Fate/White Christmas   作:カタストさん

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序章 『Launch,my Lancer』
聖杯の行方


この物語を語るに当たり、冬木の聖杯戦争の終焉の形は知らなければならない。

第四次聖杯戦争は終結した。かの『魔術師殺し』が聖杯を破壊したことによって、幕を閉じることになった。50年来の聖杯戦争がそんな幕引きで良いのか、という事もあるだろう。しかし、知る者は知っていた。

あれは、黒の呪いがふんだんに詰まっていた破壊の聖杯。その中に溢れる魔力は、暗く、昏い。喰らうための物。なれば、破壊されるのは当然の摂理だった。

しかし、四個目の聖杯はそこで終りを迎えなかった。

かつて、聖人と呼ばれた12の家系が有った。それは、第四次聖杯戦争によって朽ち果てた聖杯をかき集め、ありとあらゆる方法で保存した。

ある者は、自らの工房の中でひっそりと、

ある者は、自らの伴侶の体に埋め込み、

またある者は、自らの命の引き換えに、聖杯の所持を永遠の秘跡とした。

さらに、その12の家系の内1つが、大聖杯を破壊。聖杯を呼ぶ為の小宇宙、神的な魔力さえ有った魔術回路の塊を破壊した。御三家がその事実に気づいた時には全てが終わっていて、ただ泣くことしか出来なかったという。

冬木の聖杯戦争は、第四次で壊滅的になり、強制的に終了した。

、かに思われていた。

真実はそうではない。彼らは、新たなる地で誠に勝手ながらも聖杯戦争を執り行っていた。

12に分けられた小聖杯の構造を解析し、願いを叶えるための魔力の器も整えた。

破壊された大聖杯は、その12の家系の内1つ。強力な『復元』の魔術師が復活させることによって、寸分違わず組み合わせることが出来る為に、小聖杯を呼び出せるだけの準備も調えられる。

12の家系は、遠坂・マキリ・アインツベルンの御三家や、魔術協会聖堂教会などの強大な組織の助けを得ずして、聖杯戦争を行えるだけの準備が出来ているのだ。

不幸なことに、12の家系は、好奇心も旺盛で、魔力もまた絶大だった。故に、やらなければ良いものを、自らの力で強力な霊脈に大聖杯を繋げ、聖杯戦争を執り行っている。彼ら12の家系が執り行う聖杯戦争は、嘲笑と侮蔑の意味も込めて『実験聖杯』と呼ばれていた。

それもそのはず、小聖杯を呼び出すためには六騎分じゃ足りない不完成な代物。彼らが執り行うのは、七騎対七騎の、システム上は可能と言われていたが冬木においては行われなかった『聖杯大戦』であった。

1回目は、小聖杯が織りなす強大な魔力を制御しきれず失敗。

2回目は、魔術協会が送り込んだ刺客によって、失敗こそしなかったが、家系に多大な犠牲を伴った。

そして、此度は3度目、今度こそ最高の成功を収めるために、聖杯大戦をこの地で。

 

―――突然だけど、真流(まりゅう)は家柄だけは10代以上続く名家だ。それが魔術師として開眼したのは第五代当主・真流(まりゅう)(きよら)だと言われている。まぁ、正確には魔術の力を使いこなし始めたのは、であろうけど。まぁ、魔法使いや二十七祖の師を持たずに歪まずに進めてきたのは、私の家の数多い誇りの一つだ。まぁ、この魔術の特性には少し目をひそめるしか無いけど。

当然ながら五代も経つ頃には、魔術もそれなりに洗練されてきている。今の私は、「水」「金」の属性を持つそこそこ優秀な魔術師だ。褒められたものだろう。

・・・と、言ったことを朝起きた時に思うことで、私の家の嫌な所を目につけるのを和らげようとする狙いもあるけど。12月の朝はどうしても身に沁みる。

いや、朝は決して弱い方ではないのよ?むしろ寝覚めが良すぎて、合宿の時に友達に羨ましがられたぐらい。

和室で起きて10秒で冴える頭を動かし、白の寝巻から制服に着替える。寝巻は、大河ドラマで着られるような、白装束。今となっては慣れちゃったけど、友達に見られた時は少し驚かれちゃた。その時まで変だって思ってなかったもの。

さて、襖を開けたら・・・か。私は毎朝の習慣になってる深呼吸を行って、思い切って襖を開ける。

毎朝の通り、中庭に繋がる縁側に、ビッシリと黒スーツが並んでいる。私が襖を開けたと見るや、一気に開け、狭い縁側に更に所狭しと並んで、私が十分通れるだけのスペースを作ってくれる。そして、人体の何処からそんな声が出るのかという疑問まで浮かびそうな大声で朝の挨拶だ。

「おはようございます! (すずか)嬢!」

一斉に『おはようございます』の大合唱。こんなの求めてない。やめろと言っても聞いてくれないので、これが十七年続く私の人生の朝の行事だ。これにさえ目を瞑れば良い集団なんだけど・・・。

