いつだって熱気は立ち上ってはいたけれど、今日一番の盛り上がりを見せる会場。
観客席から押し寄せる視線が全身に突き刺さるのを感じながら堂々とフィールドへと歩いて行く。
ふとこれまでとは比べ物にならないほどの強烈な視線を感じて足が止まった。
通常ならばこんなにも熱烈な視線を受ければ何事かと周囲を警戒するものだが、今回は自然と笑いが溢れるだけだ。
なぜなら、視線が飛んできた方向だけで一体誰から向けられたものなのか直ぐに分かったからだ。
「うーん、あれはヒーローがしていい顔じゃあないな」
フィールドを挟んで向こう側のギラギラと闘志を滾らせた対戦相手が俺と同様に勝負の舞台へと向かって来ている。
お互いに視線を切らさず向かい合い、スタート位置についた。
「ぶっ殺す」
「いや、殺しちゃだめだから」
『ついにトーナメント戦決勝戦!この戦いに勝ったほうがこの体育祭の王者だァ!!』
プレゼントマイクの宣言に会場が沸く。
俺達を取り囲むように浴びせられる歓声に、俺も爆豪も笑みを深めた。
『ヒーロー科、藤丸立香!バァァアサス!同じくヒーロー科、爆豪勝己!』
俺は左足を一歩引き、爆豪は両手に力を入れながら腰を落として構え取った。
『バトルーーースタァァトォォォ!!!』
雄英高校体育祭一年の部、決勝戦ーー開幕。
先に仕掛けてきたのは爆豪からだった。
試合開始の合図とほぼ同タイミングで構えた位置から勢いよく爆発でこちらへ飛び出し、右手を突き出す。
それに対してこちらは地面を蹴って後退しつつ、個性を発動した。
既に着ていた雄英高校の体育着の上から真っ白なローブを羽織り、左手に大きな杖を握る。
マーリンの力を問題なく纏ったことを確認しつつ、頭に鋭く走った痛みに顔が歪むが、対戦相手である爆豪はこちらが休む間を与える気は無いようだった。
「死ねぇッ!!」
「危ないな!」
初撃から間髪入れずの追撃に魔力で障壁を貼ることで対応する。
爆豪はこちらが個性を使って防御を行ったことを爆煙の不自然な動きで読み取ったのか、今までの直線的な動きから打って変わってこちらを撹乱するような複雑な空中機動に移った。
どうやら彼は俺にアクションを起こしてほしくないらしい。
俺の個性の圧倒的なアドバンテージは数多くの手札の中からその状況に合わせて個性を使用することができること。その上向こうは俺がまだまだ手札を隠していることを知っている。
極力何もさせず、行動を抑え込んでの無力化。
概ね想定通りだ。
俺も爆豪と同じ立場ならきっとそうしただろう。
「オラァ!」
不規則な軌道でこちらへ再度肉薄し、強烈な爆発を撃つ爆豪。先程と同じく障壁でガードする。
よし、今度はこっちから仕掛けさせて貰おう。
爆豪の威力の高い爆発によって発生した煙が空中を漂う中、爆豪の背後に人影が現れる。
煙を切り裂くように現れたのは聖剣を構えたもうひとりの俺だった。
眼の前に居る人物が増えたことに動揺した爆豪だが、硬直したのはほんの一瞬のみで振りかぶられた聖剣を目視した途端に回避行動に移る。
聖剣をローリングで避け、両手から攻撃の時よりも大きな爆発と同時に撃ち出すことで一気に後方まで後退した。
「うーん、今のも躱すのか。まだ見せた事なかったと思ったんだけど。末恐ろしい戦闘センスだな」
「ハッ!たりめぇだろ。なめんじゃねぇよ双子野郎が」
「双子ね……」
相変わらずヴィランじみた悪い笑顔で悪態をつく爆豪だが、両手から小爆発を繰り替えしてこちらを油断なく観察している。
彼の個性上汗をかくことが前提である為、きっといい感じに体が温まってきた今調子は最高潮に上り詰める頃だろう。
