Fate/White Christmas   作:カタストさん

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開戦、そして参戦

夜の街に繰り出す。正確に言えば、焼き肉で時間を費やして、結果的に夜になったということであるが。

「しっかし、お前・・・」

横を歩く先輩が、俺に対して話しかけてくる。全身を舐め回すように見てから、不満げにつぶやいた。

「前から言ってるだろ。 その殺し屋みたいな格好なんとかしろって」

そう言って、コンビニ袋から割り箸を取り出して俺のことを指す。指し箸って言ってれっきとしたマナー違反であることをツッコみたくなるが、そこは話の本題ではないので黙っておこう。

殺し屋みたいな格好、と言うのは俺の全身黒のコーディネートの事を表しているんだろう。確かに、くたびれたコートに加えて、黒手袋・黒革靴を着用してるなら、闇に紛れる殺し屋と思われても仕方ない面はある。先生が言ってた、魔術師殺しという人間の姿はこんな感じなのだろうか。

しかし、これは仕方ない。俺の魔術礼装がこうなんだから、最早外しようのない服だ。なんなら、制服の上からでもコレを着たいぐらいだし、事実手袋と革靴は学校に行くときも着けている。

「いやぁ、これで落ち着いちゃったんで。 変えろって言われても」

だから、俺は屈託のない笑顔を浮かべて頭をかきながらこう言うしか無かった。

「はぁん。 まぁ良いや。似合ってねぇわけじゃないしな。 そんじゃ、またな」

それを別れの挨拶として、俺は先輩と別れた。この先輩は普段厳しいが、妙な所で空気を察してくれるところがあって助かっている。今は、多分俺から別れを切り出したい雰囲気を感じ取ったのだろうか。

俺は、あの場所に向かう。あの空から不可思議な体験を目の当たりにした野原に。

一夜にして突如として現れた神殿。豊臣秀吉が墨俣城を作ったとか、そういう伝説をも優に超えた存在であるのは俺にでも分かる。何せ、アレは()殿()だった。神がおわす場所がこの世界にあるならば、其処を置いて他に無しと確信がおけるほどに。そんな建造物(モノ)が短い間に建てられるなんて、俺の知らない力が働いてるとしか思えない。

そりゃ、放置してる方が遥かに楽だ。だが、アレを放置するのは俺の本意(ほい)ではない。

それは、アレが悪の巣窟である可能性が高いからだ。唯でさえ犯罪が多い街。魔術師がこの都市を牛耳ろうとする可能性は大いにある。それが内側から生えたものか、外からやって来たものかは分からないが。

例えアレが悪性の物でなかったとしても、強大な力を持つ人間の仕業であることまでは間違いないんだ。事前に力を削いでおくぐらいの事はして然るべきだろう。

要は総括すれば―――。

「近所迷惑だから注意しに行かなきゃ、って奴だな。 あの呼び声の真相も確かめなきゃならん」

成る程、こうして言葉にすれば、如何に理不尽な事実であろうと忽ち胸の奥にしまい込めてしまう。自己暗示ってのは便利な代物だ。

そうこうしている内に、野原の端にまで辿り着いた。そこは、言わば街と野原の境界線上であって、冥界の門とも言えた。その線を踏み越えようとすると、何処と無く悪寒が走るのは気のせいじゃないだろう。ちょっとの覚悟を決めて、一気にその線を超えると、眼前には街灯無き野の、宝石を(ちりば)めたような星空が広がっている。それが神殿と合わさる姿は、幸福感を感じるほどの神秘的な印象を与えた。

感心している暇はないと、自分を喚起する。 どの道俺は進む他の選択肢を用意してない。

クラウチングスタートの姿勢を取る。 そして、足に火薬を詰めるように魔力を流し、一気に爆発させる。

加速度的に俺の速度は増して行き、代わり映えのしない野原の風景のなかで、少しずつ近づいてくる神殿が見える。この野原では、遮るものは何もない。このまま突っ込んでしまおうかとも思っていた。

だが、遮るものはあった。いや、()()()()()()。最初は俺の前の地面が、紫色に腐ったと思った。しかし、それは変化の前兆であって、腐食そのものが目的ではなかったらしい。腐食した地面から這い上がるようにしてそれは現れる。

