Fate/White Christmas   作:カタストさん

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匡生という男

匡生という男は、一言で言えば傑物だった。 何事にも秀でた才能を見せて、彼が負ける物を見つけるのはツチノコを見つけるのと同格に難しいとも言われて、一種の都市伝説となっている。

勉強をさせれば、少なくとも学校内では彼に敵わず、

拳を振らせれば、彼に屈服しない男は居らず、

全校生徒の前で発表させれば、全員が彼の言葉を無視できない。

彼の目立った弱点はと言えば、必ず寄る人間を突き放す態度だろうか。お陰で、顔立ちはモデルと言っても通じそうなものであるのに、彼に浮いた話は全く無い。というか、友達がいるのかどうかすら不明。彼を慕って寄って行く人間は要るみたいだけど、果たして彼はそれを仲間と思っているのかどうかは・・・まぁ、多分思ってない。煩い雀ぐらいが関の山だろう。

そんな男が、読んでいる本から全く目を離さずに問いかけてくる。因みに、『黒猫』だった。

「で、なんでとはどういう事だ?」

そこを掘り下げないで欲しかったのに。 いつも無口な癖に、こういう時だけ饒舌なんだから。

「別に? ただ、苦手な奴とは会いたくなかっただけよ」

「なるほど。 そういう事か」

そんなこと、いちいち問われなくても解っている癖に・・・。本当に嫌味なやつ。

本からは一度も目を離していないのに、彼奴の言葉だけで何かを見透かされているような気がしてならない。下手すれば、私が魔術師であることまで見抜かれているんじゃないだろうかと思うぐらいだ。

「わ、私はもう行くわよ。 貴方とは一緒に居たくないもの」

「そうか。 一つ聞きたいことが有るんだが?真流」

うわっ、そんな言い方ないでしょ。なんでコイツは、頭が良い癖して人に嫌われるような物の言い方しか出来ないんだろう。

「最近のこの街が少しおかしい気がするんだが、心当たりは有るか?真流」

コイツ、やっぱり気づいてるんだ。

心当たりなら有る。聖杯の魔力が満たされた事だろう。サーヴァントの召喚をするぐらいなら半年以上も前から出来るぐらいに魔力が溜まっている。敏感な人間なら、魔術師でなくとも街全体に違和感を感じることだろう。

なら、宝石みたいに優れている功刀なら、この街の異変には気づいているのかもしれない。

「さぁ、どういう風に違和感があるのか言ってくれないと、私にも分かんないよ」

だけど、敢えて惚けないと、私が困る。だから、知らないふりをした。

「・・・そうだな。言葉で表現出来ないような事だ。お前が分かんないって言うなら、多分感じていないんだろう。なら良い」

良かった。橙乃も上手い具合に勘違いしてくれた。 これで追及も免れることも出来て、私は凄く嬉しい。だったら、一刻も早くこの教室から離れるに限る。

「じゃぁ、私もう行くわね。 風太くんを待たせてるものだから」

さっき行かないって言った手前少し恥ずかしいけれど、しょうがない。というか、さっき、見当違いな事を言って私と功刀を合わせた罪が麻加部君には有る。

早いところとっちめてやらないと気がすまない。

「ああ、真流。 手は大事にしろよ」

「え!?」

嘘・・・え?まさか、令呪を見られた? いや、橙乃は無意味な事を言うような人間じゃない。

こんな事を言うからには、絶対に見られてしまったんだ。

「わ、解ってるよ! じゃぁ、また後で!」

私は、居てもたっても居られず、すぐに教室から出て扉を締めた。

橙乃が魔術師だという事は聞いたこと無いけれど、彼がこの令呪(しるし)の意味を知っているかは知らないけれど、彼から出来るだけ離れようとしなければいけないような気がした。

どんなに不自然な流れで彼から離れて、疑われたって仕方ないって思うぐらいには、彼の詮索が恐ろしかった。なんでかは分からないけれど、女の勘って奴かもしれない。

そうして、私はなるべく早く、長く走った。出ていった教室に辿り着こうとした時と同じぐらい、いや感覚的にはもっと速く。

「はぁ、はぁ・・・はぁ・・・」

肺の中の空気を使い尽くして、汗が垂れ流れようとも走って。 足が立つことさえも拒否することを覚えた時、漸く私は走ることをやめて、その場にへたり込んだ。

どのくらい走ったかは分からない。 足が暫く動かなくて、廊下に座り込んでいたときに、私の後ろから足音が聞こえてきた。とても静かな足音だ。

私の脚はとってもわがままで、勝手に立ち上がって足音から距離を取って相手を見た。

そこにいたのは、青というか銀というか、そんなグラデーションをした美しい髪色をした少女だった。凛とした顔は、少女というよりは青年に近いが、立派な少女。私はこの少女に見覚えがある。

