間に僕の仲間がみんな死んでしまったんだ……」

「えっ」

 突然のカミングアウトに、リリーホワイトは絶句する。

 1年中、頭の中が春であるリリーホワイトにとって、重い話はきついのだ。

「この冬は今までにないほどの寒波だった。たまたま穴の奥にいた僕は生き残ったけど、他のみんなは死んでしまった……」

「でも、今は春ですよ?」

「ああ。だから、仲間の分も生きなくちゃならないのに、僕の頭の中には仲間を救えなかった後悔が横たわっているんだ……」

 リスの妖怪は、サバイバーズギルトに陥っていた。

 おそらく、目覚めた時に仲間の死体を散々見せつけられたからだろう。

「冬なんてなくなればいいのに……季節なんて移り変わらなければいいのに……」

「……」

 リリーホワイトにリスの妖怪の気持ちは分からなかった。

 だが、彼女は本能でそのリスの妖怪の心に春を齎さなければならないと思った。

「でしたら、1年中春にすればいいのですよ!」

「はぁ?」

 頭の中1年中春のリリーホワイトは、意味があるのかないのか分からないアドバイスをリスの妖怪に送った。

「1年中春なら、あなたは苦しまなくて済むのですよ!」

 リスの妖怪には、その発言を理解するのに数分の時間を必要とした。

「そうか……」

 そして、リスの妖怪は納得した。

「君の力を使って幻想郷を1年中春にすればいいのか!」

 間違えた方向に!

 リリーホワイトは、単に気楽に生きればいいという意味で言ったのである。

 ところが、思考が色々とイカレ始めていたリスの妖怪は、幻想郷に異変を起こそうとしていたのだ!

「あ……あのぉ……私にそういう力はないのですよ……」

 慌てるリリーホワイト。

 事実、幻想郷で今まで起こった季節絡みの異変は、リリーホワイトと無関係な亡霊が起こしたものだったり、リリーホワイトと無関係な秘神が起こしたものだった。

 詰まるところ、リリーホワイトにそんな力はない。

 あるのは、春を告げる本能だけである。

 だが、精神錯乱状態のリスの妖怪は、リリーホワイトにありもしない力を求めてしまったのである!

「でも、いっぱい集まればできるよね! 小さな力でも集まれば大きな力になる!」

 もはや、幻想郷を1年中春にすることが最後の希望になってしまったリスの妖怪に聞く耳は残っていなかった。

 そして、春を告げること以外にはからっきしなリリーホワイトは、とんでもないことを言ってしまう。

「ま……まあ……私たちが集まればできるようになるのですよ?」

 認めてしまったのである。

「そうと決まれば、君以外のリリーホワイトも集めるぞ!」

 リスの妖怪の目に光が宿った。

 かなりどす黒い邪悪な光だったが……

「はい! 分かりましたですよ!」

 リリーホワイトは、もう投げやりだった。

 自分の想定外以上のことが起きて、どうしようもなくなってしまったのである。

「ちょっと待ったー!!」

 そこへ、リリーホワイトの救いの手を差し伸べる者が現れた。

 その救世主とは……

「リリーブラック!!」

 同じく春を告げる妖精リリーブラックであった。

 ちなみに、こちらも複数体が存在するらしい。

「あなた、1年中春にしてしまうことがどういうことか分かっているの!?」

 リリーブラックは大層ご立腹だ。

 春を告げる妖精の範疇をリリーホワイトが越えようとしているからだろう。

「でも、この子のためには……」

「そんなこと関係ない!」

 リリーホワイトは反論しようとするが、それをリリーブラックは黙らせる。

「いい? 幻想郷には多くの妖怪や妖精が住んでいるの。彼らは季節によって力を得たり失ったりするの! それを1つの季節に固定してしまったら、幻想郷のバランスが崩れてしまうわ!!」

 リリーブラックは、リスの妖怪とリリーホワイトがしようとしていることの危険性を説いた。

 ところが……

「ということは、リリーホワイトの力を使って季節を固定することは可能なんだな?」

「っ!!!!!」

 リスの妖怪の発言に衝撃を受けるリリーブラック。

 彼女も、ただの春を告げる妖精なわけで、リリーホワイトよりおつむが良いだけなのである。

 つまり、そんなに頭は良くないのだ。

「おお、この子、結構頭良いですよ!」

 いつの間にかリスの妖怪に忠実になったリリーホワイトは、感動のあまり顔を明るくした。

「そうと決まれば、リリーホワイトを集めるぞ!」

「おーですよ!」

 そして、彼らの季節への反逆が始まろうとした。

「あなた、本気なの!?」

「私は本気なのですよ!」

「戦争になるわよ?」

「臨むところですよ!」

 リリーホワイトとリリーブラックの間に火花が散っていたが、遂にリリーブラックが折れた。

「分かったわ。なら、私はあなたたちに対抗する軍隊を作るわ!」

「なら、私はその軍隊を越える軍隊を作るのですよ!」

 かくして、リリーホワイトとリリーブラックは訣別した。

 ちなみに、この間にリスの妖怪は何の干渉もしていない。

 リリーホワイトとリリーブラックのおつむが悪いせいで、防げたはずの幻想郷の異変は呆気なく始まってしまったのだ。

 

 それからしばらくして、幻想郷で2つの勢力の戦争があった。

 1つは、リスの妖怪率いるリリーホワイトの軍団『春九千』。

 もう1つは、リリーブラックがかき集めた寄せ集め軍団『春一番』。

 当初は、『春一番』の圧勝で終わるかと思われたが、春のパワーを受けてパワーアップしていたリリーホワイトの大群に『春一番』は敗北してしまった。

 そして、幻想郷は1年中春となり、リリーホワイトが幻想郷を支配するようになった。

 後に、幻想郷に革命を起こした1匹のリスの妖怪はこう呼ばれるようになる。

 『モノリス』と……


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