インフィニット・ストラトス~【英雄】の迷い込んだ世界~ 作:芳奈揚羽
side 織斑千冬
2001年10月22日。この日は、私にとって・・・いや、世界にとって、忘れられない日となった。それは、私の元に届いた、ある一本の電話から始まった。
『♪~』
「織斑先生、電話が鳴っていますよ?」
「ん?そうか、少し出てくる・・・。」
そう言いながら携帯の液晶を見た私の思考は、数秒硬直した。何故なら、そこに書かれていた名前は、【馬鹿兎】。・・・つまり、私の親友であり、世界からは【天災】とまで呼ばれている、行方不明だったはずの人間だったからだ。私からは一切連絡が取れず、偶に奴から来る連絡でしか、奴の安否を確認することは出来ない。奴がそんな簡単に死ぬとも思えないが・・・奴を狙っている人間は世界中にいるため、何が起きても不思議ではないのだ。
「・・・あの馬鹿兎め。何処までも自分勝手な奴だ。」
内心少し嬉しかったのだが、それを押し隠して電話を取る。山田先生にはバレないようにしなければ。この馬鹿兎は世界中の人間が探しているため、何処に誰の目や耳が隠れているか分からないのだ。この馬鹿兎との会話を聞いてしまうと、彼女が危険に晒される可能性がある。
「生きていたか馬鹿者。」
『久しぶりに聞いた親友の発言が辛辣だよ~・・・。もう少し傷心の私を慰めてくれてもいいんじゃないかな~?』
「・・・傷心だと?何かあったのか?」
私は、胸に湧き上がる不安を隠しきれなかった。この兎は身内には甘い。というか、身内にしか興味がないため、もしかしたら箒にでも連絡して辛辣な言葉を投げかけられたのかも知れない。だが、それにしては声のトーンが可笑しい。
『ねぇ・・・ちーちゃん。ちーちゃんはさ、私がどうしてISを作ったのか分かるかい?』
「・・・何故、だと?」
『だって、そうでしょ?ただ宇宙開発の為だけに作ったのなら、スペースデブリ処理のためのビーム兵器やエネルギー兵器は兎も角、近接格闘用の武器なんて必要ないじゃないか?それこそ、作業効率を上げるための工業用アームでも取り付けたほうが、簡単だし開発効率も良い。でしょ?』
そうだ、それは当時から考えていた。ただ単に宇宙開発をしたいだけならば今コイツが言った事をすればいいのだ。何故、コイツは【白騎士事件】など起こした?あんな事件を起こせば、世界が宇宙開発用のスーツとしてよりも、武装として見ることはコイツなら分かっていたはずだ。コイツなら、あんな事件を起こさなくても他にやりようはいくらでもあった。それこそ、単独で宇宙開発でもして、その成果を世界に見せつければいい。それが出来る位の力と技術をコイツは持っているのだから。
『何で私があんな事をしたか・・・。何で、箒ちゃんや、ちーちゃんやいっくんと離れることが分かっていながらもあんな事件を起こしたのか。それはね、必要だったからだよ。』
「何だと・・・?必要だった?」
『そう。宇宙開発用スーツとしての性能と共に、兵器としての性能を見せつけることも必要だった。・・・ただ、私の誤算は、必要以上に兵器としての面が大きく見られたこと。宇宙開発用スーツとしての性能が、世界に認められなかったこと。・・・そのせいで、私の計画は頓挫してしまった。』
「頓挫・・・だと?お前が・・・・・・?」
私は、心の何処かでコイツに出来ない事は存在しないと思っていた。この兎ならば、世界を敵に回しても勝てるだろうと思っていた。・・・コイツがここまで弱っている姿など、想像すら出来なかった。・・・一体、何が起こっているのだこの世界に!?
『ちーちゃん、私が作ることの出来た、最後のISを送るよ。それで、皆を守って上げて欲しいな。・・・私に出来るのは、このくらいだから。』
「おい束!一体何が起きている!?何がお前をここまで追い詰めた!?答えろ!!!」
私の気迫に押されたのか、少しくぐもった声が聞こえて・・・そして、束は言った。
『絶望がやってくる。今みたいに、国同士、民族同士で争っている事ができる、【平和な世界】は幕を閉じる。これから始まるのは地獄だよ。』
地獄・・・その言葉に、私は動揺した。この【天災】が地獄と称する程の絶望がやってくるというのか・・・。
『私は、最後の希望に掛けることにした。今日、この世界に【英雄】がやってくる。彼なら、彼といっくん達なら、この絶望を覆す事が出来るかも知れない。』
束のその言葉に、私は咄嗟に返す事が出来なかった。【英雄】だと?それに一夏が関わるというのか?そんなシナリオを、束は描いているというのか?
『人類が生き残るためには、それしか方法が無い。彼といっくんが協力すれば、もしかしたら・・・勝てるかもしれない。』
「待て束、説明しろ!!」
『大丈夫だよ、あと数時間で分かる。・・・お願いだから死なないで。』
私にそう言い残し、束は一方的に電話を切った。私は、何時までたっても戻ってこない私を探しに来た山田先生が話しかけてくるまで、そこで立ち尽くしたままだった。・・・・・・そして、その六時間後、【絶望】はやってきたのだった。