オバロ転生憑依もの   作:しうか

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バルブロ:主人公。最近色々と吹っ切れてきた
ラナー:ヒロイン。6歳にして政治に関わるバケモノ。鼻血の出しすぎで最近ドレスを一着ダメにした
ランポッサⅢ世:国王陛下。二人の父親。原作より酷い目にあってる気がする。バルブロとラナーを物理的に引き離す事にした
レエブン侯:バルブロの暗殺を計画、類稀な宮中工作で実行開始
騎士:ノリノリで宮中に突っ込んだ



7 首輪

 

 

 ラナー様鼻血事件からひと月ほどたち、新しい装備(おもちゃ)も行き渡り、毎日充実した日々を送っていたら朝父上から呼び出された。そもそも朝から昼食まではラナー様との密談タイムだと知っているだろうになぜ遊びの時間に呼び出さないのか疑問である。

 ラナー様のゴキゲンが斜めになってしまうではないか。なでなで

 

「というわけで昼以降にしてくれと父上にはお伝えしてくれたまえ」

「いえ、そうもいきません。殿下」

「むぅ……」

 

 さらっと流そうとしたがいつもより近衛兵(こいつら)は頑なだ。しかも人数も倍以上いるし全員でかい盾を持ってる。まさしく鉄壁の護りだ。何から護るかは不明だが俺を護る気がないのは確かだろう。

 

 まぁこんな時はラナー様に相談だ。ククク、この時間に呼んだ己を呪うがよいわ!

 

「うーむ。思い当たる節が多すぎて何で呼ばれたのか見当がつかないな……。ラナーはわかるかい? なでなで」

「ええ、恐らく……。非常に遺憾ですが……、わたくしとお兄様を引き離すおつもりかと……」

「なっ!? なん……だと……!?」

 

 父上ついに狂われたか! それは俺と父上の楽隠居ルートが消えてしまうかもしれない一手なんだぞ!? だいたい俺からラナー様を引き離されたら何が残るというのかね! アレか? 謀殺ってヤツか? 謀殺を狙う気満々で俺からラナー様を遠ざけるというのか!?

 

 確かにラナー様がいない俺は原作を待つまでもなくたやすく謀殺なり貴族派のおもちゃなり他国への貢物なりよりどりみどりだろう。ここ一年以上遊びまくってたツケが回ってきた気がしなくもないがそれはラナー様という強固な保険があってのこと……。

 

「どどどどどうしたら、いいいいいのかな? なでなでさわさわなでなでさわさわ」

「ふふふふふ、焦ってるお兄様もステキですわね」

 

 そう言いつつもラナー様はどろりとした笑顔で近衛兵たちを見た。俺もつられてそっちを見た。ほのかにしてやったりな感情を無表情に隠していた近衛兵たちだったが、ラナーの素の笑顔を見た瞬間にすっごい顔を強張らせていた。それでいいのか近衛兵……。

 

 貴様らも一応貴族の端くれだろうに。(ちちうえ)の近くにいればもっと宮廷のドロドロした物にも触れているだろう? 大体、この魅力的な笑顔を見られた幸運に感謝すべきところだぞ?

 

 で、そっちを見ていたら隣に座っていたはずのラナー様が俺の足のうえに横座りになって抱きついてきた。うん、ラナー離れようか。お兄様それはちょっと厳しいですよ。

 

 甘い香りとドロリとした笑顔で上目遣いでクラクラするし、胸はないけどかわいらしいお尻がくにくにと当たって局部が硬くなってしまいそうですよ。ああ、手が勝手にさわさわと! ってこの小説はR-18じゃないんですよ!

 

「先日レェブン候がいらっしゃいました。お父様からご相談を受けたそうです」

「あ、はい」

 

 エロい事を考えていたらラナー様が小声で話し始めた。近衛兵に聞かせたくなかったのね。お兄様少し勘違いしてしまったよ。危なかった……。

 

 つまり、俺がラナー様べったりでどうしようもないからここは物理的に引き離そうということになったそうだ。行き先は王直轄領のエ・ランテル。普通に行ったら片道7日。父上……ガチで来たな……。まぁ他国より全然マシだが……。

 

