インフィニット・ストラトス~【英雄】の迷い込んだ世界~ 作:芳奈揚羽
side イルマ・テスレフ
「・・・もう、笑うしかないわね。」
乾いた笑いしか出てこないこの状況。しかし、私以外の殆どの人間が同じ心境のようだった。
やっとのことで手に入れたアメリカ国籍。優秀なIS乗りに与えられる自由国籍権を手に入れることが出来た時には、これで家族にも楽をさせてあげられると喜んだものだけど・・・今のこの状況を考えると、素直に自国で大人しくしていたほうが良かったのかもしれない。例え生活が苦しくても、こんな・・・命を投げ捨てるかのような作戦に参加しろと強制されるよりは、そっちのほうがマシだったのかも。
既にISを展開して空に上がっている私達は、人工衛星から送られてくる映像を見て、唖然とするしか無かった。・・・隕石の大きさが、報告にあったものよりも遥かに巨大だったからだ。
落ちてくる隕石は二つ。一つはここカナダのサスカチュワン州アサバスカに。もう一つは中国の新疆ウイグル自治区
・・・しかし、この作戦はそもそも穴だらけだ。それこそ、子供が考えたのではないのかと疑いたくなるくらいに。
いくつかある問題点の中で一番の問題は、落下する地点が正確にはわからないこと。
今私たちは、15機の機体で、落下予想地点のほぼ全域をカバーしている。軍用のISは、モンドグロッソ用にリミッターを掛けられている訳では無いので、スピードはかなり出る。それこそ、超音速くらいまでなら出せる。でも、隕石が地球に近づくにつれて落下予想地点が正確にはなっていくけど、流石に範囲が離れすぎていて、そこに間に合うかどうかが微妙なラインなのだ。
そもそもAICとは、慣性停止結界の名の通り、慣性を停止させるフィールドのような物を発生させて、それに触れた物の慣性を消し去る兵器だ。当然、一度に発生させられるフィールドの大きさは決められている。普通のIS戦ならばそれでも十分な強さを発揮するが、今回の対象である隕石はそれとは比べ物にならない大きさだ。当然、一機や二機程度のAICでこの隕石を受け止めることは不可能。
例えば、今回のように上から物凄いスピードで降ってくる物体の、たった一部分だけを止めたとすると、どうなるか分かるだろうか?・・・そう、千切れる。今回の隕石は、何と横幅が5km程もあり、総重量など考えたくもない。・・・要所要所にAICを発生させることが出来なければ、千切れた隕石が大地に降り注ぎ、甚大な被害を被ることになるだろう。・・・そういえば、恐竜が絶滅した原因の考察の一つに、巨大な隕石が落下して、巻き上げられた土砂によって太陽光が遮られた結果、地球全体の
温度が低下して氷河期になった為に凍死した・・・とかいうのがあったけど、今回の事を失敗したら、どれだけの被害になるのかなど、想像したくもない。人類滅亡の引き金を自分の手で引くことになるかもしれないと考えると、体が震えてくる。
・・・あぁ・・・・・・どうしてこんなことになっちゃったのかなぁ?
☆☆☆
「イルマ、バイタルが乱れているぞ。緊張するのは分かるが気をしっかりもて。そんな様じゃ、成功する作戦も成功しないぞ。・・・ほら見てみろ、ドイツの黒兎なんか落ち着いたものじゃないか。確か、IS学園に通っている子供なのだろう?年長者のお前がそんな状態でどうする?」
「アルフ・・・。・・・・・・貴方は怖くないの?私たちが成功しなければ、何千、何万人という人間が死ぬかもしれないのよ?」
「ふん、そんな覚悟、軍属になったときに済ませているさ。・・・いいかイルマ、どう取り繕おうと、ISは兵器だ。しかも、原爆を除き、人類史上最強最悪の性能を持った兵器だ。今はアラスカ条約で戦争に使用出来ないことに表向きはなっているが、軍用のISなんてものを作っている時点で、各国の思惑など見え見えだろう?・・・・・・お前も、何時までもそんな甘えが通用すると思うなよ?」
プライベート・チャネルで話しかけてきたのはアルフリーダ・ウォーケン少佐。私の上司で、親友だ。慣れない国で右往左往していた私に優しく手を差し伸べてくれた優しい女性。でも、ここぞという時には心を鬼にして叱ってくれる、頼れる存在だった。
「・・・そんな、人を殺すしか出来ない私たちが、今は人類の為に力を使えるんだ。これを喜ばないで、何を喜ぶというんだ?」
「・・・そうね、そう考えないとやっていられないわよね。」
と言った瞬間、アルフが苦笑した。
「どうしたの?」
「・・・いや、何でもない。ほら、緊張はほぐれたか?」
そう言われ、私はもう自分の体が震えていないことに気が付いた。
「・・・そうね、もう大丈夫みたい。有難う。」
「気にするな。・・・そろそろ切るぞ。」
回線が切られた。・・・確かに、もう落下予想時刻まで三十分もない。ここからは集中しなきゃ。
絶対に、成功させてみせる。
☆☆☆
side アルフリーダ・ウォーケン
「・・・全く。私も、そう言うふうに楽観的に考えられたら良かったのに、な・・・。」
だが、あの話を聞いてしまった後では、そう言うふうに考える事も出来ない。・・・私は偶々聞いてしまったのだ。あのドイツの黒兎の隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒと、副隊長であるクラリッサ・ハルフォーフの会話を。
別に、盗み聞きをしようとした訳ではない。人気のない廊下を歩いていたら、聞こえてきただけだ。それは、クラリッサがラウラに感情をあらわにして叫んでいるという光景だった。それを見た私は驚いたものだ。どこの世界に隊長に叫ぶ副隊長がいるのか?階級が絶対である軍で、プライベートならまだしも軍務中にそんなことをする人間には思えなかったのだ。本来ならば軍の機密事項などを聞いてしまう可能性があるために急いでその場を立ち去るべきだった。・・・しかし、次に聞こえてきた言葉は、私にとって衝撃的だった。
「出来ることなら、隊長にはIS学園に戻って貰いたいです。・・・今回の作戦は何もかもが変です。今回の作戦のキモであるAIC。それを使用すれば、宇宙空間での隕石撃退も可能だというのに・・・いいえ、そちらのほうが明らかに簡単でリスクが少ないにも関わらず、何故リスクの高い作戦をゴリ押しするのか?・・・各国上層部は、何か我々の知らない情報を握っている可能性があります。・・・貴方は、あの学園で大切な物を見つけたのでしょう?」
「それがどうした。今更私だけ学園に逃げ帰れというのか?我々は軍属だ。上の命令には従うのが仕事。ここで話すような内容ではない。これ以上話したいのならばプライベート・チャネルを使用しろ。・・・軍法会議ものだぞ?」
「・・・失礼しました。」
・・・それからは秘匿回線で話をしたのか、一言も口を開くことはなかったが、私の心を揺さぶるには十分な会話だった。
何か一つのミスで大勢の命が失われる現状。これを作り出したのが各国の意思だとするならば、そこまでして欲しいものとはなんなのか?嫌な予感がした。途轍もなく嫌な予感が。
・・・そして、この予感は当たっていたのだと気がついたのは、この後すぐの事だった。
気が付いた人はいると思いますが、この二人、12・5事件のアメリカ軍の二人だったりします。アルフさんは性別変わってますがね。・・・それに、正直名前だけの存在なんですが。