「あ、えぇっと・・・アントニア、さん」

「はい。 アントニアです」

アントニア・バルツァ。私より1つ下の学年に、夏休みが始まったときに転入してきた美少女。でも、美少女と言うよりは美女と言った方が正しいぐらい、スラッとしたスタイルと高い身長が似合う。これで私より年下なんて言われる方が信じられないけれど、事実だ。なんでも、親の都合でギリシャから日本に渡ってきたという。若いのにご苦労様。

私が、彼女を知っている理由は、彼女が柔道部にマネージャーとして新しく入った部員であるからでも有る。夏休み以降に柔道部の見学をした所、彼女が居るのがふと気にかかったから話してみたら、私とも少しずつ仲良くなっていったのだ。と言っても、彼女からしたら、偶に会う先輩ぐらいにしか思ってないだろうけど、それでも険悪にならないだけ十分。

「大丈夫ですか? 真流先輩」

そう言って、アントニアさんは手を差し出してきた。そういえば、私はへたり込んでたんだった。道理でアントニアさんが嫌に大きいと思った。

「え、う、うん。ありがと・・・」

凛とした表情・・・というか、無表情のまま手を差し出してくるその姿は、なんというか・・・王子様が手を差し出してくるみたいで、少し照れくさい。

「はぁ、橙乃もアントニアさん位気立てが良かったらなぁ」

「橙乃、って。 匡生、先輩のことですか?」

アントニアちゃんは、私を立たせた後抑揚のない声で問いかけてくる。どうやら、橙乃の事で心当たりがあるようで。アイツは良くも悪くも噂のタネが尽きない奴だから、この学校に来て短いこの子でも名前だけは知ってるんだろう。

「その橙乃先輩って、あの風太・・・部長を殴り倒した事があるって本当ですか?」

ああ、その噂か。 なら柔道部である彼女が知ってるのは本当だ。

「うん、確かに。 橙乃は風太君を殴り倒した事があるよ。」

「それって、どうしてか。 分かりますか?部長は、トラブルを起こすような人間じゃないと思ってたんですけど」

無表情で、静かな声だけど、声に沸々と熱が篭っているのが分かる。多分、心の底から気になるんだろうな。さっきの事も有るし、ここで言っておかないといけない気がする。

あんまり話したくない事なんだけどね・・・。

「えぇっとね。 この学校に文化祭が有るのは分かるよね?アントニアさんも、二月(ふたつき)前に参加してたし。メイド、似合ってたよ」

「恥ずかしいので思い出させないでください」

・・・多分恥ずかしがってない。余計な話はしないで欲しいって事なんだろうか。前言撤回、この子の機微は余りわからない。

「ごめんね・・・。で、話を戻すけど。私達も去年やってたんだけど、クラスでやる団体の中で意見が割れてさ。所詮学校内での企画なんだから自分たちが楽しむことを優先する派閥と、やるならしっかりとやりこなし、出来るだけ企画の完成度を優先する派閥。クラス内は、風太君を代表とした楽しみ派と、功刀を代表とした完成度派で割れた。それでも、ある程度は上手くいっていたよ。

でも、ある日、風太君が居ない隙に、功刀たち完成度派が独断専行的に作業を進めていってしまった。暗黙の了解のような部分があって、互いに不干渉な場所だったり、お互いの同意の上で決定した部分を、功刀は勝手に改めて、楽しみ派を困らせたんだ。

当然、風太君は大激怒。でも、怒った風太君を功刀が窘めた。それで堪忍袋の緒が切れた風太君は、襟首を掴んで功刀を押し倒して、一発殴った。・・・だけど、それを待っていたと言わんばかりに、功刀は反撃を開始。躊躇なく顔や鳩尾も殴ってさ。風太君は最初に殴ったのを最後に、功刀に手も足も出ずに、殴られるがまま。気絶するまで殴られた。

