オバロ転生憑依もの   作:しうか

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バルブロ:主人公。エ・ランテルで冒険者ごっこ。意外と暇
ラナー:ヒロイン。暗躍中。放置プレイで病み成分増加中
アインザック:冒険者組合長。吹っ切れた
パナソレイ:エ・ランテル都市長。プヒプヒ言ってたら良いように使われ始めた。
イシュペン:受付嬢。説明大好き
騎士:お仕事少なくてちょっと暇
従者:お仕事多すぎで疲れ気味。その分褒められまくりでがんばりすぎる悪循環に突入
レェブン候:舞台裏で国王経由でラナーにモリモリ人とお金絞られてる。「お金出すなんていわなきゃよかった」
クライムくん:色々と訓練中。


9 カッツェ平野

 パナソレイさんちで一泊して冒険者ギルドへ行くとイシュペン嬢が白金(プラチナ)プレートの束を持って待っていた。意味がよくわからない。(ゴールド)までどの程度かかるか聞いたがプレートの色を変えろと言った覚えはない。みんなでコツコツひとつずつ上がっていく事で、冒険者ごっこも楽しめると思っていたのにイマイチ納得がいかない。

 

 その事をイシュペン嬢に伝えると、彼女は笑顔を浮かべた後、白金(プラチナ)になった理由を教えてくれた。うん、他の冒険者の生活に直結するのであれば致し方ない。今回は特別らしいが、対策など取れるのだろうか……。

 

 まぁ一気に目標に到達できたので良しとしよう。騎士アントンに依頼達成後、全員に集まるよう伝え、イシュペン嬢には今後の説明と我々の任務に絡むような依頼や我々の能力を生かせそうな依頼の収集を頼んだ。

 

 昼には全員集まり、イシュペン嬢はどこから持ち込んだのか掲示板のような板に色々な絵図や地図、依頼票を貼っていた。そして騎士アントンとコソコソ相談すると準備ができたようで一言求められた。

 

「うむ。皆よくやってくれた。しかし我々の本当の目的(冒険者ごっこ)、つまり本番はこれからだ。幸い、我々はイシュペン嬢という協力者を得る事ができた。この幸運をかみ締め、イシュペン嬢の説明をよく聞き、疑問に思ったこと、説明が欲しい事などがあった場合、地位に構わず即座に挙手しイシュペン嬢に教えを請うように! では騎士アントン、進行を頼む」

「はっ! ではイシュペン嬢よりご説明を頂く! 総員敬礼!」

「「「はっ! よろしくお願いします!」」」

「え、あ、はい。よろしくお願いします」

 

 イシュペン嬢の説明は大変詳しかった。街道沿いなどで遭遇しやすいゴブリンやオーガから始まり、それらの各種亜種の特徴や討伐証明の部位や採取の仕方。カッツェ平野での推奨される行動方針や出てくるであろうアンデッドに関する情報などなど多岐に渡った。

 

 なんでも昨日アインザック組合長から根掘り葉掘り聞きだしておいたそうだ。有能すぎて騎士団に欲しい。秘書枠とかあるのかな? いや、そもそも今回が特別なのだ。連れて帰った所で遊び場所のレイアウトの助言くらいしかお仕事がなさそうだ。

 

 ただ、言いづらいのだが、ぶっちゃけ俺の中では街道警備をする予定はない。昨日騎士ドゥリアンを引き連れて遊びに行ったのだが、野生のゴブリンやオーガは中々出てこないのだ。しかもようやく見つけた集団もひと当てしたら逃げるし、森に逃げられると何か悔しいしであまり楽しくなかった。

 

 つまり、お小遣いを気にしないなら無限に遊べそうなカッツェ平野に全振りしたい。

 

 お昼から始まったイシュペン嬢の説明会とイシュペン嬢の助言を受けつつ行われた作戦会議は夕方まで続いた。途中でこっそりトイレに行くふりしてラナー様に助言を貰うことにした。

 

「と、いうわけなのだが、やはり高い櫓が欲しいのだよ」

『なるほど……。でしたらそうですわね……』

 

 ラナー様に珍しく長考していらっしゃるご様子。意外と難題だったのだろうか。

 

 カッツェ平野での難問は、遭難が第一に挙げられた。冒険者であればレンジャーが何とかするのだろう。しかし、我々は装備の整っている騎士だけで突っ込むつもりだ。従者諸君は街道警備や拠点でお留守番である。

 

 霧も見通せるマジックアイテムがある以上、あとは目印があれば解決するのだが、問題はそれをどうやって設置するかという事になる。今の俺は冒険者。冒険者は国の下に付かない。政治や軍事に関わってはいけないのだ。

 

 つまり、櫓を立てるにも冒険者として自力でやるか、アインザック組合長にやってもらうか、ラナー様側からそっと手助けして貰うしかないのだ。

 

『あら、クライム。どうしたの? え? 表情が崩れてしまってましたか? ふふふふふ、気のせいですわ、クライム。いい子ね、クライム……なでなで』

 

 くっ、うらやまけしからん。クライムくん、確かに心の中でがんばれと言ったが〈伝言(メッセージ)〉の向こう側で当てつけなくてもいいだろうに! 俺も今度なでなでしてもらおう。ってそれはダメだ! きっと何か色々ダメなやつだ! なぜそんな事が思い浮かんだ! 首輪か? 首輪の呪いか何かなのか!?