()()は、蛸のような触手を持った、巨大な生物だった。生物としか表現できないのは、俺が今までのどんな情報にも見ることが出来なかった生物に出くわしていたからだ。

「ハッ、学会にでも持っていけば解析でもしてくれるかな?」

半ば現実逃避気味な俺の台詞を解さない・・・若しくは、返答の必要がないと認識したのか、触手を伸ばして襲い掛かる。その生態は杳として知れず、俺を殺すのか食うのかさえ分からない。

だが、唯一つ分かったことがある。 此奴は友好的じゃない。ならば、交戦だ。

俺に向かって進む触手を、手刀で遮る。 魔力によって強化された腕力等は、タコの触腕ごとき目じゃない。衝撃が伝播して、触れた所から包丁で捌かれた様に真っ二つに触腕の内一本を切り裂かれる謎の生物。コレで少しは懲りたろうと思って少しの安堵を得たが、残念なことにその生物は触腕を一本切られた程度じゃ止まらないらしい。地面に接している、移動用の触手を器用に使ってにじり寄って来る姿は、恐怖の感情を抱かせた。

「こんなのに気取られてる場合でもねぇのにな・・・!」

しかし、俺は背後をひと目見る。さっき俺が走り抜けたはずの地面の上には、俺の目の前に居る化物がぞろぞろと横隊を組んでいた。その数を数えようとしたけれど、二十を超えていそうなのでやめる。

兎に角、やらねばならないことは決まっている。腕を切り裂くだけで倒れぬというのなら、胴か頭か・・・そこにダメージを与え、殺すのみ。

魔力で強化した拳で、生物の触手を掻い潜る。その過程で触手を数本吹き飛ぶが、お互いそれを気に留めもしない。

そして、本体と思しき箇所・・・触手の根本である胴体に腕が届く所に辿り着いたとなれば、俺は何も考えずに正拳でそこを突いた。

手袋(グローブ)に掛けられた硬化、肉体全体に渡る肉体強化の一撃には、人外の此奴でも耐えきれるものではなかったらしい。胴体による破壊で、向こう側の神殿が見える程の大穴が開いている。

「そんなに強くねぇようだな。 だが、数がなぁ・・・」

そこまで呟いてたが、背後から触手が接近してきているのを感じ取ったのでやめた。同族を殺された怒りでもあるのか、それとも何も感じないからこそ攻撃をやめないのか。

闘いは数だという格言を体現したいのか、生物と生物の隙間が新たに生まれる生物で埋まる。それを、突き、蹴り、体当たりで片っ端から崩していく。

常に生み出される触手生物を、それを上回るスピードで破壊していくのは、肉体の強化を以てしても骨が折れる作業だったのは言うまでもない。

そこから逃げ出そうとして移動しながら倒していったとしても、触手生物は見た目以上にスピードが早い上に、生産される場所に隔てはなく、何処までも追跡されるような錯覚に負われる。

それでも、やめることは即ち死に直結すると信じて抵抗をやめなかった。

その甲斐あってか、二十分ほど殺戮を繰り返した時、最後の一体を倒したのだ。

俺の体は、触手生物の紫色の体液で濡れて、触手の欠片が幾つもこびりついていた。生理的に嫌悪感を抱くタイプの欠片であって、即、手で(はた)いた。

「こんな気持ち悪い刺客を送って来んなよな・・・」

地面に転がっている触手の欠片は、砕いて五分が経ったぐらいでは蠢動をやめない。トカゲの尻尾でももう少し根性がないだろうに・・・未練がましいのか。

しかし、倒したのは事実だ。恐らくコレを生成してる魔術師のほうが息切れしてきたんだろう。ならば、今の内に突撃するしか無い。

もう一度進撃しようと、神殿の方を向き直ったときだった。  今度は、別の生物が立っていた。

さっきと違うのは、そいつは人の形をとっていたことだ。剛毅な女性・・・という第一印象だったが、それ以前に俺はその完成度に驚かされる。

そいつは、人間として・・・いや、生物として頂点に立ち得る者だと、直感で感じ取ってしまった。魔力でさえ、その女は破裂しそうなぐらい満ちていた。

何処かの企業のトップか? いいや、皇族の誰か? 何処か違う国の王かも・・・。 だが、記憶を振り絞っても、その顔に合致する人間が居ない。

いや、それ以前に、そこにはさっきまで誰も居なかったはずだが・・・。

「“闇”のマスター。 サーヴァントも引き連れずに何用だ」

女は、静かに、だがよく通る声で言った。 声色から、二十代か三十代ぐらいだろうか・・・と推測できるが、それまでだ。感情だって、確認できるのは唯一つの静かに燃える感情だけ。

