オバロ転生憑依もの   作:しうか
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バルブロ:主人公。遊びすぎて知能がヤバイ
ラナー:ヒロイン。欲望に忠実すぎて中身がヤバイ
ブルムラシュー候:無理やり王国騎士団に資金提供させられた上に、前話でラナーが天然を装ってジルクニフに王国騎士団の資金源だと漏したので色々ヤバイ
ランポッサⅢ世:バルブロの社交性がポンコツすぎて胃がヤバイ
レエブン候:ラナーのせいで尽く裏目を引いてヤバイ
ザナック:今回の被害者。ニゲロ



18 ザナックくん

 帝国の闘技場はいいものだ。初めて空中戦を経験したが、ロイヤル・エア・ガードはもっとすごい展示飛行をするのだろう。あ、皇帝の戴冠式で見れたかもしれない。惜しい事をした……。いや、ラナー様の帝国風ドレ……、お茶会の方が重要だったはずだ。

 

 ただ、折角なのでもっと空中戦をやってみたい。きっと帝国の闘技場の事だから的用のヒポグリフが量産されているのだろう。初心者の俺に合わせて加減してくれていたに違いない。さすがは興行主(プロ)だ。こちらの力量に合わせた接待プレーもお手の物である。

 

 となればここはもっと興行主(プロ)に甘えて空中戦の手ほどきをして貰うのが一番だ。きっと順々にレベルアップして行き、もっと上手くなればアドバイスももらえるに違いない。

 

 そんな訳で今日も元気に闘技場へ行こうとしたらブルムラシュー候が明日王国に帰るから用意しておいてくれとか言ってきた。いや、まぁ……、付き添いがメインで闘技場はお遊びなのだからしょうがないのだが、ちょっとしょんぼりである。

 

「うーむ、了解した。しかし、今日で最後なのだから闘技場で―――」

「で、殿下! その、闘技場は予約が必要なようでして……」

「お、おう……マジで?」

「マジでございます。ですから今日は大人しくしていただけると……」

「うーむ……」

 

 ブルムラシュー候に真顔でマジと言われてしまっては大人しくしているしかない。しかし大人しくしていろと言われると余計遊びに行きたくなるのはなぜなのだろうか。勉強しようとして机に向ったつもりなのにいきなり机の掃除を始めてしまう心境もこれに似たような所がある。人類永遠の謎である。

 

「お兄様、おはようございます。ジルクニフ様より贈り物が届きましたわ」

「うむ、おはよう、ラナー。……ジルクニフ様?」

「ふふっ、気になりますか? お兄様」

 

 ジルクニフさんからの贈り物よりラナー様がジルクニフ様と呼んだ事の方が気になった。普通なら皇帝陛下などと呼ぶハズだ。いつの間にそんなに親しくなったのだろうか。確かにジルクニフさんはかっこいいだろう。実際にあった事はないが、きっとモテる男ランキング(現地勢調べ)なんかがあったらトップを争うレベルだろう。ナザリックを入れたらモモンガさん一択なのでそもそも集計する必要がない。

 

 しかし、ラナー様はジルクニフさん脳内ランキングで嫌いな女第一位に輝き続けていたハズなのだが、もしかしてラナー様はジルクニフさんの事を好きになってしまったのだろうか。それは危険だ。かわいい妹の恋を応援しないわけではないが、ジルクニフさんだけはいけない。成就してもしなくても俺の生存フラグが行方不明になってしまいそうだ。

 

「う、うむ……。その……気になるというか……」

「むー。お兄様、たまにははっきりおっしゃってください」

「うむ、頬を膨らませるラナーはかわいいな」

「そうですか? ふふっ、お兄様ったら……」

 

 「練習した甲斐がありました」とつぶやきながら頬をくにくにさせながらイヤンイヤンするラナー様いわく、ジルクニフさんとは昨日闘技場でたまたま会って話しただけで、様付けなのはその時に名前で呼び合う事になったそうだ。まぁ会う機会はないだろう。

 

 そして、ジルクニフさんからの贈り物はなんとヒポグリフの装備3セットだそうだ。太っ腹である。なんでもヒポグリフとそれに乗る騎士が減ってしまったらしい。

 