そうなったら、後は簡単だったよ。それまで体格を無視して風太君が大会で良い成績を残していたのは皆知ってた。逆に言えば、それを簡単に制した功刀が無理矢理に計画を断行するのは止められなくなって。学校側はこの殴り合いを問題にはしたけれど、風太君にも殴った事実は有ったから、結果的に喧嘩両成敗って事になって、両者3日停学。でも、そうなる事を見越してた功刀は、自分の仲間を言いように使って簡単にクラス団体を征服したんだ。

そうして、一番完成度の高い団体が完成して、私達のクラスは見事に売上一位で表彰されましたとさ。これだけの話だよ」

そう。たったこれだけの話、世は事もなし。でも、ここには功刀という男の性質が見事に現れてる。

きっと、匡生は麻加部君がどうなろうと知ったことじゃないんだと思う。多分、これが麻加部君じゃなくても結果は同じだっただろう。要は、彼は自分本位で物事を考えるんだ。それが、自分が一番力を持っていると事実・認識共にそうなのがタチが悪い。私の偏見が交じった判断だろうけど、自分では多少的は射てると思ってる。

「なるほど、そんな事が。 だから部長は・・・」

「そう、風太君は匡生君に苦手意識を持ってるってこと。あんなに一方的に殴られちゃ、そりゃ苦手意識も持つよ・・・」

と、ここまで話した所で、まばらながらも生徒が廊下を歩いてきた。どうやら時間がそれなりに経ったようで、ちょっと気の早い生徒なら登校し始めている時間帯だ。来る時間帯に関しては、私と橙乃が異常なだけ。

「そういえば、アントニアさん、マネージャーの仕事は? 柔道部(あそこ)、仕事凄く多いでしょ?」

そう言うと、アントニアさんは、少し・・・本当にほんの少し微笑んで、こう答えてくれた。

「ご心配なく。 いつもある仕事は全部終わってます。それで、今日の朝練習は緩めにするので、どこに居るかだけ伝えてくれれば外に居ても大丈夫だと部長から言われました。」

「そ、そっか・・・」

そういえば、アントニアさんはこの学校の第二の完璧超人なんだった。見目麗しく、勉強も運動も完璧、おまけに(功刀と比べると十分に)優しい。今頃一年男子の間ではもう人気の的らしい。

「ふぅん。 じゃぁ、この教室からはもう動けない感じ?」

「そうですね。 1年教室の廊下に居ると伝えてしまったので・・・あまり大っぴらに動くと部に迷惑がかかるかもしれません」

「そっかぁ。 なら仕方ないね。じゃぁ、ここで」

私は、アントニアさんと別れて、柔道部に向かった。

それで、麻加部くんをとっちめる・・・事は出来ないので、思いっきり恨み節を垂れ流していたら、顧問の体育教官が結構苦い顔をしながら時計を見ていたのが目に入ってしまった。

そこには、ホームルームの時間までおよそ10分の針を示した時計盤があった。麻加部君は部長だから、部室の片付けもあるので、これ以上拘束している訳にはいかない。

だから、さっさと退散して、教室に向かうとなかなか人数が増えていたから、涼しい顔をして座るに限る。功刀に怪しまれてるかもしれないけど、それは今に始まったことじゃない(かも知れない)し、今更どうなることじゃないからなぁ。マズそうだと思ったら、口封じすればいい。やり方はいくらでもあるわけだし。

「おーう、お前ら席につけ~」

と、担任の教師が入ってきたと共に静まり返って全員が席に着く。

それを始まりとして、学校の責務・・・要は授業の時間が始まり、私はそれに耐えることを強いられたのだ。

もちろん、授業を受けることを“耐える”と表現したわけではない。私が耐えると表現したのは、橙乃の対応だ。

授業を受けている間、アイツは事もあろうに私のことをずっと見つめてきた。いくら怪訝に思うと言うのは有っても、まさか公然で監視してくるとは思わなかった。そんな状況に、私の精神力が耐えきれるはずもなくって、ジリジリと日照りが続くように削られていく。

休み時間なんか、授業と授業の合間に必ずと言っていいほど話しかけてこようとするから、すぐに席を立って女子トイレに避難するしかない。流石に女子トイレに入り込む程精神が図太い訳ではなかったようで助かった。

