俺だって英雄になりたい   作:時雨。

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俺だって女装なんてしたくない

「どうしてこうなったのかな?」

 

「私にも分からへんけど、似合ってるから良いと思う!」

 

鮮やかな蒼が雲と踊る快晴の中、未だ午前の熱が冷めやらぬ様子で会場は熱気に包まれていた。

そんな中、今俺達は――――

チアリーダーの格好をしてフィールド隅の芝生の上に立っていた。

おかしい、おかしいよね。

そもそもチアリーダーっていうのは本業はともかくコスプレとしては女の子がするからこそ良いものだと俺は思うんだ。

というか一般常識的にそうでしか無いと思うんだけど、どうして俺は今現在進行系でそんな服装をした我らが1-Aの女子たちと"同じ場所で並んでいる"のかな?

これ俺見る側だよね?断じてする側じゃないよね?

蒼く、高い空の一点を見つめたまま微動だにしない俺。

それを同じ被害者であるはずの女子達がよくわからないフォローを投げかけ続けるという凄まじい絵面。

この痛ましい事件の発端は昼食後、何気なしに廊下を歩いていた俺に八百万さんが声を掛けるところまで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ふ、藤丸さん!」

 

「ん?どうしたの八百万さん」

 

「それが、峰田さんと上鳴さんからお話を聞いたのですが……」

 

 

八百万さんが言うには、あのスケベコンビが相澤先生から指示を受け、A組の女子にこの後のレクリエーションでチア服で応援合戦をする旨を伝えに来たらしい。

この時点で既に何だか話が胡散臭かったのだが、八百万さんのやり遂げてみせるという熱意と勢いに押された俺は唯一見つからないという沖田を一緒に探すことを申し出たのだ。

 

「沖田ならさっきまで一緒にご飯食べてたし、多分まだそこに居るんじゃないかな」

 

「本当ですか!?」

 

「うん。沖田の家は家族が会場に来てるからね。良ければ案内するよ」

 

「お願いします、藤丸さん!」

 

そんなやり取りをした後に、俺と八百万さんは駆け足で会場の観客席へと向かった。今にして思えば、この時点で俺は既に詰んでいたのだと思う。

俺はこの時にはもう逃れ得ない運命だったのだ……。

しばらく二人で走った後にたどり着いた目的地。

予想通り、やはり沖田はそこに居た。

土方さんに茶々さん、少し前に送り届けたノッブと何があったのかそのノッブと掴み合いをしている沖田。

どういう状況か全く分からなかったが、この二人が喧嘩になることなんて日常茶飯事なのでそのまま声を掛けて要件を伝える。

先程八百万さんから聞いた話を更にざっくりと沖田に話すと、それまでしていた掴み合いの体制のまま沖田とノッブが目を合わせてニヤリと笑った。

そして驚きの一言を言い放ったのだ。

 

「「それ、リツカも女装して出れば良いじゃないですか(じゃろうが)!」」

 

「……はっ?」

 

その後の展開はあっという間だった。

土方さんがあの新選組の副長の土方さんだと気が付いた八百万さんが「応援しています」だとか「あの事件についてお話を――」等と話している最中だというのに躊躇なくひっ捕まえて連行する沖田。

そしてノッブにお米様抱っこの状態で連れ去られる俺。

気がつけば何処かの更衣室に到着していた。

あれよあれよという間に化粧、更には何処から出てきたのかあの時に使ったものと瓜二つのウィッグが出てきたかと思えば今度は更に何処から出てきたのか分からない詰め物を胸部に押し込められ、『女装立香ちゃん』が完成した。

呆然とした状態で俺は沖田に手を引かれるまま連れて行かれ、気が付いた時には既にフィールドに出ていた。

そうして時は今に至る。

 

「み、みんなどうしたの!?なんでチアリーダー!?と、というか、君は――?」

 

流れるようなツッコミの後に俺を指差す緑谷。

ああ、そうだよね。俺だってわかんないよね。そうだよね、だって俺今女装してるもんね。

 

「何言ってるんですか緑谷さん!リツカですよ!リ・ツ・カ!」

 

「リツカ、ってことは藤丸君!?な、なんで女装!?というか全然わかんなかったよ!」

 

「お、お前藤丸かよ!?ま、まじでわかんなかったぜ……」

 

本気で驚いたという顔で声を上げる切島。やめるんだ。その反応は俺に効く。

 

「藤丸ッパイ……悪くねぇな……」

 

不穏な言葉を呟く峰田。

というか八百万さんにチアリーダーのこと言ったのお前と上鳴だったよね。

お前ら絶対後で覚えてろよ……!!

