Fate/White Christmas   作:カタストさん

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好みの女性

「・・・って事があったんだ」

「そりゃぁ災難だったなぁ」

昼休みになり、俺は生徒会室に来て昼食を摂っていた。

なんでかと問われると、湯沸かし器(ポット)やら他種類のティーバッグやらが置いてあって、何かと具合が良いからだ。偶に茶菓子なんかも置いてあって、そういう日はありがたく頂戴してる。

大抵の日は斎木が仕事をしてるので、会話相手にも困らない。まぁ、おかげで他の生徒会のメンツとも知り合いになってしまったが、殆どが普通の良識人なので、コミュニティを築いておいて悪い事はない。

その代わりと言ってはなんだが、よく仕事を押し付けられるのはしょうがないことである。

「というか、ちゃんと聞いてるのかお前は。 今日の朝に、こんなにも不可解なことがあったというのに、まるで聞いてる風を示さないじゃねぇか」

「興味ないんだ君の話は。 仕事さえしてくれれば、ちゃんと話は聞いてやる」

斎木が、眼鏡を指で押し上げながら答える。 多少苛ついてそうだ。

とは言え、こっちもそれで止まるような男じゃない。今朝の理不尽を共有しなきゃこの腹は収まらん。

「仕事はしてるわ。 そろそろ大庭(おおば)書記には集中力を付けてもらわなきゃ困るな。誤字脱字がこんなにあったぞ」

俺はそう言って、生徒会新聞の初稿を突き返す。赤ペンで印をつけられた文章のチェック(俺の仕事)の跡を見て、斎木は笑顔を浮かべる。

「ああ、それでこそ橙乃だ。 今度大庭にはちょっとキツめに注意しておこう。 で、確かに、話を聞く限り確かに今朝の真流は異変があると言えよう」

「ちゃんと聞いてるなら最初からそう言えよ・・・」

どうしても、斎木から課された仕事が残っていたらこういう事が多い。

静かな怒りというのだろうか、一回仕事を持って帰ってしまった時は、冗談の一つも言えなくなるほど威圧を飛ばしてくるのだから嫌になる。

しかし、晴れて仕事は完了したので、早速機嫌が良くなった斎木に鬱憤をぶつけることにする。

「で、手の甲の傷跡が――」

「刺青だったんだろう?」

即答する斎木。 とんでもなく見当違いだ。

「それが有り得ねぇから鬱憤が溜まってんだ! 本当にさっきの話聞いてたのか!」

「聞いていたよ失敬な。 刺青じゃなかったら偶然か見間違いだ。・・・まぁ、君がそんな見間違いに囚われるような男じゃないと思ってるから、刺青だという主張をしてるんだ」

いきなり俺を持ち上げてもらっても困る。というか、マルチに活躍する斎木にそんな事言われても皮肉と思えてしまうのは当然の帰結だ。

だが、それはそうとしても、アレを見間違いだと思いたくない。血が滲んだように赤く見えたあの傷跡・・・それも、かなり正確に、意味のある紋様に見えたのは、気の所為ではないと思う。

「だが、真流が刺青をするとは思えないんだ。 だから、なんとかして手をじっくり見ようとしたんだが・・・」

俺の席は、真流より左側に位置するから、右手の甲は何か特別な事が起きない限り俺には見えない。しかし授業中に、姿を少しでも捉えようとして顔をそっちの方に向けていたら、教師から注意を受けてしまった。正直、それに付いてきたオマケの応用問題はどうとでもなったが、俺と真流は色んな意味で噂の絶えない二人なのが悪かった。

――まさか、橙乃君は真流さんのことを・・・?