「お嬢様。 タイが乱れておいででございます。失礼致します」

私が二歳の時から一緒に居る爺やが、実に失礼なことにほぼ無断で私のタイに触れて直す。こんな事を許せるのは爺やぐらいものだ。

「お嬢様、ハレー建設が来週の返済を伸ばしてくれと申してきております」

「来週が限度、それでも払えないようなら親指から一本ずつ切りなさい」

縁側を通りながら、私は業務の確認をする。これも朝の恒例行事である。

(すずか)嬢! 奴等が俺たちのシノギに手を出そうとしてます!」

「放っておきなさい。そのうち逃げていくし、もし逃げなかったら教えこんでやれば良いだけよ」

「涼嬢、昨日捕らえた刺客はどうしましょう!?」

「ネズミでも使えば?」

そうして、私は居間に着き、既に配膳されてる食事の前に正座して朝食を開始する。

何の因果か、真流の家は今は無法者(ヤクザ)の頭目の家として栄えてしまっていた。どうやら、五代目当主がこの形にしてしまった結果、家が断ち切れるどころか、思ったよりも合致してしまったのが原因らしい。そこから三代掛けてこのスタイルを確立させてしまったらしいが、ここに魔術をほぼ全く使っていないというのが私は未だに信じられないでいる。まぁ、縄張りを人並み以上に大事にする私達と、土地の霊脈を確保することで一層強力になる魔術師としての在り方がマッチングしたとも言える。

結果的に、門科(かどか)市を裏から牛耳る家系として定着してしまったのは言うまでも無い。

まぁ、家そのものには不満はないんだけど、食事を五十人前後の組員に見張られるのはどうにかして欲しい。これでは、運ぶ食べ物の味も分からなくなるというものだ。相当いい食材を使っているはずなのに、その味を理解できずに居るのは100%私の組員たちの責任だと思う。

さて、気が張りつめたままの朝食が終わって、順調に出掛ける準備が整った。後は玄関から外に出るだけ。

「お嬢様! その手、どこでぶつけられましたか!?」

爺やが凄い目つきでこっちを見てくる、それは心配というよりは怒りに近い。きっと、ぶつけた“何か”を許さない気だろう。私が小指をぶつけたからと言って処分された箪笥の数は知れない。

だが、今回はそれとは別物。私の右手にあるのは、三画限りの命令権。

サーヴァントを律する絶対の権利、令呪が私の右手に宿っていた。どうやら、聖杯は私をマスターだと認めてくれたようね。

「大丈夫よ、爺や。気にしないで」

「で、ですが!」食い下がる爺や。

「大丈夫だって。じゃぁ、行ってきます!」

半ば強引に私は外に出ていった。帰ってきたら大層怒られるけど、知ったことじゃなく私は学校のほうが大事だから。

令呪が宿った右手を見て想起する。アレは、涼しい夏の夜の事だった。

 

 

 

数ヶ月前、3人の魔術師が私の屋敷を訪ねてきたのだ。魔力を隠そうともせず私に接触してきて『君と話をしたい』と言ってきたのだ。通さぬわけにも行かなかったから、誰にも知らせず屋敷の応接間に通したのだ。知られずというのは変か、口止めして。

話はこうだ。

聖杯大戦を開始するのに、土地の管理者である貴方の許可が欲しい。この土地の霊脈に大聖杯を接続する許可をくれ。

との事で。冬木の聖杯戦争の事は聞いているし、ここの土地の霊脈が日本でも有数だということは知ってる。おそらく、英霊(サーヴァント)を7体か14体召喚した所で枯渇することはないでしょう。

魔術師の素性に関しては然程興味はなかった。気にするようなことでもない、魔術師に必要なのは敵を詮索する心ではないんだから。

つまり、私は二つ返事で承諾した。そろそろ14人のマスターが選ばれて令呪の刻印が現れる頃でしょうと思っていたから、推測は当たったということかな。

実験聖杯大戦・・・それは、表向きは七騎対七騎の聖杯の奪い合いだが、その実は全く違う。

大聖杯は、それ自体がとても高度な魔術回路で作られていると聞く。大聖杯を強奪した12の聖人と呼ばれた家系は、それこそ魔術協会から大バッシング。下手すればお家の断絶さえありえる。いや、実際そうなった家系が多い。

それでも、知識欲からの研究を抑えられないのが魔術師というものだから、12の家系はやめようとも思わないから困ったもの。きっと最後の一家になっても止めるつもりはないんだろう。でも、そうならないために、明確にチームを分けて行う。

かつて12の家系のチーム。“聖人”とそれを擁護する闇の国。

“聖人”を排除するために尽力する、魔術協会から派遣されたマスターで組まれる光の国。

2回の実験聖杯大戦を経て、闇の国は勝てず12個有った家系は4個に減った。おそらく、今回か次で12の家系は完全に途絶えてこの実験聖杯戦争も終わって、冬木でいつも通りの聖杯大戦が行われるんだろうな。

最後の冬木の聖杯戦争・・・第四次聖杯戦争が終わって丁度十年経つ。冬木の聖杯戦争は五十年程度のスパンで行われていたけれど、実験聖杯は毎回新鮮な霊脈を使っているから期間が短いと聞く。

一次に2年、二次に3年、今回の三次に5年。

便宜上、4.3次聖杯戦争と呼ぶらしいけれど、呼び方なんてどうでもいい。

重要なのは、私が管理している土地で聖杯戦争が行われること。仮初のものとは言え、聖杯大戦がこの土地で行われたとなれば、真流の血と私の名前は栄えるでしょ。そうすれば、より一層この土地を支配するための箔がつく。

自分がマスターになるとは思わなかったけど、戦い抜けばより箔が付くことに為る。そうなることに越したことはない。

しかし、そうなると困ったことになったなぁ。この場合、私はどっちにつけば・・・?