 

「だ、大丈夫ですわ藤丸さん!大変お似合いです!」

 

「ぐあぁああっ!?!?」

 

大変お似合いですだって!?勘弁してくれ八百万さん!それはフォローじゃなく間違いなく攻撃だ!

 

「その通りよ藤丸ちゃん。よく似合ってるわ」

 

「私より胸もあるしね」

 

「ホントだよー!けしからん!まったくもってけしからんよ君ー!」

 

梅雨ちゃん、耳郎、葉隠がそれぞれ言うが、梅雨ちゃんは良いとしても後の二人はおかしくないだろうか。

これ詰め物だよ。

触り心地思いっきり布だよ。肉の感触ゼロだよ。

そのまま俺の精神のヒットポイントがゴリゴリと削られていき、トドメは観客席から身を乗り出したノッブの「今晩その格好でわしの部屋に来たら抱いてやるぞ」という問題発言だった。

その後放送から『何やってんだアイツら!?というかあの黒髪美少女誰だ?あんなヤツ今年の一年に居たか?』というマイク先生の言葉によって俺が女装しているという事が会場中にバレることとなる。

プレゼント・マイク絶対許すまじ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後の競技、謎の1-Aコスプレチアリーディングが終わった後に、これから行われるトーナメント戦のトーナメント表が発表された。

どうやら俺は第三試合に振り分けられたようだ。

相手は上鳴か。

個性は確か『帯電』だったはずだ。体に発生させた電流を纏うことが出来る個性。

単純な攻撃力、防御力共に利用でき、尚且戦闘とは別の方向性でも多用できる汎用性の高い個性と言えるだろう。

 

「問題はこの個性を彼がどんな風に何処まで活用してくるかだな」

 

周辺を見回すと、あちらも俺を探していたようで、キョロキョロしていた上鳴と目が合う。

にっこりと笑顔で返してやれば、心底嫌そうな顔をされた。なんでだ。

 

「おや、リツカは私とは反対側の山ですね」

 

隣に居た沖田がそう呟く。

その声の情報に従って俺の名前が配置されている左側から反対の右側の山を見てみると、そちらに沖田の名前があった。

あの位置だと、もし勝ち上がって行ったとしても沖田と俺がぶつかるのは決勝戦までないということになる。

 

「そうだね。随分遠くだ。俺と決勝で戦うまで負けないでよ?」

 

「上等です!リツカこそ、私に叩き切られるまで負けないでくださいね!」

 

沖田と二人で向き合い、拳を小さくぶつけ合う。

お互いの顔を見てニヤリと笑いあった。

正直な所、コスチュームの使用が禁止されている今回のルールでは、沖田は十全にその実力を発揮することができない。

本来彼女は自身の体と一刀の得物が合わさって真価を発揮する強者だ。それは嘗ても個性を得た今も変わらない。

それでもこの強者がひしめき合う中で沖田は躊躇なく俺と戦うために決勝まで勝ち上がると言った。

なら、俺はただその言葉を信じて上を目指そう。

 

「よぅし!気合入れていきまコフアァッ!!?」

 

「沖田ー!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緑谷と普通科の彼との熱い試合と轟の瞬殺事件があった後、俺の試合の順番が回ってきた。

控室を出た時点ですでに長い廊下の先にあるフィールドへの入り口からは会場内のざわめきが聞こえてきていた。

きっとついさっきあった轟の試合についてプロ達がああだこうだと話をしているんだろう。

先生がこの体育祭は将来有望な卵を見つけて唾を付けておきたい連中がわんさか来るって言ってたし、そういう観点からいけば轟の試合はいい意味でも悪い意味でも話題に事欠かないだろう。

 

「本人はあんまりそういうの気にしてなさそうだけど」

 