そんな思考が教室中に蔓延した頃には、もう詰みだった。

休み時間は、男女問わず俺の周りに人間が集まり、心情を聞き出そうとしてくる。

俺にはそんな気はないと弁明しても、真流に恋慕してる男やら真実を見抜いた気の女子が離れてくれるはずもなく、結局休み時間にも真流を捕らえることは出来なかった。

そんな中、昼休みの少ないチャンスを生かして生徒会長に話を聞き出しに来たんだが・・・。

「お前がそんな事しか言えないんならお手上げだなぁ・・・」

「いやぁ、その噂は僕にも届いているよ。 聞いたときには、橙乃にもついに春が来た(スプリングハズカム)かと思ったんだが・・・」

「冗談でもやめてくれ。俺にはそんな気はないし、真流のほうはそれどころか俺のこと毛嫌いしてるはずだ。今回のことだけじゃない。例えば数月前のことだがな

アイツが学校に忘れていった体操服を、仕方がないから洗って返してやったことがあるんだ。すると、アイツこれ以上無い程に嫌そうな顔しやがって!」

「いや、それは君が悪いよ」

と、試しに愚痴を零してはみるが、斎木は全く眉を動かさない。俺のしている話に全く興味ない風を貫いている。挙げ句

「なぁんだ、じゃぁ嘘だったわけだね。残念」

なんて言う始末。

残念なんていうが、俺からすればたまったものじゃない。犬猿の仲の相手と色恋沙汰の噂が立たれてるんだ、事実無根にも程がある。

正直、アイツと馴れ合ってる自分の姿なんて想像さえ出来ない。条件的には申し分ないんだが、アイツの方が俺に近づいてくるはずがない。うん、やはりナシだ。

「はぁ、真流が俺の事を好意的にさえ思っていれば、幾らでもアプローチを掛けるというのに・・・」

そんな事をつい零すと、斎木が邪な笑顔を浮かべてこっちを見てくる。眼鏡の奥に、まるで紫石(アメジスト)のように静かに輝いて、獲物を見つけたような表情だ。

「へぇ。やっぱり、気はあるわけか」

「だから、無いって言ったら無い。 お前もクラスメイトの奴らと同じようなこと言うんだな」

こういうのを何ていうんだったっけか? 下衆の勘繰り?

いや、そもそも斎木は下衆じゃない。 それは保証どころか賭けられる。

そんな思考を頭の中で駆け巡らせていると、斎木が漆塗りの弁当箱の中身を平らげながら囀る。

「当然だ。橙乃匡生と言えば、何をやらせても超一流。そりゃぁ、多少荒いのは問題だが、そこにさえ目を瞑れば、日本にも指折りの傑物だろう。片や真流涼も、あれだけ美しければ、やっかみから醜聞の一つも出そうなものだが、それが全く無いことから有能さを証明されてる。

二人共、学校は勿論の事、学外にさえファンクラブがあると来た。そんな二人が、くっつく可能性があるという噂が立てば、誰であろうと耳をそばだてずに居られないんだ。僕も例外ではなく、ね」

「短くまとめろ。それとそんな事言うな、むず痒い。後、もう俺を持ち上げることに関しちゃ何も言わんが、俺の弁当箱から食い物を取るんじゃねぇ。 お前、ボンボンの癖に市民から搾取するな」

隙を突いたとでも思ったのか、俺の弁当箱に手を出してる斎木を注意する。だが、斎木は止まることもなく、寧ろ言い訳がましくこんな事を俺に言い聞かせてきた。

「良いじゃないか。 僕の家の家政婦より美味しく料理を作れる人間なんて珍しいんだ。からあげ一個ぐらい許してくれよ」

そう言って、箸でつままれた俺の唐揚げを名残惜しく見つめながら、斎木は口の中に放り込む。それなりに自信作だったから、美味そうに食べてくれて悪い気はしないが、泥棒は泥棒だ。つまり有罪(ギルティ)

って事で、俺は棚に入れてある紅茶のティーバッグを取り、もう一杯の紅茶を作る事にした。一応斎木の表情を伺うが、笑顔を崩さぬままなので許可してるという事だろう。気にせずティーカップに新たな紅茶を注ぐ。

