俺だって英雄になりたい   作:時雨。

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俺だって友達の背中を押したい

お茶子から聞いた話を大雑把にまとめると、こんな内容だった。

どうやら轟の父であるエンデヴァーさんと轟はあまり仲がよろしくないらしい。

エンデヴァーさんとしては炎と氷を使いこなして素晴らしいプロヒーローになってほしいらしいが、轟としては大嫌いな父親の意見には従いたくないので頑なに炎を使うことを拒んだ。

しかし、緑谷との試合で緑谷に説得されて炎を使用。だが完全に吹っ切れたというわけでもなさそうで、試合が終わった直後はしばらく呆然としていたらしい。

俺にどうしてほしいとかは具体的に言えるわけではないが、正直心配だ、と。

 

「なるほどなるほど」

 

中々に根の深い問題だ。

正直な所俺が今何かを語りかけて問題を解決するというのは難しいだろう。

そもそもこの話はあくまでお茶子の主観によって形作られたものであり、当事者からの情報ではない。

 

「取り敢えず最低限俺の考えを伝えて試合に望む、が現状のベストかな」

 

俺は別に緑谷の様に全力で向かってきて欲しいと強く思っているわけではない。そりゃあ手抜きはあまり褒められたものではないとは思うが、心の傷に塩を擦り込んでまで力を振るえと言う程無理して欲しい訳ではないのだ。

 

薄暗い通路を抜けてフィールドへ向かう。

短い階段を登り切り、こちらを見つめる轟に向かい合った。

 

「さっきの試合、緑谷戦で炎の方も使ったんだって?」

 

俺の言葉にあからさまに動揺した轟は一度目を見開いた後に気まずそうに視線を落とした。

 

「俺はあまり事情を知らないから断言はできないけど、俺はそれでもいいと思ってるんだ。その右手を使わないままでもさ」

 

俺の言葉に轟が再び目を見開いた。

そして再び視線は逸れ、宙を泳ぐ。

 

「俺は、何が正しいのか分からなくなった。俺、は、どうしたらいいんだろうな。強くなるためには、夢に近づく為にはこの右側の力を使うのが一番だなんてことはずっと前から分かってた。それでも親父の力を、お母さんを傷つけたあいつの力を俺が使うのがどうしても嫌で、ここまで来た。俺は、どうしたら……」

 

そう言って轟は右手を見つめて顔を顰める。

今彼は大きな壁に当たって迷っているのが今の問答で良く分かった。

そして一歩踏み違えればそう遠くない未来に彼が自己矛盾に内側から食い潰されるということも。

ちゃんとしたケアは先生方に任せよう。

俺が今この場で出来ることと言えば、そうだな……。

 

「別に今無理に答えを出さなくても良いんじゃないかな。緑谷は発破を掛けたらしいけど、俺は急ぐ必要はないと思うよ」

 

「……そう、なのか?」

 

「もちろん。今轟がその問題の解決を急がなくても背中に庇った仲間が死ぬ訳でも世界が終わるわけでもない」

 

「それは極論じゃないか?」

 

「はは、そうかもね。まぁ俺が言いたいのは逃げれる内は逃げたっていいんだってことだよ。誰もが真正面から困難に立ち向かえるわけじゃないんだ。答えを強要されでもしない限り、その場で考え込んだり回り道するのも一つの手だと覚えておいてほしい。それは決してずるなんかじゃないってことも」

 

「………」

 

「どれだけ迷っても、どれだけ悩んでも、最終的に乗り越えられたらそれで良いんだ。もちろん真正面から壁をぶち壊してもいいけれど――回り道をして、目を背けて、それからちょっとだけのずるをする。これくらいが丁度いいと個人的には思うかな」

 

轟は自身の右手を見つめた後に視線を上げてこちらを見る。

その瞳には先程と同じ様に迷いや不安が色濃く残っていたが、僅かに光る希望が見えた。

どうやら幾分整理が付いたらしい。

 

「まだ自分の中でちゃんと答えは出てねぇ。けど、お前と緑谷のお陰で何か掴み掛けてる気がする。だからまずは、この試合を全力で乗り切る」

 

「悪いけど、負ける気はないよ」

 

俺が口元をニヒルに歪めて見せると轟も小さく笑みを零した。

そしてそれを合図とするようにマイク先生の声が響き渡る。

 