僅かな敵意。 それだけを感じ取れただけだった。

そして、それ以前に俺はその女が何を言っているのかが分からなかった。

「マスター? サーヴァント?  一体何の話だ! そもそもお前は何者だ!」

「ほざくな。 貴様もマスターであり、ここに立っている以上、既に開戦の前口上は成立している」

「開戦!? 待てよ!俺はただここに来いと―――」

女の手には、何処から生み出したのか剣が握られていた。刃渡りは1メートル、しかも横の大きさも10cm以上は有ろうかという大剣(グレートソード)は、純金の飾りで包んだ彼女の手に、不思議ととても似合っていた。

そして、馴れた手付きでそれを振り回した後に、静かに構えて、剣の切っ先をこちらに向ける。その様は、それ以上余分な口を開くなと脅されているようだった。

「海魔をそれほどまでに打ち倒しておいて、今更及び腰は通じぬぞ。 構えろ。人間を相手にする以上、その程度の猶予は与えてやる」

「・・・嘘だろ」

それだけ言うのが精一杯だった。

だって、此奴には敵う気がしなかった。剣を持っているとか、予想外の客に俺が動揺しているとかそういうレベルの話ではない。

此奴は生物として完成されていた。

立ち向かえば死ぬ。

立ち止まれば死ぬ。

背を向ければ死ぬ。

そんな奇妙な確信。それだけが俺を支配した。何を言っているのかが解らない。だが、こここそ生死の天秤の上であることは理解できていて、その皿はどうしようもなく死の方向に傾いているのも判っていた。

俺は、恐怖とは裏腹に、構えを取る。徒手空拳で戦うことを前程した、俺の実力が最も発揮される構えであった。

「名前だけ、教えて貰おう」

自分を殺す相手の名前だけ知ろうというのか。俺の口から飛び出てきたのは、拒否の言葉でも命乞いでもなく、質問だった。

その言葉の意図を相手がどう取ったのかは知らないが、女は口を開く。

「真名は明かせん。 私の事は、ライダーと呼べ!」

ライダー、そう自称した女が言い終わると同時に、女は剣を振った。

振ったと言うのは、そうであったのだろう。と言う話だ。 実際に俺の目に映ったのは、振ったという認識より、知らない間に移動した。という認識のほうが先だった。

過たず俺の首を狙った大剣は、寸毫ほどの差で反応した俺が回避していた。が、それだけだ。

無理に背を後ろに曲げて回避したからか、俺は直ぐに移動出来る体勢ではない。だが、ライダーは華麗に体勢を変えて俺の体を真っ二つにしようと振り下ろされた。

それも、やっとの思いで手で受け止める。硬化の魔術が掛かった手袋は、剣の刃も受け止められる。一瞬でも止めれば、剣を奪い取って形勢を逆転できる。

その思考は甘かったのだと思わされたのは、手袋で剣を止めた後だった。剣は止められた。だが、それは刃によって胴と脚を分けられなかっただけの話。

女の膂力は、俺の想定を遥かに超えていた。精々地面に叩きつけられる程度だろう。その想定の中で受け止められた剣の勢いは、俺の体を()()()()()()()()()()()()()()

打ち付けられた勢いで地面に(ひび)が入る。ここが月面だったなら、俺が落ちた衝撃で新たなクレーターが完成していただろう。

「デタラメかよ・・・」

その言葉を置き去りに、ライダーの剣が迫る。一撃一撃が即死に至る場所を切り裂いてくるのは理解できた。今回はまるでギロチンのように俺の首を落とそうというのだろう。

さっきの衝撃で、全身にダメージが行き渡っている。 指一本動かすのさえ至難の業だ。腕は最早魂が抜けたかのようにぐったりして動かない。

だが、負けるのは我慢ならん! 俺は、負けてなるものかと腕を精一杯動かし、迫る刃を手袋にぶつけさせる。

衝撃を与えられた剣は軌道を変え、俺の頭を掠って地面を穿つ。 その衝撃で、数メートル先まで斬撃痕が走るが、お互いそれを意に介する事はない。

俺は骨に言うことを聞かせて立ち上がる。 ライダーは、一度動きを止めて俺を静観していた。 あんなに人間離れした動きをしていたにも関わらず、ライダーの肌には汗一つ浮かんでいない。

