オバロ転生憑依もの   作:しうか
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バルブロ:主人公。ラナー中毒になりかけ
ラナー:ヒロイン。バルブロ中毒
ジルクニフ:皇帝。陰謀中毒
フールーダ:魔法中毒
ロウネ:仕事中毒
ラナー付のメイド:健常者


16 お茶会

 バハルス帝国、帝都アーウィンタールでは新たな皇帝を迎えるべく、街中がにぎわっていた。戴冠式自体は皇城で行われるものの、アーウィンタールの主要な道や建物、商会や貴族の屋敷などには旗が掲げられ大通りには完全武装の帝国兵が旗を持ち、整然と並んでいた。

 

 否が応にも高まる熱気に国民は祭りの雰囲気に財布を軽くし、露店では書き入れ時を逃すことなく売り上げをあげていった。酒場では皇帝万歳の声が木霊し、一部を除き帝都全体が沸いていた。

 

 そんな中、リ・エスティーゼ王国に貸し出された屋敷の中では二人だけの静かなお茶会が始まろうとしていた。

 

 ラナーの希望で王都の王宮にいた頃のようにラナーの下へバルブロが招かれる形となった。バルブロは、ラナーがホームシックになっているのだろうと考え、その事に特に疑問を覚えなかった。その部屋ではラナー付のメイドが準備に勤しんでいた。

 

 ラナーは朝起きて表情を整えると、湯浴みをし、昨日本縫いの終わったばかりのドレスを並べた。女性の服選びは時間のかかるものだ。選ぶ対象が複数、それも数が多ければ多いほど指数関数的にかかる時間は長くなる。

 

 女性にとって服とは鎧ではなく武器なのだ。しかし、ラナーにとって幸いな事にその武器を向ける相手は決まっている。そしてその相手に合わせて作られた武器はすでにいくつも準備されている。

 

 だが、その武器が強力すぎてはいけない。騎士団を前にしたゴブリンのように相手に逃げられる恐れが高くなるためだ。その見極めだけがラナーの聡明な頭脳を悩ませた。

 

「やはり、これは短すぎるかしら……」

「はい、さすがに短すぎるかと……」

 

 ラナーは本命のドレスを着て鏡の前に立った。ラナーの選んだドレスはヒザが見える程度の丈のワンピースのような形をした水色のドレスだった。高級な生地とレースをふんだんに使い、ふんわりとしたイメージを抱かせる作りだが、王国風の物と比べるとずいぶんと丈が短かった。

 

「いえ、今日はこれにしましょう」

 

 武器が決まったら次はその武器の習熟が必要だ。ラナーは色々な動作を取り、動いた時にふわっと広がるスカートがどの程度広がり、どこまで見せても大丈夫かを徹底的に研究した。そして力加減を覚えるため、何度も回ったり歩いたりを繰り返した。ラナーが一番こだわった部分である。

 

「ふふっ、でもお兄様の好みを知れてよかったです。帝国風のドレスはみな丈が短いみたいですよ? 平民の服はもっと丈が短いみたいですし……。」

「そ、そうですか……。ラナー様はどのようなお召し物でもお似合いかと存じますが……」

「ありがとう。でも今日はお祭りでしょう? でしたら少しくらい浮かれていても大丈夫でしょう」

「そ、そうですか……」

 

 やんわりと王国風のドレスにした方が良いというメイドの声はラナーに届かなかった。そして着付けやドレス選びのために呼ばれたはずのメイドはひたすら鏡を持ちながらそれを見守るという苦行を強いられた。

 

 ラナーは椅子に座った時の丈の位置を確認し、お付のメイドに鏡を持たせ、少しかがんで緩く作らせた襟元から見える範囲を確かめ、お茶を入れる動作、食事をしている時の動作、それらがどう映るかを見極めた。

 

 お付のメイドはラナーの職業、アクトレスを存分に活かした予行演習に付き合わされた結果、ドン引きしつつも、ただひとつどうしても言いたい事があった。

 

 ――何で相手がご自分の兄なのですか? 帝国に来ているのに何で相手は皇帝じゃないんですか? と……。

 

 

 

 side バルブロ

 

 今日はようやくやってきたラナー様とのお茶会である。外はジルクニフさんの戴冠式でお祭りのようだが、俺にとっては関係ない。いや、厳密に言えば関係あるが、ブルムラシュー候に祝電を持たせたので問題ないはずだ。大体、そういった行事に参加させたいのであれば第二王子のザナック(未遭遇)を連れて来るべきだろう。

 

 まぁ、ぶっちゃけ戴冠式やパーティなどよりラナー様とのお茶会の方が重要なだけだ。特にラナー様が着ているであろう帝国風ドレスとやらに大変興味がある。王国風はラナー様の普段着といったイメージだが、帝国風だと一体どのようになるのだろうか……。

 

 帝国内を馬車で巡り、色々な帝国民を目にしたハズなのだがラナー様が気になったりニンブルさんの説明を聞いたりで帝国風ファッションに関して全く記憶にない。

 

