インフィニット・ストラトス~【英雄】の迷い込んだ世界~ 作:芳奈揚羽
side 白銀 武
「話が長くなるし、お茶でも飲みながら話そうか。」
まりもちゃんがそう言うと、何処からか高級そうなテーブルと椅子が出現した。
「・・・魔法かよ!?」
「んなわけないでしょ。・・・まぁ、言い得て妙だけどね。『進化しすぎた科学は魔法と見分けが付かない』っていう言葉もあるし。ま、座りなさいな。」
夕呼先生にそう言われ、席に付く俺たち。何時の間にかテーブルの上には、人数分の珈琲と紅茶、そしてお茶菓子が用意されていた。
「・・・。」
もう突っ込まない。どんな不思議な事があろうとも、此処では普通のことなんだと自分に言い聞かせる。こんな些細な事で驚いていたら、この先身が保たない予感がするからだ。ほら、この中では比較的マトモそうなまりもちゃんですら、平然と席に着いているじゃないか。
『・・・・・・。』
暫くの間、カチャカチャと食器の音だけが響いた。誰も何も喋らない。この重苦しい空間のせいで、美味しい筈の珈琲や菓子の味が全く分からなかった。
「ねぇ・・・私はね、
ポツリと、束博士が零したその言葉。俺は、深く頷いていた。
「・・・当たり前です。人類は、奴らに滅ぼされかけていた。コチラがどんな対策をしても、それを嘲笑うかのように悠々と上を行く。何億、何十万という人間が死んだんだ。・・・・・・俺の目の前で、何人も、何人も・・・死んでいった。」
手に、力を込める。戦場で、見ず知らずの兵隊が死んだとき。街を襲われて、生まれたばかりの赤ん坊を抱いた母親が、瀕死の重傷を負いながらも、我が子を生かそうと、必至で這いずっていたとき。俺の力が及ばず、A-01小隊の仲間が死んだとき。・・・そして、俺の腕の中で、純夏が死んだとき。
何度も何度も続くやり直しの記憶。あまりに長すぎたせいで、擦り切れている部分もある。その中で俺が一番多く覚えているのは、人が死ぬという感覚。
虚無感。無力感。絶望感。
言い表せないほど、とても多くの感情を感じた。そしてその度に、敵を討つ為に奮戦した。・・・でも、いくら敵を討とうとも、一度失った人間は、もう二度と笑ってくれない。
「奴らのボスと、話をしました。・・・その時に、あの化け物は言ったんですよ。『我が主の命令により、生命体を傷付ける事はしない』って。ハハハッ!俺たちは、『生命体とは認められない』そうです!!奴らにとって、俺たちは【害虫】という生命体ですらなく、自分の邪魔をする【自然災害】や【病原菌】のような存在なんですよ!」
挙げ句の果てに、『お前らが生命体であるという証拠を出せ』ときたもんだ。・・・巫山戯やがって。
「・・・私がアイツらを嫌いなのは、人間を殺すからじゃないよ。」
「・・・え?」
俺は、自分の耳が信じられなかった。今、この人は、何て言った?
「私に関係のない人間が、幾ら死んでも構わない。私と、私の大事な人たちが無事なら、それで構わない。私は、生きていくのに他人を必要としていない。極論、ちーちゃんと箒ちゃん、いっくんと霞ちゃん、香ちゃんがいれば、別に人類が滅亡しようとも一向に構わないんだよ。・・・まぁ、私は兎も角、ちーちゃん達は、他の人間がいないと寂しいだろうから、出来る限りは協力するけど・・・。」
「人類が滅んでもいいって・・・・・・!!!」
テーブルを叩き、俺は立ち上がった。それは、
「止めなさい。貴方には貴方の意見があるだろうけど、束には束の意見がある。別に、人類が戦っているのを傍観するわけじゃないんだから、今は大人しくしていなさい。・・・むしろ、束は世界で一番、人類に貢献している人間だと言えるのよ?」
夕呼先生に腕を掴まれ、俺は止まった。・・・危なかった、今止めて貰えなければ、最悪殴っていたかもしれない。
「別にいいんだよ香ちゃん。有象無象に理解して貰おうとは思わない。貴方たちが理解してくれれば、私はそれでいいんだから。・・・それに、怒らせるようなことを言っちゃったしね。」
「・・・スミマセンでした。・・・死んだ仲間の事を考えたら・・・。」
「コッチも、ゴメンね。」
なんだか妙な雰囲気になってしまったが、気持ちをどうにか立て直す。これぐらいで狼狽えているようでは、あの世界で生き残る事は出来なかった。
「・・・それでは、何故BETAの事が嫌いなんですか?」
「私には、夢がある。・・・ううん、あった、というのが正しいかな。その夢を、奴らにぶち壊された。」
「夢・・・?」
そう聞くと、束博士はとても辛そうな顔をした。・・・この人も、こんな顔をするのか。
「私の夢は、無限の空へ飛び立つ事。どこまでもどこまでも飛んでいって・・・何時か、【
「・・・・・・・・・っ!?」
それは、子供でも見ないような夢物語。果てしのない
「でも・・・それは既に叶わぬ夢。私は既に・・・絶望を知ってしまった。私は、私に絶望を与えた
それは、とても硬い決意をした人間の瞳だった。【あちらの世界】で何度も見た、命を掛けた人間だけが見せる瞳。
「私は、知ってしまったんだよ。」
ゴクリと、俺が唾を飲み込む音が部屋に響く。
「既に、奴らのせいで飽和状態なの。・・・宇宙は。」