オバロ転生憑依もの   作:しうか
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バルブロ:主人公。王国の第一王子。原作より頭の中身が劣化中
ラナー:ヒロイン。第三王女。原作より色々と悪化中
騎士:グリフォンに吹っ切られて常識も吹っ切られた
従者:言われた事はなんでもするスペシャリスト集団
ブルムラシュー候:お金大好き大貴族。騎士団怖い
ジルクニフ:帝国の皇帝陛下(即位直前)。原作通りラナー嫌い


14 帝都到着

 この世界の住人の朝は早い。日の出と共に起きだし、朝早くに宿を引き払って出発する。そして何度か休憩を挟み、夕方前には次の町へ到着し、日が暮れる頃にはベッドに入る。帝都アーウィンタールに到着するまでそんな日程だ。

 

 つまり、ほとんどグリフォンに乗って過ごすためとても暇だ。たまに出てくるゴブリンやオーガ、魔法詠唱者(マジック・キャスター)の混じっている賊などは格好の遊び相手である。盗賊や山賊に魔法詠唱者(マジック・キャスター)がいたり、魔法やマジックアイテムで姿を隠していたりする。そんな所は帝国っぽくてお国柄がよく現れていると思った。

 

 そんな訳でその日が暇で詰まらない一日になるか、楽しい一日になるかはすべて遊び相手が現れてくれるかどうかにかかっている。

 

 つまり全力で探し、王国騎士団(ライバル)と争って全力で遊ぶのだ。最初はひとりで突っ込んだ。当然のように騎士アントンに怒られた。うむ、わからぬでもない。いくら暇だとはいえ抜け駆けはよくないのだ。というわけで目標を見つけたらお知らせしてみんなで一斉に獲物の取り合いになる。

 

「今日は多いな。目標! 1時に3 2時に3 10時に9! 適当にバラけろ!」

「王国騎士団突撃ぃぃいいい!」

「うおおおおおお! 団旗を掲げろぉぉおおお!」

「王国騎士団に栄光あれぇぇぇええ!」

「はっはっは! そこか! 〈魔法の矢(マジック・アロー)〉!」

 

 ククク、当然俺は多い所へ突撃だ! 姿を隠していようと視えているのだよ! あっははははは!

 

「ククク、視えているぞ? その首もらったぁぁぁぁああああ!」

「まっ、待ってくれ! 俺たちは―――」

「何だあれ! なんなんだコイツらは!」

「グリフォンなん―――ぎゃあああああああああ!」

「ふ、ふざけ―――がはぁっ!」

「ええい、引くな! 〈火球(ファイヤー・ボール)〉! な、なっ!?」

 

 でっかい火の玉が剛速球で飛んできた! 魔法こえぇ! だがラナー様の署名入りランスで叩きつけると魔法は掻き消えるのはすでに実証済みだ。ラナー様の署名入りランスすげぇ!

 

「ふっ、ふはははは! 往くぞ、グリフォン! 〈突撃(チャージ)〉〈突撃(チャージ)〉〈突撃(チャージ)〉!」

「まっ!―――ぎゃああああああ!」

 

 うむ。今日は楽しい日になったようだ。ちょっとグロい死体が大量生産された。初めて山賊を狩った日はちょっと落ち込んだが、ゴブリンやオーガを狩ってる時点でお察しである。そして従者達が死体(たからばこ)を漁っていろいろと回収して遊び相手を探す作業に戻る。

 

 ついでに初めて山賊を狩った時にブルムラシュー候から生け捕りにして欲しいと言われた。ブラムラシュー候だと思ってた。理由を聞いたら情報が欲しいとかお金になるとか言われた。

 

 情報はともかくお金は大切だ。特にお小遣いは大切だ。賞金首でもいたのだろう。というわけで従者に首を取ってもらってブルムラシュー候の馬車に投げ込んでもらったらやっぱりいいって言われた。きっとブルムラシュー候も面倒くさくなったのだろう。

 

 そもそも帝国の賊は色々高そうな物をたくさん持っているのでおいしい相手だ。帝都に着いたらいらない物は売り払って騎士団で山分けだ。当然使えそうなものは騎士団で使う。

 