 ううむ、事故だろうか。それとも鮮血されてしまったのだろうか。どちらにしろ俺は乗れないので研究用にワンセットあればよかったのだが、ありがたく騎士団で使わせてもらおう。

 

 

 

 そんなこんなで戻ってきましたリ・エスティーゼ! と言っても特別やることがあるわけでもなく、平穏な日常に戻った。ラナー様の部屋で帝国風ドレスを堪能……、いや、視線誘導に耐えながらお茶を飲み、お昼ご飯を食べ、午後からはランスチャージごっこに励む。そんな毎日だ。

 

 父上への報告はすでにラナー様が作成したのものにサインしてあるし、そもそも俺はブルムラシュー候の道中警護で一緒に行っただけだ。きっとラナー様の報告書も『○月□日、晴れ、今日は盗賊がいっぱいで楽しかったです』とかそんな感じだろう。

 

 つまり、何が言いたいかというと……。

 

「国王陛下がお呼びです」

「ふむ、今はラナーとのお茶会で忙しい。父上にはそうお伝えしてくれ」

「いえ、必ず連れて来いとの事でしたので、お急ぎください」

 

 なぜか父上からの呼び出しがかかって近衛兵がいるのだ。今までは色々とやらかして思い当たる節がたくさんあった。しかし、今回に限ってはまるで思い当たる節がない。そしてこんな時こそ嫌な事が多いのだ。俺の勘もそう言っている。

 

「ふむ、ラナー。今回ばかりは全く身に覚えがないのだが、なんだろうか……」

「ふふっ、そうですわね」

 

 いつも優しく教えてくれるラナー様が教えてくれない。もしかしたらラナー様も一枚噛んでる可能性が出てきた。

 

 もしかしたら視線誘導に耐えるための訓練内容の報告とかもされているのだろうか。であればかなり不味い気がする。いや、帝国風ドレスに慣れるために必要なことなのだと断固言い張るつもりではあるが、物理的に引き離すために外国に送られたら困る。

 

 特に竜王国とか法国とかすごく困る。生きて帰れる気がしない。

 

 結局「慶事ですのでご安心ください」との事でラナー様に教えて貰えず近衛兵に連行された。ラナー様がそう言うのであれば大丈夫なのだろう。安心していいのだろう。……不安だ。

 

「お久しぶりです、父上」

「うむ。久しいな、バルブロよ。帰還の挨拶くらいは来ると思っていたのだが、まぁ今さら言っても無駄だろう。それで帝国の新しい皇帝をどう見た?」

 

 ふむ、どう見たも何もそもそも会っていない。そう王族語で伝えたら父上はため息を吐いた。ついでに何しに行ったのかと聞かれたのでラナー様の警護のついでにブルムラシュー候の道中警護にと答えたらなぜか怒られた。

 

 慶事とは何だったのだろうか……。ラナー様の勘も外れる事があるらしい。まぁ少しくらい外れた所で最終的に楽隠居ができるのであれば問題ない。

 

「バルブロよ。お前には期待しておるのだ。それなのになぜ王族としての自覚がないのだ」

「自覚ですか?」

 

 王族としての自覚がないのはきっとラナー様に任せて楽隠居を目指しているからだろう。なぜ期待されているのか全くわからないがそのまま言うのは憚られる。そもそも期待するならラナー様、次点でザナック(未遭遇)だろう。

 

 「全くわからない」といった感じで素で口に出してしまったのが悪かったのだろう。父上が説教モードに入ってしまった。「そもそも王族というものは~」から始まり、いつの間に練習したのか饒舌に語り始めた。

 

 つまるところ要約すると、そろそろパーティ出ろ、貴族と社交しろ、さっさと婚約者探せ、訓練はいいけどマナーの勉強をしろ、との事だ。ザナックはすでにパーティデビューも果たし、貴族と社交しまくりだそうだ。さすがはザナック(未遭遇)である。

 

 しかし午後のお遊びが訓練になっていてびっくりだ。だが、訂正してはいけない。絶対に説教が長引く。説教を短くするコツは聞いてるフリしてひたすらコクコク頷く事だ。

 

「うむ、分かってくれて何よりだ。分からぬようであれば無理やりパーティに出す事も考えたが、お前の好きそうな催しをレエブン候が考えてくれてな。そこをお前の初披露目の場としよう」

