インフィニット・ストラトス~【英雄】の迷い込んだ世界~ 作:芳奈揚羽
side 篠ノ之 束
「・・・私一人の力じゃ・・・未然に防ぐ事なんて出来なかった、か・・・・・・。」
私は、ちーちゃんとの通話を切って深く嘆息した。全身を酷い倦怠感が襲う。・・・こんなに疲れたのは何年ぶりだろう?今までは、この後に起きるであろう地獄を未然に防ごうと奔走していた。疲れなんて感じている余裕なんて私には無かったけど、この数年間の苦労が殆ど水の泡となった今は、もう何もやる気が起きない。霞ちゃんと夕ちゃんは【英雄】さんに会いに行っていてここには居ないので、今私がやるべきことは何もない。
「・・・どうしてこうなったのかなぁ・・・?」
私は、世界に負けた。一国や二国が相手なら、例えアメリカにさえ負ける気はない。でも、世界全てが私の敵となったなら話は別だった。だって、所詮私は【天災】などと呼ばれていても、個人の科学者であることには変わりないんだから。圧倒的に人手も資材も足りない。機械などである程度代用出来ると言っても、それには限度がある。更に、私に自分たちの目的を邪魔されないようにと世界全てが私の事を捜索しているこの状況では、落ち着いて研究も出来ない。・・・アイツ等は、敵の力を分かっていない。ただ、未知のテクノロジーを持つ獲物がやってきたと思っているだけだろう。
「・・・皮肉な物だよね・・・。私の技術力が認められたのに、それが原因でこうなるなんて。」
本当なら、地球に奴らがやってくる前に仕留めるべきだった。私の作ったISが、元々の役割である【宇宙開発用マルチフォーム・スーツ】として役目を果たしていれば、それが可能だったはずなのに。それこそ、宇宙空間に迎撃するための戦艦を作って、奴らをコロニーごと全滅させることすら可能なはずだった。元々ISの武装類は、迎撃に失敗したときの保険のつもりで制作した代物だったのに。
・・・それなのに、ISは
・・・彼らがそんなに奴らのテクノロジーに拘るのは、十一年前、ISを世界に発表した学会で私がウッカリ口を滑らせた【ある言葉】も原因だとは思うけど。
私は、人類なんて正直どうでもいい。ちーちゃんや箒ちゃん、いっくんや夕ちゃんまりちゃん、それと霞ちゃんが居れば、他には誰も要らない。・・・でも、私が大切なその人たちには、他の人間が大切で、必要なんだってことも分かっている。誰も一人では生きていけないから。私は食料も全部自給自足出来るし、有象無象の人間なんていてもいなくても大丈夫だけど、ちーちゃんや箒ちゃん達には、【人と人の繋がり】っていうのが大事なんだって分かってる。だから、私は人類を助けたいんだ。
・・・だから、【英雄】さん。私にその力を貸して欲しいな。もう、それしか道が無いから。
☆☆☆
side 織斑 千冬
束からの連絡から数時間、私の心は嵐の海のように荒れ狂っていた。それこそ、山田先生を始めとした他の教師陣や一般生徒が、私の顔を見た瞬間に悲鳴を上げて逃げ出す程だ。・・・そんなに恐ろしい顔をしているのだろうか?
「どうしたんだよ千冬姉?何かあったのか?」
後ろから掛けられた声に振り向くと、私の弟である一夏と、シャルロット・デュノアの姿があった。一夏は私の顔を見ても普通にしていたが、デュノアは完全に怯えていたな。ただ、今の私は一夏の顔を見たせいか多少は落ち着いたつもりなんだが。コイツの笑顔は、何故か人の心を穏やかにする。
「・・・いや、馬鹿兎から不吉な話を聞いてな。少し気が立っている。」
「・・・束さんから?一体何を言われたんだ?」
束という名前を聞いて、デュノアが驚いている。・・・まぁ、こいつらは去年の臨海学校の時に始めて会った訳だし、あの時にアイツの性格を目の当たりにしても、やはりアイツはIS乗りにとっては雲の上の存在だ。それこそ、世界各国が躍起になって捜索するほどの。その名前が出てくれば驚きもする、か・・・。
「・・・一夏、そしてデュノア。本当はこの話は機密事項になるので教えられないんだが、お前たちにだけは教えてやろう。恐らく、他のメンバーも巻き込まれるかもしれん。奴らにも伝えておけよ。」
「・・・何だ?」
自分たちが巻き込まれると聞いて、一夏の目が真剣なものになる。・・・まったく、コイツのこの瞳に、一体何人の女性が犠牲になってきたのかと、思考が脱線してしまう。が、今はこんなことを考えている場合ではないことを思い出し、頭を軽く振って余計な思考を追い出す。
「束はこう言っていた。・・・・・・絶望が、地獄がやってくると。これまでの平和な世界は終わりを告げる。人類が生き残る為の鍵は、お前達と【英雄】だ、と。」
一夏は、酷く狼狽している。デュノアは、何故一夏がそこまで慌てているのかが分かっていないようだ。・・・だが、それも仕方がない。
「マジかよ千冬姉。
何故なら、あの【天災】の事をよく知っている人間で無ければ、この感覚は理解出来ないからだ。今まで、奴に不可能など無かった。気に入らない人間は叩き潰し、自分の見たいものだけを見てきた。やりたい事だけをやり、したくない物は捨ててきた。最後には、世界をISなどという超兵器で変革し、今も行方不明になって世界を翻弄し続けている・・・最凶最悪の【天災】。そんな奴が、地獄だと、絶望だと言って、一夏達と、謎の存在である【英雄】とやらに
そして、何時の間にか私の部屋に転送されてきていた、世界で468番目のIS【
『織斑千冬先生、校長室へおいで下さい。校長がお呼びです。』
その時、放送が鳴って呼び出された。一体何だというのだ?
「スマンな、呼び出しだ。」
「あ、あぁ。俺は箒達に今言われたことを伝えてくる!・・・そうしないと駄目な気がするんだ。」
そう言って、一夏はデュノアを連れて走り去っていった。
「・・・全く、廊下は走るなと言っているだろうに・・・。」
だが、今は怒る気にもなれないので見逃すことにした。
☆☆☆
「・・・今、何と言いましたか校長?」
私は、校長室で、信じられないような言葉を聞き、思わず聞き返していた。
「ですから・・・。」
だが、校長は軽薄な微笑みを浮かべて、もう一度同じことを繰り返した。
「異星人との戦争が始まります。・・・異星人狩りの始まりです♪」
だが、この時はあんなことになるとは、一部の人間しか分かっていなかっただろう。
・・・まだ短いかもしれないけど、自分的に一話はこれくらいかなって。まぁ、戦闘が入ればもっと長くなると思います。