 

 

 そんなこんなでやってきました帝都アーウィンタール。ジルクニフさんのお使いでニンブル・アーク・デイル・アノックさんがお出迎えしてくれた。激風でお馴染みのニンブルさんだがまだ四騎士ではないようだ。

 

 整備された石畳の上をかっちゃかっちゃと進み、高級住宅街に入るとジルクニフさんが用意してくれた王国からのお客さん用の屋敷に入った。色々な国からお客さんが来るので宿だと不都合があるそうな。

 

 屋敷はいくつか用意されており、俺とラナー様とブルムラシュー候は同じ屋敷だ。王国騎士団やブルムラシュー候の私兵たちはお隣の屋敷に詰め込まれた。警備は帝国騎士がやってくれるそうな。

 

 お付になった騎士は主にニンブルさんともう一人。ニンブルさんはかなり若い。というわけで年齢の近い俺とラナーのお付になってくれるそうな。もう一人は主役のブルムラシュー候のお付だそうだ。ついでにアーウィンタールに滞在している間はグリフォンには乗らないで欲しいと言われた。

 

 うむ、そもそも街中でグリフォンに乗るのはあまりよくないだろう。

 

「うむ。ニンブル殿。よろしく頼む」

「ええ、こちらこそよろしくお願いします。ところでご予定などおありでしょうか」

「ふむ。ラナー、予定はあるのかい?」

「いいえ、お兄様。でも折角来たのですからお兄様と一緒に帝都の中を見て回りたいですわ」

「うむ、俺も見て回りたい。ニンブル殿、頼めるだろうか……」

「はい、お任せください」

「うむ。よろしくお願いする」

「まあ! ふふっ、お兄様、楽しみですわね」

「うむ」

 

 というわけでニンブルさんの案内で帝都観光を楽しむ事になった。とりあえず他国で王子様をやらないといけないのだが、ひたすら「うむ」と言うくらいしか思いつかなかった。いつか特技に偉そうにする事と書いた気もするが気にしてはいけない。ちなみにジルクニフさんの戴冠式は一週間後だから最低でも一週間は帝都に滞在する事になる。

 

 

 

 翌日、ニンブルさんが朝早くから訪ねて来てくれたので、ラナーと三人で行きたい場所をピックアップした。個人的に行きたい場所は帝国の遊び……練兵場と魔法学院と市場とお店巡りだ。

 

 原作でも錬度の高いと言われていた帝国騎士(ほんもの)のランスチャージを是非とも見てみたい。それに近衛で採用されているというヒポグリフ部隊の見学もしたい。できればヒポグリフの装備一式持ち帰りたいほどだ。

 

 魔法学院も見学したい。いくつか魔法を覚えたいし、是非とも魔法の矢(マジック・アロー)は習得したい。

 

 そんな感じでニンブルさんに言ったら軍事関連は戴冠式の準備があるので無理だそうで、魔法学院も見学した所でそんなに早く覚えることはできないそうだ。残念である。

 

 ちなみにラナー様はお店巡りだけだった。欲しい物リストをニンブルさんに渡していた。俺に残された選択肢も市場とお店巡りだけだった。俺の欲しい物はヒポグリフの装備一式くらいだ。あとはラナー様へのプレゼントだけなので、それが見つかるかは運に任せようと思う。

 まぁ、つまるところ連日馬車で帝都内を巡り、ラナー様とのお買い物で帝都を味わい尽くすしかないわけだ。

 

 ちなみに帝都アーウィンタール名物の闘技場はあまり興味がない。賭け事は苦手だし、馬上槍試合もないだろう。それにあそこは俺tueeee系主人公しか輝けない場所なのだ。それにラナー様には似合わないだろう。

 魔法省? フールーダおじいさんに会っていいのは第八位階以上を使える魔法詠唱者だけだ。俺は会うためのフラグが圧倒的に足りない。

 

 お店はニンブルさんが帝国騎士を連れて案内してくれるそうなので、こちらは冷やかしながらお金を落とすだけでいいそうだ。アレ? なんか転生前の世界にそんなシステムがあったような……。うむ、気にしないようにしよう。