「は、ありがとうございます」

「うむ、では教育係の―――」

 

 「うむ、では」と来たら下がってよいという事だろう。とりあえずいきなりパーティに出される事にならずに済んでよかった。やはり説教回避法はこの世界でも有効なようだ。さっさと脱出してラナー様の部屋へ帰ろう。

 

「って、待て! ここからが重要な―――」

 

「なっ!? このタイミングで出て行くのか!」

「殿下ぁぁぁあああ! お話は終わってませんぞぉぉぉおおお!」

「お戻りください! 殿下ぁぁぁあああ!」

 

 何か聞こえた気がするが全力疾走中だ。風きり音でよく聞こえなかった。まぁたいした事ではないだろう。

 

 

 

 父上の執務室から戻り、ラナー様の部屋でお茶を飲んでいたら知らない人が近衛兵に連れられて来た。金髪に緑の瞳の女性でどこかで見たような気がしなくもない。

 

「お初にお目にかかります、バルブロ殿下、ラナー殿下。このたび陛下よりお二人の教育係を任されました―――」

 

 貴族らしい長い名前だった。そんなことはどうでもいい。家の名前がどこかで聞いた事があったような……。

 

「よろしくお願いします、アインドラ夫人。あら? お兄様、いかがなさいました?」

 

 アインドラ夫人の顔を見ていたらいつの間にかラナー様の瞳からハイライトが消えて目がドロリと崩れた。ラナー様の素顔を久しぶりに見た気がする。ラナー様の純真無垢な素顔はとてもかわいらしい。とりあえず撫でておこう。なでなで。

 

「いや、どこかでお見かけしたような気がしたのですが気のせいでしょう。お初にお目にかかります、よろしくお願いします」

 

 ラナー様をなでなでした後、アインドラ夫人に挨拶したらアインドラ夫人はびっくりしたような表情を一瞬浮かべた。ラナー様の表情が崩れたのが原因だろうか。それとも妹に気安くなでなでしたのが原因だろうか。……やらかしただろうか。

 

「いえ、失礼ながら殿下がご幼少の折、一度だけお会いしております。覚えていらっしゃらないかと思っておりました。娘のラキュースも明日来る予定ですが、本日はまずわたくしと親睦を深められればと思っております」

 

 ふむ、ラキュースさんのお母さんでラキュースさんも明日来るのか……。って、えええええ!? どうなってるんだ!? 誰かと思ったらラキュースさんのお母さんだったよ! 昔の記憶掘り出しても全く覚えてなかったよ!

 

「そそそ、そうでしたか……。失礼ながら面影程度しか覚えておりませんでしたのでお気になさらず。改めてよろしくお願いします」

 

 面影と言ってもラキュースさんのイラストとかだがな! ちなみにラキュースさんのお母さん、アインドラ夫人が来た理由はいくつかある。本来はラナー様の王族としてのマナー教育を行いつつ歳の近いラキュースさんをラナー様のお友達にしようという話だったのだが、ついでに俺の教育も行うとの事だ。

 

 困った事にラナー様はお喜びのご様子。完全に逃げ場が無くなった。こうなったら覚悟を決めて憑依前にされた教育を思い出そう。えーっと、マナーマナーっと……。

 

 アインドラ夫人と一緒にお茶しつつ細かい所を少しずつ直される。ラナー様はさすがにマナーも完璧なようで全く直される所がない。

 

「バルブロ様。お茶の途中でランスを持つのはお止めください」

「う、うむ。すまぬ、ついクセでな……。なでなで……」

「ふふっ」

「バルブロ様。ラナー様を撫でるのはお止めください」

「う、うむ……。ごきゅごきゅ」

「ふふふふふっ」

「バルブロ様。お茶は一口ずつお飲みください」

「う、うむ。……モジモジ」

「くすくす」

「バルブロ様。落ち着いてください」

 

 ううむ……、久しぶりにストレスが溜まってきた。午後のランスチャージごっこで発散しないと続かない気がする。

 

 

 

 そんなこんなでストレスフルな午前中の公務()を終え、ランスチャージごっこで溜まったストレスを発散すべくフル装備でガッチャガッチャと遊び場所に来たわけなのだが……。

 

「おお、兄上。お久しぶりです」

「ひ、久しいな、ザナック……」

 

 太っちょな子供。弟のザナックくんがなぜか俺の遊び場所にいた。初めましてなので動揺した。いや、別に俺のというわけではないのだが、子供にとって遊び場所はテリトリーだ。どんなに下らないと思ってもそこに踏み込んできたという事はザナックくんにとって覚悟のいることだったに違いない!

