Fate/White Christmas   作:カタストさん

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プロローグ ~光を纏う、闇に潜む~

いつも、輝く物は俺の背中にあった。

なぜなら、何もかもに打ち勝ってきたから。追い抜いてきたからだ。

“何か”が俺の前に有ってはならない。“何か”が俺の上に立っていてはならない。

そういう風に生きてきたんだ、ならば、俺の背中に何があろうともう関係なくなっていた。

俺達以外に誰も存在しない荒野。

だが、ここに居る俺以外の2人は、人間ではない。いずれも人々が喜々として語れるような英傑より分かたれた、人を超越した英霊達。今、語る者が誰も居ない神話がここに再臨している。

「なぜ、貴方が前に出るんですか!? 貴方はマスターです!私に守られなければならない立場なのに、挙句私の前に立つなど有っては成りません!」

俺の後ろで“(ノワール)”のセイバーが叫ぶ。

貧窮にして豪奢。清廉にして剛毅。

相容れぬ本質を持ち合わせた少女は金色に煌めく細剣(エストック)を除いては、ほんの少しの金具を附したドレスのみを装った、剣士(セイバー)と言うには戦場に余りに不釣り合いな格好の手弱女。

本来、それは剣士となるべきではなかった。その少女こそ一つ目の異質さであった。

「君は逃げると思ってたよ。(アタシ)が誰かを分かってて、正面に立っているなんて。(アタシ)、君の事を見誤っていたみたい」

俺の前で、“(ブラン)”のアーチャーが叫ぶ。黒々と(まが)つ槍をその手に持っている。彼女の一存で、それは簡単に放たれ、俺達を貫いて何処かに消えていくだろう。

俺の後ろにいる少女とはまた印象を異とする少女。その少女は、ナイフのように鮮やかに煌めく殺気を放つ少女。何より、彼女の頭から生えた、(ジャガー)の耳と、俺の姿を鮮明に写し込む鏡で作られたの義足が、彼女が人より外の存在であることを思わせる。矮躯に込められた魔力は、それこそ人の概念を超越したものであった。

本来、それは英霊として人間に使役する所以も無かった。 その少女こそ二つ目の異質さだった。

「そうだな。お前は見誤っていた。俺が生きるとか、願いを叶えるとかいった事に固執するような男じゃないのは分かってるだろ。」

ならば、この俺は三つ目の異質なのだろう。

サーヴァント、並み居る英霊の分霊、人の形をした奇跡に挟まれ、それに抗おうとしている、単なる魔術師の男。本来ならば、俺はこんな場所には立たず、セイバーに戦いを任すはずであった。

だが、今のセイバーは何も出来そうもない。だったら、俺が戦わなければならないのは当然だ。

「このままだったら、セイバーは消える。そうなったら俺は負ける。それじゃ意味がない。俺は勝つためだけに戦う。その為になら死んでも構わないんだからな」

後ろで、セイバーが息を呑む音が聞こえた。 前で、アーチャーが無邪気に頬を笑いに歪めた。

二人共、この反応だけ見ればただの少女なのだ。多分、後ろのセイバーは悲しむような呆れるような顔をしているんだろうな。

だが、この姿勢を歪めることは出来ない。 これが俺が生きてきた道のりなのだから。

ここで、俺が負けるような事を指を咥えて見ていることは絶対に出来ないんだ。全てに勝つためだけに全てを捧げたのだから。

「アッハハ! 最高だよ!そこまで清々しく『勝つことが全て』って言われると却って面白いね!それでこそ、この槍をぶつける価値があるよ」

アーチャーは、手に持った槍に魔力を込める。 ただそれだけで、周囲の空気は形持つ悪意に変化(へんげ)を遂げた。呼吸をしようとするだけで、体の周りに粘着くような不快感が湧き出てくる。

「此れより借り受けるは、我が(ともがら)の神鎗。同調を開始する」

“光”のアーチャーが一言紡ぐ度に、不快感が増す。 それほどの魔力が、彼女の黒い槍に溜まっているということだ。

「―――信じる物のために戦うこと(ウィツィロポチトリ)

―――自らを偽らず戦うこと(シペ・トテック)

―――自らより高潔なものとの闘いであること(ケツァル・コアトル)

