Fate/White Christmas   作:カタストさん

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そうして巡り合う

「今更だが、本当に行くんだな?」

神殿を見据える荒野と街の境界線に立っている私に、姿を表しているランサーが言った。

正直、ライダースジャケット着てる私の姿は想像したくないけど、バイクを乗りこなす時にはこれが結局安定してしまうのだ。

とまぁ、そんな事は置いておいて、私達はこれから件の神殿に向かう。当然中に入り込んで詳しく調べる気なんて更々なくて、ただ単に近くから見たいだけ。危険は伴うけれども、いきなり私達を全力を以て討ち倒すようなことはしない・・・と信じてる。迂闊かも知れないけどね、そもそもランサーは不死だし。あの後ランサーから宝具の詳細を聞いたけれど、自分以上の神性を持たない相手・・・つまり、Aランク以上の神性を持っていたとしても、最大で5割までしかダメージが通らないんだとか。薪を壊されるか燃やされた時は、数分しか命が持たないらしいけれど、それを考えても恐ろしい宝具。

要は何が言いたいかと言うと、多少のリスクを背負っても問題なし。ランサーが私を守れない程無力なはずもないし、少しばかりは強気に行かなきゃ。

「そりゃ行くよ。 唯でさえこっちはむっちゃくちゃ不利なんだからさ」

「“闇”が、か。 そうだな、スズカはそれを憂慮していると見えるな」

「当然だって、そりゃぁ・・・」

・・・って、話をつなげかけたけど、さっきまでさんざ議論した後だから止めた。余りに白熱したから、組員が何回か見に来たぐらいだ。霊体化してたからランサーは見えなかったみたいだけど、うっかり私が声を荒げた時が最悪で、暫く監視されたぐらいだもん。

ともかく、私はアクセルに手をかける。硬い感触が手袋越しに伝わってくるのを思って、思いっきりアクセルを捻った。公道ではないから、最高時速お構いなし。体感だけど、120km/hは出てるんじゃなかろうか。それに平然と付いてきてるランサーに目配せすると、ランサーは微笑んで返してくる。『もっと速くて大丈夫だぞ』と言わんばかりの、自信に満ちた笑みだ。それを見てなんだか安心した。

そんなやり取りをしながら走ってると、地面になにか大きめのものが転がっているのが確認できた。別に放置しても良かったんだけれど、ここは敵地。何が有るかわからないから確認しておくことも重要だと感じて、急いで止まる。立ちゴケしないように、それでも迅速に止まるために、バイクを進行方向と垂直にした瞬間にブレーキをかける。急激に止まったことで、慣性が働いて体が吹き飛びそうになるのを必死に堪えた。バイクのタイヤから、ゴムが摩擦熱で燃えたのか煙が立っている。不快な匂いに鼻を押さえて、私は地面を確認する。

そうすると、ランサーが醜悪な物を見かけたように顔を歪めてた。

それもそうか・・・そこに―――いや、()()()()()に落ちていたのは、生物の欠片だった。それも、小動物とか犬・・・最悪、人間とかでも、私は驚かなかったかも知れない。

落っこちてたのは、()()()()()の欠片だった。超自然的、まるでRPGに出てくる触手の生物。まるで豆腐でも地面に叩きつけたように粉砕されてるのに、蛸に似た触腕が痙攣を止めない。生命活動を止めてるのに、怨霊(ゾンビ)のように獲物を求めて彷徨ってるかも知れない。

「なんだ、こりゃぁ・・・」と、神話の中であんな魔獣を倒したランサーでさえも、疑いの中で眉をしかめずに居られなかったんだけれど。実は、これの詳細に私は覚えが有った。

第四次聖杯戦争の中で、海魔と呼ばれる生物が暗躍したという。それは、蛸とヒトデが混じったような触手生物。邪神(クトゥルー)の落とし子とも呼べるそれは、挙げ句体長数十メートルまで肥大したモノが召喚されて、大暴れしたらしい。私は直接見たことは無かったけれども、話には聞いてる。これは、それに酷似してるような気がする。深紫の体躯、蛸に似た触手、ここまで徹底的に潰されておきながらもなお足掻きを止めないしぶとさ。

「う~ん、っとなると、これは魔術師(キャスター)の仕業かなぁ・・・前回召喚されたサーヴァントがもう一回召喚されないとも限らないし・・・。第四次の魔術師(キャスター)は確か・・・」