 

「もうお忘れになられているかと思っておりましたが、覚えておられましたか」

「うむ、弟よ。貴様には前々から期待しているのだ。忘れるわけがなかろう」

「おや? そのように思われているとは思いませんでした」

 

 妙に煽り口調の目立つザナックくんだが、彼のクセ―――つまりエ・ランテルのぷひーぷひー言う人と同じようなものだろう。それに彼は未来の王国の王、俺の楽隠居ルートには彼の好感度も必要だ。ここは兄として余裕を見せるべきだろう。

 

「うむ。父上から聞いているぞ? なんでも王族としてよく動き、貴族たちとうまくやっているそうではないか。これからの活躍にも期待しているぞ?」

「ははっ、父上も大げさな。とてもではありませんが兄上には及びませんよ」

 

 おお、さすがザナック。慇懃ながら謙虚に相手を持ち上げるとは……。父上が言っていた社交性が高いとはこの事なのだろう。まぁ、俺が身につけるのは無理だろうし、社交や交渉はラナー様やザナックくん担当だ。必要性すら感じない。王国の未来は安泰だな。

 

「何を言う。まぁ良いか。ところで今日はどうしたのだ? 乗馬の訓練か?」

「ええ、王族たるもの馬に乗れなければ話になりませんから……」

「そうか。怪我に気をつけろよ? 間違っても落ちるなよ?」

 

 そうなのか。確かに俺が始めて馬に乗ったのは今のザナックと同じ歳だと思うが、遊びに来て勝手に乗った。もしかしてあのまま普通に教育を受けていたら近いうちに乗馬訓練があったのかもしれない。

 

 だが、大丈夫だろうか。パッと見た感じ、ザナックくんが普通に馬に乗れるようには見えない。デミさんのゲヘナ時に乗っていたので後々乗れるようにはなるのだろうが、変に怪我をされたり落ちて死んだりしたら俺の楽隠居ルートに影響が出る。王国のお馬さんは大人しいので大丈夫だとは思うが、怪我には気をつけて欲しい。

 

「兄上は落ちた事がないとお聞きしましたが……」

「ふむ……」

 

 訝しげにザナックくんがそんな事を言った。ああ、なるほど。ザナックくんは自分の体型を気にしているのだろう。そして侮られたと思ったに違いない。落ちた事のないヤツにそんな事を言われたらイラッとするかもしれない。

 

 まぁ落ちようが漏らそうが怪我をしない限りお遊びなのだから気にしてはいけない。むしろ笑って盛り上がれるくらいがちょうどいい。漏らしそうになっても漏らした事はないがな!

 

 しかし、本当に俺は落ちた事がなかっただろうか……。うーん……。いや少なくとも2度は落ちたな。グリフォンに乗り始めてからだが、何度危険な目にあったか数え切れない。その中で2度ほどしか落ちていないのは奇跡ではないだろうか。

 

 まぁ普通に落ちていたら今ここに立っていない可能性が高いのだが……。

 

「いや、何度か落ちた事はあるぞ? 大事にいたらなかったのは幸運でしかない」

「そうでしたか。精々落ちぬよう気をつける事にします」

「うむ。ではまたな! 騎士アントン! お遊っ……、く、訓練の時間だ!」

 

 ザナックくんとのなごやかな会話を終えて、遠目にこちらを見ていた騎士アントンに声をかけた。そう、遊びの時間に突入だ。これから脳汁を出しまくらねばならぬのだ!

