次からは職場体験始まると思われ(展開遅くてごめんて…)
あの暑く、熱かった体育祭が終わり、次の登校日。
俺と沖田は通学中至る所で声援や握手を求める声に答えながら唐突に有名人になってしまった現在の上場になんともむず痒い気持ちになりながら雄英高校へと到着した。
どうやら俺達と同じように他のクラスメイトも皆多かれ少なかれ同じような経験をしたらしい。
教室内はまるでプロヒーローになったような気分だったと口を揃えて興奮気味に話している。確かに、今までいち学生、いち卵としてこのヒーロー候補生の登竜門である雄英に所属してはいたものの、テレビや新聞などのメディアに取り上げられるのは初めてのことだ。
例外として先日の襲撃事件があるが、アレはむしろ個人名は隠すように各方面から働きかけられていた為、実質ノーカウントである。
俺達を見る世間の目はこれを皮切りに一変するだろう。
一般人であれ、現役プロヒーローであれ、そしてヴィラン達であれ。
なるほど、相澤先生が俺達に無理を押し通してでもやるべき大事な行事だと言っていた意味がよく分かる。
盛り上がる教室全体に向けて軽く「おはよう」と声をかければ、俺達に気がついた皆も挨拶を返してくれた。
そのままの流れで数人がこちらにやってくる。
切島、上鳴、峰田の三人だ。
軽く右手を上げる切島にこちらも軽く手を振りながら席に着く。
「おー!藤丸ー!お前今日ここに来るまでどうだった?」
「皆と同じく芸能人みたいな扱いされたよ。頑張ってください、とか。写真撮ってもいいですか、とか」
「それな!俺正直最初声かけられた時焦って変な声出ちまったわ…。でも、なんつうかプロってこんな感じなのかなーとも思った」
「てか写真は俺は流石になかったな。くぅー、流石優勝者はちげぇなぁ。このこの!」
上鳴に肘を苦笑いでいなしていると、目を見開いた沖田が唐突に机を叩いて身を乗り出す。
「そうです!そうでした!聞いてくださいよ皆さん!リツカったら、今朝道端で会った女子高生達に写真を求められて緩みきった顔で鼻の下伸ばしてたんですよ!?どう思います!?」
「なぁんだと藤丸貴様ァァアアアア!!!!」
沖田の告発に弁明するまもなく食い気味に怒声を上げる峰田。
なんの躊躇もなく拳を振り上げて空中で飛びかかってくるのをキャッチし、止まってもなお振るわれる両腕から顔を背ける。
「通りすがりの女子高生に挟まれて体を求められただとてめぇ絶対許さねぇ!!」
「ちょっと待った。今の発言に真実はほぼほぼ含まれていなかったよな」
「うがぁああああ!!!」
「はぁ…、俺もかわいい女の子二人に挟まれて写真撮りてぇなぁ……」
そのままくだらないやり取りを十数分に渡って続けたが、相澤先生が教室にはいってきた途端に教室中が静まり返ってそそくさと席に着く光景を見ると、俺達も中々に調教されてきたなと思う。
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放課後、先日の体育祭を見た各プロヒーロー事務所が雄英に送ってきた職場体験の指名の数がクラス内で開示された。
相澤先生は言葉巧みに生徒たちのやる気を煽るのが上手い。今回の目に見える差を使って上位陣は気を引き締めさせ、下位陣にはより努力を促すよう発破をかける。
そういった指導のおかげもあってか俺達のクラスは向上心が強く育まれていた。きっと今後はより一層切磋琢磨が激化するに違いない。
指名についてはやはり分かっていたことだが、募集は上位陣に集中して下位になるほど数は少ない。
そもそもで順位を取れなかったメンバーは活躍の場面が少なかったということにそのまま直結するわけで、そうなればその生徒がどんな事ができるのかわからないまま競技に出場しなくなってしまったというパターンも多いはず。
