オバロ転生憑依もの   作:しうか
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バルブロ:主人公。期待の長男。カッツェ平野で冒険者ごっこ中
ラナー:ヒロイン。兄想いのかわいい女の子。順調に成長中
スレイプニール:グリフォンに進化中
ランポッサⅢ世:王様。バルブロとラナーの父親。お仕事中
レエブン候:大貴族。バルブロ暗殺を企んだ。ちょっと後悔中

 バルブロがカッツェ平野に入ってグリフォンに乗る直前まで時系列が戻ります。

注意:今回はガチR-15です。R-18までは行ってないと確信しておりますが、大変紳士向けの内容になっております。タイトルとこの注意内容から嫌悪感を抱きそうな方はブラウザバックしてください。なおR-15の定義がわかってない模様。


11 ラナーの日常

 リ・エスティーゼ王国の第三王女、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフの一日は鏡に向き合う所から始まる。未だに油断するとドロリと崩れる表情を鏡を見て直すのだ。兄バルブロ以外この表情を好む人間はほとんどいない。彼女の従者、クライムに対してですらこの表情を見せようとは思わない。

 

 はぁ……。お兄様、もう一週間も経ちました。今頃はカッツェ平野でしょうか。(お父様)にお話した計算ではエ・ランテルで準備している頃でしたのに、わたくしのためにお急ぎになられていらっしゃるのね……。お兄様の愛を試す事になってしまいましたが、お兄様を信じて先に動いておいて良かったですわ。

 

 ラナーにとって兄バルブロがカッツェ平野への出撃が決まった時、すなわちレエブン候が根回しに来た時からすでにラナーは動いていた。

 

 元々いくつもの政策や法律を王である父にバルブロとの連名で提出していた事で、ラナーは王としての父に提案し、最終的には自分の思い通りに動かしていた。

 

 レエブン候越しにラナーに尋ねられた王からの問いは主に「バルブロがどのように動くか」だった。ラナーは通常の範囲内での予測、そして補正を掛け急いで行動に移した場合の予測、その両方を考え後者が正しいと判断したが、王に言付けたのは前者だった。

 

 ラナーは目の前で堂々と動く間者(スパイ)に殺意を覚えたがほんわかした笑顔で隠し通した。

 

 バルブロから直接ラナーへの気持ちを聞いていたため王とレエブン候はここに来て未だに誤解していたのだ。本質はむしろ逆なのだ。王もレエブン候もむしろラナーの方がバルブロに執着を持っているとは思っていなかった。

 

 ラナーの考えた政策や法案もすべてバルブロのサインがある事からバルブロとラナーが二人で考え、ラナーが書いたとしか思っていない。しかしレエブン候はラナー付きのメイドとして送り込んだ貴族の娘からの報告でラナーの異常性を知っていた。

 

 しかし、どうしても目立つのは実際に動き、王国騎士団の中心人物にまでなったバルブロだった。故に王やボウロロープ候のバルブロの評価は高くバルブロに期待を抱き、ラナーの能力を何となく察していた王位を狙うレエブン候にとって過大評価を受けているバルブロは邪魔でしかなかった。

 

 レエブン候はラナーが敵になるなど考えてもいない。なんせラナーはまだ幼い子供だ。能力や異常性があるとは言え、兄にそこまでの執着を持っているなど考えていない。バルブロの代わりにザナックを近づけ、ザナックがラナーの助力を得て王位に就くのが一番だと考えているほどだった。

 

 レエブン候のミスはラナーの異常性を知りつつ、目の前のほんわかしたラナーの笑顔と、世間を知らない幼い子供という認識がその異常性に対する警戒心を薄れさせてしまった事だろう。

 

 ラナーはその予測を伝える前にレエブン候から必要な情報を吸い出した。そして、補給の際使う都市、エ・ランテルの情報や言葉の端々から都市長パナソレイの能力と性格を把握し、バルブロがエ・ランテルに到達する前に届くよう、()経由で書状を送りパナソレイがバルブロに協力的になるよう仕向けた。

 

 その中にはラナーの予測を兄バルブロの今後の予測として帝国との戦争を匂わせ、カッツェ平野の政治的な危険性、そしてその推移を予測した物を添える。あえて解決法は書かない。なぜならバルブロがお遊びのため、ラナーのためにどう動くかラナーとしても予想の分岐が多すぎたからだ。