化物だ。 その言葉を出さぬべく呑み込んだ。弱音を吐いた所で状況は好転しない。

「驚いたな。 その手袋もそうだが、貴様の根性もだ。よくぞ私の剣を受け止めた」

「お気遣いどうも・・・」

こっちは全身を打ち付けた影響が残っている。 骨も数本折れていて、口の端から出てきた血を拭うだけでも我慢しきれぬ痛みが走る。

肉体強化を使いすぎた。歯車が噛み合わない機械のように、動きが不自然になる。網膜が出血しているのか、視界が赤い。

だが、ライダーは立っている。 だから俺も立つ。毅然と、何もなかったように。

「貴様を只の人間と思うのはやめよう。 その拳を当てられぬとも限らないからな」

ライダーが言った。 その言葉は嘘ではなかったようだ。

全身から溢れていた、カリスマとしか表現できなかったような威容が増す。雰囲気が物理的な力を持って襲い掛かるかのように、俺を捉えた。

恐らくは、さっきまでの動きを凌駕した物で俺を圧倒するんだろう。 泣き言を言いたい気分にもなるが、ぐっとこらえて構えを取り直す。

その様を見たライダーが、僅かに口の端を吊り上げた。今まで全く笑わずに居た分、その笑みは赤い視界の中でも印象的に映った。

アレは王の笑みだ。それも、単に腐敗した権力の中の王ではない。人の上に立つべくして立つ人種の中でも、後世において大王・賢王と呼ばれる人種の表情。

人の強さを見たり、と笑みが言っているようだった。

「・・・英雄、なのか」

俺は、誰にも聞こえない声で呟いた。その言葉を聞いたのかは知らないが、ライダーは遂に踏み込み、剣を振るう。

その剣を止める。止めた拍子で全身が軋んだが、最早軋む程度の痛みでは俺は止まらないらしい。俺はライダーの手を叩き、剣を叩き落とす。

その勢いを止めるべきではないと、俺はライダーの首を掴み、もう片方の手でライダーの胴体を貫手で貫かんと全力で振り抜いた。

だが、届かなかった。 ライダーは()()()()()

次の瞬間、俺の体は独りでにライダーの体から離れていた。

体が揺れる。視界が揺れる。既に焦点の合わない視界の中心で、突き出されたライダーの足を見て、自分は腹を蹴られたのだと、ようやく察しがついた。

思考が回らない。蹴りと共に、俺は思考に必要な何かを消し去られてしまったのか。

「残念だ。貴様が此処に来なければ、間違いなく強者だったろうに」

その言葉が、何処か遠くから響くように聞こえる。(こだま)のようだ。

剣が振るわれる。その光景をスローモーション動画の様に眺めながら、俺は思考を繰り返していた。

嗚呼、俺は死ぬのか。 良いじゃないか。人を殺し続けた人生だ。理不尽な死が待ち受けていても不思議ではない。

この女は、人間じゃない。化物だ。ならば負けるのも仕方な―――。

いいや。仕方無くない。

俺は負けない。負けてはならない。死ぬのは我慢できるが、()()()()()()()()()()!。

負けたなら、正義の味方にはなれないのだから!

「あああああああああああああ!!」

意味もなく言葉を叫ぶ。 自分の生の確認か?ならば、尚の事張り上げよう。死ぬ時、それはライダーの負けることに他ならない。

剣が迫る。俺も拳を構えるが、遅すぎる。このままではダメだ。俺の首が刎ねられるのがどうしようもなく先になる。

負けたくない、負けたくない、負けたくない!!