 しかも、ラナー様のドレスを買うために材料は買ったが仕立てに関してはラナー様が秘密にしたいとの事で全く関わっていない。

 

 うむ。やはり何度考えても戴冠式などよりラナー様とのお茶会の方が重要だな……。

 

 

 

 そんなこんなでラナー付のメイドに案内されてラナーの部屋へとやってきた。位置はわかっているし、すでに何度か訪れているのだが、形式というのは大事なのだ。多分。

 

「ラナー様。バルブロ様がいらっしゃいました」

「お通ししてください」

 

 室内に入ると、外を眺めていたラナー様が振り返った。その時ドレスの裾がふわっと広がり、まだ見た事のなかったラナー様の太ももを晒した。しかも、襟元が緩く作られていて鎖骨が見えている。

 

 帝国風ドレス……、恐るべし……。

 

「ふふっ、ようこそいらっしゃいました、お兄様。さぁお入りになって?」

「う、うむ。よく似合っているぞ、妹よ」

「まぁ! ありがとうございます。ふふっ、でも少し恥ずかしいですわ」

 

 ラナー様が恥ずかしがりながら頬に両手を当ててイヤンイヤンするたびにドレスの裾が揺れて太ももがちらちらと見えた。だがそのような視線誘導が兄に通じると……、クッ、どうしてもそっちに目がいってしまう……。

 

「そ、そうか? うむ……。確かにその……、いや、ラナーのかわいさを存分にだな……」

「ふふふふふ、今日は二人だけのお茶会ですから、細かい事は気にせず楽しみましょう」

「うむ、そうだな」

「さぁ、お座りになって?」

 

 ラナー様はそう言って手を取って誘導してくれた。椅子に座ってラナー様がお茶を入れる姿を見ていると、鎖骨が見えている胸元の奥がちょこっとだけちらりちらりと見え、どうしてもそちらに視線が誘導されてしまう。

 

 この体になる前はもっと短いスカートを履いた女性を何人も見た事はあった。しかし、ここまで心が揺さぶられ、視線が誘導されるような事はなかったはずだ。俺はチラリズムを侮っていたのか? いや、チラリズムの恐ろしさは充分理解している。熱心に研究も行い資料もたくさん集めた。

 

 ふむ、普段お淑やかなラナー様だからこそなのか? 確かにこのような姿のラナー様を見るのは初めてだ。しかし、これを見慣れる事は果たしてあるのだろうか。そう考えるとこれが至高であると結論してしまっても良いように思える……。

 

 恐ろしい……。帝国風ドレス……。ここまでの破壊力を持っていたとは……。このようなドレスを生み出す帝国に王国が勝てるハズもない……。

 

 初日に布をたくさん買っておいてよかった。もしかしたら別バージョンもあるのかもしれない。しかし、録画媒体がないのが悔やまれる。いや、兄の威厳を保つためにも、妹との一線を越えないためにもここはがんばって見ないようにすべきだろう……。でも見たい……。

 

 ラナー様がこちらを伺う寸前に何とか目を逸らすがバレてないだろうか……。ううむ……、これは非常に集中力を要する戦いになりそうだ。ここまで集中するのは初めてかもしれない。今ならスケリトルドラゴンにも勝てるかもしれない。いや、無理か……。会った事ないしな……。

 

 そんな事を考えているとラナー様はお茶を入れ終わり、ソーサーを持って俺の前にお茶を置いてくれた。そしてラナーが席に戻り、俺がお茶を飲み始めた所でラナー様が口を開いた。

 

「ふふっ、お兄様。このドレスが気になりますか?」

「ごふっ、い、いや、うむ。そうだな、見た事のない形だから少々気になってな」

 

 思いっきり咽た。

 バレてたぁぁぁあああ! チラチラ見てたのバレてたぁぁぁあああ! 

 いや、ラナー様じゃなくて気になるのはドレスだよ? って言ったけどどう考えてもバレてるだろ! どうしよう……。ここはラナー様の慈悲にすがるしか……。

 

「ああ、お兄様。大丈夫ですか?」

「う、うむ……」

 

 ラナー様が席を立って背中をスリスリしながらハンカチで咽て飛んだであろうお茶を拭いてくれた。その際もどうしてもちらちらと見える肌に目が吸い寄せられた。どうしていいのか本当にわからない。

 

「でも本当に恥ずかしかったのですけれど、着てみてよかったですわ」

「ふむ、どうしてかな?」

「ふふっ、だってお兄様……。この国の貴族は皆このようなドレスを着るのでしょう? お兄様は女性のこのような姿に慣れてないご様子。わたくしはお兄様を信じておりますが、この国の貴族のドレスに流されてしまいかねませんから……」

「なるほど……」

 

 確かにハニトラにホイホイ引っかかりかねない。実際今のラナー様にチラチラされながら書類にサインしてと言われたら確認せずにホイホイサインしてしまうだろう。

 

 しかし、ドレスはすばらしいが、結局の所気になるのは中身だ。ラナー様よりすばらしい女性が帝国にいるだろうか……。いや、そもそもこの国のパーティや式典に出る予定はないのだが……。