 

 ラナーはバルブロが王都を発ってから四日目に届いた〈伝言(メッセージ)〉でバルブロがどう動いているのか確信した。

 

 ふふっ、やはり遊びのためなら手段を選ばないお兄様らしいですわね。やはり都市長に書状を送っておいて正解でしたわね。普通なら実行できませんわよ? 王位に最も近い第一王子が冒険者におなりになるなど狂気の沙汰ですわ。

 

 レエブン候はご自分の想像以上の代償を支払う事になりますわね。でもこれでレエブン候への意趣返しを終わらせるつもりはありません……。ふふふふふ……。あら、いけませんわね。お顔が戻ってしまいました。

 

 王はバルブロを嫌っている訳ではないのだ。むしろ期待さえしていた。ただちょっとバルブロとラナーの関係が正常な兄妹の関係に戻り、王国を支えて欲しかったのだ。

 故にレエブン候のバルブロをカッツェ平野へ送る助言に王は良案と思いつつも金を出し渋りこの話を流そうとした。しかし、このままでは実行されないと危惧したレエブン候はバルブロの率いる今回の騎士団出撃に関する費用を最終的にレエブン候が全額賄う事で王の首を縦に振らせた。

 

 その事を知っているのは王とレエブン候だけだったはずだ。しかし、ラナーはレエブン候の言葉の端々からその事を察知していた。そしてラナーが助言を与えるまでもなくバルブロはレエブン候が一番金を放出し、今後の戦争の布石を打つ道を偶然選んだ。

 

 そう、冒険者組合は国の下には付かない。しかし国からの補助金を断りはしない。モンスターに関する依頼や補助金は喜んで受け取る。カッツェ平野への補給基地を大貴族が金を出して作ってくれる。最高のお話だった。

 

 帝国との戦争になった際、確実に巻き込まれるであろうエ・ランテルを直轄領とする王やその都市長パナソレイにとってもそのお話は面白いものだった。最前線になるであろう場所に帝国も認める中立組織が補給基地を構えるのだ。

 

 巻き込まれる冒険者組合や出資者であるレエブン候の心痛は計り知れないだろう。帝国としても中心に第一王子が居座る冒険者組合の補給基地は邪魔でしかないはずだった。しかも、その補給基地への出資はバルブロがそこに居座れば居座るほど続き、強化されていくのだ。

 

 レエブン候としては悪夢でしかなく、一日も早いバルブロのカッツェ平野での戦死を待ちわびる事となった。この時点で長期に渡る事になるとは誰も思っていなかった。

 

 それでも早く戻ってきて欲しいというのはわがままでしょうか……。あら? 中々表情が作れませんわね……。少し調子が悪いのでしょうか……。いけませんわね。これではクライムを怖がらせてしまいます……。

 

 ラナーの体調不良の前触れだった。二週間目には表情を作ることが難しくなり、三週間目には瞳の輝きが消え、一ヵ月後には食べた物を戻してしまうようになった。

 

 そんなラナーをクライムは心配した。ただ、クライムはラナーの変化を気持ち悪いなどと思った事はない。ラナーが仲の良い兄を心配するあまりそうなってしまっているだけなのだ。そのお優しいラナー王女の心に感動し、さらに忠誠心を厚くした。恩人であるラナーの兄の無事の帰還をラナーと一緒に願った。

 

 その報告を聞いて心配した王はラナーに会った。ラナーの様子を見た父親は幼いラナーの兄に対する執着に気付いた。しかし、ラナーはまだ幼い。バルブロの妹に対する執着の裏返しだろうとしか思えなかった。親離れできない子供と同じだ。そんな時、子供に与える物は大体決まっている。お気に入りの毛布だったり、お気に入りのおもちゃだったり……。

 

 そこで父親はラナーに欲しい物を聞いた。ラナーの答えは鍵と権限だった。そう、兄バルブロの部屋へ入りたがったのだ。ラナーがそれで落ち着くのならそれで良いと父親は思った。そう、子供が親の面影を探すようなものだと……。そしてラナーの拒食は収まり、父親である王は安心した。

 

 

 

 こうしてラナーが兄の部屋へ日参する日々が続いた。お供は首輪をつけたペットのクライムとお付のメイドだが決まって部屋の前で待たされた。彼らにはラナーが中で何をやっているのか何もわからなかった。