 ついでにラナー様鼻血事件で遊び友達と一緒に王宮にスレイプニールで突撃したことに大層ご立腹だったようだ。

 そんなに元気が有り余ってるなら王直轄領のエ・ランテル周辺のモンスター()を狩りつつ、外国から何かと言われるカッツェ平野(アンデッドがワラワラいるらしい平野)でアンデッドの間引きしてこいや! との事らしい。

 

 ふむ。ラナー様と密談できなくなる以外は大して問題はないな。カッツェ平野はちょっと怖いが、最近装備も充実している。ヘルムに付いてるマジックアイテムで霧くらいなら見通せるだろうし、スケリトルドラゴンくらいならスレイプニールで逃げ切れるのではなかろうか。

 

 デスナイトが出たら終了のお知らせだがな! まぁ出会ったらひと当てくらいはしてみたいが……。

 

 しかし、ソレを生業にしている冒険者組合に怒られないだろうか。ふむ、その線でお断りするというのは名案かもしれない。

 

「しかし、ラナー。一応私は王子なのであるからして王宮にいるべきではなかろうか……。それになんでもモンスター相手の傭兵を生業にしている者がだな……」

「そちらもすでに手を回されているそうですわ。それに、わたくしもお兄様と離れたくありませんが、お断りした場合……、王命でさらに遠くへ行かれることに……」

「え?」

「わたくしとしても苦汁の決断でした……。今回ばかりはお父様とレェブン候にしてやられました……。お兄様、どうかご無事にお帰りくださいませ」

「う、うむ。しかしだな……」

 

 これは詰みというやつではなかろうか。まさか父上とレェブン候がこの時点で組むと誰が予想できただろうか。父上、レェブン候は貴族派閥で王位を狙っている人間ですぞ? まぁラナー様が無理というなら無理なのだろう。

 

 はっ!? ま、まさか……。クライムくんが手に入ったから俺用済み!? いやいやいやいや待て、待つんだ俺! 大体、ラナーの気持ちがクライム君に移ること自体は喜ばしいことだし、クライム君見つけてきたの俺だし! きっと無下にはしないはず……だよね? それにほら、この、ラナー様の署名入りランスがあるじゃまいか! きっとまだ大丈夫なハズだ! 

 

「ふふっ、お兄様。そんなにわたくしと離れるのがお嫌ですか?」

「うむ。ラナーと離れるのは(俺の未来が危ないから)嫌だな……。なでなで」

「まぁ! お兄様ったら……。でしたらこれをわたくしだと思ってお持ちくださいませ」

 

 そういってラナー様がメイドに持ってこさせたのは細長いネックレスを入れるような高価そうな箱だった。嫌な予感がふつふつと沸いてきた……。

 

 ラナー様がその箱をそっと開くとそこには青みがかった銀色で装飾された金色の3cm幅ほどの短いベルトが高級そうな柔らかい布に包まれて入っていた。しかも中央には何かを繋ぎとめるようなゴツイ四角形の輪が取り付けられている。腕輪にしては長すぎる。ベルトにしては短すぎる。どう見ても超高級な首輪だった。

 

「ふふふふふ、わたくしの愛ですわ、お兄様。わたくしがつけてさしあげますね。ハァハァハァハァ―――」

「う、うむ……。ススス、ステキなプレゼントをありがとう。妹よ」

 

 ドロリとした笑顔を浮かべるラナー様の愛情表現を断る事はできようはずもない。早めに飽きてクライム君が一番だけど捨てるには惜しい程度の好感度を維持しつつこの首輪から脱出する手立てを独力で考えねばなるまい……。

 

 だが今はその時ではない。ただラナー様の柔らかい体の感触と首下にかかる荒い吐息を堪能する事に集中するのだ。そう、これぞまさしく役得!

 

 まぁぶっちゃけ首輪程度余裕だろう。これから行くのは一応戦地だ。戦闘中のゴタゴタで首を切られそうになって「ラナー様の首輪がなければ即死だったぜ!」ってことでぶっ壊せばいいだけだ。

 

 それよりも、この輪をどこかに引っ掛けてスレイプニールが暴走したら俺の首が飛ぶかもしれん……。ラナー様にそういったらびっくりしたお顔で輪の部分をハンカチで覆ってくれた。これなら心配あるまいて……。

 

「それでお兄様。この魔道具は対になっておりまして……。その……、このネックレスをラナーの首にもかけてくださいませ……」

 