 

 

 

 

 

 side ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフ

 

 リ・エスティーゼ王国第一王子であり、二つ上の兄、バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフは見目も良く、次代の王国を背負うに値する突出した能力を持っていると言われている。

 今の俺の年齢、12歳ですでにほとんどの教育を終え、政治に関わりながら自ら騎士団を育て始めた。そして彼らを率い、すでに数々の武功を挙げている。馬術の天才。王国最強の騎士団を率いる軍神。14歳にしてグリフォンを駆る王国の英雄だ。

 

 第三王女であり、五つ下の妹、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ

はその並び立つ者がいないほどの美しさと愛らしさを持ち、5歳の頃から兄バルブロの政治の手伝いをするほどの天才。何度か体調を崩し父上を心配させた事はあるが、その評価が下がる事はない。

 

 そして俺、第二王子のザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフ。教育係になった者は褒めてくれるのだが、「上の二人と比べると……」という内心がどうしても透けて見える。努力はした。それこそ二人に追いつくために努力に努力を重ねた。

 

 しかし、聞こえてくる話は兄バルブロの活躍とそれを支えるラナーの話ばかり。所詮俺は二人の予備なのだと思い知らされるばかりだった。だが、俺に近づく貴族がいないわけでもなかった。

 

 六大貴族の一人。レエブン候。貴族派閥を纏め上げ、王派閥の貴族とも関係のあるまさに大貴族。彼と関わる貴族の数は他の貴族たちを圧倒するだろう。

 

 その事を知ったのは出会ってから少しあとになるが、なぜ近づいて来たのかはわかっていた。簡単だ。兄バルブロの代わりに俺を王座に据える事によって自分が実質的な王国のトップになるつもりなのだろう。

 

 悪くない話だと思った。しかも、レエブン候から聞いた兄と妹の実状を聞いて、ただ俺が劣っていたわけではない事を知った。

 

 兄バルブロは確かに騎士団を作り、グリフォンを駆る軍神だろう。しかし、兄上には圧倒的に足りないものがある。教育と社交だ。王族としてその二つは必須の能力だ。

 

 妹ラナーは確かに化け物だ。社交性はあまりないがバルブロの名前を使って根回しする事で自分の思い通りに政治に介入している。兄上の代わりに俺が抱き込めば王位は見えてくるとレエブン候は言っていた。確かにそうだろう。

 

 未来への展望が開けた事で俺はレエブン候と手を組むことにした。レエブン候が主催するパーティでデビュタントを果たし、彼の紹介で多くの貴族と顔を繋いだ。レエブン候の力の大きさもそこで知った。

 

 一年以上、レエブン候に貴族としての宮廷力学を学びながらレエブン候を後ろ盾に貴族たちと仲を深めた。そして貴族たちとの繋ぎが強固になった事で次の段階に入る事になった。

 

 そう、兄上が懸想する化け物を俺が抱え込むのだ。そして、兄上がいない時にラナーと何度か会った。

 

 なんか思っていたのと違った……。むしろレエブン候は正しいのかと彼に疑問を持つ羽目になった。特にレエブン候の話ではバルブロはラナーに懸想しているから婚約できないはずだった。

 

 しかし、ラナーの本音を聞く事ができれば何の疑念を抱く隙すらなく理解できる。ラナーはバルブロを―――さっぱり分からん事だが鎖で繋いで飼いたいほど愛しているらしい。ドン引きだった……。わずか7歳でそこまで逝っている妹にドン引きだった……。

 

 しかもバルブロは妹とのそういう事に対して忌避感を持っているそうだ。全くもってバルブロの方が正常だった。ラナーはそういった忌避感を徐々に薄れさせ、依存させ、邪魔する者を排除し、自分の欲望のために邁進した結果、ああいう評価につながっていただけなのだ……。

 

 冗談めかして「取引といかないか? 俺が王位を取ったらお前と兄上をくっつけて領地でも与えてやる」と言ったらラナーは笑顔で「乗りました」と即答した。思わず「即答か!」と再びドン引きした……。

 

 取引が成立した事で、ラナーは重要な情報をいくつも教えてくれた。貴族同士のこれまでの動向。帝国の状況とこれからの予測。対帝国のために動いている貴族に関する情報。父上の思惑とレエブン候の思惑。

 

 レエブン候の考えは俺も知っている。だからラナーの考えの正しさが嫌でもわかってしまった。

 

 レエブン候から聞かされていた宮廷力学は所詮宮廷内の話だった。そしてそれすら凌駕し、兄上や父上を使って王国貴族を手玉に取り、王国の未来を語り、対策しているラナーの頭脳はやはり化け物だった。

 