「そういえば、長い付き合いになるけれど、聞いてなかったな。 まぁ、君はこんな低俗な話を余り好まないと思った故だけれどもね」

「は? 一体何だってんだ」

熱々の紅茶を啜る俺に、笑いを崩さずにこう問いてきた。

「なぁに。 『好みの女性のタイプは?』って奴だよ。雑談の一環だと思って聞き流してくれても構わないけれど」

なるほど、そりゃ聞きにくいわけだ。

この機会だから、って事もあるだろう。俺は自負出来るが、浮いた噂なんて一個も立った覚えがない。それが、まるで湧いて出てきたようにこの話が飛び出てきたわけだからな。斎木の言では、コイツも興味が無いわけではないだろうし。仕事人間の斎木でも珍しく聞く気になったわけか。

「別に教えてやっても良い。だが、物を聞く時は自分から、だろ?」

まぁ、雑談の一環だと言うなら、話を広げてやるもの一興だろう。それに、人気者でありながら浮いた噂が全く無いのは斎木だって同じだ。見目麗しく、生徒会長であり、成績はこの上ないほど優秀。

俺・真流・斎木、それと、名前は覚えていないが一年の女子も含めて、俺らのことは崇敬と畏怖を込めて『奇跡の二年』『霞ヶ原の四天王』だなんてまことしやかに囁かれてるそうな。自分で聞く分には恥ずかしくてたまらんが、それだけ別次元の人間が居るということ。

それで、ここに別次元がもう一人いるということ。聞かずにどうしろと。

「僕かぁ。成る程、そう問われると、微妙に答えづらいね・・・。しかし、第一条件は、聡明であることだ。話が続かなければ、関係が続くこともないからね。極論、それ以外の条件はないよ」

「はぁ・・・。総合病院の院長の息子様は随分控えめな事。 お前なら選り取り見取りだろうに。」

「こういうのは、より条件のいい事じゃない。より自分に見合うことだろう?」

正論めいた事を言う斎木。 まぁ、その思考回路は理解出来ないでもない。

斎木は、届かぬ星には手を伸ばさない。 自分の手についたもので最大限の働きをするタイプだ。多分、アイツならどんな女も忽ちの内に良い女になる。多分斎木の中にも無意識にそういう自覚があるんだろう。だからあの程度のゆるさで良いのだ。

なんとも出来た男。 将来成功するやつって言うのはこういうヤツの事を言うのだろう。

で、斎木(そのおとこ)は手の平を俺に見せる。 話の続きを、という促しのサインだ。

「俺か。・・・正直、あまり考えたことはなかった」

「良いんだよ。 理想を言ってみればいい。それが難しいなら、身近な人物に例えてくれたっていい」

身近な人物・・・か。そう言われてみれば、一人対象の人間が居る。

「そうだな。 俺の理想は、自分のサポートに出来るだけなってくれる人間だ。能力は俺より高い方がいいし、俺に好意を持たないなんて論外。極論で言えば、俺では決して手が出せないような高嶺の花・・・か? そういう意味で言えば、お前が一番タイプに近い」

人差し指で指された斎木は、静かに笑いながら答える。

案外驚かないようなものなんだな・・・。さては予測されてたのか?

「なるほどね。それじゃぁ、確かに真流さんは対象外だ。 しかしそれなら()()()()でも良かったんじゃないのかい?」

「それはな・・・正直、よく知らない。だが、お前より能力が高いなんてことはないだろう。それに、お前を抱き込めば、金には困らん。だから、配偶者にするならお前だ」

「そんな打算的に言われても嬉しくはないけれど、まぁありがとう。参考になるよ」

何の参考だ? それを明らかにしない限り、何処か不安になるんだが・・・。

それを暴こうと口を開こうとしたら、生徒会室にチャイムが鳴り響く。昼休み終了の合図だ。

「遅れるのは不味いね。 話の続きはまた今度だ」

そう言って、斎木は弁当箱を持ってさっさと出ていってしまう。結局聞けずじまいか・・・。

最近の俺は逃げられるのが流行りなのかもしれん・・・そんな後悔をいだきながら、紅茶を急いで飲み干し、俺も遅れて生徒会室を後にした。

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