そして、昼休みになって私は、ようやくかと言った感情を持ちながら席を立った。なんでか知らないけど、橙乃がクラスメートに囲まれている状況を利用させてもらって、駆け足で屋上に向かう。橙乃と一緒に居ると必ず絡まれるから、追いつかれてはならないと、屋上についたら物理的だけではなく、持ってきた結界を張る礼装・・・要は魔術で鍵をかけるのも忘れない。瓶を取り出し、赤黒い液体を一滴二滴と零す。これで問題なし。

私は安堵のうちに、朝の内に購買から仕入れておいたパンの袋を開ける。なんでコレを買うために行列を作るのかは全く理解できないけれど、200円で惣菜パン2個を買うことが出来るならお得なんじゃないかと思う自分もいて、どことなく矛盾した気持ちを抱く。でも、やっぱり休み時間にあんなに殺到する理由は分からない。

「はむっ・・・やっぱり、何度食べても普通なんだよねぇ・・・」

これ以上考えると、パンの事だけで休み時間が終わってしまいそうな錯覚に陥ったから、必死にこの思考を振り払う。今は聖杯大戦の事に集中しなきゃ・・・。やっとこさ手に入れた、静かに思考する時間だ。大事にしなきゃ。

「えぇっと、監督役のあの人に聞いた話だと、7人対7人のチームで争う聖杯戦争・・・って認識で良いんだっけ。それで、私は・・・どっちなんだっけ?」

聖杯戦争を執り行う人間とそれを擁護するマスターが“闇”、聖杯戦争を止めるべく魔術協会から参戦するマスターが“光”。私は魔術協会から督促状なんて渡されてないから、恐らく“闇”での参戦になる。前回の実験聖杯戦争でも、土着の魔術師が“闇”のサイドでの参戦をしたケースがあったらしいし、ほぼほぼ確定だろうけど、一応家に帰ったら確認したほうが良いかもね。

でも、そうなると問題は、私が陣営内チームメイトを把握してないことになる。そこも含めて確認すればいっか。

「でも、“闇”かぁ・・・」

実は、私の魔術の先生は、実験聖杯戦争に参加したことがある。だから、監督役から聞いた話と、先生から聞いた話の二つから多角的に今回の背景を把握することが出来てた。

それで、先生から聞いたある話を思い出してる。今までの2回の聖杯戦争で、“闇”の側・・・つまり、聖杯戦争を執り行う側は、2回とも敗北してる。いやまぁ、1回は別に敗北ではないらしいけれど、この状況に至って何となくその理由が掴めた気がした。

“光”の側は、魔術協会が結束を持ってこっちを潰そうと立ち上がってきてる。超一流の魔術師が一度に攻めてくるようなものだ。組織力も、私みたいな都市レベルの少組織では抗いようもない。物資・人材・結束力において私達より上。まず勝てない。

結束力でこっちが勝っているんなら、私が陣営に誰が居るかを把握できないなんておかしいもん。

「こりゃ、どうしようもないかな~・・・」

ちょっとだけ、ホントにちょっとだけやる気が削がれたような気がした。そんな不吉な思考を振りのけるように、別の思案に思いを馳せた。

私のサーヴァントはどんなのが来るかな~とか、味方の魔術師にはどんなのが居るかな~とか。聖杯戦争に関係あるかもしれないけど、結局は取り留めのないような思考を幾つか。そんな思考の過程で、ふと父さんの顔が浮かんだ。聖杯戦争について考えてたんだから、父さんのことに行き着くのも当然の帰結だけど、ほんの少し悲しくなる。

父さんとは産まれた時から一緒に居たけれど、最後まで良く分からない人だった。

凄く厳格であることには変わりないんだけど、出処の知れない包容力を感じられる人だったのは覚えてる。とても博識で、活力(バイタリティ)に満ち溢れていたことも。無口な人で、父さんと会話をする時は二言三言で済ませるのが規則(ルール)だった。なんでも、不要な会話は思考の妨げになるとか何とか。でも、私はそれを不思議と受け入れることが出来て、事実他の組員と比べても私は父さんと会話が成り立っていた。それと、魔術の稽古も取ってくれていた。ストイックな稽古だったけれども、耐えられないものではない。私は父さんの稽古で確実に力を上げることが出来ていた。