 

 ただ、初日はまだ予定が決まってなかったので馬車で帝都内観光だそうだ。行きたい場所があったら優先してくれるらしい。

 

 ニンブルさんを先頭にラナー様に腕を貸しながら屋敷を出ると屋敷の前に帝国騎士に囲まれた箱型の馬車が止まっていた。貴人は歩いて買い物などに行かないそうだ。まぁ近くのコンビニに車で行くような感覚なのだろう。そこは問題ない。しかし―――

 

「ううむ……。箱型か……。壊れないか心配だな」

「ふふっ、そうですわね(壊れるような事をされてしまうのでしょうか。ドキドキ)」

「え? いえ、ご安心ください。周りを帝国騎士が護りますし、この馬車も頑丈に出来ておりますのでそのような心配はいりません」

 

 ラナー様を乗せる前に中を改める。実はマジックアイテムで中がめちゃくちゃ広いというわけではなく普通に向かい合わせの座席がある四人乗りの馬車だった。

 

 HAHAHA 言(逝)ったな? ニンブル!

 

「そうか? ではお言葉に甘えるとしよう」

「ふふふふふ、お兄様と―――」

 

 ラナー様に腕を貸していて片方は埋まっている。もう片方もラナー様から頂いたランスで埋まっている。つまり両手にラナー状態だ。役得万歳なこの状態を崩すつもりは毛頭ない。むしろアーウィンタールにいる間、一日にどのくらい続けられるか挑戦するつもりだ。

 

 10mほどある金ぴかランスで馬車の天井を内部から突き破り、ランスを固定してからラナー様をエスコート。俺もラナー様の隣に乗り込む。うむ、完璧だ。挑戦はまだまだ続けられそうだ。

 

 しかしニンブルさんがなかなか入ってこない。向かい合わせの席だからてっきり対面にはニンブルさんが乗り込むものだと思っていた。まさか兄妹で同じ側の席に座ると思っていなかったのかもしれない。そう、兄妹(きょうだい)であって恋人や婚約者ではないのだ。

 

 これはやらかしたかもしれない……。どうしよう。

 

「ラナー。もしかして座る場所を間違えただろうか」

「いいえ、お兄様。これが正しい(愛の)あり方ですわ」

「そうか。うむ、ならば問題ないな。なでなで」

「ふふっ、ふふふふふ……。このまま二人きりでも良いかもしれませんわね」

 

 ふむ、狭い馬車の中でラナー様と二人きり……。それは色々と問題があるだろう! いや、嬉しいけど! 座席も狭くて密着してるし! だがしかし妹よ、我々は血の繋がった兄妹であるからして―――と、とりあえずニンブルさんを呼ぶことにしよう!

 

「ニンブル殿はお乗りになられないのか?」

「はっ!? し、失礼しました」

 

 ニンブルさんが乗り込んだので帝都内馬車ツアー出発である。馬車が進み始めるとニンブルさんが挙動不審気味に金ぴかランスと俺とラナーにキョロキョロと視線を動かし、ためらいがちに聞いてきた。

 

「その、殿下。大変失礼かとは存じますが、その馬上槍(ランス)は一体……」

「うむ。ラナーが贈ってくれた物だ。ほら、ここにラナーの署名があるだろう?」

「はぁ……。いえ、その、騎士に預けていただければお運びいたしますが……」

「ふむ、しかし俺は(ラナー様が言ったから)片時も手放すつもりはないのだ。すまんな」

「ふふっ、お兄様ったら……」

 

 ラナー様が照れているが、あれだろう……、小さい時に書いた「パパ大好き」みたいなのを他人に見られた時のような恥ずかしさなのだろう。両手を頬に置いてイヤンイヤンしながら照れるラナー様は本当にかわいい。

 

「そうでしたか……。しかし、王宮では預けていただく事になるかと存じますが……」

「ああ、うむ、確かにそうだな。なるほど……。しかし、皇帝陛下の戴冠式に出席するのはブルムラシュー候だったはず。ニンブル殿も出席されるのであれば我々はその間屋敷でおとなしくしているとしよう」