 

 あー……でも何か遠くを見られる鏡が欲しい。何かないだろうか……。ちなみに魔法は全く使えない。たまに騎士トロワにマジックアローを教えてもらっているのだが素質がないのだろうか。

 

『ああ、そうでした。えっと、そうですわね……。まず―――』

「ふむ。いつもすまないな、妹よ」

『構いませんわ。お兄様、どうかご無事でお帰りくださいませ』

「うむ。ではまた連絡する」

 

 トイレから戻るとラナー様の助言どおりアインザック組合長を呼んで書類をいくつか貰った。嘆願書もついでに作成。当然全員偽名で白金(プラチナ)級冒険者として署名。あとはこれをアインザック組合長からの書類としてパナソレイさんに渡すだけで全部解決するらしい。

 

 アインザック組合長も「本当に大丈夫か?」と疑問を呈していた。うむ、俺も大丈夫か全くわからない。答えはきっとラナー様だけが知っている。

 

 最終的に決定した方針は

1 全員でカッツェ平野の近くに仮拠点作成

2 櫓ができるまで騎士は浅い所でカッツェ平野に慣れる。従者の半分は拠点防衛兼お休み。残りの半分は街道警備しつつゴブリン狩り、オーガが出たら怪我しない程度にがんばる。

3 櫓ができたら全力で遊ぶ

4 ヤバイのが出たら全力で逃げる

ということになった。ゴブリン狩りの従者諸君がとても不安だがいざとなったらスレイプニールで逃げれば問題ない。

 

 というわけで今日は遊べなかったわけだがラナー様の声を聞けただけでも良しとしよう。

 

 

 

 パナソレイさんちに戻ってアインザックさんから預かったと言いながら書類を渡し、次の日にはパナソレイさんが用意した仮拠点構築用の資材や物資を積んだ馬車を引き連れてカッツェ平野の仮拠点予定地に向った。

 

 仮拠点は天幕張ったり長い電柱みたいな丸太に冒険者組合の旗つけて立てたり簡易な柵で囲んだりするだけだ。従者諸君が優秀なので一日二日で終わるだろう。

 

 馬車があったので予定地まで3日かかった。だが、天幕が張られ、冒険者ギルドの旗が掲げられた以上、もう我慢する事はない。ようやく来た遊びの時間だ!

 

「うむ。では少々試してみるか。アントン、トロワ、ここの指揮を任せる! ドゥリアン以下他の騎士……、えーっと……」

「殿下。嫌な予感がするのですが……。以前もそうおっしゃったとき―――」

「殿下! 他の者の目はありません。騎士でよろしいかと!」

「騎士トロワ、了解しました!」

 

 騎士アントンが何か言いかけていたが気にする事はない。旗が見える所から遠ざかる気はないのでそうそう滅多な事は起こらないはずだ。

 

「うむ。そうか、騎士ドゥリアン。では全力で行くとしよう! 騎士ドゥリアン以下騎士諸君は我に続け! 遊……、強行偵察に出る!」

「うおおおおおおお! 団旗を掲げろおおおおおお!」

「殿下が出るぞおおおおおお!」

「王国騎士団に栄光あれええええ!」

 

 うむ。皆楽しそうで何よりだ。よほど鬱憤が貯まっていたとみえる。しかし、それならば従者もストレス発散のためにできるだけ一緒に連れて行ったほうがいいかもしれない。スレイプニールに二人乗りなら10人程度いけるのではなかろうか……。

 

 まぁとりあえず突撃だ!

 

「往くぞ! スレイプニール! 〈突撃(チャージ)〉〈突撃(チャージ)〉〈突撃(チャァァァージィ)〉」

「殿下ぁぁぁあああ! 偵察ではなかったのですかぁぁぁあああああ―――」

「うおおおお! 殿下に続けぇぇぇええ!」

「「「おおおおおおおおお!」」」

 

 残してきた騎士アントンの声が聞こえた気がするが何を言ってるのかわからなかった。今は脳汁出す作業で忙しい。みんなもきっと忙しいだろう。ジャンジャン行くとしよう!