彼は他人の目とか、大人の思惑なんかについてはそこまで頓着しないタイプに見える。少なくともここ数ヶ月一緒に過ごしてみた俺としてはそう感じた。

今回も興奮気味な緑谷に「すごかったね!」とか言われても「そうか」で会話が終わってしまいそうだ。

緑谷は緑谷で轟のそっけない反応も気にしなさそうだけど。

そう考えると彼らは思いの外似た者同士なのではないだろうか。

そこまで考えて不意に口から笑いが漏れた。

一応高校生活で三度しか無いチャンスの前に立たされているというのに一体何を考えているのか。

もう少し緊張感というのを持ったほうが良いだろうに。

短く、少し強めに息を吐いて気持ちを切り替える。以前は良くレイシフト前にこうして心を落ち着かせていた。

一瞬の簡単なルーティンだが、頭の中がしっかり切り替わったのを感じる。

準備が整った所で調度俺の名前が呼ばれた。眩い外の光が溢れているフィールドへと向かって歩き出す。

これから始まる試合に胸が高鳴った。

やがて暗い通路は終わり、光の中へと到達する。

そして眩い白に少しだけ目を細め、それが元の状態へ戻り切ると同時に歓声が鳴り響いた。

 

『1-Aの中でも得体の知れないダークホース、藤丸立香!!』

 

会場中からの視線を感じる。

観客席を見回してさっき昼食を食べた場所を見ると、茶々さんや土方さん、そしてノッブと目があった。

俺が小さく笑うと、向こうも軽く手を上げて答えてくれる。

それを確認した後に眼の前に作り上げられた戦場へと目を向けた。

そこには既に、俺より先に名前を呼ばれていた上鳴が待っていた。

 

「よう、藤丸」

 

「ああ、おまたせ上鳴」

 

「ぶっちゃけお前相手だと自信ねぇし、そもそも俺は長期戦はからっきしだからよ。最短で決めさせてもらうぜ」

 

悪巧みをしていますと言わんばかりの笑みを浮かべながらバチバチと細かな電流を体中から弾けさせて戦意を見せる上鳴。

あの表情から察するに、何か俺に対抗する策があるようだ。

なら、こっちも少し驚かせてやろう。そのお得意の電撃が君の専売特許ではないということを見せてやる。

何より女装の恨みの元凶その2だ。

遠慮なく打ちのめさせてもらう。

 

『バトル――スタァトォォォオ!!!』

 

マイク先生の合図とほぼ同時に俺と上鳴は動きを見せる。

上鳴は両足を大きく広げて両腕を軽く力ませたまま腰下まで下げる。前にUSJ襲撃事件で使ったっていう放電か。

確か耳郎が放電が終わった後は頭がショートして使えなくなる、みたいなことを言ってた気がする。その情報が本当だとすれば文字通り短期決戦できたな。

電撃が迫りくる中、俺は個性を発動させた。

ローブの時と同じく体が青白い光に包まれ、それが晴れると俺の体は鉄色に赤の装飾が施された鎧を身に纏っていた。

上鳴から繰り出された黄色い電撃に対し、こちらは全身から赤い電流を迸らせて対抗する。

俺の体から発せられた電撃と上鳴の攻撃によって受けた電撃が衝突する。

結果的に、しばらく拮抗したものの上鳴の頭の限界が来たのか鼻水と涙を垂らしながら人語ではない何らかの鳴き声を上げながら電撃は止まった。

悪巧みは終ったかい?それならここからは俺の反撃の時間だよね。

 

「それじゃあ、ちょっとチクッとするから気を付けて。これがチア服の恨みだ」

 

必死に涙目でこちらへ言い訳をしているようだが、頭がイッてしまっているせいかまともな言語ではない為まったく理解できない。

俺がにっこりと曇ない笑顔を浮かべると、上鳴は再び謎の鳴き声を上げながら数歩後ずさる。

それを好機とこちらは逆に一歩大きく踏み出し、右手に剣を出現させた。

粗暴な、けれど誰よりも理想へ手を伸ばし続けた彼の騎士の真似をして声を上げる。

 

「赤雷よ!」

 

眼前に構えた剣が呼びかけに呼応するように一際大きく電流を放つ。

バチバチと敵意を剥き出しにした剣を上段に構え、少し離れた場所で震えている上鳴に向けて振り下ろした。

斬撃のように剣から放たれた赤い電撃は、見事に上鳴へと着弾。

それを受けて奇声を上げた上鳴はしばし痙攣した後に気絶。

俺は特に大きな問題もなく第一関門を突破することが出来た。

 

 

 

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