『バトル――スタァトォォォオ!!!』

 

開幕と同時に轟の足元から氷柱がこちらへ襲いかかり、俺の体は青白い光に包まれた。

右手に現れた棒状の物を未だ完全に形を取り切っていない状態で横薙ぎに振るう。

それは甲高い音を立てて氷柱を砕き、破片が周囲へ撒き散らされた。

氷柱を退けたそれは黄金の槍。身を包むは黒いインナーと黄金の鎧。

 

「――っ、流石に重たいな」

 

一瞬視界がクラリと歪む。

ゆらゆらと揺れながらぼやけては定まってを二度三度繰り返した。

今日だけで既に何度も英霊の力を行使し、その上でダウングレードしているとはいえ飯田戦といい今回といいトップサーヴァントを大盤振る舞いに使っているせいで体に中々負荷が溜まっている。

これ轟に勝っても決勝戦きつくない?

 

槍を構えて轟の出方を伺う。

向こうも俺が初めて見せる力だからか様子を見ているのか仕掛けてこない。

数秒睨み合った後に先に動いたのは轟だった。

先ほどと同じ様に氷柱をこちらへ向かわせる。

こちらも同じ様に一薙に砕き伏せて見せると、今度は右側の炎が一直線に飛んでくる。氷のときより少しだけ大きく縦に振りかぶり、迫る炎を両断する。

轟は小さく舌打ちをし、先程より大きな氷柱をこちらへ差し向ける。およそ直径2メートル程のそれを体を反らして最低限の動きで回避し、未だ氷柱と肉体が別れきっていない轟へ肉薄した。もう少しで槍が届こうかという所で先程直線的に飛んできた炎より明らかに大きな火柱が轟を中心に立ち上る。

先ほどとは比べ物にならない熱量にバックステップで一時退避する。

炎が晴れると轟が真っ直ぐ俺を見据えていた。

 

「邪魔だな、その槍」

 

忌々しげに俺の右手に握られた黄金の槍を見る轟。

現状近距離戦闘は獲物を持っている俺が有利だ。その上通常の火力では俺の膂力と槍のスペック的に近づけさせ無いことは出来ても俺を倒す事はできない千日手となる。

であれば轟が取る次の行動は――

 

「――ッ!」

 

轟が大きく腰を沈ませて左腕を地面から這うように振るう。

その動きに一拍遅れるようにして氷が生成されていった。先程までよりも明らかに大きな溜めのモーションに、あれが来ることを確信する。

これまでの競技でも度々使用してきた大氷壁。

予想以上に展開速度が速い。即座に宝具を展開して迎え撃つ。

 

日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ・クンダーラ)!」

 

一瞬にして氷壁内に飲み込まれるも、なんとか防御を間に合わせた。

周囲は氷に包まれたままだが、自身を中心に少しだけ空間を確保できた。能力任せに強引に炎を迸らせ、周囲の氷を燃やし溶かす。

トンネル状に溶けた氷の下を通って外へ出ると、右側の炎を使って左側の霜を溶かしている轟が目に入った。

 

「ゲホッ、ゲホッ。危うく氷漬けになる所だった。ちょっとやりすぎじゃないか?」

 

「むしろこの程度で仕留められるとは思ってねぇよ。やられてくれたらラッキーとは思ってたけどな」

 

「おっと、随分と高く買ってくれてるな」

 

「まず間違いなく今年の一年で一番えげつねぇのはお前だろ」

 

轟は俺のことを随分高く評価してくれているようだ。実際この氷の津波のような馬鹿げた攻撃を受けて耐えられるのはうちのクラスじゃ俺と爆豪くらいか。次点で緑谷と行きたいところだが、相殺した次点で片腕はまず間違いなく持って行かれるだろう。そうなれば次かその次で詰みだ。それじゃあ結果的に耐えたとは言えない。

 

「それじゃあ俺も轟の期待に答えようかな」

 

向こうが大火力で対抗してくるというのなら、こちらだって用意はある。

先に殴り付けてきたのはそっちだ。なら今度は俺の方から全力のテレフォンパンチをお見舞いしてやろう。

轟が俺の発言に目を細めて訝しんだ所で一度大きく距離を取る。

今俺が持てるおよそ最大火力、止められるものなら止めてみろ。

 

「すぅ――っ、はぁ――」

 