奇跡よ起これと、身勝手に願いを託す。俺の拳が届くまででいい、俺が勝てるように、どうか。

無情にも時間は簡単に流れ、剣は俺の首に届く。 空を切るのと同じ様に、次の一秒で俺の首が切れてる姿を幻視する。

幻視を振り払う。 悪い夢だと見なかったふりをする。

だが、簡単に“次の一秒”は訪れて―――。

 

俺の拳は、ライダーの顔面を捉えていた。 余りに弱々しく、殴っているというより触っているという言い方のほうが正しかったかも知れないが。

俺の首が繋がっていることに安堵して、次にその理由を思案する。だが、その答えは後ろから帰ってきた。

金属と金属が擦れ合う音。 鍔迫り合いの音だと気づいて、振り返った。眼の前にライダーが居るのは判っていても、その確認のほうが重要だと、第六感が告げていたからだ。

そこには、聖女が立っていた。ライダーも魅力があるのは間違いない。だが、それは人を従えるのに必要な魅力だ。

この少女が持つのはその類ではない、人を惹きつける魅力。カリスマには違いないが、これは深窓の令嬢、聖なる巫女が持つに相応しきもの。それだけに、細剣(エストック)は不釣り合いかと思われたが、剣は彼女の掌こそ自分の棲家だと言えるように、見事に似合っていた。

絢爛な少女が口を開く。 その声は、自動琴(オルゴール)のように静かであったが、隠しきれない激情を感じ取れた。

「“光”のライダー。 サーヴァントでありながら、戦争に参加していない無辜の民に手を上げることは、看過できることではありません」

少女が細剣を振るう。目にも留まらぬ、なんて表現が良く似合う熟達さで、ライダーの大剣が簡単に押し戻される。

その気配に気圧されたのか、ライダーも眉を顰めて動こうとしない。

「・・・何者だ」

俺の代わりにライダーが口を開く。

裁定者(ルーラー)のサーヴァント、と言えば十分でしょう。 聖杯大戦、という混沌の舞台において私が召喚されるのは当然の摂理です」

ルーラーと名乗った少女がそれだけ言うと、こちらに目を向けた。

「貴方には忘れ難い経験でしょうけれど、このまま立ち去って貰います。そして、今夜私達に出会ったことを二度と思い出さない事です」

「は? いやいや、俺はこの先に用が有るんであって・・・正直マスターとかサーヴァントとかはサッパリだが、それでも行きたい場所なんだ。そのためには、このライダーとやらをどうにかしなきゃならんからな。お前が何者か知らないが、邪魔するなよ」

そう言ってライダーと向き直る俺の腕を掴む少女(ルーラー)。不機嫌そうな目で見てきてる辺り、彼女の胸中が伺えるというものだ。

「無関係の人間は立ち去りなさい。 これは貴方の為を思って言っているのです」

そう来ると思った。

「お断りだ。俺はそもそも無関係じゃねぇ。 分かったらお前こそ立ち去れ」

少女(ルーラー)の目を見て反論する。 お互い睨み合う形で数秒経った後、どちらがとは言わず、堰を切ったように互いに文句を垂れ流した。

「物分りの悪い人ですね! 先程死にかけていたのが分からないんですか!?私達は英霊(サーヴァント)なんですよ!人間が歯向かった所で結果は知れてます!」

従者(サーヴァント)がなんだか知らんが、兎に角邪魔すんな! お前に入り込まれると迷惑なんだよ!」

「私が介入しなければ貴方が死んでいたんです!」

「余計なお世話だ! 自分から勝手に入り込んできた癖に偉そうに小言を垂れるな!」

やいのやいのとお互いに、子供っぽい文句をぶつけ合う。きっとさっきまで興奮状態だったから、自制が効かなくなっているんだろう。だけど、今更止まる気にもなれない。

こんな事を数十秒続けただろうか。視界の端で、しびれを切らしたライダーが剣を構えているのが見えた。

「・・・他人の痴話喧嘩を聞いている趣味もないのでな。 貴様等が仕掛けぬと言うなら、こちらから行くぞ」

ライダーが剣を振るう。

だが、俺たち二人の思考回路はここに来て漸く共通の結論に至ったらしい。

互いの敵意の矛先は、自分の目の前に居た相手から、俺たちの口論に水を差した不届きへと。

「邪魔をするな!」

「邪魔をしないでください!」

その言葉は全くもって同時であって、少女の剣はライダーの胴に一本の切れ込みを入れていて、俺の拳はライダーの顔面に当てられて重要な物をゆっくりと潰していく音を立てている。

