インフィニット・ストラトス~【英雄】の迷い込んだ世界~ 作:芳奈揚羽
・・・っていうか、校長のキャラが変わりすぎだろう。
side 織斑 千冬
「・・・は?」
・・・何を言っているのか分からなかった。私には、目の前でニヤニヤと笑っているこの女性が、一体何を言っているのか分からなかった。欲に目が眩んだ人間を今までに何人も見てきてはいたが、この女性の醸し出す雰囲気は尋常な物ではなかった。・・・狂っていると評してもいいかもしれない。
「ところで織斑先生。話は変わりますが、貴方は十一年前に、学会で束博士が発言した『迷言』を知っていますか?」
「は?『名言』・・・ですか?」
「違います。『迷言』・・・つまり、コイツは何を言っているんだ?という意味のほうですよ。実はあの時、束博士はISの説明の他に、【ある言葉】を言っているんです。その時は、ISなんて夢物語だ、子供の作った玩具だと笑われましたが、それは後に起こった【白騎士事件】で事実だと認めなくてはならなくなりました。・・・
正直に言って、あの馬鹿兎の話す事柄がマトモだったことなど殆ど存在しない。アイツは完全に自分の感性の導くままに話すので、ある程度の天才でないと話について行けないのだ。私はそれでも付き合いの長さから、大体何を言いたいのかが分かるが、普通の人間ではそうもいかないだろう。日常生活で話す大抵の事が『迷言』であり、一体どんなことを言ったのか見当もつかなかった。
「フフフ・・・分からないと言った顔ですね。・・・・・・いいですか、彼女はね、その学会中に学者の一人が遊び半分に言った『何故ISなんて作ったのか』という質問に、『宇宙人が攻めてくるからそいつらを撃退する兵器を作るための補助の為に作った』と言ったのよ。」
「・・・何だと?」
宇宙人が攻めてくると、十一年も前から既に分かっていたと?・・・いや、ISを研究、制作するための年月を計算すれば、それよりも遥か昔に今の状態を予測していたことになる。いくら【天災】といえども、そんな事が可能なのか?
「その時は、学会に参加していた学者の殆どが爆笑したらしいですけどね。そのあと、先程の質問をした学者が笑いながら『何故、そいらが襲ってくると知ることが出来た?いつ襲ってくるんだ?』と聞いた所、彼女は『襲っている映像を見て、体験したから。それは、もう私にも見れないから証拠は無いけど信じて欲しい。何時襲ってくるかは分からない。』と言いました。この時点で、彼女は神聖な学会を汚したとして会場を追い出され、二度と入ることが禁止されました。・・・【白騎士事件】でISの性能が本物だと証明されるまではね。」
彼女は、そこで一度言葉を切ってお茶で喉を潤した。そして私にも飲むかと問いかけてきたので、有難く頂戴することにした。・・・正直、訳の分からない話を聞かされて喉が乾いていたのだ。
「・・・それで、束の言った事は事実だったのですね?」
喉を熱い緑茶で潤し、少し落ち着きを取り戻した私は質問する。
「そうよ。何処がどういう手段で発見したのかは機密事項だから言えないけど、地球からそう離れていないある惑星の近くで、例の学会で束博士が出した映像とほぼ同じ形をしたコロニーを発見したの。しかも、そのコロニーは確実に地球に近づいていることも分かった。・・・だから、各国は、その地球外生命体を、地球に降下させることにしたの♪」
「・・・な、何だと?」
何故、そんな危険な真似をするのかが分からない。確かに、その地球外生命体が、人類に友好的という可能性もある。下手に攻撃をすれば、無闇に敵を作ることにもなりかねない。・・・が、先程の【異星人狩り】という言葉からすれば、少なくとも各国はソレを敵性と看做しているのだろう!?ならば、態々地球に降下させなくても構わない筈だ。そんな状態で攻撃すれば、人間に少なくない被害が出ることは明白。ISという、【宇宙開発用マルチフォーム・スーツ】があれば、そんなことをする必要もないだろう。宇宙空間での戦闘も出来るように作られているのだから。
「だって、私達が欲しい物は、そのコロニー自体なんだもの。宇宙で戦って、もし壊しちゃったらどうするの?残骸を回収するのにも手間とお金が掛かるし、やっぱり、自国にあったほうが他国に邪魔されずに研究を進めることが出来るじゃない♪」
「・・・まさか、それだけの理由で?」
信じられなかった。いや、信じたくなかった。世界がそれ程に愚かだったとは、信じたくはなかった。だが・・・
「あのね、束博士は、例の学会を追い出された時に、もう一言話しているの。かなり小声で、それこそ独り言レベルだったんだけど、偶然にもそれを録音していた人がいたのよね。・・・で、その内容なんだけど・・・要訳すると、『ISはその地球外生命体の持つ物質から作られている』ということだった・・・らしいわ。」
そこで、校長は席を立った。今までの何処か澄ましていた態度はナリを潜め、狂気が見え隠れする表情で叫ぶ。
「その殆どがブラックボックスに包まれるISコア!武装のほうは私達でも何とか技術が追いついて進化させることが出来た。でも、ISコアは別なのよ!?世界中の科学者が雁首揃えて研究しても、材質すら掴めなかったその未知の技術が地球にやってくるの!それさえ手に入れて研究することが出来れば、束博士しか作れなかったコアを私たちの手で作る事が出来るかもしれない!ねぇ貴方ならこの意味がわかるでしょ!?今まで個数が限られていたISが、金と権力さえ有れば幾らでも手に入る未来がやってくるの!やつらのコロニーを手に入れた国が、世界の覇権を握ると言っても、過言じゃないのよ!?」
確かに、その可能性はあるだろう。今世界一の大国と言われれば、殆どの人間がアメリカだと答えるだろうが、他の国がそのコロニーとやらを手に入れれば話は別だ。今の世界最強の兵器はIS。それを量産出来るのならば、例え小国ですら世界に勝つことが可能かもしれない。・・・だが、
「ですが、それは勝てればの話でしょう。それに、住民に被害が出ない筈が有りません。やはり、コミュニケーションを取るなどの安全策を取るか、地球に辿り着く前に宇宙で撃墜するほうが確実で安全です。・・・地球での戦争は、それらがどちらも上手くいかなかった場合の最終手段とするべきでは?」
狂ったように叫んで踊っていた(かなり恐ろしかった。私が恐怖を覚えるのは何年ぶりだ!?)校長が、壊れた人形のような緩慢な動作で此方を見る。・・・だから止めてくれ!明らかにホラーだぞ!?
という私の内心を知る由もなく、校長はニヤリと笑う。・・・その瞬間、私の背に言いようのない寒気が走った。
「もう遅いわねぇ・・・。だって、あと数時間で地球に来るし。到達地点と思われるアメリカと中国には、既にドイツの第三世代機である【シュヴァルツェア・レーゲン】の
「なっ・・・・・・!?じゃぁ、ラウラが特別任務だと言って一昨日から国外へ出ているのは・・・!?」
「流石ブリュンヒルデ、察しがいいねぇ。彼女はアメリカの方へ手伝いに行っているよ。まぁ、任務の内容までは知らなかったみたいだけどね。」
絶句している私に近づき、囁くように喋る校長。・・・今の私には、コイツは悪魔か何かにしか見えない。
「もう、戦争は始まっているんだよ?もしもの時は、君も出撃してもらうからそのつもりでいてね?
アハ、アハハハハと笑いながら部屋を出て行く校長を、私は黙って見逃すしか出来なかった。・・・体中に、ビッシリと冷や汗をかきながら。