体の内から無駄な力を外へと流すように深呼吸をする。

自然体から右手に持った槍を意識して握り込んだ。

――――そして宝具を開帳する。

ふわりと何かに持ち上げられたかのように宙へ浮く。

唐突な浮遊に会場からざわめきが上がるが、周囲の変化など無視して力を循環させた。

徐々に全身が熱を持ち、熱された空気で空中の景色が歪む。

緩やかな上昇は地面からおよそ5メートルの空中で止まり、轟を見下ろした。

 

「轟!」

 

「――っ?」

 

「これから先、もっと多くの困難や恐怖が待っていると思う。けれど、これだけは忘れないで欲しい」

 

今、大きな不安と恐怖に立ち向かう君へ、嘗て俺が同じ様に立ち止まったときに彼に貰った言葉を贈る。

いつかこの言葉が君の勇気ある一歩を歩みだす力に成ると信じて。

 

「この広い世界の何処か、必ず誰かが他の誰でもない君を待っているッ!!」

 

右手に持つ黄金の槍を天高く掲げると一瞬にして炎に姿を変える。

続くようにして背の鎧達も同じ様に炎へ焚べられた。

大きな炎塊と化した装備達は周囲へ圧倒的な熱を放つと共に形を変えてゆく。

畝るように変形を繰り返す炎塊はやがて巨大な槍となって俺の右手に収まった。

巨大な刀身は黒く染まり、柄は先程の槍と同様に黄金の槍だ。

周囲に纏わり付いていた炎は消えたものの、槍そのものから放たれる熱量は先程までの炎の熱を凌駕し、更に会場全体の温度を上げ続けていた。

その様は宛ら太陽がもう一つ地上に顕現したよう。

槍の熱を最も近くで受ける轟は全身から滝のような汗を幾筋も流し、顔を片手で庇っている。

猛り狂う熱とは対象的に静かに、歌うように紡ぐ。

 

「神々の王の慈悲を知れ」

 

背の左から黄金の円盤を中心に真紅の羽が四枚展開され、その対称には紫炎が揺らめく。

高くかざしていた槍をゆっくりと振り下ろし、矛先をフィールドに立つ轟へ向けた。

轟はこれが最大の一撃だと踏んだのか、今までよりも一層腰を低く落として氷を生成する構えを取った。

 

「絶滅とは是、この一刺。日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)!!」

 

甲高い音と共に轟へ向けて熱線が放たれる。

こちらが穂先から熱線を放つのとほぼ同時に轟が大氷壁を繰り出した。

地面から迫り来る膨大な氷はお互いを砕き、撒き散らしながら空へと翔け、熱線は天から振り下ろされる天罰の様に地上へと解き放たれた。

膨大な熱と巨大な氷の先端は空中で衝突し、少しの間拮抗したが徐々に氷が溶かされていく。

氷の表面を炎が舐めるように滑り、その圧倒的な熱量で継ぎ足される氷よりも早く溶かし崩した。

轟は苦々しい顔で氷を半身から生成し続けるが、徐々にその勢いは押し戻され、熱線が近づいていく。

そして最後には熱線はコンクリートのフィールドへ突き立てられた。

緑谷戦を超える轟音と爆風は地面に残っていた氷の残骸と砕け散ったコンクリートの破片を巻き上げながら会場全体へ吹き付ける。

上空からゆっくりと降下し、地面まで2メートル程の所で意識が一瞬飛びかけて落下した。

体制を崩しながらもなんとか着地し、轟の居たであろう方向を警戒する。

フィールドは元の平らに整えられた姿は見る影もなく、宝具によって着弾地点は大きくえぐられ、その余波でその周辺も表面が削られていた。

いや、これは削れたというより熱で溶けたのだろうか。

脳がぐらぐらと揺れているような錯覚を感じ、手足は震え、息は荒い。この状態で試合開始直後のような激しい動きは無理だな。

余波は収まったがフィールド全体を覆う土煙で轟の状況は伺い知れない。

張り詰めた沈黙が会場中を包み、緊張状態がしばらく続いた。

そして漸く土煙が晴れた時、そこにはフィールドの外の芝生に倒れ伏す轟の姿があった。

それを見て漸く警戒を解いて両膝を地面に付けた。

 

『轟君場外!勝者、藤丸君!!』

 

準決勝、決着。

 

 

 

 

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