皆で仲良く昼食を取った後、緑谷に伝えられたミッドナイト先生の呼び出しに答えるべく席を立った。
長い裏方の廊下をあるき続けて漸く指定された教師用の控室へと到着する。
ドアに対して三回軽く右手の甲でノックし、一歩下がって待機する。すると「はーい」という返事とともに数秒後中から扉が開いた。
「お、1-Aの藤丸君ね。待ってたわ」
「おまたせしてすみません。御用があると緑谷から聞いてきたんですが、何かありましたか?」
「そうそう、ちょっとね。取り敢えず廊下で話すのも何だし、中に入ちゃって頂戴」
「分かりました。失礼します」
軽く会釈をすると共に教師用の控室へ入ると、中にはお昼休憩中の数人の先生方が雑談をしながら食事をしていた。
しかし教師の総数には程遠く、殆どの先生方は出払っているようだった。
何処か別の所で食事、ということも考えられるが、恐らくそういった雑事ではないだろう。
十中八九校内の敷地の巡回、パトロールか。
ついこの間ヴィランというヒーロー科を強く推している雄英からすれば完全な敵対勢力から襲撃を受けたばかりだと言うのに今回の体育祭を開催した我が校。
ここで再度ヴィランに屈しようものなら世間からの信用は地に落ちる。
こちらは歯牙にも掛けていないという態度を示した以上、失敗は許されないだろう。
そう考えると俺達が純粋に自分達の将来や眼の前の競技に専念することが出来るのは偏に先生方のお陰だ。
ともすれば、そんな先生方の内の一人から手伝いのお声が掛かったとあらば助力を惜しむ訳にはいかないな。
「おーい、こっちよ藤丸君」
現状の確認と共に意思を確定した所でミッドナイト先生に声を掛けられた。
今行きます、と口に出して小走りで駆け寄った。
「態々悪いわね。遠かったでしょ?この控室」
「はは。確かに中々距離はありましたけど、食後の腹ごなしに丁度良かったので大丈夫ですよ」
「そう言ってもらえるとこちらとしても気が楽ね」
「それで、俺に用事というのは?」
「それなんだけど、藤丸君個性で治療ができるでしょう?それも対象者に全く負担を掛けない外的な作用だけで」
「はい、そうですね」
「午後の競技でもしリカバリーガールの治癒じゃあ危険なほど酷い怪我を負った生徒が居た場合、その場にあなた以外に適任者が居なかった場合はあなたに治療を頼んでいいかしら」
「なるほど、分かりました。その場合は俺が対処します」
「ありがとう。といってもその場に他のプロヒーローで治療に特化した方が居なくて今すぐに治療しないと危険って時だけでいいわよ」
「了解しました。というか午後の競技ってそんな危険な事するんですか?」
近くに対処できるプロヒーローがいなくて今すぐ治療しないと危険って、そこまで酷いことになるような競技を高校で開催して大丈夫か。
しかもこの体育祭全国放送だよな?
全国民にそんなスプラッタ-映像見せちゃっていいのか日本。
この国の先行きがちょっと不安になってきた。
「一応私とセメントスが常にフィールドの側で注視しているからそうそうそんな事にはならないはずだけど、念には念をって奴よ。治療ができるタイプの生徒には毎年声を掛けているの。万全の体制だと思ってそれらが全部空振った時に何も出来ないなんてことが一番まずいってのを私達プロは現場で経験してるからね」
「なるほど、確かに予備策が多くあるに越したことはありませんね。ですけど、生徒の俺なんかがそんな重体の患者を処置しちゃって大丈夫なんですか?」
「それについても学校側は問題ないと判断しているわ。本来は入ったばかりの一年生にお願いすることじゃないんだけど、あなたの場合はこれまでの実績とこの間の襲撃事件の時のあなた自身を治療したっていうのが大きいわね。あなたの担任もリカバリーガールも太鼓判を押していたわよ。特にリカバリーガールなんて『千切れた部位を更に粉々にでもされないかぎり大丈夫』って言ってたわよ!」
「は、ははは」
これからもし俺自身のスペックが強化されて更に強力な宝具が使える様になったら死体寸前でもそうなる前より元気になれるとかは黙っておこう。
世界を救う戦いでもなければ余剰火力にも程がある。
「それじゃあ私からの用事はこれで終わりよ。レクリエーションまで自由にしてて頂戴」
「はい、それじゃあ失礼します」
扉の前で再度小さく会釈して控室から退出する。
パタリと扉を締め、小さく息を吐いた。
「さてと、これからどうしようかな」
レクリエーションまでまだ少し時間がある。
クラスの皆はバラバラに食事を取っているし、そもそも特に用事もない。ともすればまたさっきまで居た観客席の沖田や土方さんのところへ戻るぐらいしか選択肢は無いか。
そう思い、踵を返して先程来た長い廊下を戻ろうとした所で後ろから肩に手を乗せられた。
誰かとそちらを振り返ろうとすると頬に何かがぶつかって顔の動きが止まる。
一瞬何が起きたのか分からなかったが、直ぐにこんな事をするのは誰かという予測が脳裏を過った。
顔が動かないので視線だけで指の先の犯人へと目を向けると、案の定、というか予想通りな人物が立っていた。
「こんな所で何やってるのさ、ノッブ」
「うはは!何もやっとらん。迷子じゃ」
「迷子って、ここ関係者以外立ち入り禁止って立て札立ってたと思うんだけど」
「わしの行く手を阻みたくばあんな薄い板では足りんぞ。せめて本能寺でももってこんか」
「いや、持ってこれるわけ無いでしょうが。そもそも本能寺もってこいってワード自体がおかしいからね」
と、ここまで俺の頬に指を食い込ませたままの会話だが、そろそろこの手を退けてくれないだろうか。
結構しっかり指の先を食い込ませてくるから地味に頬が痛い。
というか押し込み方が段々強くなってるな。確信犯だよねこれ。
押しのけてでも振り払おうかと考えていた所で不意にノッブの方から指を離す。
漸く開放されたと溜息を吐き出す俺に、我らが殿様は腕を組んで見上てきた。
「さて、わしを弁当のところまで案内せい!もう腹ペコで死んでしまうぞ!」
「え?弁当?お昼食べてから来たんじゃないの?さっき弁当食い終わったよ」
「なっ、なんじゃとぉーー!!?」
わしの弁当がぁー!というノッブの慟哭を無視しながら、俺が来た道をそそくさと戻って行った。