 やっぱり俺はいらないんじゃないかなと思った。だが、ラナーは俺すら使う気満々のようだった。このままレエブン候の下で社交を続け、貴族と顔を繋いでおく事は重要だそうだ。しかし、約束をせず、レエブン候に依存しすぎるなと言われた。

 

 そしていくつか書類にサインを求められた。それらにはすでにバルブロのサインが入っていたがじっくり読んだ。よく分からなかったのでラナーから説明を聞いた。単純に見れば国民に媚を売るようなものだが、長期的に見れば国を富ませ、貴族たちの力を徐々に削り、王家を富ませるための法案だった。将来王位に就くのであればとてもいい法案だった。当然サインした。

 

 ラナーの恐ろしさと計り知れない能力を見せ付けられた。そしてラナーはバルブロとくっ付くためなら王位はどちらでも良いそうだ。これはラナーの保険だ。つまり俺が裏切ったらバルブロに王位を取らせてくっ付くつもりなのだろう。裏切らなければ、そしてラナーの頭脳を生かす事ができれば王位を取る事ができるのだろう。

 

 俺の王位とラナーの陰謀のため、俺たちは午後に何度か暇を見て会う事になった。午前中はバルブロとのお茶会で予定が空く事はないそうだ……。兄上……、いや、王位に犠牲は付き物なのだ……。

 

 

 

 しかし、ラナーと会って本人の事を知り、ラナーから兄上の話を聞いて、兄上の事が気になった。実際に会った事はほとんどないのだ。記憶にある兄上は傲慢で見下すのが当然といったまさしく王族の人間だった。ラナーの話に出てくるようなポンコツではなかったのだ。

 

 実際に俺が王位を取るのであればラナーの話に出てくるポンコツ兄上の方が都合がいいハズだ。なのに、なぜか昔の傲慢な兄上であって欲しいという想いが捨てきれなかった。

 

 兄上の居場所は基本的に変わらない。午前中はラナーの部屋、午後は遊び場という名の練兵場だそうだ。俺は練兵場の視察と乗馬の練習を行うという理由で教育係や貴族の取り巻きを連れて初めて練兵場を訪れた。

 

 練兵場に着くと、取り巻きの一人が送り込んだという騎士を呼び、その騎士から説明を受けた。

 王国騎士団に所属する貴族は二種類いる。最精鋭と精鋭だ。王国騎士団の騎士の間に確執はないそうだが、実力の隔たりは大きく、それはバルブロ以外誰もが認めているらしい。兄上が認めないのは意味不明だがそこは聞いて欲しくなさそうだったので聞かなかった。

 

 残念ながらその騎士は精鋭の方だったが、最精鋭の人間は異常なのだそうだ。基本的に王国騎士団の騎兵は重装備の上、重装備された八本足のスレイプニールという魔獣に乗り、馬上槍(ランス)と盾で戦う。どの騎兵でもそこは変わらない。

 

 しかし、最精鋭、――つまりバルブロについていける騎兵だけがバカみたいに長い金色のランスを持つことが許されており、その数は10しかないという。騎士団内ではそのランスを考案した人間の名前を取ってバルブロランスと呼び、誰もがそれを持つことを目指しているそうだ。

 

 試しに案内の騎士が持っていたランスを補助してもらいながら持ってみたがバカみたいに重かった。金色のランスは重いなんてものではないらしい。さらにそれに団旗を装着し、そのまま戦うような猛者までいるそうだ。そいつは本当に人間なのか? 兄上も人間をやめたのか?

 

 しばらく説明を聞いていると、ガチャガチャと鎧の立てる音が近づいてきた。前を見ていないのか、その人物はバルブロランスを抱えながら左腕に取り付けたバカみたいにでかい赤と黒の見た事のない形の盾をいじりながら歩いてきた。

 

 ヘルムのバイザーが上がっており、その人物が誰なのかわかった。兄上だった。ランスだけでも動けなくなりそうなほど重いのに、さらに重装備な上に馬鹿でかい重そうな盾を持っているにも関わらず平然と歩いてくる様は正直怖かった。

 

 いつも近づく人間を選別する取り巻きの貴族たちも畏怖か恐怖か分からないが頭を下げながら道を譲っていた。

 