俺の体は既に痛みを消し去っている。 身体強化も最大出力でぶっ放せる。失った魔力・体力までは戻らないが、その程度は些末な問題だ。

お互いの事を一瞥もせずに、互いに同じ言葉を呟く。

「俺の敵だ」

「私の敵です」

「・・・殺すのは?」

「殺せないでしょうが、殺さないでください」

「アイツを倒すのは俺の仕事だ。 俺を殺そうとしてきたんだからな。この先に用があるのも俺だ」

「彼女を倒すのは私の役目です。 裁定者(ルーラー)たる私に剣を向けた以上、彼女を追い払って威信を見せなければなりません」

ここでまた、お互いが敵同士だと再認識する。

「・・・なんなんだ。 貴様等は・・・」

ライダーが立ち上がるのがお互いの視界に映る。 我先にと走り出し、ライダーを倒さんと己の武器を競わせ合う。

少女(ルーラー)の剣技は見事なもので、確かに唯一無二のものだ。ライダーの剣技が力強さを前面に押し出したものならば、少女のはまさしく華麗さに置いて右に出るものはない。

しかし、俺でさえ負けてはいられない。身体強化による攻撃で必死に食らいつく。少女(ルーラー)の攻撃の隙間を突いて、ライダーにダメージを蓄積させていく。

体が少しずつ錆びていくのを感じる。身体強化の使い過ぎだ。このまま使い過ぎれば、二度と使い物にならなくなるかも知れない。

だが、この少女に負けるのは我慢ならなかった。 既にライダーの事なんて眼中にない。アレは俺達の敵ではない。防禦(ぼうぎょ)に精一杯で、俺達の波状とも言える攻撃に為す術がないらしい。

「邪魔をするな! こいつは俺の敵だ!お前には関係ないだろう!」

俺は口を開く。 目下俺の敵は、横で剣を振るってる少女だけだ。

「いいえ! この者は裁定者(ルーラー)たる私に手を上げたのです!必要最低限の応戦は必要不可欠、私の威信に関わります!」

少女が応える。 相手にとっても認識に相違はないらしい。

拳、剣、拳、剣。 その繰り返し。

思考回路は互いに同じらしく、俺が少女が次にどう動くのが分かっているように、少女も俺が次にどう動くか判っているようだ。

それは、自分が少しでもダメージを与えようという思考のもとに成り立っていたが、恐らくはこの動きは傍から見れば完全なコンビネーションを組んでいるようにも見えるだろう。それがまた我慢ならなかった。その鬱憤をライダーにぶつける。

「あのなぁ、支配者(ルーラー)だかなんだか知らないが、お前が手を出すな!」

「なっ! 貴方こそ何故私の戦いに手を出すのです! これは人間には速すぎる舞台です!早急に撤退の選択をなさってください!」

「はっ! 人間には速すぎるだと!?事実、俺は手を出せてるだろう!お前の邪魔さえなければもっと力を出し切れるんだ!解ってるだろうからさっさと下がれ!」

「何を勘違いなさっているのですか!? “光”のライダーは私の攻撃に対して防御していて、貴方への注意が薄れている間に攻撃しているに過ぎません!言うなれば私のおこぼれを拾っている形!しかし、私は人間に対して危害を加えないよう、最大限気を配ってやっているのですよ!? 貴方こそ下がった方が良いのでは!?」

互いの話は平行線。 決着が付く事はない。

次第に互いの判断材料は、思考から本能になっていく。

少女(ルーラー)がこう動く。だからそう動けば、少女(ルーラー)は・・・。 その、詰将棋のような思考を、絶え間なく動く戦場の中で引っ切り無しに。

既に視界に映るのは、押し込まれるライダーと、自分の拳と少女の剣のみ。  その状況を打ち破りたかったのか、ライダーが苦し紛れのように叫ぶ。

「なんなんだ・・・なんなんだ! 貴様等は!」

その言葉に引き寄せられるようにして、思考が舞い戻る。嗚呼そうだ。根本的な疑問を忘れていた。

ライダーの腕を掴む。そのまま投げの姿勢を取り、地面に叩きつけた。その過程の中で、少女(ルーラー)が剣を振り、ライダーの胸部に一際大きな傷を与える。

意趣返しのようにして、叩きつけられたライダーの衝撃で地面にひびが入る。だが、そんな事は意にも介せず、俺達は互いに向き直る。

少女は俺に剣を向ける。 俺は少女に指を指す。

同時に飛び出てきたのは同じ言葉。

「何なんだお前は!」

「何なんですか貴方は!」

お互いの名前も知らぬまま。 俺達はライダーとの戦いを終わらせていた。

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