「え……」

 

 うむ。ぶっちゃけ切れる世代のジルクニフさんに会うのはこちらからもご遠慮したい。こんな所で口実が出来てよかった。持っててよかったラナー様署名入りランス。

 

 そもそも戴冠式にはブルムラシュー候が出席する事になっており、彼が出席すれば何も問題はないはずだ。なんならラナー様に祝電みたいなものを書いてもらい、俺が署名したものをブルムラシュー候に渡すのもいいかもしれない。

 

 ただ、ニンブルさんも出席したいだろうし、その間は屋敷でおとなしくしておくべきだろう。大人の対応というやつである。

 

「お兄様! それでしたらお屋敷でお茶会をいたしませんか?」

「うむ。ラナーと一日お茶会か。うむうむ、そうしようではないか。なでなで」

「はい。折角ですからドレスも仕立てましょうか」

「おお、よいのではないか? この際だから帝国風のものをいくつか仕立てようぞ」

「ふふふふふ。お兄様ったら……」

 

 ラナー様と一日お茶会か。すばらしい。しかも帝国風の色々なドレスも仕立てるとか! なお帝国風がどんなものかは知らない。知らないが王国風とは違うのだろう。ああ、夢がひろがりんぐである。そう、プレゼントに悩む必要などなかったのだ。

 

 ラナー様に服を贈る→ラナー様喜ぶ→俺も眼福

 

 ひとつの贈り物で二人の人間が喜ぶ。そんなすばらしい物があったのだ! これは仕立て職人を拉致していくべきだろうか。とりあえず布は大量に買い込もう。お小遣い足りるだろうか……。それだけが心配だ。レエブン候め、お小遣い稼ぎの冒険者プレート(スペシャルアイテム)を奪いおってからに……。

 

「よし! ニンブル殿。ドレスを仕立てに参るぞ! 案内せよ!」

「え? は? はっ! りょ、了解しました」

 

 ニンブルさんが御者に行き先変更を告げると、馬車の動きが少し速くなった。ドレスを仕立てることになって興奮したのか、ハァハァと荒い息を吐くラナーをなでなでして落ち着かせながら布を取り扱う皇帝御用達の商会へと向った。

 

 

 

 side ニンブル・アーク・デイル・アノック

 

 ジルクニフ皇帝陛下から今回の任務を内々に申し付けられた。近々戦争する予定の隣国、リ・エスティーゼ王国から戴冠式にやって来る王国の第一王子と第三王女の相手をし、情報収集に努め報告するようにとの事だ。

 

 二人の護衛も兼ねるのだが、命を賭けてまで護る必要はないとも言われている。政変直後のきな臭い混乱の中で、それが何を意味するのかはわかっていたが、そのような事を表情に出すようなことはない。

 

 皇帝陛下は無能や腐敗した貴族には厳しいお方だ。すでに処刑された貴族も多い。役職を外されるだけならばまだマシな方だろう。アノック家はまだ何も起こってないが、安心はできない。むしろ家の者全員で協力して能力を売り込んでいかなければならない時期だ。

 

 皇帝陛下の帝国四騎士に内々に選ばれてはいるがまだまだ功績を積み上げる時期だろう。王国から来た王族のお付を命じられたのも信頼されているからだと思いたい。ただ、グリフォンに乗ってやってくるだろうから帝都にいる間はグリフォンから引き離せと命じられた。

 

 グリフォンか……。実際に見たことはないがヒポグリフのようなものだろう。確かに帝都上空を飛ばれるのは良くない。まぁ馬車を用意しておけば問題ないだろう。

 

 

 

 初めて会った王国の王族、バルブロ王子とラナー王女はお二人とも一度見たら忘れないだろうお方たちだった。

 

 帝都の門までお迎えに上がったのだが、そもそもグリフォンが想定以上に大きかった。しかも自分を見下ろす大きな猛禽類のような鋭い嘴とそれに合わせたような大きな爪を持つ前足に畏怖を隠せなかった。

 

 そしてそれになんでもないかのように騎乗する見た事のない装束の小柄な騎士。彼の持つ特徴的な大盾と長大な黄金のランスに脅威を感じた。

 