「おお、兄上。お久しぶりです」

「ひ、久しいな、ザナック……」

 

 貴族と接しているうちに身に付いた笑みを意識的に浮かべて挨拶すると、兄上は戸惑ったような表情を浮かべた。確かにここに俺がいるのは場違いだろう。

 

「もうお忘れになられているかと思っておりましたが、覚えておられましたか」

「うむ、弟よ。貴様には前々から期待しているのだ。忘れるわけがなかろう」

「おや? そのように思われているとは思いませんでした」

 

 ラナーから聞いていたポンコツ兄上か確かめるために嫌味も篭めてみたのだが、自信満々に笑顔まで浮かべて答えられた。本当にラナーの言っていた事は正しいのかもしれない。 

 

「うむ。父上から聞いているぞ? なんでも王族としてよく動き、貴族たちとうまくやっているそうではないか。これからの活躍にも期待しているぞ?」

「ははっ、父上も大げさな。とてもではありませんが兄上には及びませんよ」

 

 ん? おお! これはもしかして兄上なりの嫌味だろうか。「裏でコソコソと動いているのは知っているぞ? そんな事は障害にもならんが精々がんばれ」といった所だろう。嫌味を言われたハズなのに少し嬉しくなってしまった。

 

「何を言う。まぁ良いか。ところで今日はどうしたのだ? 乗馬の訓練か?」

「ええ、王族たるもの馬に乗れなければ話になりませんから……」

「そうか。怪我に気をつけろよ? 間違っても落ちるなよ?」

 

 確かにこの体型を見れば心配にもなるだろう。しかし、兄上は馬から落ちた事はないと噂で聞いている。表情と言葉通り取れば本当に心配しているように思えるが、嫌味の線も捨てがたい……。確かめてみるか。

 

「兄上は落ちた事がないとお聞きしましたが……」

「ふむ……」

 

 兄上は何か記憶を探るように視線を外した。ここで、「俺は落ちた事はないがな」とでも言ってくれれば分かりやすいのだが……。

 

「いや、何度か落ちた事はあるぞ? 大事にいたらなかったのは幸運でしかない」

「そうでしたか。精々落ちぬよう気をつける事にします」

 

 ……善意だった。どうやら俺は貴族の波に揉まれすぎていたらしい……。しかも落ちた事があるらしい。気をつけよう。そして、さようなら、傲慢な兄上……。

 

「うむ。ではまたな! 騎士アントン! お遊っ……、く、訓練の時間だ!」

 

 兄上! 今お遊びって言おうとして取り繕いましたね!? ああ、なんということだ。ラナーの言う通り、バルブロ兄上はポンコツだったのだ……。

 

 その後、俺は兄上や最精鋭の騎士の笑い声が木霊する練兵場で恐ろしい光景を横目に見ながら乗馬の練習に励んだ……。

 

 

 

 




 
頬を膨らませてむー
 ラナーの新技。アクトレスの職業レベルが上がり、表情を手で整える必要があるものの頬を膨らませる事に成功した。ラナーの成長が伺われる。アニメ第2期第7話では「むっかー」に進化。

ラキュースのおうち
 まずラキュース・アルベイン・デイル・アインドラは蒼の薔薇のリーダーとして露出が多いキャラ。ラナーの友達。重度中二病。家の名前がアインドラなのかアルベインなのか不明。ちなみにアニメではラナーが「アルベイン家に迷惑が~」と言っていた。一応アインドラ家にしておきました。

ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフ
 第二王子。今回の被害者。現在12歳。バルブロとレエブン候のせいでこんな歳から動く事になったかわいそうな子。この歳でこれだけ動ければ天才の域に入ってると思う。原作ではレエブン候やラナーと組んで王位に就く予定。アニメ版みたいにちょっと捻くれた感じを出そうとしたらツンデレ風味になってびっくりした。ポストランポッサⅢ世。

バルブロランス
 金ぴかランスの騎士団内での名称。個人的にはラナーランスにしたかった。ただ、理由付けが思いつかなかったのでこの名称にしました。


 サブタイトル迷いました。ザナックほとんど出てないけど深夜のテンションでこんな感じに……。次回はラキュースさんが出る予定です^^


ジャックオーランタン様 黒祇式夜さま
誤字報告ありがとうございました







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