 そういってラナー様が出してきたのは長さが1mくらいある細いチェーンだ。途中のチェーンに輪を止めることで長さを調節できるようになっているがどう見てもリードだ。たとえ魔法銀(ミスリル)でできていようが見た目はリードだ……。ペンダントトップがリードに繋ぐカラビナのようになっており、どうしてもネックレスには見えない。

 

 まぁ手首にかけたり、手で持たれたりしない限り俺の首輪につけるリードだとは誰も思うまい。思ったやつはきっと同じ趣向のやつだけだ。それなら問題ない。

 

 それに恥ずかしそうに上目遣いをするラナー様にだれが逆らえようか。ラナーの首にそっとリード……違った、ネックレスをかけるとラナー様は赤くなった頬に手を当てて喜んだ。

 

 ちなみにこの魔道具。ラナー様がなんやかんや手を回してランスと同じ時期に発注したものが最近ようやく完成したもので、一日に何度か〈伝言(メッセージ)〉を双方で使えるらしい。

 形に関してラナー様は「技術的にこの形状にするしか方法がなかったようです」と断固として主張していた。うん、きっと……、うん、ナンデモナイヨ。

 

 だが、見た目や思想はともかく道具としては最高なのではなかろうか。この首輪があればいつでもどこでもラナー様に知恵を授けてもらえるというすばらしいものだ。大切にしよう。

 

 しかし、ラナー様からは色々と貰ってばかりだな。俺がプレゼントしたのはクライムくんくらいだし、俺がここにいなければ自然と出会っていた者だ。今度お小遣いをためて何かプレゼントしよう。何がいいだろうか。うーん……、クライムくんしか思いつかない。オワタ

 

 そんなこんなで父上の元まで連行され、王国騎士団の一部を率いてエ・ランテル近郊の警備、およびカッツェ平野の間引きをせよとの勅命をうけた。編成はラナー様鼻血事件で一緒に王宮に突っ込んだ騎士10名ほどとその従者約30名。合わせてだいたい40名くらい。

 

 輜重隊はつかない。補給に関してはエ・ランテルで行えるよう書類を貰った。つまるところ、エ・ランテルで冒険者ごっこをしてこいと……。ふむ、なるほど……。父上……―――。

 

 ……なにそれご褒美!? ラナー様から頂いた首輪があれば心配事はなにもない。もはや国費を使って遊んで来いというご褒美以外の何ものでもないではないか! 冒険者かぁ……。原作では散々に言われてたけど異世界に行ったら是非ともやってみたい職業ランキング(俺調べ)不動の一位に輝き続ける職業ではないか!

 

「父上、此度の話、ありがたく受けさせていただきます」

「うむ。期待しておるぞ」

「はっ、では早速出発いたしますゆえ、これにて失礼!」

 

 夢がひろがりんぐとはこの事か! さっさと準備してエ・ランテルにいこう。きっと遊び仲間も喜ぶに違いない。有能な彼らの従者がサクサクっと準備してくれるだろう。ここは増やしに増やしたスレイプニールに彼らも乗せて全力で行こう! 

 父上が目を閉じてうんうん頷きながら何か言い出す前にとっとと転進だ!

 

「うむ。何かあったらエ・ランテル都市長のパナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイアを頼れ。ヤツの見た目と態度は……―――って待て、待つのだバルブロよ! ぬぁぁぁぁあああ! おい、貴様! バルブロにこの書状を渡しておけ!」

「はっ!」

「あんのバカ息子がぁぁぁぁああああああ!!!」

 

 何か後ろで聞こえたがきっと気のせいだ。そんなことよりこれからの行程を考えねばなるまい。

 

 

 side ラナー

 

 ああ、なんてステキなのでしょう。ついにお兄様にわたくしの愛を示すことができましたわ。はぁ……、しかもお兄様もわたくしにこの手綱を渡してくださった……。あとはお兄様が帰ってきてくださるだけで全てが揃いますわ。ただ、無事に……、お亡くなりになっても構いませんがアンデッドなどにならずに戻ってきていただければ……。

 

 ただ、レェブン候……。お前は殺す。絶対に殺す。お兄様を危険な目に合わせる事になったお前だけは絶対に殺す。全てを奪い去って死が希望になるくらいには絶望を味合わせてから殺す。

 

 はっ、いけませんわね……。折角の幸せな気分がもったいないですわ。もう少し味あわないと……。ふふふふふ……。

 

 

 


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