 皇帝陛下が引き離せとおっしゃった意味がわかった。こんなのに歩き回られては混乱するだけだろう。しかも王国騎士団を名乗る人間は全員スレイプニールに騎乗し、その中でも10名ほどは同じ長さの黄金のランスを掲げている。

 

 帝国騎士は基本的に魔化された装備を支給され、四騎士になれば専用の豪華な装備に身を包む事になるのだが、王国の騎士団がこのような豪華な装備に身を包んでいると今までの自信が揺らぎそうになった。

 

 見た目だけ。そう、黄金の槍など見た目だけの儀仗用だろう。きっと金箔が貼られているだけで軽いに違いない。グリフォン以外は帝国が圧倒しているはずだ。

 

 バルブロ王子がグローズドヘルムのバイザーを上げ、口元を覆う管つきの金属製のマスクを片側だけ外すと名乗りをあげた。

 

「王国騎士団バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフである。此度の戴冠式に出席するブルムラシュー侯爵をお連れした」

「はっ! 承っております。私はニンブル・アーク・デイル・アノック。皇帝陛下より皆様をご案内するよう仰せつかっております。以後お見知りおきを」

「うむ。よろしく頼む」

 

 王国騎士団を名乗りながらもバルブロ王子はとても偉そうだった。いや、実際お偉い方なのだろう。しかし、苛烈でありながら意外と気安い面のある皇帝陛下に接しすぎたのかそれが際立って感じた。

 

 この場でグリフォンから降りていただくわけにもいかないので、王国からの客人用に用意された屋敷へ案内し、グリフォンを厩へ入れてもらった。そのあたりは王国騎士団の従者がすべて行ったが、彼らはグリフォンに慣れているのか怖れているようなそぶりはなかった。案外おとなしい動物なのかもしれない。

 

 バルブロ王子とラナー王女はそれぞれ部屋に入り旅装を解くと改めて自己紹介した。皇帝陛下の話によるとバルブロ王子は14歳、ラナー王女は7歳との事だ。

 

 バルブロ王子は気を張っているのか王族然とした態度を崩さないが、何気に私の事を家名のアノックではなくニンブルと呼んだ。意外と気安いのかもしれない。それに金のランスを手放さないあたり、お気に入りの物を持ち歩く癖もあるのだろうか。

 

 どうしてもお歳の近いジルクニフ陛下と比べてしまい、見た目と態度からバルブロ王子の教育不足と精神的な幼さに目がいってしまった。

 

 ラナー王女はそんなバルブロ王子にべったりだった。7歳という年頃を考えれば兄に甘えるのもおかしくはない。ただ、王族や貴族がそういった事を許すかと言われると違和感が残るが私にも妹がいるのでわからなくはない。

 

 それに何よりラナー王女は7歳という歳ながらすでに美しかった。黄金の髪は長く後ろに艶やかに流れており、柔らかく笑みを浮かべた唇は桜の花の如くで、深みのある青の瞳はどんなブルーサファイアをも越えるだろう。

 

 このような女性を今まで目にしたことはなかった。皇帝陛下の妃として迎える事ができればさぞや絵になる事だろう。

 

 そんな二人を観察し、希望を聞いた後、準備のために戻る事を告げて皇帝陛下の下へ戻る。報告を口頭で行うためだ。ラナー王女から渡されたリストは陛下の秘書であるロウネ・ヴァミリネンに渡しておいた。彼ならば滞りなく揃えてくれるだろうし、問題があれば陛下に直接報告してくれるだろう。

 

「―――それでどうだった? 会う価値があると思うか?」

「初日ですのでなんとも……。ただラナー王女には会っておくべきかと感じました」

「そうか……。明日また聞こう。下がってよい」

「はっ!」

 

 陛下にラナー王女に会ってみてはどうかと進言すると陛下は人目を憚らず思いっきり顔を歪めた。直接会うのに余計な先入観を抱かぬよう事前調査の結果を聞かされていないが、陛下がそれほど嫌がるような人物なのだろうか。

 