 

 ラナーのお楽しみは昼食を終え、湯浴みが終わると始まる。朝から昼は掃除のメイドとかち合う事があるため避けた結果だ。

 

 バルブロの部屋の鍵を開け、室内に入り鍵を閉めるとラナーはまず部屋の空気を胸いっぱいに吸い込む。そして何度も深呼吸して体を部屋の空気になじませる。

 

 ラナーの体はまだ幼い。心に体がついて来られなくなると鼻血が出てしまうため聡明なラナーは準備運動を怠らない。初日にいきなりベッドルームへ入り、ベッドにダイブして鼻血を吹き、色々とダメにしてしまった事から得た教訓だった。

 

 逸る気持ちを抑えながらまずはバルブロの椅子に座る。そして机を撫で、さらに体を慣らしていく。ラナーにとってここから危険な領域へと突入する。

 

 そっと鍵つきの引き出しから紙の束を取り出す。ちなみに鍵はひとつ下の引き出しに入っていた。それはバルブロがこちらの世界へ来て文字の練習がてら書いていた日記だ。唐突に始まり、気まぐれに書いたように日付は空いており、唐突に終わっている。

 

 ただ、中身はラナーの事とお遊びの事で埋め尽くされていた。当然ラナーに読まれるとは考えてもいない。そんな日記に書かれたバルブロのラナーへの想いをラナーはハンカチで鼻を押さえながら読み始める。お遊びに関する改善点や悪かった所は多々書かれていたが、ラナーへの否定的な考えは全くなかった。

 

 ラナーへの称賛とラナーのかわいく思った仕草や言葉が情熱的に書かれており、ラナーはそれを読みながら鼻血が出るまで限界に挑戦する。鍵を得てから2ヶ月経った今でもラナーは未だ最後まで読み終えた事はなかった。

 

「ふぅ……。ここからが山場です。一度休憩を挟みましょう……」

 

 聡明なラナーが以前読んだ所を忘れる事はない。むしろ一度読んだ所はすべて暗記していた。しかし、ラナーは最初から読む。二度目は続きから読んだのだが、いきなりだったせいか鼻血を出す結果になってしまったからだ。記憶にあったとしても読むという作業が入る事で体への負担は計り知れなかった。

 

 一度机を離れ、深呼吸をし、心臓の鼓動が落ち着くのを待つ……。そして準備が終わるとラナーは戦いに挑んだ。

 

「くっ、やはり……。が、我慢ですわ……。落ち着いて、落ち着くのです……」

 

 その日の内容はバルブロがボウロロープ候の縁談をお断りした時の出来事だった。ラナーがバルブロを呼びに来た近衛兵に聞かせないためにバルブロの太ももの上に横座りし、抱きついた時の事がバルブロの視点で書かれていた。

 

 ラナーはバルブロが豹変したあの日からバルブロを堕とすため、メイドから恋愛に関する話を聞きだし、吟遊詩人(バード)の話を聞きだし、男女の情事についての知識を深めていった。さすがにR-18物はメイドも避けたが、ラナーの聡明な頭脳はすべて理解していた。

 

 そして、血のつながった妹とのそういった事を避けようとするバルブロが許容するギリギリを常に見極めていた。バルブロは心に余裕がなくなるとそういった事に対するガードが甘くなる。ラナーはそう考えチャンスがあれば行動に移した。その行動の一端がアレだったのだった。

 

 メイドから聞いた吟遊詩人の話の中にあったシチュエーション……。それを基にした行動だったのだが、ラナーにとっても予想外の破壊力があった。平静を装っていても胸の高鳴りが抑え切れなかった。

 

 そんな時バルブロはどう感じていたのか……。その日の日記のラナーに関する所はラナーの体の柔らかさと香りに重点が置かれていた。普通ならドン引きである。しかし、それを初めて読んだときラナーは三枚のハンカチを真っ赤に染めた。

 

「ハァハァハァハァ……、お兄様……。いけませんわ、そんな……。ハァハァ―――」

 

 ラナーの鼻を抑えるハンカチが赤く染まっていく……。ラナーはこの山場を越えた事はない。しかしラナーはさらに二つ山があるだろうと推測し、その事を同時に考えてしまい興奮を抑え切れなかった。