ともすれば、こういう結果になるのもうなずけた。
約一名明らかに票が避けられているというか、隣と比べて谷になっている部分もあったが、何か話しかけたほうがいいかと思ってちらりと様子を伺ったところ修羅のような顔でどこへともなく威圧を放っていたので何も見なかったことにした。
その後職場体験についての具体的な説明が行われ、俺のもとには山のような書類達がやってきてしまった……。
気は全くと行っていいほどに進まないが、ペラペラと全体の数割ほど流し見で中身を確認する。
「うーん、やっぱり新選組の誘いを断ってまで行ってみたいと思うような募集はなさそうかな」
「贅沢な悩みですねぇ。流石優勝者は違いますねー、まったく」
不機嫌な顔でちゅるちゅると紙パックのジュースをストローで吸い上げる沖田。
彼女は椅子に対して横向きに座り、ぷらぷらと両足を遊ばせていた。
どうにも体育祭が終わってから俺と優勝争いができなかったことをずっと悔しがっている。
あの後家に帰ってから新選組の事務所に直行し、道場で剣の素振りをしまくった挙げ句夕方の見回りを終えていざ帰ろうとしていた土方さんを捕まえて指導を頼み込んだらしい。
次の日朝なんとなしに家に遊びに行ってみたら前日会った時にはピンピンしてたのに全身ボッコボコになっていたもんだからめちゃくちゃ驚いた。
「早く選んでくださいよー。さっさと帰って昨日買っておいたお団子食べたいので」
「晩ごはん前だろ?デザートにとっておきなよ。ご飯はいらなくなるよ」
「今食べたいんだから仕方ないんです。そう、仕方ないんですよ」
「後でどうなっても知らないよ」
会話を続けている間も書類をめくる手は止めない。
とは言え、やはり新選組からの誘いを蹴ってまで行きたいと思える事務所はなさそうだった。
緑谷ほどで無いにせよ元から有名所の事務所はヒーローの卵としてチェックしているし、それらの有名事務所から誘いがあっても元から新選組に行くつもりだった。
今行っている作業は本当に先生から言われた「一応目を通しておけ」という一言のみの為にやっているようなものだった。
そろそろ残りは明日以降にまわそうか、と思っていると、教室のドアが開く音が聞こえた。
音の元である教室前方の扉を見やれば、驚いた顔をした緑谷がこちらを見て立っていた。
「藤丸君、沖田さん。まだ帰ってなかったんだね。何か用事でも――あー、はは。なるほど」
俺達がなぜ未だに帰っていないのか疑問な表情だった緑谷だが、俺が机の上の書類の山を指差して肩をすくめて見せれば俺の状況を察して苦笑いをこぼした。
「これでも結構片付いた方なんだよ。元から俺は新選組に行くつもりだったんだけど、先生に取り敢えず目は通すだけ通しておけって言われてさ」
「そっか、沖田さんのお父さんはあの土方歳三さんだもんね。それなら納得だ」
「普段は職場体験なんてめんどくさがって生徒の前になんて禄に出てきやしないくせに、今回はやけに張り切ってるらしいですからねぇー。一体どんなことさせられるのやら」
俺と緑谷は二人で苦い顔をする。
土方さんが副長を務める新選組は、ヒーロー業界では訓練がきついことで有名だ。
きっと緑谷も俺と同じく檄を飛ばす土方さんが脳裏に浮かんでいることだろう。だが、あそこで経験できるキツさは意味のあるキツさだ。
無意味に辛い訳ではなく、何か自分に足りないものを得るために必要な苦痛を経て皆何かしら自分自身を進化させている。あそこは自ら望んで高みを目指そうとする仲間には必ず手を差し伸べてくれる事務所なのだ。
きっと俺達も今回の職場体験で何かしら新しいことを見つけることができるだろう。
そう思えば、目前に迫った職場体験が楽しみになってきた。
明日は緑谷の解説を交えて残りの書類を片付けようと話しながら、三人で夕日の差す教室を後にした。