「それじゃあ、爆豪に満足してもらえるようにもう少し増えてみるかな」
周囲を花の甘い香りが包み込み、足元には桃色の霧が立ち込める。
突然の出来事に警戒する爆豪を囲むように霧がもくもくと立ち上り、複数の柱を形成した。
それらは一定の大きさまで膨らむと、一斉に人の形を帯びてあっという間に聖剣を持った俺と同じ姿になった。
数にして6人の俺が追加され、先程から居た聖剣の俺と合わせて合計7人の俺が現れたことになる。
一瞬だけ目を見開いた爆豪だったが、冷や汗を流しながらも凶悪な笑みを深めて新たに現れた俺に立ち向かっていった。
時間にしておよそ5分ほど経過したが未だに爆豪は倒れない。7人からの攻撃をギリギリでさばきながらも虎視眈々と起死回生の一手を打つ機会を伺っていた。
他の誰かなら既にやられてしまっていたであろうこの現状をギリギリの所で踏みとどまっているのは爆豪の圧倒的戦闘センスと他の追随を許さない個性による機動力のおかげだ。
手からの爆発で目くらまし、瞬間回避、攻撃等に利用できる強個性だが、きっと彼は誰よりうまく自分自身の個性を肉体の延長線上として利用する才能を持っているんだろう。
そう確信させられるだけの技巧がそこにはあった。
振り下ろされた聖剣をバックステップで回避し、横薙ぎに振るわれた聖剣を屈んで躱す。
単純な身体能力による逃げ道がなくなれば空中機動によって攻撃を躱し続けた。
全ては最後の一瞬、本体に最大の一撃を叩き込む為に。
そしてその瞬間は訪れた。
7人の立ち位置、攻撃のタイミング、本体の距離。
一人を爆煙で牽制し、一人を爆風で吹き飛ばした。
ついに本体への道が開く。
一瞬のうちに間合いを詰め、空中で回転しながら今日一番の威力を叩き出す。
「『
周囲一体を白く染める閃光と共に地面のコンクリートを抉りながら吐き出される爆発は、撃った本人である爆豪の前方を尽く消し飛ばした。
会場中に響き渡る爆音に観客席が静まり返り、技を受けた側の安否を心配する声が上がり始めた。
そんな中、ようやく爆煙と土埃が晴れるがそこには抉れた地面と吹き飛ばされた瓦礫のみが転がっている。
誰も居ないーー?
爆豪がなにかに気づいて動こうとした瞬間、その首に白刃が突きつけられた。
「チェックメイト、かな」
『爆豪君の降参により、藤丸君の勝利!!!』
一年の勝者が決まり会場中から大きな歓声が上がる。
それに対して軽く手を振って答えていると、爆豪から声をかけられた。
「いつからだ……いつ、入れ替わった」
「一番最初の攻撃からだよ。あのときの爆煙に紛れて俺はステージの安全な隅っこで隠れてた。それでわざと隙を見せて爆豪が勝利を確信した所に詰めるってイメージでやってたかな。まさかあんな大爆発起こすと思わなくて近づくのに少し時間かかったけどね」
「……チッ」
「ありきたりな話だけど、勝利を確信した瞬間こそ一番の隙ができるってことを忘れないでくれよ。俺はそれで昔痛い目見たからさ。経験者は語るってやつ」
「……そうかよ」
それだけ言って立ち上がるとフィールドを出ていく爆豪。俺のアドバイスに悪態を付かない程度には精神的にダメージを負っているらしい。
だが、彼ならきっとここで折れずに敗北をバネにこの先もっと強くなってくれるだろう。
この先といえば、次は職場体験がどうとかって体育祭の説明の時に相澤先生が言ってた気がする。
優勝者は目立つから沢山申し込みが来るらしい。これから忙しくなるかもしれない。
けどまぁ取り敢えずーーー今は観客席の沖田に向けてVサインを送ることにしよう。