 

 二つ目の山場はラナーが鼻血を出し、バルブロが駆けつけた時の事、三つ目の山場はラナーがバルブロの首に首輪をつけ、ラナーがネックレスをかけてもらった時の事だ。しかし、最後まで読んだときラナーは落胆するだろう。

 

 二つ目の出来事はバルブロにとって緊急事態に対処しただけであり、それどころではなかったため、対応策が書かれていただけだった。三つ目はその日のうちにエ・ランテルへ旅立ったため何も書かれていない。

 

 今日も耐え切れなかった己の体に口惜しく思いながらラナーは持って来たポーションを一口飲み鼻血を止めると、今日も読破を諦めた。汚れたハンカチをしまい、予備のハンカチを取り出し日記を元あった場所へ戻す。

 

 そう、日記だけではないのだ。日記を読むだけにすべてを費やす訳にはいかないのだ。

 ラナーは奥の部屋へと続く扉の鍵を開け、ベッドルームへと入った。そして深呼吸し、状況を把握しながら気持ちを落ち着ける。

 

 2ヶ月前、初めてこの部屋に入った時はまだバルブロの匂いを残していた。しかし、失態を犯した事により血なまぐさい香りが染み付き、薄れていき、今ではほとんどひとつの香りしか残していない。

 

 主のいない部屋に香りが戻る事はない。当初その事をラナーは悔やんだ。そして血に染まっていたはずのホコリ避けのシーツと上掛けが交換され、真新しい物になっているのを見た時ラナーは気付いた。そう、ラナーが入る前にすでに一度取り替えられていたのだ。当然である。

 

 そして、ラナーの聡明な頭脳はひとつの答えを導き出した。

 

 

 

 ―――これから始まるは神聖な儀式。一瞬の油断も許されなかった。

 

 ラナーは部屋の四隅に自分の髪を一本ずつ落とすとベッドを囲む天蓋にかけられたカーテンをそっとかき(いだ)く。皺を作らないよう細心の注意が必要だった。皺が出来ては交換されてしまうかもしれないのだ。決して汚してはならぬ、微細な力加減と精神力を要する儀式である。

 

 すべてのカーテンに他の香りがする事の無くなるまで、かかる所作を繰り返し、次なる儀式へと取り掛かる。ラナーは儀式のため、身に付けた装飾品を丁寧に外し、靴と靴下を脱ぐと精神を保つ。

 

 そしてホコリ避けのシーツを丁寧に捲り、ドレスが皺にならぬようベッドへと入る。すでにバルブロの香りはなく、ただそこにはベッドがあるだけだ。そこに横になる事自体に危険はない。

 

 しかし、一瞬の油断が鼻からの出血をもたらすのだ。そう、油断し、バルブロがこのベッドで自分の匂いに包まれて眠る事など断じて考えてはならぬのだ。

 

 ラナーは務めて平静にスリスリと儀式を施す。しかし、幼いラナーにこの儀式は上級すぎた。鼻に当てたハンカチに出血の痕跡が付くたびポーションを一口飲み出血を止める。ポーションを飲みながらでも続けねばならぬ神聖な儀式であった。

 

 そしてすべての儀式が終わる頃にはすでに時は夕刻となり、ラナーはベッドルームを元通りにし、身だしなみを整える。そしてバルブロの部屋にある鏡でドロリと溶けた表情を部屋に入る前のものに戻すとラナーは部屋を後にし、自室へと戻る。

 

 ―――儀式を行った形跡を残すは血に汚れた二枚のハンカチと空のポーションビンがひとつだけであった……。

 

 

 

 

 




 い、いかがでしたでしょうか。想定ではバルブロが戻ってくる時の別視点のお話を書くつもりだったのですが、なぜかこんな内容になってました。アルベド様が大丈夫なのだからきっと大丈夫なのでしょう。今となっては本当にR-15か謎になってます。R指定いらなかったかな? 最初はクライム君視点だったんやで……?(涙

 あ、気付いた方はいると思いますが、後半はシグルイ調にしてみました。

次回は未定ですがバルブロ王子の帰還を別視点で予定しております。ではまたー!

ノム様のご指摘により日記帳を羊皮紙から紙に変更しました。ご指摘ありがとうございました。







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