 

 

と、言った所で我に返った。私は学校に来てる途中だった。いろいろ考えてたら、どうやらメインストリートに合流してしまったらしい。しっかり気を引き締めないと!

 

何を隠そう、私は色々隠してる。まぁ、流石に性格まで隠しては居ないけれどね。でも、家柄の事とかは知られちゃマズイし、自分が魔術師であることなんて以ての外。

私は、何処にでも居る家庭の普通の女の子・・・って事になってる。というかしなきゃ困る。

でなければ、私の家は無法者の巣窟ってことになる。事実だけど、広まったら困る。

「おはよう、涼さん。いつも朝早いよね」

校門をくぐった先に居たのは、私より背が2cm程低い男子だった。

麻加部あさかべ風太ふうた。私より随分背が低いくせして、同学年の中では相当腕が立つ。それも、1年の時に柔道部の都大会で相当良い成績に食い込み、当時の3年の卒業とともに部長に押し上げられている。その時に学校名を取って『霞ヶ原の嵐』と異名を付けられてたりする。

私は、家を出る瞬間を絶対に学校関係者に見られたくないという一心だけで他の人より早く登校してるから、必然的に朝練が始まる前の風太君に出会うことが多い。私自身部活はやってないから、偶に柔道部の訓練を覗くことはあるけど、しっかり優しくも適切に指導してるみたいで、私の目から見ても新入生は粒揃いだからなぁ。風太自身レベルアップしてるし、この学校で魔術無しで彼に敵う人間が2人いるかどうかってレベルだろうな。

「おはよう、風太君。貴方も練習に精が出てるわね」

「そりゃぁね。今年の新人は皆強いから、気を抜いたら僕が抜かれそうだからさ。涼さん、今日は見ていく?」

「今日は遠慮するわ。大会も近いんでしょう?なら、部員だけで集中してやるべきじゃない?」

「いや~・・・皆、涼さんが居たほうが精が出るみたいでさ・・・どうも・・・」

風太君が頭を掻いて応える。 どうも、嘘は吐いてないみたいで、こういう事を聞くと私の隠匿が上手くいってるんだなぁと気分が良くなる。

「でも、毎朝こんなに早く来るなら部活に入ればいいのに。柔道部はマネージャーいつも足りないんだよね」

「遠慮しておくわ。人の世話をするなんて私らしくないんだもの」

「そうかぁ・・・残念」

風太がしょんぼりする。小動物的な仕草は彼の人気を支えている理由であり、彼の強さがギャップとなってるとかなってないとか。

「あら、じゃぁ私が居ない所でも集中できるように頑張らなきゃね」

「あはは、それもそうだね。 じゃぁ、涼さんは教室に?」

「そうだけど・・・」

意識せずとも言葉を詰まらせてしまう。私と同じで、毎朝部活もないのに早く来て、教室に居座っている奴が居るのを知っているからだ。私が柔道部を用もないのに見学するのは彼奴が居るからでもある。

そして、彼・とは相性が良くない。というか、彼と相性が良い奴なんて居ないんじゃないだろうか?

「さっき下駄箱見てきたけど、彼は来てないみたいだよ?」

「本当? じゃぁ心置きなく教室に行くわ。 ありがとね、来られると困るから、もう荷物置いてくるわ」

「そうだね。 早く置いてきなよ」

風太君の許しも出てきた所で、私は思いっきり走って教室に向かう。

3階にある教室まで走っていくのは少々つかれるが、彼奴に会わなくても良いというのなら安いものなんだから。

100m12秒台のダッシュ(魔術行使なし)で階段を駆け上がり、3つ先の教室に向かう。ベストタイム更新!誰にも見られることがないから出来る暴挙でもある。

そして、教室のドアを開け、誰も居ない教室に荷物を置いて早速教室から出て―――

「今朝も息災みたいだな。 真流」

「えっ?・・・うわっ」

出ようとした私を教室の入口で止めていたのは、私が最も恐れている男だった。

「・・・なんで・・・」

「なんでとは失敬な。 お前より早く来ていただけの話だ。なんでお前に糾弾されなきゃならないんだ」

そこに居たのは、さっきまで話していた相手とはまるで正反対。風太君が小動物ならば、目の前の男――橙乃(とうの) 匡生(まさき)は、鷹や鷲のような目の男だった。

一言で彼が纏う雰囲気を表すなら、それは『恐ろしい男』

危険さでは決してなく、威圧という言葉は相応しくなく、畏怖というには高尚すぎる。

ただただ、恐ろしい。 そんな男は、私の天敵でもあった

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