・・・う~ん、思い出せない。

ま、後でもう一回聞けばいっか。そんな風に軽く考えて後にした。でも、この生物、見れば見るほど恐怖を煽るようには思えない。厄介そうだなぁと感じては居るけれど・・・。でも、ランサーの顔を見ると、少しだけ恐怖が混じってるように見えなくもない。ここは思い切って聞いてみよう。

「ねぇ、ランサー。なんでこれが怖く感じるの?」

「ん~、蛸みたいに見えるからだろうなぁ。 オレは蛸は良く食べたから、余り怖いとは感じねぇが、他の国だったら、そりゃぁもう恐ろしく感じるんじゃねぇか?未知への恐怖ってやつだろ」

「あぁ、なるほどね」

そこまで聞いて、ある話を思い出した。どうやら、日本人は、蛸などを始めとした海の生物を『食物』として見るからクトゥルフなんかに恐怖を感じないとか。逆に、欧米人は蛸はあんまり食さないから怖いんだとか。悪魔の魚(デビルフィッシュ)なんて言うぐらいだし。

「それじゃ、ランサーは怖くないんだ」

「少しだけだな。 実際、無視できるぐらいだ」

「そっかぁ。 でも、なんでこんな所に――」

そんな気楽なセリフに相槌を打ちながら疑問を呈していたら、奇妙な音が鼓膜を震わせた。

私達が出した音でもなければ、海魔が蘇った音でもなく。それは、遠方から聞こえた剣戟だった。

鉄と鉄がぶつかり合う、ともすれば心地よく感じてしまうぐらい透き通った音。でも、その実決して笑っていられるようなモノじゃないのは私達は知っていた。

その音は、私達の前方から聞こえてきてる。もしかしたら、その音の主は、この海魔をここまで粉々に砕いた者なのかも。それならば話は早い! 敵ならば倒し、味方ならば加勢するのみの話。そこまでを数瞬で結論づけた私達は、互いに話を合わせるどころか目配せさえもせず、無言で音の方向に加速を始めた。

「ランサー、戦える!?」

「愚問だ! こんな所に来てる時点で、戦いの準備はとうに終わっていたさ!」

なんて心強い仲間(サーヴァント)だろう。まぁ、そんな事を言っていると、1分も経たずに音の中心。つまり戦地が見えてきた。それを見て、私の第一印象はこれだった。

―――あぁ、なんて美しいんだろう。

そこには、三人の戦士が居た。三つ巴の闘いだったと思ったけれどそれは違うと思い知った。これは、二陣営の闘いだ。1対2なんて状況、当然2体の方が勝つし事実そうだった。1体の方は2人の猛攻に押され続け、相手に剣を返す暇もなかっただろう。

一人は、凄まじい威光を纏った女性だった。ここに来る前は、きっと女王でもしていたんだろう。そんな確信、理解を排斥出来ない。目を離すことさえ不可能な聖性(カリスマ)を有した女性。紛れもなくサーヴァント、紛れもなく人外。そんな者を、容易くまで叩きのめしているのは、一対―――とまで表現できる二人。

比翼にして連理だろう。それは男女だった。男は己の拳足のみを武器にして、少女は釘のように細い剣を扱っていた。それだけなら良いけれど、問題はその洗練された動き。互いの動きを数手先まで当然のように知り尽くし、その上で最適解を求めるような動き。自分の手足がこれからどう動くのかを知っているように、男女はその連携のもとに動き、サーヴァントを追い詰めていた。きっと、そんな連携ができるのは百年来の盟約で結ばれた親友同士なんだろうなと思って二人に着目してみたら。嗚呼、現実はそう上手く立ち行くはずもない。現実よりも現実感がなく、しかし紛れもない現実なのだけれど。

その二人は、口喧嘩を絶やさずに居た。息つく暇もなく矢継ぎ早に、まるで自分達が殴っている敵が()()()()()()()で、目もくれるはずもねぇと宣うような、教科書に載れるような無関心。

「邪魔をするな! こいつは俺の敵だ!お前には関係ないだろう!」

男が殴りながらも、言葉の弾を最高の相棒(しょうじょ)に当てる。黒を基調とした、というか黒一色とまで言える格好は、殺し屋のコーディネートだ。彼が着けている手袋と靴は、非常に高い練度で作られた魔術礼装なのだろう。サーヴァントは彼の攻撃に顔を顰めて防御するしか無い。およそ人間が生きる年月には不可能とさえ言えるレベルに研ぎ上げられた拳法には、称賛の声しか上げることしか出来ない。