 

 うむ、カッツェ平野の霧はすごいな。全然見えない。マジックアイテムを起動してようやくそれなりに見える程度だ。つまりどこに敵がいるのか遠くから見つけられないので中々見つからない。イシュペン嬢はレンジャーが音で判断すると言っていたが騎兵がドカドカ走り回る音で全く聞こえない。

 

 だがしかし、足を止めてはランスチャージで脳汁を出せなくなる。それではここまで来た意味がない。うーむ……。はっ!? そうだ。昔の偉人がおっしゃっていたではないか……。

 

ライラ『宇宙(そら)では全周囲に気を配るんだ』

ジェリド『モビルスーツの装甲越しに、殺気を感じろって言うんだろう?』

 

「――『宇宙の真空中に己の気を発散させる、か……』ここは宇宙……、ここは宇宙……ここは宇宙……、ここは宇宙……―――視えた! そこかああああああ! 〈突撃(チャージ)〉〈突撃(チャージ)〉〈突撃(チャァァァージィ)〉」

「うおおおおおお! 大漁だ! うっはははは!」

「全騎突撃! 突撃ぃぃぃいいいい!」

「殿下に続けぇぇぇぇええええ!」

 

 うおおおおおお! なんか骸骨がうじゃうじゃいる! 持っててよかったランスアタッチメント! と言ってもほとんどスレイプニールに骸骨の攻撃が当たらないようにしつつ突っ込むだけでどんどん砕け散っている。こう……、なんというか、オーガ(レアのまと)に慣れてしまうと少々物足りない……。ん?

 

「上かッ! 全騎散開(ブレイク)! 散開(ブレイク)散開(ブレイク)散開(ブレイク)!」

 

 ノリノリで突撃していた騎士たちが散開するとその空いた空間にデカブツが落ちてきた。

 

「ちょうどいい! これがここでのレアものか! うっははははは! アーッハハハハハ! 全騎総攻撃! 〈突撃(チャージ)〉〈突撃(チャージ)〉〈突撃(チャァァァージィ)〉」

「うおおおおおお! 〈団旗を掲げろ〉ぉぉおおおお! 全騎総攻撃! 総攻撃!」

「なっ!? スケリトルドラゴン!? ソウコウゲキ……。うおおおおお!」

「うおっ!? ソウコウゲキ……。武技〈要塞〉!」

「ソウコウゲキ……。うおおおお! 武技〈盾強打〉」

 

 うおおおおお! 脳汁出まくりだぁぁぁあああ! 

 

「ジャンジャン行くぞ! 〈能力向上〉〈突撃(チャージ)〉〈突撃(チャージ)〉〈突撃(チャージ)〉! 〈突撃(チャージ)〉〈突撃(チャージ)〉〈突撃(チャァァァージィ)〉!」

「でかいだけのタダの的だな! 〈能力向上〉〈団旗を掲げろ〉ぉぉおおおお! 武技〈盾強打〉ぁぁぁああ!」

「〈能力向上〉あはははは! 武技〈盾強打〉〈盾強打〉〈盾強打〉ぁぁぁぁああ!」

「〈能力向上〉うはははは! 武技〈強打〉〈強打〉〈強打〉ぁぁぁああああ!」

「〈能力向上〉あは、あははは! 武技〈剛撃〉〈剛撃〉〈剛撃〉ぃぃいいい!」

 

 みんなノリノリだ! 俺も脳汁出まくりだ! なんかでっかい骨の塊の尻尾が砕かれ、両足が砕かれ、翼が砕かれ、最後に頭と全身に総攻撃を受けて粉々になった。ふぅ……。

 

「レアもの撃破だ! 勝ち鬨をあげろおおお!」

「うおおおおおお! 王国騎士団万歳!」

「「「おおおおおお! 王国騎士団万歳! バルブロ殿下万歳!」

 

 なんか知らんがめちゃくちゃ疲れた……。きょ、今日はこの辺で帰ろう。うむ、偵察だしな。本番はまた今度でいいだろう……。

 

「よし、偵察完了を宣言する! 総員撤退」

「はっ! 総員撤退!」

「はっ!? 総員撤退、総員撤退!」

「うぅ……、なんか頭痛が……」

「貴公もか? なんか私も頭痛が……」

「一体なんだったんだ……?」

「わからん。とにかく撤退だ」

 

 

 side ラナー

 

『―――と、いうわけなのだが、やはり高い櫓が欲しいのだよ』

「なるほど……。でしたらそうですわね……」

 

 お兄様から〈伝言(メッセージ)〉が来たと思ったら遊びの相談ですか……。相談の内容はもう手は打ってあるのですが、ちょっと不満です。お兄様から愛を囁かれるとはまだ思っておりませんが、こう……、もうちょっとわたくしの事を考えてくれてもいいと思います。

 ふふふ、少し悪戯しましょう……。

 

「あら、クライム。どうしたの? え? 表情が崩れてしまってましたか? ふふふふふ、気のせいですわ、クライム。いい子ね、クライム……なでなで」

『くっ……』

 

 ふふっ、お兄様、お声が漏れていましてよ? クライムは今訓練で出ているのでご安心くださいませ。

 ふふ、ふふふふふ……。やはりお兄様もわたくしを愛していらっしゃるのですね……。

 

「ああ、そうでした。えっと、そうですわね……。まず―――」

 

 ふふっ、今日は良い夢が見られそうですわ……。

 

 

 

 




〈団旗を掲げろ〉
旗大好きな騎士ドゥリアン専用オリジナル武技。魔法じゃなくてあくまで武技。旗に対する愛が色々な偶然によって武技に昇華した。同じ旗の下に集まった仲間の恐怖を忘れさせ、常識が飛び去る。アドレナリン全開で戦闘に特化させる。なおテンション上がらないと使えない


於菟さま yelm01さま
誤字報告ありがとうございました。

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