 戴冠式(ほんばん)までまだ時間はある。それまでに自分で見極めなければならないだろう。そう思うと少し荷が重く感じた。

 

 

 

 翌日、手配した馬車と共に帝国騎士団を連れてバルブロ王子とラナー王女の滞在する屋敷を訪れた。帝都散策にうきうきとした表情を隠せていないバルブロ王子と幼いながらも美しいラナー王女が迎えてくれた。そして三人で行き先を相談し出発することになったのだが、問題はバルブロ王子が馬車に乗る時に起きた。

 

 ためらいがちに馬車が壊れないか心配したバルブロ王子に馬車の頑丈さをアピールしつつ大丈夫だと答えた私は悪くないと思う。王子が暗殺を警戒しているのだと思ったから出た言葉だったのだ。それにまさかあの長大なランスが飾りではなく本物だと思わなかった。

 

 バルブロ王子は「そうか? ではお言葉に甘えるとしよう」と言いながら馬車の中にランスの穂先を入れると容易く天井を突き破り、ランスを無理やり馬車に収めた。バカなのだろうか。頭がおかしいのだろうか。輝くような笑顔でソレを見つめるラナー王女にも疑問が生まれ、陛下の歪んだ顔が頭に浮かんだ。

 

 そしてその直後、その認識が正しい事を知った。知ってしまった。知らなきゃよかった。

 

 馬車が走り出し、ギシギシと嫌な音を立てる車内でランスに疑問を覚えた。儀仗用などではなく本物なのはもはや間違いない。しかし、できれば情報を集めるためにもどの程度の物か知りたかった。だが自分の剣や槍を気安く見せるのはコレクターくらいだろう。バルブロ王子がランスについて教えてくれるかはわからなかった。

 

 しかし、バルブロ王子は馬車の天井をミシミシ言わせながら気安く見せてくれた。予想以上に重かった。だが驚くべきはそのランスにラナー王女のメッセージが署名入りで刻み込まれていた事だった。

 

 『バルブロお兄様へ

   永遠の愛を誓います

    ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ』

 

 ……なんて言っていいかわからなかった。ラナー王女の反応からこのメッセージは本当の事なのだろう。何でもないように見せるバルブロ王子も怖かった。確かに歴史を振り返れば近親婚も存在するが、この歳でこのような状態になっている兄妹など考えたくもなかった。

 

 それでいいのか? リ・エスティーゼ王国……。

 

 しかも、バルブロ王子はそのランスを片時も手放すつもりはないようだ。その辺りは正直どうでもいい。しかし、その直後目の前で起こった出来事の方が衝撃的だった。

 

 ラナー王女が目の前で自分の首から下がるペンダントをこっそりバルブロ王子の首輪に連結したのだ。ただの装飾品だと思っていたのだが、まさかそういう物だとは思わなかった。しかも、ラナー王女の表情がドロリと歪み、ハァハァと息を荒くしていた。

 

 バルブロ王子はラナー王女の隣に座っているから気付いていないのか……、それとももはや慣れたのか……。どちらにせよ許容している様子だった。

 

 今日は陛下に謝ろう。心の底から謝罪しよう。そしてお付の騎士の役目を誰かと交代してもらおう。

 

 私の心がガリガリと削れていくのを感じた……。

 

 

 

 




ニンブル・アーク・デイル・アノック
 帝国四騎士の激風さん。今回の被害者。web版ではアインズ様の虐殺現場を見せられたり、アインズ様に振り回されてジルさんに怒られた。アノック家の次男。長男が家を継いだ模様。他に姉と妹がいる。原作では未婚で婚姻関係で頭を悩ませているらしい。家族内の仲はいい。お茶が大好き。


魔法詠唱者(マジック・キャスター)の混じっている賊
 ワーカーや帝国の特殊部隊です……。魔法詠唱者(マジック・キャスター)がいる時点で当然ただの賊ではありません。ラナーとブルムラシュー候だけが気付いています。

死体(たからばこ)
デモンズソウルやダークソウル界隈ではこのルビが正しかったはず……


タチャンカ様 タクサン様
誤字修正ありがとうございました







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