条件満了。最大出力、宝具開帳!」

アーチャーは、鍵を開ける。 1つ、2つ、3つと順番に。一つ開ける度に、あの槍は黒色の炎を纏い、禍々しい雷を発現させていく。あれならば、都市の1つは簡単に吹き飛んでしまおう。人間一人なんて、それこそ紙のように貫き焼き払ってしまうだろう。

だが、アーチャーはそんな事を気にすることもない。人間が食べる肉の数を覚えないように、彼女もまた払う犠牲を無視すると決めたようだ。

「やめてください! そんな宝具ものを投げたら、どれ程の犠牲が出るか分かっているのでしょう!」

セイバーが吼える。 彼女とて、こんな言葉を彼女(アーチャー)が聞くとは思っては居ない。だが、彼女はそうあらなければならない理由がある。

誰よりも正しくあらねばならない理由。 俺と対極にいるからこそ、彼女は止められぬと解っていながらも訊かずにはいられない。セイバーの本質を見抜いているからこそ、アーチャーもその言葉を無碍に否定したりはしない。

「セイバーの言いたいことは十分解るよ。 でも、(アタシ)は止められない。この大戦を勝ち抜いて、願いを叶える為に現界して(生きて)きた。その為に払う犠牲がどれ程大きかろうと、()()()()()()()()()

「くっ・・・」

「じゃぁ、覚悟は良いんだよね? セイバーのマスター」

魔神(アーチャー)が問いかける。態々分かっていることを問い直したのは、彼女の(サガ)ゆえだろう。

「ああ、来い。 全力で止めてやる」

俺の手袋(グローブ)は、少ないながらも対魔力の呪いが施されている。あの魔力の塊の砲弾だろうと、少しは和らげることが出来るはず。

「無理です!マサキ!あれは人間が止められる域を超えたものです!無駄死にする前に逃げてください!そうすれば貴方だけは助かります!」

後ろから、声が聞こえる。セイバー、俺を嫌っているはずなのに、俺を助けようとするとは・・・どれほど彼奴は正しくあろうとしているのか。でも、その意見は見当違いなのだ。

「俺はここから逃げられない。たとえ逃げることが出来たとしても、俺はここから逃げることは許されない。俺は、勝たなければならないんだからな」

「なっ・・・!」

もう、俺は後ろを振り返れない。 彼奴の怒った顔は正直苦手だからな。

俺の前にいる奴の方がよっぽど俺に似ていて、波長も合うんだが、世界は皮肉なことにアーチャーと俺を絶対的な敵に仕上げてしまっている。

「―――悪いね」

アーチャーが、ふとそんな言葉を漏らしたのが聞こえてしまった。

嗚呼、お前は悪い。だが、そんな事はもう関係ない。

俺は炎の中で1度死んだんだ。ならば、もう俺は命の存在さえも希薄。

体が在る意味はない。精神なんてとうに死んで、この命を支えているのは、たった一つ。

幼いころに誓ったあるユメ。 それが、俺の背骨の代わりになっているだけの話。

だから、アーチャーは関係ないんだ。

「俺は勝つ。ただ、それだけだ!」

「・・・ハハッ、一瞬でも(アタシ)が悪いと思ったのが馬鹿みたいじゃん!じゃぁ、いくよ!!」

「ああ、来い!」

アーチャーは、体という弓に番えた黒黒とした槍の矢を放つ。それは、大砲よりも高い威力で射出される禍々しき怨念の一矢。

あれが、彼女が唯一捧げた友情の権化であると理解できる者は果たして何人居るだろう?さっき開けていた鍵が、歪んで伝わった伝承を正し、自らの手のもとに戻すためのものであると気づくものは居るのだろうか。

彼女が今から放つのは、太古において太陽という一柱の神を撃ち落とす為に投げ放った、神威の黒曜石で形どられた一つの破壊の究極―――!!

第五の太陽よ滅べ、我が憎しみと愛のもとに(トラウィスカルパンテクートリ)!!」

真名と共に放たれた黒槍は、放たれた側から、彼女の間に合った地面を蒸発させていく。太陽を堕とす為の槍なのだから、地球なんて最早意味を成さないということだろうか。

それを本気で受け止めようとしている俺なんだ。よっぽど俺は狂っている。だからセイバーは俺を憎んでしまっているのかな。

だが、俺は勝たねばならない。 その為なら、何もかも支払わなければならないから―――。

そうして俺は受け止めた。 破壊の奇跡を。




2018.6.29 文章を修正しました。
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