それが、五年前の・・・丁度、今日みたいに晴空で肌寒い風が吹く日だったなぁ。父さんは、この家を出ていくと言ったんだ。その時、私は言い知れぬ胸騒ぎに突き動かされて、規則(ルール)を破って何度でも止めようとした。でも、結局私の制止を受け入れてくれなくて、まるで木枯らしのように飛び出していってしまって。通り過ぎた風が戻ってこないように、父さんは帰らぬ人になった。父さんが死んだことを伝えてくれたのは、今の先生になる、とても若々しい女の人だった。そのまんま私の稽古はその人に引き継がれていった。優しくて、力強くて、何も文句はないはずなのに、何処か空虚な感じがする。もう父さんの死は受け入れたことのはずなのに。

「・・・やだなぁ、こんな事を願ったって、戻ってくるわけじゃないのに」

戻ってくるわけじゃないのに、涙が溢れたのはなぜだろう。

・・・いいや、涙が溢れたのはもういい。()()()()()()()()。ここを勝ち抜けば、聖杯なんてモノが私のものになる。話の通りなら、それはあらゆる願いを叶える事が出来る願望機。誰かにみすみす取られるぐらいなら、私が手にしてやる。

その為になら、私は・・・。

「よーし! “聖人”だろうとなんだろうと私の元に集まりなさい!絶対に勝たせてあげるから!」と、空に向かって拳を突き上げて。

ガタッ。

ん?ガタッ?

物陰で何か、誰かがずっこけたような音が聞こえたから、その音の元に行ってみると、そこには何故か凄く焦った表情の風太君がしゃがみ込んでいた。

私の話を盗み聞きしてたわけじゃないだろうし・・・一体何のために、こんな所に・・・。

「や、やぁ、涼さん。 どうしたんだい?こんな所で」

「それはこっちのセリフなんだけど。 風太君こそ、なんでこんな所にしゃがみ込んで・・・」

そんな風に問い質してみると、ひどく焦った様子で返してきた。

「いや、立ち上がろうとしたら小銭落としちゃってさ! 大丈夫!もう解決したよ!それじゃぁね、涼さん!」

「あ、待ってよ!」

そう言って、全然会話も成立しないで立ち上がって言ってしまった。 風太君、あんなに背がちっちゃいのに凄い早いからなぁ・・・私が追いかけても絶対追いつけないもん。うん。

なんであんな所居たんだろうなぁ、別にこんな所に何もないのに・・・。

同じ場所にしゃがみこんでみても、決して何か変わったものが有るわけでは・・・いや。

「何だろこれ・・・結界?の基点かぁ。 それも、結構ハイレベルなものだ・・・」

効果自体は単純な物で、結界内の人間の失神。それと外側の人間への隠蔽効果。両方共多少の対魔力があれば抵抗できるものだった。その効果の結界は私でも書こうと思えば書くことが出来るぐらい、オーソドックスなもの。

でも、問題はこれが学校内ここにあることであって・・・。誰かが趣味で仕掛けたんじゃなければ、恐らくは聖杯戦争のマスターが書いたものだろうな。取り敢えず、この結界は無効化しとかなきゃ。

「ってあれ?・・・この結界、かなり高度なレベルで描かれてる・・・。私には、これを止めることが出来ない・・・。」

魔術の勉強はそれなりに重ねてきたつもりだったけど、まさか私も無効化出来ないほど高度な結界を仕掛けられてるなんて・・・しかも、よく見れば、現代に使われないぐらい稀少な紋様も書き込まれてる。勉強ってホント大事。でも、そうなると、これを書き込んだ人間がマスターだという考えは改めなきゃ行けない。

これを書いたのは、サーヴァントだ。 それも、相当魔術に通じた英霊。魔術師キャスターが妥当だと思うけど・・・。でも、あくまで、サーヴァントが関与してるってだけで、紋様を知っていればマスターだって書くことが出来る。

そうなると、さっきしゃがみ込んでたのは・・・。

「・・・麻加部君、魔術で掛けた鍵、しっかり開けていったよね・・・?」

そこまで考えて、止めた。チャイムが鳴ったのも有るけど、彼を問い詰めるのは別に今じゃなくたって構わない。

盗み聞きしてたのか、結界を書き込んでたのか、別の用だったのかは知らない。でも、いずれ理解わかることなんだから、今無理に問い詰めるのは違う。そう思ったから。結界だって、効果を抑制することが出来たから良しとしよう。

そう思って、私は屋上を後にした。結界は何れ起動してしまうだろうけど、その時はその時だ。とにかく、午後の授業をしっかり乗り越えなきゃ。そうしたら、家に帰ってやるべきことをこなさなきゃいけない。




2018.6.29 文章を修正しました。
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