 

「ですから存分にラナーで慣れてくださいませ。見慣れればそのような事にはなりませんわ」

「おお、すばらしいアイディアだ。さすがは我が妹。うむ、すまないが、その言葉に甘えて今日は付き合って貰うとしよう」

「ふふふふふ、ではお茶会を続けましょう」

 

 出る式典がなかろうが、パーティに出る予定がなかろうが関係ないのだ。ラナー様が慣れろとおっしゃるからには必要なことなのだろう。そこに疑問の余地はない。存分にラナー様のお姿を目に焼き付けて慣れなくてはなるまいて……。

 

 

 

 

 帝都アーウィンタールの中心にある皇城では諸々の行事を終えた新しき皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスが長椅子にもたれかかり、くつろいでいた。

 

 彼の横には(じい)ことフールーダ・パラダインが控えており、戴冠式と共に新たに選出された四騎士も揃っていた。目の前には書記官ロウネ・ヴァミリネンが報告を行う。

 

「―――以上で報告を終わります」

「そうか、俺の戴冠式より妹とのお茶会が重要か……」

 

 眉を寄せた鮮血帝の言葉にピリッとした空気が流れた。

 

「ああ、気にするな。想定はしていた」

 

 ジルクニフが何でもないように手を振り、緊張を解くと今度はフールーダが真っ白な長い顎鬚をしごきながら口を開いた。

 

「ふむ。しかし欺瞞や挑発だとしてもいささか浅知恵と言わざるを得ませんな」

「ククク、今は何を言っても負け惜しみに聞こえてしまうぞ? (じい)も俺もそれに騙されたではないか。だが、もう通用しないとは思っていまい。今度はこちらから仕掛ける番だとは思わないか?」

「確かにそうですな……」

 

 普通であれば他国の人間だろうが、新たな皇帝の誕生を一目見ておきたいはずなのだ。特に外国の人間であればその皇帝を目にした事があるというだけでひとつの大きな価値が生まれる。貴族や重要なポストにいる人間はもちろんの事、王族であろうと機会があれば接触しようとするし、機会がなくともできる限り近づこうとするのが普通である。

 

「すみません、陛下。俺にゃさっぱりわからんのですが、その王子ってのはそんなに気をつけなきゃならん相手なんですかい? ただ外国だからって妹と羽目を外してるだけにしか思えないんですが……」

 

 新たに四騎士として選ばれた、雷光バジウッド・ペシュメルは平民、それも路地裏出身である。騎士を目指していたところジルクニフの目に留まり四騎士に抜擢された。ただ、出自の関係もあって、能力主義のジルクニフは気軽な物言いを許していた。

 

「まぁ、普通はそう思うよな。俺もじいやニンブルの報告を聞いてそう判断していたくらいだ。先の一件がなければ今でもそう思っていただろうよ」

 

 未だに腑に落ちない顔をするバジウッドだったが、ジルクニフに促され、ロウネの口からバルブロ暗殺計画の顛末を聞くと納得した。バジウッドもイジャニーヤの噂くらいは聞いた事があった。一対一なら勝つ自信はある。複数相手でも勝てるだろう。しかし、それを一撃で複数人屠るなどバジウッドでも無理な話だ。

 

「さて、アイツの脅威が分かった所で明日にでも挨拶に行くとしようか」

「え? 危険なんじゃありませんかい?」

「それを何とかするのが四騎士だろう? まぁそういう事にはならんさ。ロウネ、計画に問題はありそうか?」

「いえ、問題ありません」

 

 ジルクニフは「そうか」と口にすると爽やかな笑顔を浮かべた。

 

 




帝国風と王国風のドレス比較について
 挿絵を見ますと、王国側のキャラは戦闘用装備以外、総じてスカート丈が地面スレスレになってるのでそういう風潮なのだと思いました。帝国キャラはほとんど記憶にないのですが、重爆さんは鎧ですし、アルシェとイミーナはワーカーだし……。ジルクニフさんは男なのに肩丸出しだし……。一応二人とも丈がミニスカ絶対領域系だったのでそれでいいかなと。なお聖王国は偉くなると絶対領域が増える模様。

王国:ラナー、ラキュース、エンリ
帝国:アルシェ、イミーナ


四騎士
 戴冠式で正式に配備された設定。原作では四人とも名前がつけられていた。ただ原作前に一人お亡くなりになっていたハズなので四騎士と言っても雷光バジウッドと重爆レイナースは確定させてあとの一人をどうするか迷い中。ニンブルさんでいいかなーと思いつつも若いかなーと……。

 お待たせしました。なんかキレがイマイチな気がしましたが、あまりお待たせするのもどうかと思い、このまま投稿させていただきました。何か色々抜けていそうで不安ががが。
 次回は騎士団がはっちゃける予定!


ジャックオーランタンさま
誤字報告ありがとうございました。

-追記-
ちょっと2~3日PC触れないので感想返し滞ります。すみませぬ。







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