「いいえ! この者は裁定者(ルーラー)たる私に手を上げたのです!必要最低限の応戦は必要不可欠、私の威信に関わります!」

少女が切りつけながらも、絶好の們(おとこ)に応じる。 豪奢なドレス、戦闘経験なんて絶無だろうと思える可憐な少女だけれど、その実剣術は華麗なもので、男の攻撃に対する防御の隙を突く見事な剣技。剣に籠められた魔力は、到底私には作れない、どころか見たことさえもなく。細身の剣には不釣り合いな、重量さえ感じさせる魔力を持っていた。

「あのなぁ、支配者(ルーラー)だかなんだか知らないが、お前が手を出すな!」

「なっ! 貴方こそ何故私の戦いに手を出すのです! これは人間には速すぎる舞台です!早急に撤退の選択をなさってください!」

「はっ! 人間には速すぎるだと!?事実、俺は手を出せてるだろう!お前の邪魔さえなければもっと力を出し切れるんだ!解ってるだろうからさっさと下がれ!」

「何を勘違いなさっているのですか!? “光”のライダーは私の攻撃に対して防御していて、貴方への注意が薄れている間に攻撃しているに過ぎません!言うなれば私のおこぼれを拾っている形!しかし、私は人間に対して危害を加えないよう、最大限気を配ってやっているのですよ!? 貴方こそ下がった方が良いのでは!?」

・・・お互いの話は平行線。 一触即発の相手だったのだろうか、それでも奇妙なことに、戦いにおいては唯一無二の戦友であるかのように連携をとって戦えているのが不思議でならないんだけど。何者なのアイツ等。

終いには、男がサーヴァント―――ライダーの腕に手を掛けて、片手で山嵐を行うようにライダーを投げた所を、少女の剣が斬りつけるというという高等テクを披露。これにはライダーも、ただ単に投げられて血を吐くしか無かったようで、膝立ちになって苦しむしか無かった。

でも、そんなサーヴァントにはもう用は無いようで、こんなにも完璧な合体技を成功させた片棒(パートナー)を互いに指さして、こんなセリフで彼らは闘いを締めていた。

「なんなんだお前は!」

「なんなんですか貴方は!」

―――事実は小説よりも奇なり、という言葉があるように。確かに今直面していた事実は、どんな小説よりも遥かに『奇』だった。

それでも、その『奇』とは奇天烈の『奇』ではなく、数奇の『奇』でもなく。

奇禍の『奇』であった事は言うまでもなかった。確かに、魔術師になってる時点で平穏な生活なんて捨ててた。聖杯大戦に乗り込んだ時点で覚悟もしてた。

でも、アレばかりは・・・受け入れられるはずもなくて。

嗚呼、あのライダーを打ち倒していた男女。 あれは、二人のサーヴァントではなく。

()()()()()()()()()()()()()()()()()

しかも、あのマスターは。 あの兇暴な四肢を操ってサーヴァントを殴り倒していた、恐ろしきマスターは、確かにビルの上から見下ろしていた顔と同じ顔で。 しかも、そいつは――――。

 

事実は、確かに奇禍で奇怪なものだった。じゃぁ、ここから小説の話を始めよっか。

言うまでもなく、この物語は、人間が願いを叶える物語だ。

でも、聖杯を用いた訳ではない。いいや、もしかすると人が願いを叶える物語なんて言い方も語弊が有ったかも。確かに敗者は多く居た。グッドエンドでなければ、バッドエンドでもないだろう。

真実を掴んだ終わり方(トゥルーエンド)、って言い方が一番近いかも知れないけど。・・・コホン、じゃぁ仕切り直そっか。

これは、或る一人の少年が、願いを叶えるでなく、願いを諦めた物語だった。当然、ただ単に挫折しただけなら、こんな風に語りを始めたりしない。

願いを諦めた上で、遥か遠くの記憶に置き去りにしてきた、一つの純真無垢な物を救い出す物語。その様は油で一杯だったグラスに、清らかな水を入れるよう。その過程で私なんかも巻き込まれて、聖杯大戦は進んでいった。そして、確かに少年は答えを見つけて、勝利は掴んでいたんだろう。

それじゃぁ、《事実(しょうせつ)》を始めよう。




ここまででプロローグ終了となります。
次話から語り手は交代し、本編が始まるので、ここまで飽きないでご覧くださった皆様を一層楽しませることが出来るよう、頑張ります。
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